家出少女の幻想奇談   作:Ar kaeru Na

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不定期投稿勢(許されない

前回までのあらすじ
えるしってるか?


「多分今がその時よ」

 

 

 

 

 

「霊夢は『八面大王伝説』もしくは『山鳥の尾』という話を知ってるか?」

 

「何それ」

 

「……まぁ知らないとは思ったがな。霊夢はその辺りに無関心だし」

 

「いいから早く教えなさいよ」

 

私がそう急かすと、魔理沙は二つ返事で語り始めた。

 

「外の世界の信州安曇野(あづみの)ってところに伝わる民話なんだがな……

 

『昔々に八面大王という鬼が、その地域の人々から食べ物を奪ったりして、人々を苦しめていた。

 

そんな地域のとある村に弥助(やすけ)という男が年老いた母と2人で細々と暮らしていた。

ある日弥助は、母に頼まれ里におつかいに出たのだが、道すがら猟師の罠に掛かっていた山鳥を見つけた。

心優しい弥助は山鳥を罠から助け、怪我を治療して逃がした。そして、猟師へのお詫びとして、おつかい用のお金を罠の前に置いて何も出来ないまま家へと帰った。そんな弥助を母は、親切な事をしたと褒めたんだと。

 

それから暫くした大晦日の日の夜、弥助の家にまだ20歳にも満たないような若い美しい娘が大雪で道に迷ったと訪れた。

弥助と母は快く娘を招き入れ、雪が無くなるまで家に泊まるといいと言って一緒に正月を過ごした。

 

さて、その娘は美しいだけでなく弥助と同じく心優しく、よく働く娘だった。弥助と娘はお互いをすぐに好きになり結ばれた。

 

そんな折り、時の将軍が八面大王を倒そうとやってきたが、八面大王を倒すには(ふし)が33個ある山鳥の尾羽で作った矢が必要だった。

将軍は村の人々にもその山鳥の尾羽を見つけて差し出すように言ったが、なかなか見つからなかった。

弥助もその山鳥を探そうとしていると、娘が33節の山鳥の尾羽を持ってきて弥助にこう言った。

 

ーー私はいつしか助けて頂いた山鳥です。これで恩返しが出来ますーーってな。

 

娘は尾羽を残して家を出て行った。弥助は尾羽で作った矢を将軍に差し出し、将軍は八面大王を討つことが出来た。

将軍は矢を持ってきた弥助にたくさんの褒美をとらせ、弥助の家は長者にもなったんだが弥助は娘を失った悲しみに明け暮れ、娘が帰ってくるのをいつまでも待っていたんだと』

 

……とまあこんな感じの話だな。細かい部分は省略したが」

 

「長々とどうも。確かに鳥の出てくる話だけど、それなら鈴奈庵で読み聞かせてた『鶴の恩返し』とかもあるんじゃない?」

 

私が言うと、魔理沙は人差し指をチッチッと振って「名探偵たるもの裏付け捜査は完璧だぜ」と言って手帳をめくる。

 

「その弥助の村はな、その後に矢を作った村ってことで『矢村』と呼ばれたらしいぜ」

 

矢村の弥助と矢村弥継……それなら名前から見ても一致する。

しかし私は1つの疑問を魔理沙に投げかけた。

 

「でも今の話じゃ山鳥が家を出てって終わってるじゃない。現代まで繋がらないわよ?」

 

「ところがどっこい、これが繋がるんだ。そもそも民話ってものは人々が語り継いできたものだから途中途中で話が変わってしまうことのほうが多かったんだ。

稗田家に訊いてきた話だとな……」

 

「ってアンタ、阿求んちまで行ってきたの?」

 

「何事も全力が私のモットーだからな。それで続きだが、山鳥の尾の話はかなりレパートリーがあって弥助に娘の正体がバレるパターン、娘に化ける所を将軍に見られて連れ去られるパターン、そもそも弥助の村が八面大王の味方側だったりと多種多様なんだ。

その中に弥助と山鳥の娘は結ばれただけじゃなく、子供を授かったという話もある」

 

魔理沙の話を聞いて私は合点した。なるほどね、その話が真実なら弥継(アイツ)が妖怪山鳥の血を継いでいて、得体の知れない妖術を使えたとしても不思議ではない。

 

「私が見た限りだと人間にしか見えなかったけど……やっぱり半妖なのかしら」

 

「どうだかな。私は妖怪の力とは違う別の力じゃないかと思ってるんだが……それこそ霊夢みたいな神の力とか」

 

「あーあ、今回の件は森の名探偵も迷走してるみたいね。大人しく山の名探偵を待つしかないか」

 

私が魔理沙の言葉を無視してお茶を飲もうとした時、空からスッと人影が降りてきた。

 

「おはよう霊夢、魔理沙。2人とも早いわね」

 

茨華仙だ。

私は「望んで早い訳じゃないわ」と言ってお茶を飲んだ。

 

「やっと来たか山の名探偵。森の名探偵には解明出来なかったこの謎を是非とも解いてくれ!」

 

「え?何だって?」

 

面食らう華仙に、魔理沙は先程の話をかいつまんで話した。

 

「へぇ……そんな民話があったのね」

 

「私が調べたのはこんな感じだぜ。して茨華仙よ、そっちの収穫はどうなんだ?」

 

華仙は「勿論バッチリよ」と答えて話し始めた。

 

「私が調べてきたのは血筋じゃなくて家系のほう。彼女は昨日、先祖は朝廷で働いていたと言ったでしょう。

あの話しぶりからすると、その影響であの()の家は名家なのでしょう。

外の世界で朝廷と呼称されていたのが、大体幻想郷が隔離される少し前まで、その時代内で朝廷自体が一番権力を持っていたのが、所説あるけど平安時代前後。

この時に朝廷になくてはならない程重要な役職があったの。2人とも分かる?」

 

「「いや?さっぱりわからん」」

 

「…だろうと思ってたけど。その役職は『陰陽師』っていうの。これなら聞いたことあるんじゃない?」

 

「おー陰陽師、何か聞いたことあるぜ」

 

それなら私も聞いたことがある。確かやってることは妖怪退治や悪霊退散とかで私や魔理沙のやってることとあまり変わらなかった気がするけど……。

 

その辺りを華仙に訊ねたら「まぁ平安って言ったらまだ魑魅魍魎(ちみもうりょう)跋扈(ばっこ)してた時代だからねぇ。陰陽師は妖怪退治や悪霊退散のほかに、占術や風水術に長けていて、朝廷や都に災いが無いようにサポートしていたらしいわ」と言っていた。

 

「妖怪だらけの時代だったからその手の仕事が重要で重宝されたってわけか。陰陽師だと決めた理由はそれだけか?」

 

魔理沙の言葉に華仙は「決めたというよりは消去法かしら」と返した。

 

「まずもって外の世界の人間なのに幻想郷に適応出来て、しかもどういうモノかはまだ分からないけど能力を持っているなんて、それこそ菫子みたいな()()()()といって差し支えないでしょう」

 

外の世界から来た超能力者ねぇ……。そういえば早苗も外の世界出身だったっけと、私はぼんやり思い出す。

 

「あとはあの娘が言っていた事からの推測ね。あの娘の祖母は占いが得意だと言っていたし、魔理沙の話が本当としても辻褄(つじつま)は合うからね」

 

華仙の話はここまでだった。2人の話をまとめてみても、弥継(あの娘)がただの人間じゃないという可能性が高くなってきた。

妖怪の血を引いている陰陽師なんて理由として十分過ぎるわ。

あとは魔理沙の言ってたみたいに証拠になるものがあればいいのだけれど。

 

「霊夢さ~~ん、掃除終わりましたよ~~!」

 

丁度その時、弥継が(ほうき)を抱えて戻ってきた。

 

「あっ、昨日の…」

 

「おはよう弥継、巫女の仕事はどうかしら?」

 

「えっと、その……結構楽しいです。…華扇さん?」

 

「あら、もう名前を覚えてくれたの?嬉しいわ」

 

華仙と弥継の挨拶が済んだようなので、私は魔理沙と華仙が調べてきてくれた事をまとめて弥継に話した。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。情報量が多すぎて理解が追いつかなくて……」

 

「つまりアンタの祖先は妖怪の血を継いだ陰陽師ってこと。分かった?」

 

「そんなの……信じられるわけがないですよ……」

 

弥継は先程とは打って変わり、青ざめた顔でそうつぶやいた。

 

「だいいち、証拠が無いじゃないですか」

 

どこか必死そうに食い下がる物言いに、私は少しだけ疑問を感じた。

しかし今は弥継が普通の人間じゃないことの証明が先だ。

なぜなら私の仕事、さらに言えば生涯にも関わってくるからだ。

 

妖怪退治を生業(なりわい)とする(博麗の巫女)にとって、空が飛べなくなるとはそれ程一大事なのだ。

 

「証拠になりそうなものならあるわ。アンタの持ってるあのへんな箱」

 

「あ、あれは…」

 

「さっき『必ず開ける時がくるからそれまで開けるな』って言ってたけど、多分今がその時よ」

 

私の言葉に弥継は困惑しているようだった。

 

「なぁ、箱ってあの鍵の掛かった箱か?」

 

「そうだけど、何か問題でも?」

 

「そうじゃない。箱の中身が証拠になるってのは霊夢、いつもの勘か?」

 

「いつもの勘よ」

 

魔理沙はやれやれといった風に首を振ると、弥継の肩にポンと手を置いて言った。

 

「諦めろお嬢様、諦めて霊夢に箱を渡すんだ。悔しいが霊夢の勘はよく当たるからなぁ」

 

「魔理沙さんまで言うんですか~~」

 

弥継はすがるように華仙を見たが、華仙も「まさかパンドラの箱じゃないんだから開けても良いんじゃないかしら」と言ったので、渋々(しぶしぶ)箱を差し出してきた。

 

「実際、弥継(お前)も中身が気になるんだろ?仮にパンドラの箱だとしても、最後に残るのは希望だぜ」

 

「でもその前に災厄が飛び出すじゃないですか」

 

「この幻想郷には厄をためて何事も無かったことにしてくれる神様がいるから大丈夫だ。そも霊夢がいれば大丈夫だ」

 

「そんなことより弥継、この錠前の鍵はどこよ?」

 

弥継と魔理沙の話を遮って訊くと、弥継は(ふところ)から首にかけられるように紐のついた鍵を取り出した。

 

「おばあちゃんに肌身離さず持ってなさいって言われてたので……」

 

「それは良いんだけど……この鍵、回らないわよ?」

 

錠前に差し込んで回そうとしても固まったようにびくともしない。

 

「錆び付いてるんじゃないか?貸せよ霊夢、弾幕も鍵開けも、すべてはパワーだぜ」

 

「そんなこと言ってるから人形師に馬鹿にされるのよ。ほら、間違っても鍵を折るんじゃないよ」

 

魔理沙に箱を渡すと、任せろと言って力ずくでこじ開けようとした。

 

 

次の瞬間、魔理沙は突然吹き飛び、(ふすま)に激突してそのまま庭まで放り出された。

 

「え……?」

 

「魔理沙!?大丈夫?」

 

弥継は驚いて固まっている。

その間に華仙が魔理沙を起こしにいった。

私は衝撃で滅茶苦茶になった部屋を見て魔理沙に言う。

 

「アンタ、後で部屋と襖直しなさいよ」

 

「そこは私の心配をすべきだろ」

 

「純化された殺人弾幕に当たっても死なない人間の心配なんてしないわ」

 

「それはお前もだろ。にしても何が起きたんだ?」

 

それについては見当も付かない。本当に何が起こったのかしら?

しかし箱を拾い上げて気付いた。

 

「どうしたの霊夢?」

 

戻ってきた華仙が訊ねてくる。

 

「この箱……封印が掛けてあるわ、それも強力なヤツが」

 

「何ですって?じゃあ魔理沙が吹き飛ばされたのは…」

 

「無理矢理き開けようとしたから封印に弾き飛ばされたのね。これはいよいよをもってただ事じゃなくなってきたわ」

 

こんなに強力な封印は久しぶりに見たわ。こんな封印を出来るヤツなんて幻想郷でも僅かしかいないだろう。

 

「それで?どうするの霊夢、開けるのを諦める?」

 

「何言ってんのよ。この程度の封印……」

 

私は箱の上で(いん)を切る。

 

「あ、あの手つきはヤバいぜ。あれはどんな封印でも解いてしまうインチキ技の手つきだ」

 

魔理沙の言葉が終わると同時に、錠前がパキンと音を立てて外れ、箱の蓋が勝手に開いた。

 

「あ……」

 

様子を見にきた弥継が箱の中身の一番上にある手紙らしきモノを見て声を漏らす。

達筆な文字で『弥継へ』と書かれた封筒だ。

 

「どうしたの?」

 

 

「これ……おばあちゃんの字だ……」

 

 

◇◆◇◆

 

 

・博麗霊夢

何とかなる巫女さん。今回も何とかなった。

 

・霧雨魔理沙

何でもアリな魔法使い。今回はダメだった。

 

・茨木華扇

何とかする仙人。調べてきた情報は何とかなった。

 

・矢村弥継

何やかんやの外来人。何ともならない。

 

・純化された~~

純符「ピュアリーバレットヘル」

 

・インチキ技

鈴奈庵第7話参照

 




次は挿絵つけます

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