ブラック鎮守府と折木 作:素人
「提督?」
「そっ。明日迎えの人が来るからよろしくね~」
姉貴はソファーから立ち上がり手を降りながらリビングを離れようとするが何も分からないまま行ってしまっては困る。
「おい姉貴。提督ってどんな仕事なんだ?」
「んー?そうねー。纏めて指揮して、取り合えず偉い人よ」
分からん....更に俺は聞こうとするが姉貴の顔からこれ以上聞いたら分かってるね?という無言の圧力がかかってきて何も言えずにその場に立ち尽くす。
「あ、明日迎えが来たら詳しく話すから」
それだけ言って自分の部屋に戻っていった。
俺は姉貴が先程言った纏めて指揮して、という言葉を思い出していた。纏めて指揮してなんて仕事俺が思い付く限り学校の先生くらいしか思い付かなかった。
いくら姉貴でも俺を教員にするのは無理だろうし俺は教員免許を持っていない。なれるはずがない。暫く考えた後考えても疲れるだけだと、今この時間を楽しもうとソファーの上から自室に戻りベットの上に移動した。
翌日。朝目を覚ました俺を待っていたのはゴツい黒服に身を包んだ黒渕サングラスをかけた知らない人と、姉貴だった。
ゴツい人に着替えもさせてもらえずに俺は抱き抱えられて外に止めてあったリムジンに乗せられる。この状況を楽しんでいるのか姉貴は笑っている。初めて姉貴に殺意が湧いた瞬間だった。
リムジンに乗せられるとリムジンの中には焦げ茶色の髪をポニーテールにまとめ、瞳の色も茶色で紅白のセーラー服に身を包んだ大和撫子を連想させる美少女が座っていた。
「初めまして。私は大和型一番艦大和と申します」
丁寧に御辞儀され此方も自然に頭を下げてしまう。現状を理解できないまま車は出され何処かに向かっていく。昨日説明すると言っていた姉貴は車に乗らずに手を降っている。
「....」
「あの...もしかして何も説明をされていないのですか?」
俺が無反応だったせいか聞かれたので首を縦にふる。
「はぁ...そうだったんですか。共恵さんらしいですね...」
「姉貴の事を御存じなんですか?」
「ええ。少し訳ありですが」
その声には哀愁が混じっており姉貴が何をしたのか、姉貴とはどういう関係なのか気になったが聞くことは出来なかった。
「では私の方から説明をさせていただきます」
「お願いします」
「貴方は現状の日本をどれ程理解出来ていますか?」
その質問の仕方に違和感を覚えた。理解していますか?ではなく理解出来ていますか?ということは何か規制があり普通なら知らなくてもおかしくはないという事か。現状の日本で規制があり一般的な国民が知らないこと。それは国という内面以外には一つしかなかった。
恐らく海の立入禁止の事だろう。何故立入禁止をしているか、だな。仮に政府が軍事訓練をしていると言うのなら国民に説明が出来る筈だ。戦争が始まり危険だから近付くなでも納得する人は増えるだろう。だがそれをしない。何故なら後々本当の事を話すつもりがあるから?その際に嘘をついていた事がバレると困るから。だが何故内緒にしなければならないのか...死刑という言葉を使い、国民の信用を切り捨てても内緒にしなければならない理由。それは...国でも説明が出来ない事が起きているから?
...駄目だこれ以上は情報が少なすぎる。
「一つ聞いても良いか?」
「何でしょうか?」
「さっき大和さんは自己紹介の時に大和型一番艦と言った。正直そんな自己紹介をするやつを俺は知らない。それはどういうことなんだ?」
「そうですね...私は人間ではない。そう言えば分かりますか?」
俺はその言葉に驚き大和さんを見るが大和さんは真剣にその言葉を言っている事が分かった。分かったが...納得は出来なかった。
「分からんな....どういう意味だ?」
「本当はもう大体分かったのではないですか?まぁ...納得出来ないという気持ちは分からなくもありませんが」
昨日の姉貴の言葉。纏めて指揮して...そしてテレビでの言葉。化物が現れて。そして証言にあった謎の爆発音。
俺の思考がある答えに結び付きそうになったときに車は建物の前で止まった。
「付きましたね。元帥が御待ちです。着いてきてください」
大和さんはそれだけ言うと車から降りて俺を先導してある部屋の前で止まり部屋をノックした。
「大和ただいま帰艦しました」
「御苦労。入りなさい」
「はい」
大和さんは扉を開けて俺が入るのを促してくる。俺が部屋に入るとそこは会議室なのだろうか椅子と机が並べられており部屋には数人、軍服を来た人が座っていた。
椅子が一つだけ離れた場所にポツンと置いてありそこに座るように言われ張り詰めた部屋の中を重い足取りで歩き椅子に座った。
この時点で薄々感付いてはいたが軍の施設だということは分かった。部屋の窓から久しく見ていなかった海も見える事からこれはやらせやドッキリではないだろう。
「折木奉太郎君だね」
一番前に座っている明らかに一番偉そうな人が話しかけてきた。俺は返事をして緊張のせいで震えている拳を握る。
「君には明日から横須賀鎮守府に提督として着任してもらいたい」
周りにいた軍服の人達からざわめきが上がる。俺は恐怖心もあったが右手をあげた。
「どうしたのかね?」
「すいません。実は説明が不充分でして理解できていないのですが提督とは何でしょうか?」
俺が質問するとキレたように立ち上がる軍服姿の男性が一人。
「こんな子供にと思っていたら!ただの一般人ではありませんかっ!!教育過程を飛ばしては今いる提督に示しがつきませんぞ!!それにこの子供が適正かどうかも分からないではありませんかっ!!」
正直子供を連呼されてムッとなったが疲れるので気にしないことにした。もしかしたら帰れるかもしれないし。
「落ち着きなさい。確かに言い分は一理ある。だが適正があるかどうかは我々が決めることではなく妖精が決めることだ。大和」
「はっ!」
大和さんは俺の隣まで来て見えますか?と言ってきた。何が?と思ったが実は車の中で既に見ていた。小さな人間みたいな不思議な生物を。
見えますか?と聞くことから見えていなければ適正していないのだろう。適正していなければ家に帰れるということなのだろう。それなら
「見えなければ一生牢屋で過ごすことになるかもしれません。ここは極秘ですから」
....どうやら俺の省エネ生活は終わりを告げるらしい。
「見えます...」