久遠と一緒に眠りについてから数分後にこの家のメイドさんによって起こされてしまった。
なんでも医者から、血が足りてないので起きたらすぐに飯を食わせろと言われていたらしい。
俺が目覚めたことは学校に行ったアリサが伝えたのだろうが。
「でも、これはさすがになぁ・・・・・・」
背中に大怪我を負っていたためか、気を利かせてくれたメイドさんが運んできてくれたのはお粥であった。
それも鍋一杯にお粥が入った鍋ごとこの部屋に持ってきてくれた。
「別に高熱で寝てたわけじゃないから普通の飯でも食べられるのに」
せっかく用意してくれたのに悪いと思いつつ、肉料理が恋しくなってしまう。
ちなみに一緒に寝ていた久遠にも油揚げが与えられ、今も嬉しそうに俺の上で食べている。
「・・・・・・」
「くぅ?」
俺の視線に気づいたのか、食べるのを中断してコチラを見つめて首を傾げる久遠。
よくよく考えると、別の世界では野生の狐を食べたりしたこともあった。
「・・・・・・ゴクッ」
お粥ばかりで飽きていたのでつい、久遠を見つめて喉を鳴らしてしまう。
「くぅ・・・・・・」
俺の視線をどう思ったのか、食べかけの油揚げを名残惜しそうに差し出してくれた久遠。
だが久遠、俺は油揚げではなくお前を見て喉を鳴らしてしまったんだ。
「・・・・・・悪い、それは久遠が食べてくれ」
せっかく仲良くなった久遠を相手に喉を鳴らしてしまったことを反省しつつ、差し出された油揚げを久遠に返してやる。
「入るわよ?」
そんなことをしていたとき、ノックとともにアリサの声が聞こえてきた。
「どうぞ」
俺が返事をしてすぐに扉が開き、そこから少し驚いた表情をしたアリサが入ってくる。
その後ろからアリサと同じくらいの女の子が二人、一緒に入って来た。
「あら、起きてたの? てっきり寝てるのか思ってたわ」
確かに大人しくしていろとは言われたが、別に寝ている必要もないだろう。
「ちょっと、色々あってな」
主に飯とか、お粥とか、久遠とか、野生の狐は食べられるとかな。
「そう? そういえば、アンタ・・・・・・」
「ちょっと待った。 朝も思ったが、アンタはやめてくれ」
別に年下の子に普通に話されるのが嫌なわけではないのだが、出来れば名前で呼んで欲しいのだ。
「だってあたし、アンタの名前知らないし」
アリサにそう言われて今朝は自己紹介をしていないことを思いだした。
久遠にした記憶はあるが、そう言えばアリサにはしていない。
「そう言えばそうだったか・・・・・・俺の名前はトシアキ、敷島トシアキだ」
「トシアキね・・・・・・なのはもすずかも覚えた?」
俺の名前を確認したかと思うと、すぐ傍にいた女の子二人に確認を取る。
先ほどからアリサとしか話してないが、あと二人の女の子が居たのだった。
「ふぇっ!? う、うん、覚えたよ」
「うん、大丈夫」
突然話を振られたツインテールの女の子は驚きながらも、何度も頷いく。
もう一人の白いカチューシャをした女の子はしっかりと頷くのであった。
「じゃあ、今度はこっちの番ね」
アリサはそう言うと隣にいたツインテールの女の子を前に押し出した。
「この子がなのは、高町なのはよ。 アンタのことを見て真っ先に助けを呼ぼうと動いた子」
「あぅあぅ・・・・・・」
押し出されたなのはという少女は恥ずかしそうにしながら俯いていた。
「俺のことを助けてくれてありがとう」
俺は今朝、アリサにしたようになのはに感謝の意を込めて頭を下げた。
「えっ!? そ、そんな! なのはは当然のことをしただけで・・・・・・」
俺が頭を下げたことに大変驚いた様子でそう言う彼女。
しかし、見ず知らずのそれも血まみれの人を助けに動くなんてどれほど勇気が必要なことか。
それを当然という言葉で片付けようとする彼女は凄く良い子なのだろう。
「俺にとってはその当然のことが凄く助かったんだ。 だからお礼を言わせてくれ、本当にありがとう」
「えっと、どういたしまして」
俺の意思が伝わったのか、なのはも俺の言葉を受け取った上で頭を下げてそう返してくれた。
この子は将来、立派な人になれるだろう。
「それからこの子がすずか、月村すずかよ。 アンタの倒れていた場所まで案内してくれた子」
「・・・・・・」
次に押し出されて俺の目の前に来たのは白いカチューシャをしているすずかという子であった。
その子はなのはとは違い、ずっと黙ったまま俯いている。
良く見ると肩が少し震えているようにも見えるので、俺のことが怖いのではないのだろうか。
「すずかはアンタを見つけてすぐに顔を真っ青にして帰ったのよ。 それで負い目を感じているのよ」
確かに血溜まりの中心で人が倒れていたら誰だってそうなるだろう。
それで途中で帰ってしまったことに負い目を感じていると言うことはかなり優しい子なのだろう。
「えっと、月村さん」
俺が名前を呼ぶと彼女の身体がビクッと震えた。
そんな彼女に昔、妹に話し掛けたときのように頭に手をソッと乗せる。
「君が見つけてくれなかったら俺は助かっていなかったんだ」
そして、ゆっくりと撫でながら優しく語りかける。
「だから、何も気にすることはない。 俺はこうして助かったんだ、本当にありがとう」
「・・・・・・はい」
俺の言葉がキチンと伝わったようで彼女は静かに頷いてくれた。
そんな彼女の頭から手を放すと少し残念そうな声が聴こえたが、気にしないことにする。
「で、朝も言ったけど、あたしはアリサ・バニングス。 アンタをウチまで運んだのよ」
どうやらこの三人が俺の命の恩人のようだ。
今朝の疑問も解決したので一件落着と思ったが、アリサは相変わらずの呼び方のようだ。
「アンタはやめてくれって言ったろ?」
「じゃあ、トシアキって呼ぶわね。 あたしのこともアリサでいいから」
「あっ、なのはのこともなのはでいいですよ」
「じゃあ、私もすずかでお願いします」
何故か皆が名前で呼び合う仲になってしまったが、別に問題はないだろう。
なのはが何か聞きたそうにしていたので目で促してやった。
「えっと、トシアキさんはどうしてあの場所に?」
俺も気がついたらあの場所にいたのだが、『歪み』のことを話すわけにはいかないため、俺の故郷の話をすることにした。
「実は俺、魔法の国からやってきたんだ」
「「「えっ!?」」」
本来その世界にありえないものは『歪み』を引きおこす原因となるのだが、話程度なら大丈夫だろう。
「そこで魔物に襲われて大怪我をして、逃げてきた場所があそこだったというわけだ」
ほとんど真実に近いことを話したが、『魔法』が存在しないのなら夢物語と思ってくれるだろう。
「そんな話、信じるわけないでしょうが!」
予想した通り、アリサが誤魔化されたと感じたのか、そう言って怒鳴ってくる。
すずかも同じ思いなのか、疑っていますという視線を感じる。
しかし、なのはだけは何かを考えこむように黙ったままであった。
「本当のことなんだけどなぁ」
話した俺も信じてもらえないと思っていたため、苦笑しながらそう答える。
「とにかく、三人に言っておくことがある」
突然、真剣な表情に切り替わった俺を見て、三人とも顔を強張らせた。
「アリサ、なのは、すずか、なにかあれば俺が必ず助けてやる」
「「「・・・・・・」」」
俺の言葉に三人とも黙ってしまった。
魔法の国の話から冗談の続きだと思われたのか、それとも俺の助けは必要ないということだろうか。
「くぅ!」
そんな雰囲気を壊してくれたのは、今まで膝の上に居た久遠であった。
最初の方は油揚げを食べていたが、途中から眠っていたのだ。
そして、このタイミングで目が覚めたというわけである。
「く~ちゃん!?」
膝の上で伸びをする久遠を見つけたなのははそう言って驚く。
久遠のことを愛称で呼んでいると言うことは、なのはが久遠の飼い主なのだろうか。
「久遠って、なのはが飼ってるのか?」
「えっと、たしか神社にいる那美さんって人と一緒にいるのを見かけるけど」
飼い主はなのはではないようだが、いるのならその人のもとへ帰した方がいいだろう。
「そっか。 なら、久遠をもとの所に連れて帰らないとな」
「くぅ!?」
俺がそう言うと久遠は驚いた様子でコチラへ振り向き、ブンブンと首を左右に振る。
「ん? 帰る場所があるんだろ、帰らなくていいのか?」
「くぅ!」
一緒にいるのは別に構わないが、飼い主さんが心配するのではないだろうか。
などと考えていた俺に三人の視線が集まるのを感じる。
「・・・・・・ん? どうかしたのか?」
「トシアキさん、くーちゃんとお話できるの?」
「トシアキ、動物と話出来たんだ」
「凄いです、トシアキさん」
俺は久遠が人間の姿になれることを知っていたため、特に違和感を覚えなかったが、三人はどうやら違ったらしい。
この場合は俺が動物の言葉を理解出来るんじゃなくて、久遠が人間の言葉を理解しているのだが。
「何となくだよ、本当に話が出来るわけじゃない。 それより、時間大丈夫か?」
「あっ、もうこんな時間」
俺の言葉ですずかが時計の針を見てすでに夕方になっていることに気づいた。
「鮫島に送らせようか?」
「うんん、大丈夫。 ノエルが迎えに来てくれるから。 なのはちゃんも一緒に乗って行くよね?」
「うん。 ありがとう、すずかちゃん」
「あたしは玄関まで送ってくるわ」
なのは、すずか、アリサの三人は楽しそうに微笑みながら部屋から出て行った。
あの騒がしかったこの部屋も三人が居なくなると途端に静かになってしまった。
「・・・・・・俺もここから出て行かないとな」
俺の呟いた言葉が聴こえたのか、久遠が心配そうは表情でコチラを見つめる。
そんな視線に気づかないフリをして、俺は静かに目を閉じるのであった。
~おまけ~
私はアリサお嬢様に仕える執事の鮫島と申すものです。
昨日、アリサお嬢様からの突然の連絡を受けて駆けつけるとそこに居たのは血まみれの青年でした。
傭兵部隊での経験を生かし応急処置を済ませた後、アリサお嬢様の家まで運ばせて頂きました。
この平和な日本で血まみれということは訳があったのでしょう。
ですので、私は病院ではなくご自宅の方へと運んだのです。
「失礼します」
その青年が本日、目を覚ましたということで様子を見に来させてもらいました。
あと、血まみれだった理由も聞きたかったので丁度よいでしょう。
「ど、どうぞ」
部屋の中からの声を確認して、私は扉を開けて中に入ります。
先ほどまではアリサお嬢様となのは様、すずか様がいたので起きていたようです。
「私はアリサお嬢様に仕えております、鮫島というものです」
「あっ、俺は敷島トシアキです。 いろいろとご迷惑を・・・・・・」
ふむ、私の挨拶にもキチンと対応して名乗ってくださいましたか、訳があれば名前は隠すでしょうし。
そう考えながら私は『敷島トシアキ』という名前を心に留めた。
後で調べてみる必要がありますね。
「いえ、アリサお嬢様はあなたのことを嬉しそうに話しておられますので迷惑というわけではありません」
「えっ!? アリサが?」
おや、もう名前で呼ぶ仲になっているのですか。
アリサお嬢様が心を許した相手なら大丈夫かもしれませんね。
「はい。 お嬢様はご両親が二人とも海外へ仕事で行っておられるので、さみしそうになさっていました」
「でも、あなたや他の人たちが・・・・・・」
「私どもは雇うものと雇われるものの関係なので、どこか遠慮があったと思います」
「なるほど」
頷いた彼を見ながら、私は気になっていたことを聞いてみることにしました。
「あなたはどうして背中にそんな大怪我を?」
「・・・・・・友人を庇って負いました。 その後は覚えていません」
確かにあれほどの出血量なら意識を失ってもおかしくありません。
庇った友人が何処に行ったのか気になるところですが、これ以上聞くのはやめておきましょう。
「そうですか。 傷が癒えるまでここに居ても大丈夫ですので、何かあればお呼びください」
「・・・・・・すみません。 俺は長くここにいられませんので」
長い間があって、小さな声でそう返事を返した敷島様。
私はその言葉が聴こえなかったということにして、無言で一礼して部屋から退出するのでした。