ブラック鎮守府と折木 作:素人
部屋には沈黙が訪れている。大和さんは何も言わずにただ無言のまま視線をそらさずに俺を見ている。だが俺は違和感を覚えた。先程自分は兵器だと言っていた、ならば何故俺の言葉を待っている?兵器だと決めつけているのなら俺の言葉なんて待たずに話を切り上げれば良い筈だ。
だが大和さんは明らかに俺の言葉を待っている。大和さんは何も言わないが大和さんが俺を見る瞳には見覚えがある。俺が謎解きをするときのえるの瞳そっくりだ。何かに期待し待っている時の瞳。
では何を期待しているのかだ。そこで俺が違和感を覚えたのはやはり何故そこまで自分達の存在を“兵器“だと言うのか。少し固執しすぎてないか?初めて大和さんと会ったときは艦娘と名乗っていた。艦娘の戦艦大和だと。だが今は違う。頑なに自分の事を“兵器“だと言っている。何かおかしくないか?それに何かを期待しているあの瞳。えると同じ......。
大和さんは期待している。それは間違いないと思う。艦娘は“兵器“ではないと?いや...だがそれも違う気がする。“兵器であることは認めている感じがある。言葉に一切の迷いがない。
「....そうか」
「どうかしましたか?」
「大和さんは俺を試しているんですね?」
「っ!何を言っているのか分かりません」
大和さんの表情が一瞬変わったが直ぐに戻ってしまった。どうやら大和さんの方から答えを言ってもらうのは無理のようだ。
「まずですが。大和さんは自分と初めて会ったときに艦娘と言っていました」
「はい。私は人間ではありませんから」
「では何故最初は“兵器“だと言わなかったのか。何故艦娘だと言ったのか」
「それは会ったばかりの人に私は“兵器“ですなんて言いませんから」
「確かにそうです。ですが決定的におかしなところがありますよね?」
「?」
「何故自分が“兵器“じゃないと言った後にあれほど自分は“兵器“だと言い張っているんですか?」
「それは....誤った知識は持ってほしくなかったからです」
少しずつ大和さんの顔に焦りが見え始める。
「嘘ですね」
「嘘じゃありません!」
「では何故先程自分が言い返せなかった時に言葉を待っていたんですか?あんなにも期待しているような瞳で。おかしくありませんか?“兵器“だと決めつけているのなら俺の言葉なんて切り捨ててしまえばいい。しかも俺は躊躇ってしまった。その瞬間を待つなんておかしくないですか?」
「そ、それは....別に期待しているような目なんて...」
「では少し話の視点を変えましょうか。まぁこの話が自分が考えた答えになるんですが。あんなにも“兵器“だと言っていた。恐らく自分が所属する予定の鎮守府の艦娘は全員自分の事を“兵器“だと言うんじゃないですか?」
「....」
そこで無言ですか...。答えは出てしまったようなものだが。
「それでその鎮守府を任された自分が前提督と違うかどうか見極めたかった。そんなところではないですか?」
大和さんは優しい。こんな事をしたことがバレればただですむ筈がない。だが危険を顧みずに俺を試した。鎮守府にいる艦娘の為に。
なんだ人間より...人間らしいじゃないか。
「本当に申し訳ありませんでした」
大和さんは畳の上で頭をつけて土下座をしながら謝ってくる。
「数々の非礼。謝って済むものではないと理解しています。大本営に...私の提督に伝えていただければ私は罰を受けます。その罰はお受けします。なので鎮守府の子達をどうかよろしくお願いいたします」
「罰ってどうなるんですか?」
「...提督に対しての非礼。命令違反。これだけ揃っていれば解体も」
「ちょっと待ってください。俺は別に大和さんに罰を受けて欲しいだなんて思っていません」
俺の言葉にキョトンとした顔になる大和さんに俺は続ける。
「俺はただ大和さんの真意が気になったから確かめたかっただけです。大和さんが鎮守府にいる艦娘に対して抱いている感情は分かりましたし。そして俺がしなければいけないことも見えてきました」
「折木さん....」
「ですから報告はしません。そして俺の答えは艦娘は人間以上に人間身がある存在だと言うことです。けして“兵器“ではありません」
「...本当にありがとうございます」
泣きながらお礼を言ってくる大和さんに頭を上げるように言った俺は妖精さんと一緒に浴場に来ていた。大和さんは俺にお礼を言ったあと何処かに言ってしまったのでクーラーの聴いた部屋で寝ていようと思ったが妖精さんに起こされてお風呂に入りたいとの事なので部屋にあった備え付けのタンスの中から着物を出してタオルを持って浴場まで来たのだ。
服を脱ぎお風呂を入口を開けると大浴場のように広々としていた。一人で入るには勿体無いなと思いながらお風呂に近付くと湯気で見えなかったが先客が来ているのかシルエットが見えてきた。
近付いて行くとシルエットは鮮明に見えて相手と目が合う。
「お、おおお....折木さん?」
「や、大和さん!?す、すいません!!直ぐにでますから!!」
俺は慌てて前を隠してお風呂場の入口まで戻る。
「待ってください!」
大和さんの声で立ち止まる。やはり怒ってしまったのだろうか。わざとじゃないにしても裸を見てしまったのだ。
「あの...私は気にしませんのでどうぞ入ってください。その話したいこともありますし」
怒られると思っていたのに思ってもいない言葉が返ってきた。
「い、いやいくらなんでも不味いんじゃ」
「大丈夫ですから....お願いします」
.....。俺は腰にタオルを巻き極力大和さんの方を見ないように隅の方からゆっくりとお風呂につかった。入ったばかりなのに長く入っていたように顔が熱い。心臓も煩く落ち着かない。
「折木さん....いえ。折木提督と言った方がいいですね。折木提督さん。私は貴方なら皆を救えると信じています」
「あまり期待はしないでください。やれる限りはやるつもりですが...俺はそんな大した人間では無いですから」
「そんなことありませんよ。艦娘にとって提督とは本来特別な存在。今のあの子達を救えるのは提督である貴方だけ。提督に憎しみを抱いている子もいます。でも....諦めないでください。きっとあの子達は前みたいに笑える日が来ると信じていたいから」
そこからの記憶は俺には無かった。気が付くと宿舎のベットの上で頭には氷が乗せられていた。氷を退かして起き上がる。時刻は夜中の1時を指していた。障子を開けると海が見える。水平線が何処までも続いていることを教えてくれる。だが現在では海に安全な場所はない。この美しい景色は艦娘のおかげで成り立っている。
大和さんの覚悟の大きさに比べれば俺の覚悟なんてちっぽけなものかもしれないが俺が目指すべき場所が大和さん目指す場所と同じでありたいと思い拳を強く握りしめた。
これにてプロローグが終わります