その日は天が今にも泣き出す事を指し示すかの様な曇り模様だった。もうすぐ始まるジャンヌ・ダルク火刑を見るためにルーアンの街には人があふれていた。
その当事者であるジャンヌは腕を拘束されて、ジルと共にその時を待っていた。
「ジャンヌよ、私を恨んでください。これは私が無能であったために起こった事です。貴女はため祀られるべき存在になるはずだった」
ジルは目に涙を浮かべ、震えている手で自分の顔を隠す。
「いえ、貴方のせいではありませんよジル。全ては私が兵を率い、やらせてきた事です。これが私の運命だったのです」
ジャンヌは幼子をあやかすかのようにジルに話す。
「一つ心残りがあるなら私の事を保護してくれていた青年の事です。彼はどうなったのでしょうか」
「彼ならば捕まって少しした後にドアを破壊して脱獄しました。その後彼を捜索したのですが、未だ見つかっていません」
「そうですか、良かった。彼は私がジャンヌ・ダルクだと知らずに世話をしてくれた善良な一般人です。どうか彼の事を罪に問わないでもらいたい」
ジャンヌはカインのことを怪盗キッドだとは伝えず、あくまで偶然道に倒れていたジャンヌを保護してくれた一般人だと説明した。カインが無事なら。ジルは深く深く礼をした。それが了承の意味だったのか、謝罪の意味を込めたものなのかジャンヌには分からなかった。でも、ジルなら大丈夫と自分自身に言い聞かせ歩き始めた。
ジャンヌはカインに生きて欲しかった。
ーー好きになってしまった。愛してしまったから。
ジャンヌにはそんな資格なんて無いのかもしれない。でも、心の奥深くから生じるこの衝動を抑えることなんてできなかった。
思い出すのは彼と過ごした日々。彼の隣はいつも温かかった。
ーーぽかぽかしていてつい眠ってしまうところでした。
彼はわりと心配性だった。
ーー包丁くらい私でも一人で扱えますよ。
彼の横顔をみてると鼓動がはやくなる。
ーーそんなこと本人は知りもしないで……こっちの身にもなってほしいものです。
みんなに求められているジャンヌではなくてありのままでいられた。もしかしたらありえたかもしれない日々を過ごすことが出来た。
出来ることなら彼ともう一度だけ会いたかった。
ーーでも、来て欲しくない。離れるのが寂しくなるから。
そんな矛盾を抱えたまま処刑台へと歩き始めた。
彼はこれからどうなるのだろうか。素敵な女性と結婚して、子供が出来て、死ぬのだろうか。なんだか本当にそんな風になりそうなのが目に浮かび、カインらしいなと思い自然と笑みがこぼれた。
ーーあぁ、でも結婚できるのが私ならな。
そう考えずにはいられないと同時にあり得ないなとも思ってしまう。
「この魔女め‼︎」
「裁きを受けろ‼︎」
ジャンヌに罵声を浴びせる人々。
でもなかには、十字架を持っていないジャンヌにそれをあげることのできる心優しい少女もいた。
ジャンヌの事を少しでも分かってくれる人がいる。それだけで彼女は救われた。自分がやって来たことの全ては無駄じゃないと分かったから。もう悔いはない。
丸太に体を縛り付けられる。
そして、ジャンヌの足下にある木々に火がつけられた。
火はだんだんと燃え移り始める。
神が怒っているかの様に火は燃え上がる。
近くの兵士はあまりの熱さの為に即座に離れる。民衆もまたしかり。
燃え上がった火はジャンヌを包み込んでいく。
主よ、この身を委ねますーーーー
そして
「カインを永遠に愛しています」
「僕もジャンヌを永遠に愛するよ」
ーーえ?
ジャンヌは閉じていた目をゆっくりと開けていく。
見慣れた姿。でも、服が破けていたり血が滲んでいたりする。それでもやっぱりジャンヌの知っているカインだった。
ーーどうして。
「神様にあげるくらいなら体も心も時間も僕に盗ませてくれないか」
「僕は盗っ人だから嫌だって言っても盗んでいくよ」
カインはいつかの時と同じ様な顔で攫いに来てくれた。
来て欲しくなかったのに覚悟を決めたのに。ここで終わりだって自分に言い聞かせたのに。
涙が止まらなかった。
「さて、そろそろ分厚い火でジャンヌが見えない事に疑問を思う人も出てくるだろうから早く逃げよっか」
「でも、どうやって」
「一先ず、ジャンヌと人形を入れ替えよう」
カインは
余談であるがジャンヌそっくり人形はここに来るまでにカインが作った物で、見た目はもちろん中身もほぼ生身と同じである。
カインはジャンヌを抱き上げ空へと跳ぶ。
それと同時にジャンヌが縛られていた所の地面に設置していた魔術を発動させる。
木片が崩れる音。
それだけの魔術だった。火を燃やす用に木片が積み重なって、ジャンヌの足元には沢山あった。それを崩したかの様な音を出した。
ミスディレクションと呼ばれる視線誘導の技術だった。
一瞬だけ下を向かせることしか出来ない。でもその一瞬がカインには欲しかった。認識阻害を使い、跳んでいる影ができない様に魔術を使う。そして観衆が視線を元に戻した時には既にカインとジャンヌは屋根の上に着地していた。
ジャンヌを抱えたカインは火刑を見る事なく街の外へと走っていった。
何事もなかったかの様に火刑は進められた。
黒焦げになったジャンヌ人形を処刑執行者達は人々の前に晒す。さらにジャンヌ人形の遺体を誰の手にも入らない様に再び火をつけ、灰になるまで燃やされた。
灰になった遺体は処刑執行者達の手によってマチルダと呼ばれる橋の上からセーヌ川へと流された。
「さて、アラヤの抑止力が何もしてこないということはおそらく世間的にはジャンヌは死亡したと思う。本当の自由を手に入れたけどジャンヌは何がしたい?」
カインとジャンヌは手を繋ぎながら一緒に歩いていた。
「そうですね。じゃあーーがしたいです‼︎」
「えー‼︎ うーん。分かった」
おそるおそるカインはジャンヌの顔に手を当てる。
そして、ジャンヌとカインの距離はゼロになった。
「ご馳走様でした」
照れまくっているカインに向けてジャンヌはいたずらっ子の様な顔をしてそう言った。
「そういえばカインは勘違いをしているので訂正しておきます」
「私の心は最初から貴方に盗まれていました」
ジャンヌは満面の笑みを浮かべた。
いやー、長かったような短かったような。文字数的にみたらめちゃめちゃ少ないんですがね。
とりあえずジャンヌ救えたぜ‼︎
あと、感想でバッドエンドも書く的な事をいいましたが過去編として書くのはやめます。後でちゃんと書くから安心してね。
まだまだカイン君の能力とか不明な点はありますが、まだこの話は続くのでそこで明らかにさせていきたいと思っています。
更新速度は一旦落ちると思いますが完結はさせますので待っていてください。
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