魔法使いと魔法少女   作:T&G

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第三話

アリサの家から出て行く準備をしようとしたときに執事の鮫島さんが入って来てかなり驚いた。

 

金もないし、身分証もない俺がいつまでもここに居るのは流石に問題だろう。

 

彼は傷が治るまでここに居てもいいと言ってくれたが、そういうわけにもいかないのだ。

 

「さて、行くかな」

 

基本的に俺の持ち物はない。

 

ゲンジと別れる前に貰った数珠くらいだろう。

 

身体に巻かれている包帯は流石に返せないが、ベッドくらいは綺麗にしておこう。

 

「・・・・・・こんなものか」

 

シーツの皺を伸ばし、布団も綺麗に畳んでおく。

 

きっと、洗濯をするのだろうがこういうものは気持ちの問題だ。

 

「くぅ・・・・・・」

 

床に座り、コチラを見上げながらそう鳴いた久遠。

 

「久遠はどうする? 帰るなら森まで送って行くけど・・・・・・」

 

「くぅん!」

 

久遠は俺の言葉を否定するかのように、ブンブンと首を左右に振った。

 

俺としては別に一緒に行ってもいいのだが、飼い主さんへ伝えなくてもいいのだろうか。

 

「まぁ、久遠がそう言うならいいけどな」

 

深く考えるのをやめて、床に座っている久遠を抱き上げ、腕に抱える。

 

そのまま歩いてバルコニーへと出られる大きな窓へ向かう。

 

ちなみにここは二階の部屋だったようで窓の傍まで行くと綺麗な月が見えた。

 

「・・・・・・いい風だ」

 

窓を開けると夜の冷たい風が室内へと入ってくる。

 

冷たい風を身体で受けながら俺はいつものように『精霊』の存在を確認する。

 

「うん、この世界にもちゃんと居るな。 これで俺の『魔法』も使える」

 

自然と俺の周りを飛びまわる『精霊』にお願いして、身体を宙に浮かす。

 

「くぅ!?」

 

突然、俺の身体が宙に浮かんだことに驚いた様子をみせる久遠。

 

もっとも、俺が抱きかかえているので落ちることはないだろう。

 

「はははっ、驚いたか? 俺は実は『魔法使い』なんだよ」

 

「くぅん!」

 

俺の言葉をどうとらえたのか、久遠は嬉しそうに鳴き声を上げる。

 

空を飛んでいるのが嬉しいのか、俺にはよくわからなかった。

 

「・・・・・・」

 

最後にアリサの家に身体を向け、無言で頭を下げる。

 

誰にも気付かれていないと思うが、怪我の手当てをしてもらい家まで運んでくれた礼をする。

 

「・・・・・・よし、行くか」

 

「くぅ」

 

アリサの家から飛び立ち、冷たい風に当たりながら俺たちは夜空を飛んでいる。

 

空から見た街の景色が凄く美しく見えた。

 

「くぅ・・・・・・」

 

しばらく飛んでいると久遠が冷たい風にずっと当たっていたためか、腕の中でプルプルと震えていた。

 

「ん? 寒いか、久遠」

 

「くぅ」

 

俺の声を聞いて、コクッと頷く久遠。

 

その様子を見て進むのをやめ、宙に浮いたまま停止することにした。

 

「ふむ、あの公園にでも降りるか」

 

上空から見えたのは海が傍にある自然公園だった。

 

とりあえずその公園で一休みしようと思った瞬間、一匹の鳥がもの凄いスピードで俺の傍を通過していった。

 

「うぉ!?」

 

その為バランスを崩し、抱えていた久遠を落としそうになった。

 

俺は八つ当たりの意味を込めて通り過ぎた鳥に向かって風魔法を放つ。

 

「あぶねぇだろ!」

 

鳥が久遠のように人間の言葉をわかるはずもないのだが、思わずそう言ってしまったのだ。

 

俺が放った無数の風の刃が飛んでいる鳥に当たり、右の翼を断った。

 

「あいつを焼いて今日の飯にするか」

 

鳥ならば異世界生活で何度か焼いて食べたことがあるので俺は食糧にしようと考えた。

 

右の翼が断たれた鳥はそのまま落下しているので、回収しに行く必要がありそうだが。

 

「なっ!?」

 

しかし、落下していた鳥の翼が突然生えてきたのである。

 

「この世界の生物はあんなのばっかりなのか!?」

 

人間の文明が発達しているこの世界にあんな生物がいるとは思わなかったため、思わず久遠に怒鳴るように聞いてしまった。

 

「くぅぅ!」

 

腕に抱えられた久遠も初めての経験だったようで、翼が生えた鳥を驚いた様子で見ていた。

 

「ってことは、『歪み』はあいつか。 ゲンジがいないからどこに『歪み』があるのかわかんねぇ」

 

いつも隣で一緒に戦っていた相棒がいないことに愚痴をこぼしていると、翼が完全に復活した鳥が旋回してこちらへ飛んでくる。

 

おそらく、先ほどの攻撃で俺を敵と認識したのだろう。

 

「まぁ、切ってダメなら粉々にしてしまえば大丈夫かな」

 

鳥が飛んで来るコースを予想して、そこに『精霊』を集める。

 

「よし、爆ぜろ!」

 

『精霊』が集まった位置に鳥が飛んできたので俺はそう声を上げる。

 

すると、その場所で小規模の爆発が起きて鳥が爆煙で見えなくなってしまった。

 

「終わったか?」

 

徐々に煙が晴れてくると鳥の姿はなく、代わりに青い宝石が一つ浮いていた。

 

「なんだ、これ?」

 

青い宝石は光を放ちながらゆっくりと下に落ちていく。

 

「よっと、これは・・・・・・」

 

落ちていく青い宝石を手に取って眺めていると、宝石から微量の魔力が漏れていることに気づいた。

 

「さっきの鳥はこれが原因で・・・・・・」

 

どうやらこの世界の鳥は普通の生物であるようだ。

 

この宝石から漏れている魔力が変に作用してしまったのだろう。

 

「・・・・・・とりあえず、封印しとくか」

 

俺は青い宝石を両手で覆い、漏れている魔力を包み込むイメージを浮かべる。

 

すると青い宝石の放っていた光がなくなり、魔力も感じられなくなった。

 

「よし、これで大丈夫だろ」

 

「くぅ!」

 

強大な妖力を持つ久遠からお墨付きを頂いたので、この宝石はもう大丈夫だろう。

 

このまま宙に浮かんでいる姿を誰かに見られては困るので、最初の目的通りに公園へ静かに降り立った。

 

「さて、公園にたどり着いたわけだが・・・・・・」

 

夜の公園には人影はなく、外灯が所々にあるだけであった。

 

「どうするかな?」

 

「くぅ?」

 

抱えていた久遠に尋ねた俺だが、その久遠にも首を傾げられてしまった。

 

とりあえず近くにあったベンチに座って久遠を膝の上に乗せる。

 

「アリサの家から出てきたけど、よく考えたらこの世界の金、持ってないしなぁ」

 

この世界の通貨や相場が全くわからないのでどうしようもない。

 

宝石や金貨ならばどこかで換金できるのかもしれないが。

 

「金の管理はゲンジに任せきりだったからなぁ」

 

俺はそういった物を全く持っていないのであった。

 

唯一あるとすれば先ほど手に入れた青い宝石くらいだろう。

 

「とりあえず、この青い宝石を売ってお金に換えるかな」

 

でも、宝石類の相場がわからないので換金しに行っても足元を見られるような気がする。

 

「それはそれでムカつくしなぁ」

 

久遠の背中を撫でながら俺は何気なしに夜空を見上げる。

 

「ん?」

 

夜空を見上げた俺の真上を何かがもの凄いスピードで通って行った。

 

「なんだ、あれ」

 

俺は飛んで行った方へ視線を向ける。

 

そこには大きなビルが立ち並んでおり、その中でも突き出ている高い建物が目に入った。

 

「・・・・・・大きいな。 あんなもの、どうやって建てたんだよ」

 

そう思わず口に出してしまうほど、その建物は高く、大きかったのだ。

 

そして、俺の真上を通り過ぎた何かはその建物の屋上に降り立った。

 

「・・・・・・」

 

この世界に他にも『魔法使い』がいるのだろうか。

 

かなりのスピードだったのでよくわからなかったが、おそらくアレは人だろう。

 

人が簡単に生身で飛べるとは思えないので『魔法使い』という結論に俺は至った。

 

「よし、行ってみるか」

 

俺と同じく別の世界の住人だったら俺の境遇を聞いて助けてくれるかもしれない。

 

そう考えた俺は久遠を再び抱えて先ほどの大きな建物を目指して飛び立った。

 

 

 

***

 

 

 

目的地である建物の屋上に着いた俺と久遠。

 

そのまま下の階へ降りて廊下を歩いていると、壁を挟んだ向こう側から魔力の反応を感じた。

 

「ん? この部屋か」

 

ドアの前で立ち止まった俺はドアの前でしばらく動きを止めて考える。

 

「・・・・・・」

 

他人の家の前で動かずに考え事をしている。

 

その様子はまわりから見れば不審者だが、幸いにも夜なので目撃者は誰もいない。

 

「・・・・・・まぁ、いいか」

 

結局、何も思い浮かばず呼び鈴を押すことに決めた俺は手を伸ばして呼び鈴を鳴らした。

 

呼び鈴が鳴ってからしばらくして、部屋の中から人の気配が動き、ドアに近づいてくるのがわかる。

 

「・・・・・・なにか」

 

ドアが開き、そこから顔を出したのは金色の髪を両サイドで止めている可愛らしい少女であった。

 

その彼女が俺のことを不審な者を見る目でそう尋ねてきた。

 

「えっと、その・・・・・・」

 

「用がないなら」

 

そう言ってドアを閉めようとする少女に俺は閉められたらマズイと慌てて言葉を発する。

 

「君、魔法使いだろ?」

 

「!?」

 

俺の言葉に反応した彼女はとっさに武器のようなものを取り出し、その先を俺へ向ける。

 

「どうしてそれを?」

 

「い、いや、君が飛んでいくのが見えたから追いかけてきたんだよ」

 

武器である光の鎌の先を首に当てられ、内心でヒヤヒヤしながら答える俺。

 

「・・・・・・それで?」

 

「この世界に魔法使いはいないから、同じ魔法使いならなにか力になってくれないかなぁと」

 

小さな少女に武器を向けられている俺はとにかく言いたいことを言って様子を窺ってみる。

 

流石にずっとこのままというのも辛い。

 

「・・・・・・では、管理局とは関係ないと?」

 

「管理局? なんだそれ」

 

しばらく俺の目を見つめていた少女だが、納得したのか、スッと武器を下ろす。

 

「どうやら嘘はついてないようですね」

 

「あぁ、俺はこの世界に飛ばされてきたんだ。 おかげで住むところもなくて困ってる状態なんだ」

 

武器を下ろしてくれたことにより余裕が生まれた俺はそう言って困っていることをアピールしてみる。

 

「で、俺のことを助けて欲しいと思ってきたんだけど・・・・・・」

 

「理由はわかりました。 ですが、あなたを助けて私に何か利益があるのですか?」

 

「えっと、お金はないから、明日この宝石を換金しに行くつもりだから明日まで待って欲しいんだけど」

 

そう言いながら俺は先ほど手に入れ、封印を施した青い宝石を取り出す。

 

「っ!? そ、それはジュエルシード!」

 

「なんだそれ?」

 

その青い宝石を見て少女が驚いたように叫ぶ。

 

宝石の名前まで知っているようだし、彼女が探しているものなのだろうか。

 

「これは変な鳥が持っていたものなんだが・・・・・・」

 

「・・・・・・わかりました。 その宝石をくれるのなら助けましょう」

 

俺の話を聞いた少女はそんな条件を出してきた。

 

個人的には売ってお金に変えようと思っていたので、渡すことに特に問題はない。

 

「わかった。 ほら」

 

とりあえず、俺の手で封印を施したのでそう簡単に解けないと思う。

 

彼女がなんのために欲しがったのかわからないが、大丈夫だろう。

 

「・・・・・・どうぞ」

 

手渡した青い宝石を確かめるようにギュッと握りしめた彼女はそのまま扉を開いた。

 

「いいのか?」

 

「約束、ですから」

 

そう言って部屋の奥へと進んで行った彼女の後を追って、俺も室内へと入って行く。

 

「広いな・・・・・・」

 

「そこの部屋以外は好きに使ってくれて構いません。 私はここにいないことの方が多いので、勝手に使ってください」

 

そう淡々と話した彼女はそのまま部屋に入って行ってしまった。

 

残された俺はどうしようかと考えたが、話をしないことにはどうしようもないので、リビングに置いてあったソファに横になる。

 

「まぁ、明日にでも話せばいいか」

 

一人で俺はそう呟き目を閉じる。

 

いつの間にか眠っていた久遠を腹の上に乗せて俺はそのまま眠りにつくのであった。

 

 

 

~おまけ~

 

 

なのはたちを玄関まで送った後、あたしはそのまま自分の部屋に戻った。

 

今日、学校で出た宿題を終わらせるためだ。

 

「こんなの簡単だけどね」

 

塾にも通ってるし、今の学校で習っている範囲なら問題なく答えられる。

 

私は素早く宿題を終わらせ、次に夕食を食べるため部屋から出る。

 

「そう言えば・・・・・・」

 

夕食を食べる前に拾った人、トシアキのことを思い出したあたしは彼がいる部屋へ向かう。

 

「トシアキ、起きてる? 起きてるなら夕食を一緒に・・・・・・」

 

あたしはそう言いながら彼がいるはずの部屋に続く扉を開いた。

 

しかしそこには誰の姿もなく、綺麗に畳まれた布団と開いている窓からの風で揺れるカーテンだけが存在感を示していた。

 

「嘘・・・・・・」

 

鮫島に聞いた彼の怪我は一日で治るようなものではない。

 

それなのにさっきまでなのはやすずかと話をしていた彼はもうそこにはいない。

 

「・・・・・・トシアキのバカ」

 

開いている窓の傍へ行き、バルコニーから外を眺める。

 

外の景色が潤んで見えることに対して、あたしはもうここに居ない彼の悪態を吐くのであった。


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