ブラック鎮守府と折木 作:素人
暁side
おかしいわ...いえ前任がいた時も色々おかしくはあったけど。今はそれ以上に異常だわ。今日着任してくると言われていた提督は来ないし提督を迎えに行っている長門さんと金剛さんも帰ってこない。
「何かあったのかな?」
「んー?暁どうかしたの?」
私の独り言に返してきたのは私の妹である暁型三番艦の雷だった。駆逐艦の皆は前任の提督がいなくなってからは少し落ち着いたように見えるけど不安に思っている子は多い筈!ここはお姉さんでありレディーな暁がしっかりして皆の不安を出来る限り無くしてあげないとね!
「何でも無いわ!それよりも何か困ったこととかはない?暁に何でも頼ってくれていいのよ!」
「あーはいはい。それより新任の提督が来るって言ってたけどどうなったのかな?」
私の話をスルーしながら皆気にしている事を口にした雷。
「確かに遅いですね」
雷の言葉に返事をしたのは正規空母赤城型一番艦の赤城さんだった。私達の鎮守府の主力艦隊の一人だ。穏やかな性格で優しいので皆からとても人気がある。
「赤城さん」
「長門さんや金剛さんが心配ですが信じてまつしかないでしょう。それに提督が遅れているのかもしれませんし」
赤城さんは苦笑いを浮かべながら私達が不安にならないような言葉を選んで言ってくる。でも表情はぎこちないと言うか無理をしている気がする。
「赤城さん心配なのは分かりますが顔に出すぎです」
赤城さんに言ったのは正規空母加賀型一番艦の加賀さん。いつもクールでどこか近寄りずらいけど前任の提督から殴られたり怒られたりしたあと優しく頭を撫でてくれて私が泣き止むまで「大丈夫」と言い続けてくれたとても優しい艦娘です。
「...ごめんなさい。気を付けていたつもりだったのだけれど」
「仕方がない」
赤城さんの言葉に暁型二番艦の響が答える。響は駆逐艦の中では一番落ち着いている。これじゃ暁とどっちがお姉さんなのか分からないじゃない!
「電はとても心配なのです....長門さんと金剛さんに何かあったらと思うと胸が張り裂けそうなくらい痛くなるのです」
暁型四番艦の電が涙目でお腹をおさえている。響が「大丈夫」と言って頭を撫でているがこの状況じゃ皆が心配に思うのも無理はないわね。
「あたしも心配ぽーい」
独特なしゃべり方で此方に向かってきたのは白露型四番艦の夕立と特型駆逐艦の一番艦の吹雪と睦月型一番艦の睦月。駆逐艦の殆どは提督から役立たずと言われ遠征ばかりしかいけなかったが夕立と吹雪だけは出撃をしていた。遠征から帰ると皆傷だらけ。でも私の心中を知ってか笑ってくれる。だからその笑顔に甘えて私はお帰りなさいといつも言っていた。
「もう夕立ちゃん。その口癖前の提督に怒られたんだから直していかないと」
夕立の口癖は語尾にぽーいを付けてしまう事なのだが提督が何故か馬鹿にしているととって怒られた事がありそれ以来夕立の口から語尾にぽーいを聞いたのは久し振りなことだった。
「だって前提督はもういないっぽーい。だから良いぽーい!」
「あはは....なんか前よりも使ってる気が」
吹雪が少し呆れながら言うと皆の顔に笑顔が浮かぶ。勿論私も意識せずに綻んでいた。吹雪は何かおかしなこと言いましたかっ!?って必死に言ってるけどそれが余計に安心感を与えてくれる。私にも吹雪みたいに皆を笑顔に出来たらな...。
「HEY!少し問題がおきたましタ!皆よく聞いてくだサーイ!」
入口からは金剛さんが慌てた様子で入ってきてそれ以外は誰も入ってくる様子がない。先程浮かべていた笑顔は皆強張っており最悪の事態を予想していた。
「金剛!大和はどうしたの?」
陸奥さんが大きな声で金剛さんに怒鳴り付けます。こんな大きな声で怒鳴っている陸奥さんなんて見たこと無くて私達駆逐艦は皆震えていました。
「落ち着きなさい陸奥。皆が怖がっていますネ。それに長門は無事ネ」
金剛さんの言葉を聞いて少し落ち着いた陸奥さんは金剛さんが入ってきた場所から出ていった。出ていく時に何か耳打ちされて走っていったけど何かあったってことかしら?
「それでは話しますネ」
そこからは理解が追い付かない話しの連続だった。提督が来たときに駆逐艦を減らすと言ったという事。そして長門さんが提督を殺してしまったということ。どの話も現実味を帯びていないせいで理解が追い付かない。
「ということなので。榛名!霧島私に着いてきてくださいネ!」
「はい!お姉様!」
「分かりました!」
金剛さんは説明だけし終えて足早に榛名さんと霧島さんを連れて出ていった。
赤城side
金剛さんの言葉で不安になる艦娘で少しパニックになっていた。新しく着任する筈だった提督は死んだ。その言葉は私達艦娘のどの子の胸にも響いた筈でしょう。艦娘にとって提督は必要な存在。前任がいくら私達に酷い扱いをしたとしても私達は未だに誰一人として沈んではいない。艦娘だけならそうはいかなかっただろう。艦娘には提督が必要だと全員が理解している。だけど....提督がいなくなって私達は嬉しくも思ってしまっている。
「赤城さん。どうしますか?」
加賀さんは冷静に私に聞いてくる。どんな指示が正解なのか分からない。でもいつも指揮をだす長門さんと陸奥さんは今はいない。なら一航戦である私達がしっかりしなくてわね。
「加賀さんはそれぞれの艦隊の旗艦に艦隊事に整列するように言ってください。榛名さんと霧島さんの艦隊の子達は私が集めます」
「分かりました」
加賀さんは頷き旗艦の子達に説明を始める。
10分ほどで皆艦隊事に整列を終えている。皆の視線は私に注がれている。こんなにも重圧と責任感に押し潰されそうになるなんて私もまだまだ修行が足りませんね。
「皆さんに整列してもらったのは落ち着いて現状の確認をしてもらいたかったからです」
「あ、あの赤城さん」
吹雪さんからゆっくりと手が上がる。この子は正義感が強く努力家でもある。そんな吹雪さんは皆からの信頼も厚く私も信頼している一人でもある。
「はい、なんでしょう吹雪さん」
「現状の確認をと言うことですが。それは提督は既に死んでいるという内容でしょうか?」
「ええそうです」
「それだったら皆知ってると思うんですけど...」
そう皆が知っている。だからこそちゃんと確認しなければいけない、少しでも受けとる意味合いが違っていればきっとそれは大きな溝になってしまうから。
「吹雪。赤城さんは落ち着いて現状の確認をすると言ったのよ」
「はい、でもそれは」
「いい?さっきみたいなパニックになっていた状況で皆が皆同じ意味合いにとったと思う?私は違うと思うわ。そしてその少しの食い違いは後々に大きな溝になるのよ。それを赤城さんは防ぐためにこうして皆を集めたのよ。ですよね赤城さん」
「はい。流石です、加賀さん。今加賀さんが言った通りです。皆さんが同じ意味合いにとったとは私は思っていません。なので改めて確認も込めて話をします。提督は亡くなりました。提督を殺したのは長門さん。確かに私達艦娘に提督は必要です。ですが...仲間を切り捨てるような提督は必要ではないと私は思います。長門さんだって駆逐艦の子達の事を考えていてもたってもいられずに起こしてしまった行動だと思います」
私は一息おいて話を続ける。皆に考える時間を与えるように。
「ここにいる皆さんに聞きます。今回の件どう思いますか?先程の状況と今の状況で聞いたのでは考えが変わった人はいるのではないですか?」
静寂....。下を向く子達。考えを改めているのか考え込んでいる子達。様々だけど皆一様に下を向いている。でもそんななかで一人だけ上を向いた子がいた。
「あ、あの....」
ゆっくりと手を上げる駆逐艦の夕立さん。これだけの人数の中で手を上げて発言するなんてとても勇気のいること。とても強い子ね。
「はい、夕立さん」
「え、えーと...あたしはその最初はよく分からなかったぽいのですが...えと...吹雪ちゃんと睦月ちゃんと皆と仲良くしたくて...今回の事で提督はいなくなっちゃったけど長門さんには感謝してるぽくて...その」
「夕立ちゃん...」「夕立ちゃん...」
「あたしは...」
「くす。夕立ちゃんは皆の事が大好きって言いたいんだよね?」
「む、睦月ちゃん!それは言わないで欲しいぽかったぽい!」
「私も夕立ちゃんの事大好きだよ」
「私だって!」
「吹雪ちゃんも睦月ちゃんも皆の前で恥ずかしいっぽい!」
「くす。夕立さん」
「は、はぃ..」
余程恥ずかしかったのか頬を染めている夕立さん。ですがそれは彼女をより際立たせて魅力的に見える。
「ありがとう 大好き 素敵 嬉しい。大切な人への大切な気持ちを伝えることを躊躇わないで明日会えなくなるかもしれない私達だから」
「あ、赤城さん....み、皆。夕立は皆の事大好きっぽい!」
この時間がいつまで続くか分からないけれど...それでも私が。いえ私達が今度はこの子達を守らなくてはね。
---------深海悽艦から。
--------そして提督から。