前回のあらすじ
今日からお前が、巫女サンダー!
「まるで別人ね」挿絵有
朝日が差し込む幻想郷。
例に漏れず、博麗神社にも朝日は差し込み、寝ていた私の顔を照らした。
「うー…ん」
まだ寝ていたかった私は、ゴロリと寝返りをうって日光から逃げるように転がった。
そんな中、少しだけ覚醒した頭に1つの疑問が浮かんだ。
そういえば昨日、神社の雨戸はちゃんと閉めたハズなのにどうして朝日が差し込んでいるのだろうかと。
そんな疑問も、たった数秒で氷解した。
「霊夢さーん!朝ですよ~起きてくださ~い!」
耳元で元気な女の子の声が響く。
「………うるさい」
「ほら~、そんな事言わないで下さい~。あんまり長く寝過ぎると、かえって身体に悪いですよ~」
そう言って無理やりに布団を引っ剥がしにかかるのが外の世界から来たらしい女の子、矢村弥継。
(どうしてこんな事になったんだっけ……?)
弥継と壮絶な布団の取り合い合戦を繰り広げる中、私は昨日の出来事を思い返した。
*少女回想中…*
「今日からアンタは『博麗の巫女代理』よ!」
霊夢は弥継を指差して、高らかに宣言した。
霊夢は得意気な様子だが、他3人は「何を言っているんだ」という表情で霊夢を見ていた。
「おい霊夢、まだ頭がやられるような季節じゃないぜ?」
「やられてなんかいないわよ!」
「確かに……言っている意味が解りません。どういう事か説明してくれないと……」
さすがの華扇にも理解しがたかったらしく、小さく手を挙げてその意を示している。
霊夢はコホンとわざとらしい咳払いをすると、指を立てながら意気揚々に説明した。
「だからー、コイツのせいで私は巫女の仕事に支障を
「霊夢がいつ巫女の仕事をしたんだよ。お茶飲んで掃除しているフリしてるだけだろ?」
魔理沙がケタケタ笑いながら言うと、霊夢がとうとう怒り出して追いかけっこが始まった。
華扇は頭痛が起こりそうな頭を押さえながら、座っていた弥継に話し掛ける。
「貴女はそれでいいのかしら?知らない土地で、訳の分からないコトに巻き込まれてるのよ?」
「えっと……訳の分からないコトに巻き込まれるのは心配ですけど、もといた世界じゃ絶対に体験する事の無い出来事なら、それは楽しいと思います…!
それに妖怪とか、本当にいるなんて……それだけでもワクワクします!」
自らの予想に反して、意外にも狼狽えていない弥継の様子に、華扇は次こそ頭痛が起こるのを感じていた。
「やっぱり菫子のように外の世界で変に力を持っている人間は、普通じゃないのかもねぇ……」
****
(そうだったわ……それであの後、魔理沙と華仙は素性を調べるからって帰って、私はコイツに神社の中の案内をしたんだったわ……)
布団を取られた私は、仕方なく寝間着からいつもの巫女服に着替える。
私を叩き起こすことに成功した弥継はと言うと、手早く私の布団を片付けてしまうと足早にどこかへ行ってしまった。
華仙の言ってた通り、幻想郷への順応力が高い……いや、高すぎる。
現に、神社の雨戸は全てしまわれており、縁側は雑巾がけされてピカピカ光っている。
確かに昨日、掃除は巫女の仕事の中でもかなり重要だと教えたけれど、ここまでしっかりやるとは思ってなかった。
(いいとこのお嬢様だったらしいから、こういう事はてんで駄目かと思ったけど。案外使えるわね……)
上手くいけば、仕事を任せて楽な毎日を過ごせるかもしれない、と考えながら顔を洗ったりして身支度を整えていると、どこからか美味しそうな匂いが漂ってきた。
まさかと思い、部屋の戸を開けると、ちゃぶ台の上には朝ご飯らしきものが用意してあった。
「あっ、その、身勝手でお節介かもしれないんですけど、朝ご飯の方を作ってですね。
勝手に道具や食材使ったりして申し訳無いと思ったんですけど、これから御厄介になるので何か出来ないかな~、と思いまして……」
顔を出した弥継がおずおずと言う。
「いやまぁ、それはいいんだけど……」
ズラリと並んだ朝ご飯のレパートリーの多さに私は驚愕していた。
いつもはご飯と焼き魚くらいしかないのに、今朝はそれに加えて汁物やおひたしや、外の世界の料理らしきものもある。
「あまり食材をたくさん使ってはいけないと思って、少ない量で色々頑張ったんですけど、私料理苦手で……」
「これで?苦手?」
私は少し敗北感を覚えたが、そこは我慢。逆に考えれば、宴会の時の台所担当にもってこいだ。
「まぁ、ありがとう。何か色々やってくれたみたいで」
「これから厄介になるので、これくらいは……さぁ、ご飯食べましょうよ霊夢さん!」
弥継に促されて食卓につき、「いただきます」をしてご飯をパクリと一口食べた。
(ぐ……美味いわね……)
控えめに言って最高だった。ご飯1つにおいても違いがハッキリしている。
どんな炊き方をしたらこんなにふっくらするんだろう、あのメイドと良い勝負するわ、と考えながら各料理をパクパクと食べ進む。
「あの~、お味の程は……」
弥継が私にそう訊ねる。色々と負けた気がして、正面からは言えなかったので「悪くはないわね」と誤魔化すようにコメントする。
私が言うと弥継の顔に花が咲いたかと思うほどの笑顔が浮かんだ。
「良かったぁ~!お口に合わなかったらどうしようかと」
その笑顔の眩しさに、私は大玉弾が直撃したかのように思えた。純粋に心から喜んでいる事が見て取れる。
こんな素直で気配りの出来る娘と一緒に暮らすことが出来る。毎朝、この笑顔を見られると思うと幸せな気持ちが押し寄せてきて―――
「ーーハッ!?マズいマズい。思わず求婚するところだったわ」
「どうかしましたか?」
「いや、何でアンタに縁談が持ち掛けられるかが分かっただけよ」
すんでのところで理性を取り戻した私は、何事も無かったかのように朝ご飯を完食した。
これ以上弥継に任せっきりにすると本当に駄目な巫女になりそうな気がしたので、洗い物だけは私がやることにした。
「……何よ?」
私が洗い物をしている中、弥継は隣に立って私を見ているようだった。
「いや、霊夢さんを見て学ぼうと……」
私はハァ~とため息をつくと「
「あぁ~良かった。これが無かったら生きていけなくなる所だったわ」
「大げさね、大体そんな変な道具とへんな箱でどう生きてくのよ。食べ物だってちょっとしか無かったし」
「ノコギリとかドライバーは家から出るときに使ったんです。その箱はおばあちゃんがくれた物で『必ず開ける時が来るからそれまでは開けないように』って」
「……玉手箱かしら。どっちにせよ、変なのには変わりないわね」
私がそう言って片付けをしていると、ガラガラッと、勝手口の開く音がした。
「よう霊夢、いつも通りの朝だな」
「そうね、いつも騒々しいわ。今日からは特にね」
いつものように魔理沙がやってきた。手には風呂敷包みを持っている。
魔理沙は弥継を見つけると声を掛けた。
「おっ、家出した魔法使いのお嬢様じゃないか。言った通り霊夢は仕事しないだろ?」
魔理沙の言葉にどう返して良いか困っている様子の弥継に変わって、私が突っ込む。
「それって
ここで弥継が口を開く。
「いや……私、魔法使いじゃないんですけど……」
「真面目に応えなくても良いわよ」
「酷いこと言うなよ霊夢、私なりの気遣いだ。あと幻想郷じゃ人間が使う不思議な術は全部魔法って言うんだぜ」
「そんな事より魔理沙、その包みは何よ?」
私の言葉に「あぁ、これか?」と応えて魔理沙が包みを開けると、そこには服らしきものが入っていた。
「香霖に頼んで仕立ててもらったんだ。
「え……これ私に?」
「それ以外に何があるんだよ」
魔理沙は笑いながら包みを弥継に押し付ける。
「魔理沙にしては気が利くわね」
「私はいつも気が利くぜ。ほら着替えろ着替えろ」
魔理沙が強引に弥継を連れて奥の部屋に引っ込んでいく。
弥継が「えっ、ちょっと?」とか言いながら、顔真っ赤にして連れて行かれた。
変な悲鳴とか聞こえなかったふりをして暫く待っていると、着替え終わった弥継が出てきた。
「や~!可愛い服ですねこれ!コスプレみたい~!」
「……まるで別人ね」
一応、霖之助さんが仕立てたみたいだから私の巫女服に近いイメージで作ってあるらしかった。
「これで博麗の巫女って言っても大丈夫だろ。脇は出てないがな」
「脇は関係ない。あと博麗の巫女『代理』だから!……弥継は参道の掃き掃除でもしてて!」
魔理沙の言葉を訂正し、私の腕部分を凝視していた弥継を追い払うと、湯呑みの中のお茶を飲み干して喉を潤す。
「それで?神社に来たからには情報は調べてきたんでしょうね?」
私が、勝手にお茶を淹れて飲み始めた魔理沙にそう言うと「あぁ、その事だが……」と手帳を取り出して、逆にこう訊ねてきた。
「霊夢は『八面大王伝説』もしくは『山鳥の尾』という話を知ってるか?」
◇◆◇◆
・博麗霊夢
能天気な巫女さん。なんだかんだいつも平和。
・霧雨魔理沙
垢抜けた魔法使い。なんだかんだ言って優しい。
・矢村弥継
適応力全開の外来人。なんだかんだ楽しんでる。
・霊夢「いつもはご飯と焼き魚くらい~~」
鈴奈庵第2話参照。
・魔理沙「香りんが仕立てた~~」
魔理沙や霊夢の服は香霖堂が修繕したりするらしい。
次回は本文が書け次第かな?