霊夢は空が飛べなくなった
「まさか本当に飛べないとは。正直ここ最近で一番の驚きだぜ」
「はぁ…はぁ…、アンタさては殺す気ね?」
明朝の博麗神社。なにやら随分と騒がしい。
「空を飛べない巫女なんて不思議でもなんでもないな。ただの巫女だ」
「空飛ぶ事だけが取り柄みたいに言うわね。間違っちゃいないけど」
いつものように神社に来た魔理沙は、霊夢が本当に飛べなくなったのかを確かめていた。
具体的には箒に霊夢を乗せて、高いところから落としてみたり。
「ぎゃああああ!!?」と悲鳴を上げて落ちた霊夢だったが、持ち前の身体能力と結界術でなんとか一命を取り留めた。
「でもどうしてそんな事になってるんだよ」
「私だって分からないわよ。多分あの女の子が何かやったんだと思うけど……」
昨晩助けた女の子は、未だに目覚めてはいない。最初、人に化けた妖怪かと疑いを掛けていたのだが、彼女の所持品の中には外の世界の人間である事を示す品々があった。
「あの
「スマホ?……あぁ、香霖が文鎮って言ってたアレか」
「そう、アレを持ってる。しかも香霖堂にあるのと違って動くのよ、ホラ」
霊夢が
ボタンらしきものを押すと黒かった板が光り出す。
「おぉ、確かに菫子の持ってるのと同じだな。でもこれ以上動かないじゃないか。菫子のやつは天狗の写真機みたいに写真が撮れたぜ?」
「あれこれしてたら封印しちゃったみたいなのよ」
魔理沙にズイっと見せると、光る板には『ロックされています』と書かれていた。
「他に何か無いのか?」
「
「河童が持ってそうな…って、多分工具類か。箱は開けないのかよ。お前ならすぐ開けられるだろ?」
「さすがに勝手に開けちゃマズいでしょ?鍵まで掛かってるし」
魔理沙は「鍵が掛かってるからこそ開けなきゃだろ」と言うが、霊夢は適当な理由を付けて言いくるめた。
「とにかく、
霊夢はそれきり黙り込んでしまった。
魔理沙はしばらく言葉を待ったが、霊夢が一人で考え込んでしまっているのを見て騒ぎ出す。
「でも、何だよ!私そっちのけで考え込むなよ」
「……取りあえず中に入りましょ。朝から疲れたわ」
「無視かい、まぁいいぜ」
2人は神社の中へと戻った。
「お茶淹れるから待ってて」と言って、霊夢は湯呑と急須を取りにお勝手に引っ込み、魔理沙は言われなくてもくつろいでいる。
「おい霊夢ー」
「ちゃんと煎餅も用意するわよー」
「それはいいんだが、女の子は隣で寝てるんだよなー?」
「それがどうかしたー?」
「もぬけのカラだぜ」
ドタドタドタッと慌てて霊夢が駆けてくる。
「魔理沙!」
「分かってるぜ、まだ遠くには行ってないはずだ」
魔理沙が外に飛び出し、箒で空から辺りを見回す。
「おっ、いたいた。霊夢ー、参道の方だ」
魔理沙はスイーっと先回りし、女の子の行く手をふさいだ。
「そんなに急いだって誰も追ってきやしないぜ」
「ひぅっ!?」
女の子は驚いた様子で足を止める。
一言、「ま……魔女だ…本物……」と呟いてオロオロし始める。
「あぁ、本物かもな。今なら期間限定で、本物の魔法使いによる誘拐キャンペーンをやってるんだがどうだ?特別にタダにしといてやるよ」
女の子は顔面蒼白になると参道の脇、つまり林の方に逃げようとした。
「あー、やめときな。そっちの方には人喰い妖怪がわんさかいて危険だし、そっちに逃げられると探すのが面倒くさい」
魔理沙の言葉に反応して女の子の身体が硬直する。
しかし諦めずに逃げ道を探す女の子。一旦来た道を引き返そうとしたが、ちょうど霊夢が追いついた。
「全く、どんだけ私から逃げるのよ。アンタには訊きたい事が山ほどあるんだから!」
前後を挟まれた女の子は、逃げ道を失った事を悟ると、一か八かの勢いで再び林の方へ飛び込もうとした。
「待ちなさい!これがどうなってもいいの!?」
霊夢が取り出したものは女の子が持っていたスマホだった。
女の子は慌てて持ち物を確認するが、それは間違い無く彼女のものだった。
「外の世界ではコレがないとかなり困るんでしょう?私から逃げればコレは戻らないわよ」
「すげぇぜ。まるで物語の悪党のようだ、霊夢が」
魔理沙の言葉を無視して霊夢が女の子に迫る。
女の子は霊夢をキッと睨むと、
「ぅわあぁ~~~~ん」
一転して大声で泣き始めた。
驚いたのは霊夢と魔理沙の方だ。
「おおお、おい、泣いちゃったじゃないか。何やってるんだよ」
「な、ななな泣くなんて思って無かった……いや思わないでしょ!ああアナタ大丈夫?誘拐とかそう言う訳じゃないから……」
女の子はびえーんと声を上げるばかりで泣き止む様子は無い。
いよいよを持って困り果てた2人だったが、その2人に声を掛ける者がいた。
「ちょっと、一体何の騒ぎなの?」
声を掛けたのは神社に訪れる面子の中で唯一まともな会話の出来る山の仙人、茨木華扇だった。
*少女祈祷中…*
「菫子と同じ外の人間だって?それ本当?」
「あぁ、間違いないぜ。しかも菫子同様、変な術を使ったらしいって霊夢が言ってた」
泣きじゃくる女の子を何とか説得して神社に戻って来た霊夢たちと華扇。
霊夢が改めてお茶を淹れるとお勝手に引っ込んでしまったので、華扇は魔理沙から今までの経緯を訊いていた。
女の子は華扇と魔理沙の前に机を挟んで座り、身を小さくしてチラチラと2人を見ていた。
「神社に来たらお茶の用意があったのに霊夢の姿が見当たらなかったからね。待っていたら女の子の泣き声が聞こえたので慌てて駆けつけたのよ。
そしたらあなた達が女の子を泣かせていたから……」
「人聞きの悪い事を言うもんじゃないぜ茨華仙よ。
泣かせたのは霊夢だ。私は何もやっちゃいない」
魔理沙がそう言ったとき、ちょうど霊夢がお茶と煎餅を持って戻ってきた。
「何言ってんのよ。あの場に居た時点でアンタも共犯よ」
「あれ、霊夢じゃないか。どうしたこんなところで?」
「どうしたもこうしたもここは私の神社よ!」
ドン!と、お茶の載ったお盆を机の上に置く。
「霊夢、事情は聞いたわ。でも本当に結界を越えて外から来たのかしら?菫子のように夢幻病という可能性は……」
「無いわね。アレなら向こうで目が覚めたら勝手に戻るはずでしょ?
この子は昨日の夜からずっと居るの。普通に就寝しているだけかもしれないけど、もう陽が昇ってるもん」
「まだ起きていないとしたら、とんだ寝ぼすけだな」
それもそうか、と華扇は相槌をうつ。
深秘異変――都市伝説の出来事に関わっていないのは明らかであるからだ。
そこで女の子が怯えた瞳でこちらをじっと見ているのに華扇は気付いた。
「あぁ、ごめんなさいね。勝手に話し込んでしまって。私は茨華仙。貴女の名前は?」
女の子は、ややあってから小さく言う。
「……
「いや……落ち着いて聞いて。ここは幻想郷と言って貴女の住む所とは少し異なる世界なの」
華扇の言葉に弥継と名乗った女の子は首を傾げた。
「……異世界ってことですか?そんなの信じられる訳が…」
「でもお前は私が飛んでるのを見たろう?外の世界じゃ、簡単には飛べないんじゃないのか?」
魔理沙の言葉に女の子は口をつぐんだ。図星だったのだ。
「まぁ異世界ではないんだがな。私は博麗霊夢、巫女だぜ」
「でたらめ言うな。私が博麗霊夢よ。コイツは霧雨魔理沙」
「私としたことが。看護婦と言うべき事を忘れてたぜ」
霊夢と魔理沙が自己紹介というには、あまりにもへんてこりんな事を言う。
「この2人はほっといて……貴女はどうして幻想郷に迷い込んだのかしら?」
「どうしてって言われても……」
「幻想郷は基本的に貴女たちの世界とは行き
華扇の問いに暫し悩んだあと、弥継という女の子は、ぽつぽつと語り出した。
◇◆◇◆◇◆
・博麗霊夢
巫女さん。やっぱり飛べなくなったご様子。
・霧雨魔理沙
魔法使い。今回、本物の魔女と言われてちょっぴりご機嫌。
・茨木華扇(茨華仙)
山の仙人。神社メンバー内の数少ない常識人。
・女の子
幻想郷に迷い込んだ、外の人間。矢村弥継という名前らしい。
魔理沙「私とした事が〜〜」
紅魔郷Exステージ、魔理沙とフランドールの会話から
次は話が書け次第です