ブラック鎮守府と折木 作:素人
大和さんの案内では宿舎に着くことが出来なかったので俺が妖精に聞きながら宿舎を探して無事に宿舎に着くことができた。民宿のような見た目の宿舎で豪華さは無いが落ち着ける憩いの場所といった雰囲気で好感を持てた。
室内は10畳ほどあり少し広い気もするが床は畳になっており自分の家がフローリングなので畳は嬉しくもあった。
民宿といってもここは立入禁止区域であるので民宿も軍の人が働いているようだが。民宿に入って軍服姿のお姉さんが現れたときは本気で帰るか悩んだくらいだ。
部屋に入ると俺用の白い軍服に帽子に手袋が丁寧に畳まれておりその上に一冊の本が置いてあった。
提督の仕事について。と書かれた本を一ページ捲ると深海淒艦の事や艦娘の事が書かれており次のページには俺のするであろう仕事内容が書かれていた。
俺の基本的の仕事は艦娘との友好な関係を築く事と作戦の命令とデスクワークらしい。俺の平凡な生活は何処にいってしまったのか....。これならえると一緒に泊まりがけで謎解きした方がマシだったと思いながら次のページを捲ると何やら単語が書いてありその説明が単語の下に書いてあった。
その中には建造や開発、演習、遠征といった必要最低限の知識なのだろう。簡単ではあるが書かれているのだが一つだけ理解できない単語があった。
「解体?....」
俺が呟くと後ろから大和さんが声をかけてきた。
「どうかしましたか?」
大和さんが何故未だに部屋にいるのか聞きたいところだが今はこの言葉の意味の方が気になった。
「大和さん。解体ってどういう意味なんだ?」
俺の言葉を聞くと悲しそうな表情を浮かべて一言。
「処分すること、です」
「すまない。言っている意味がやはり分からない。どういう意味なんだ?」
そもそも解体という単語の説明は資材に戻してとかしか書いておらず意味が分からない。
「私達、艦娘は建造という工程を行うと造り出す事が出来ます。その際に必要となるのが資材です。燃料に弾薬と鋼材にボーキサイトがあれば私達は造り出せるんです」
資材があれば艦娘は量産できると言う大和さんの言葉を聞いて納得は出来ないが、繋がらなかったピースが繋がってしまった。
大和さんが自分を人間じゃないという理由。そして先程見た砲台。そして威圧感。見た目は19歳くらいだと言うのに本当の年齢も定かではない。大和さんの言葉と本を読み進んでいく限りでは俺の気分は最悪なものだった。
「御理解いただけましたか?」
俺が本を読み終えて閉じると大和さんが聞いてきた。
「まあ...一応」
「そうですか」
沈黙。何時もなら黙っていられるこの状況を喜んでいただろうが今のこの場の静寂は居心地が悪かった。
「一つ聞いても言いか?」
「はい」
「俺が担当する横須賀鎮守府というのはどういった場所なんだ?」
本を読む限りだと鎮守府事態は複数あるみたいで横須賀鎮守府は中枢を担っているみたいだ。先程俺が訪れた場所は大本営という場所らしく元帥というのは一番偉い軍人らしい。
俺みたいななにも知らない一般人に中枢を任せるほど余裕があるとは思えない。何かを隠されているような気がしてならなかったのだ。
「...横須賀鎮守府は...そうですね。本にも書かれていたと思いますが数ある鎮守府の中でも中枢を担っている鎮守府です」
「それは分かっている。そうじゃなくてもう少し内面的な事を知りたいんだ。俺が担当するんだ。知る権利くらいはあるはずだ」
「....そうですね、分かりました。貴方が着任する前の提督は艦娘に対して激しい嫌悪感を抱いておりました。理由は分かりませんが艦娘を毛嫌いしていた事は確かです。その為なのか過度な出撃を繰り返し睡眠時間も録に与えられず、補給もさせてもらえず、怪我をしても入渠すらさせてもらえなかったようです。殴られたり蹴られたりは日常的に行われていたそうで、そういった鎮守府をブラック鎮守府と言ったりもしますが」
淡々と話す大和さんは何処か馴れているといった感じで話を続けている。
「そんなことが許されるのか?」
「いえ。禁止してはいますが...見付けられないと此方としても手の施しようがないのです」
「.......」
「それに私達艦娘は兵器ですから」
「....大和さんの所属している鎮守府はブラックなんですか?」
大和さんは俺の質問がおかしかったのか笑顔を浮かべながら「私は大本営に所属しています。元帥の戦艦大和です。元帥は良くしてくださってますので、むしろホワイトかもしれませんね」
「そうですか....」
俺は今日一日だが大和さんの事を思い返した。申し訳なさそうに此方を見たり、笑顔を浮かべたり、悲しそうな顔をしたりと喜怒哀楽がしっかりとあるのに自分の事を兵器だと言う。兵器には感情もないだろうし、自分で考えて行動するなんて事は出来ないと思っている。
「でも俺は大和さんが兵器だとは思いませんよ」
「....私達は兵器ですよ。このような見た目ですが手首が例え飛ばされようとも入渠すれば完治しますし。主砲と呼ばれる砲台もついています。資材から産まれた量産型兵器。それが私達なんですよ」
「そんなことはないでしょう。感情を持ち自分で行動できる。これは立派な人間だ」
「では聞きますが砲台を装備している人間はいますか?どんなに大ケガをしても入渠するだけで怪我が治る人間なんていますか?いるはずないじゃないですか」
確かにそんな人間はいない。だがそもそも人間の定理はそんなことで決まることじゃない。
「だから自分達は兵器だと?」
「はい」
人間には無いものを持っているから兵器、か。だがそれでは艦娘という存在はあまりにも儚い存在ではないだろうか。人間を守ってくれているのは間違いなく艦娘だ。容姿は人間で意志疎通も出来て感情もあるのに自らの事を兵器だと呼ぶ。
俺は空を見上げる。里志だったらこんなときになんて言うだろうか。
[そんなの決まってるじゃないか。データベースは答えを出せないんだ]
ふと頭の中には里志の声が響く。
[それに答えを出すのは奉太郎の仕事だろ?何時だって答えを導いて来たじゃないか]
違う...あれは運が良かっただけで俺はお前が求めている奴じゃない。
[ほんと折木って変わらないわよね。福ちゃんがどうしてあんたを頼るか分からないの?]
これは高校の卒業式の日に謎解きをした後に伊原に言われた言葉だったな。確か里志が俺を頼る理由は。
[頼るってことはさ。自分では解けないって諦める事なんだよ。僕は諦めてきた、今までね。怪盗十文字の犯人を僕は本気で見付けるつもりだった。でも僕じゃやっぱり駄目だった。だから奉太郎に頼って来たんだよ。奉太郎なら必ず答えを導いてくれるって思ったからね]
[奉太郎さん.....]
える....。いつからだったか、えるに千反田ではなく、えると呼んで欲しいと言われたのは。あの時も最初は呼ぶつもりなんてなかったが呼ばない方がめんどくさくなる気がして呼ぶことにしたんだよな。
[奉太郎さん。私何故艦娘という人達が自分の事を兵器なんて言うのか、気になります。感情も実際に話すことも出来るのに兵器だなんておかしいと思います。奉太郎さんもそうは思いませんか?]
そうだった...こんな風にいつの間にか俺はペースに乗せられて三年間一緒に過ごしたんだ。灰色を好んだ俺が薔薇色に憧れを抱いた....。
やらなくていいことならやらない。やらなくてはいけないことは手短に。頭の中であいつらが言うならこれはやらなくてはいけない事だ。
次回でプロローグが終わりになり本編に入ります。