ブラック鎮守府と折木 作:素人
相手に何かを言いずらい時人に聞いたとか風の噂で聞いたとかたまたま聞いたとか他人を話すときの緩和材にすることで話をするのはよくあることだ。人間は誰しもが自分自身を一番に良く見せたがる生き物だ。だがその他人が誰も当てはまらないという状況だったらどうやって話を切り出せば良いだろうか?俺はその答えを知らないし分からない。だから先程からこの状況をなんとかしたいと考えてはいるが行動に移すことが出来ないでいる。
今から10分程前の出来事だ。
俺はお風呂を皆に入って貰うため提督室に向かい内線を使ってお風呂を修理したことを艦娘達に伝えた。その放送を流し後提督室の机の引き出しを開けると一冊のファイルが出てきた。中を開くと鎮守府内にいる艦娘のデータが写真付きでファイルされていた。何枚か捲っていくと見覚えのある写真があった。どうやら紹介の時に俺に司令官と言った小さい女の子は吹雪というらしい。この鎮守府にいる艦娘の名前を覚えていない俺にとっては助かるファイルだった。
更に何枚か捲っていくと金剛さんのデータもあった。金剛型一番艦金剛。次のページを捲ると金剛型三番艦榛名と書かれていた。二番艦は無いのか?と疑問に思って良く見ると金剛さんと榛名さんのデータの間のファイルは破られた跡が残っていた。元々はあったのか?と疑問に思っていると提督室をノックする音が聞こえ入るように声を出すと、提督室に入ってきたのは榛名さんだった。お風呂に入ったのだろう頬は僅かに高揚しておりほんのりと紅い。切り傷なども綺麗に無くなっていることから入渠すると本当に治ることが分かった。
「失礼します。提督にお話があってきました」
姿勢を正しく御辞儀する動作はお風呂から出てきたばかりだからか初めて榛名さんを見たときよりも魅力的に見える。
「どうしたんですか?」
「一体何の目的で私達に優しくするんですか?」
冷たい声と冷めた瞳で聞かれた俺はしばらく榛名さんの言っている意味が理解できなかった。
「は?」
「とぼけないでください!お風呂は艦娘にとって大切な物です。それを知っていたからお風呂を直したんじゃないんですか?皆の心を揺さぶるようなことをして.....一体何が目的なんですか!」
榛名さんの声には怒気は含まれていなかった。きっと本人は気付いていないと思う。それは必死に聞いてくる姿で伝わったから。
「俺は当たり前のことをしただけだと思ってます。お風呂は体を癒し疲れを和らげます。それに艦娘である榛名さん達にとっては傷を治すこともできる。そんな場所が壊れててまともに戦えるはずがないじゃないですか」
俺は思った言葉を言った。当たり前だと思っていたから。
「そんな言葉は私が以前に提督に言った言葉ですっ!」
当たり前だと思っていた言葉。それは榛名さんも思っていたのだ。でもその当たり前だと思っていた事すら否定され続けてきたのか...。
「どうして!どう...してなんですか!どうして....どうして貴方が私達の最初の提督じゃなかったんですか....もし....もしそうだったら」
俺の袖を掴み涙を流し嗚咽が混じった声で訴えてくる榛名さんにただただ聞いているだけしか出来なかった。
「比叡お姉様は死なずにすんだかもしれないのに....」
比叡お姉様...たぶん先程ファイルで破られていたページに乗っていた艦娘なのだろう。俺の思考が止まりかけていた時ドンッ!という大きな音がした。音の方を向くと金剛が扉をぶち破ったのか本来扉がある場所には何もなく金剛が腕を組んで艤装を展開させて立っていた。
「お姉....様」
「榛名すいませんデシタ。あなたには辛すぎましたネ。.....提督。榛名が先程言った言葉は忘れてくだサーイ。きっと私の無茶なお願いで困惑してしまったんだと思いマース。さあ榛名いきますヨ?」
榛名さんは黙ったまま俺の袖を離し金剛さんの方に歩いていく。空気が重い、有無を言わせない圧力とはこの事か。これ以上何も喋るなと金剛さんから言われている気がした。だがここで黙ってるわけにはいかなかった。
「比叡さんというn「HEY提督~。分かってほしいですネ。何も喋らないでくだサーイ」....」
主砲を此方に向ける金剛さん。瞳には恨みや憎しみが混ざった色をしている。次俺が何かを言えば撃たれるかもしれない。でもそれでも俺はここで諦めるわけにはいかない。
「待って下さい」
「しつこいですネ....本当に.....殺しますヨ?」
圧力が先程の非じゃないほど体全体にかかる。立っていられずに右膝をついて倒れることは防ぐが金剛さんからの圧力は消えないどころか増していく。
「榛名さん!!あなたは本当に良いんですか!?俺はさっきのあなたの言葉を忘れてはいません!教えてください!何があったのかを!過ちを二度と繰り返さない為にも!!はぁはぁ....」
もう意識も途切れ途切れだった。呼吸は乱れ視界がボヤけていく。俺の体を支えていた膝は崩れ倒れる。金剛さん達を見るために顔だけをなんとか上げると主砲を此方に合わせて右手を俺につき出していた。俺はここで死ぬのか...姉貴、大和さん。すまない。俺じゃ駄目だったみたいだ。
途切れる意識の中で何か暖かいものに包まれている気がした。走馬灯は死ぬ前に見るという走馬灯って暖かいものなのだろうか。それとももう既に俺は死んでいるのだろうか。分からないまま俺の意識は途切れた。