突然だがヒロアカの麗日お茶子になったようだ。
「はぁ~、こんな事ほんまに起きるんやに……」
鏡を観ながら自然と出た言葉が何故か関西弁に。チャキチャキの江戸っ子である俺の口から出るにしては、イントネーションがそれっぽ過ぎる。
「お茶子ー! いつまで寝とるの! 学校に遅れるに!」
「はいはーい!」
体が自然に反応し、俺は元気よく返事をした。リビングに行けば母がかましくご飯をかっこむように促すだろうし、父はマイペースに新聞の競馬欄でも見ているだろう。
何の違和感も無く想像された光景。それを下に降りた俺が寸分の狂いも無く実際に体験した事で、俺は俺であると同時にしっかり麗日お茶子でもあると認識した。
ランドセルを背負い、玄関を出る。小学校に向かう道に、桜吹雪が舞っている。
ちらちら舞い散る花びらを見ながら思う。
ノンケがメインヒロインにTSってどういう層に得があるんだろうか、と。
*
麗日お茶子はヒーローになりたかったようである。
13号とかいうヒーローが特に好きで、彼(彼女?)のように皆を助けるヒーローになりたかったようである。
そしてそれとは別に、零細企業を切り盛りする両親を助けたいとも思っている。
重力を遮断するという個性持ちなので、建築業を営む両親の会社に入れば確実に助けになるのだが、ヒーローになる夢を捨てるなと言われて、その通りにしようとしている。
だから稼げるヒーローになって両親を助けようと考えていたのだ。
が。
そこに俺という意識が入ってくる。現代日本に生きた俺には、ヒーローになりたいなんて思いは無い。
お茶子が高給取りなヒーローになれると確約されてるなら考えてもいいんだが、俺の知っている範囲でそんな気配は無し。大円満でエンディングを向かえた場合に、No1ヒーロー夫人として両親を援助出来るようになれれば御の字で、普通に考えればそこそこな給料で健気に働く社畜となるだろう。
俺は常識的な感性を持った人間だ。コスプレしながら跳ね回る狂人を演じるのに、薄給ではやってられない。
という訳で将来設計を早々に見直そうとしたんだが、お茶子の意識がヤダヤダヒーローになる! と五月蝿い。
相手は小学生の女の子なので理性的な対話が出来るはずも無く、深層意識の説得には物凄い時間が掛かった。
(あのなー、このまま行っても自己満だけで親孝行出来ないぞ? それなら別の道に行く方が良くないか?)
(でも父ちゃんに約束したから! ヒーローになってハワイに連れてくって!)
(別にヒーローじゃなくても連れてけるだろハワイ)
(でもヒーローになりたい!)
(俺がヤダ)
(ヤダっていい年して何子供っぽい事言っとるのこのおっちゃんは!)
(おっちゃんじゃねぇ! まだアラサーだ!)
(何それ)
(……あれ、まだ死語じゃないよな? 気付かず死語使うようなおっちゃんじゃないよな俺? ギリギリでもお兄さんだよな!?)
(そんな事考えちゃう時点でおっちゃんなんやろ)
(畜生!)
……このように理性的で無い輩の相手をするというのは時間をドブに捨てるものなのだ。
(なに言っとるのおっちゃん。理性的ちゃうのはおっちゃんの方やんか)
だからおっちゃんじゃねえって言ってるだろうが!
……閑話休題、俺は大人の余裕を見せる事で、深層意識でグダグダ言っている女の子を説得する事が出来た。その戦いは長かったが、彼女の叶えたい部分をしっかり取り入れる事で、妥協するに至ったのだ。
(つまりな? お茶子は人を助けたい。ついでにお金も稼いで親も助けたい。そんな感じでヒーロー目指しているんだろ?)
(うんうん)
(それは別にヴィランを殴り飛ばしたいって事じゃないんだろ? 13号に憧れてるくらいだし)
(そうやに)
(ならヒーローじゃなくても人が助けれれば良いって事だよな)
(まぁそうやけど……)
(普通にヒーローやるよりも多くの人を助けれるぞ。なんたって対象は全人類だ。しかも一回成功させれば少なくとも100年は感謝され続けるぞ。勿論金もガッポガッポ)
(おっちゃん……夢見過ぎちゃうん?)
(おいガキンチョその哀れみの感情止めろ。こっちにはしっかりプランがあるんだプランが)
俺が前世? でお茶子の個性を知った時から、これなら他の仕事をしたほうがいいのではと思っていた。
確かに災害救助の現場でも重宝されるのだろうが、産業分野に突っ込んだ方が良い能力だし、科学分野に突っ込めば冗談抜きでノーベル賞級の発展に寄与出来るだろう。
だがその中でも人類史に残り、かつ金になる行動がある。それは、
(軌道エレベーターを作る)
(きどーえれべーたー?)
そう、軌道エレベーターの建築だ。
地上から乗るだけで宇宙に行ける夢のエレベーター。それをこの世界に打ち立てようって訳だ。
何故そんな物を作ろうと人類が考えたのか。それは地球という揺りかごから宇宙に飛び出すのに、ロケットを使うだけでは金が幾らあっても足りないからである。
ロケットの打ち上げは1回100億円オーダーだ。しかも再使用するタイプは維持費が余計に掛かるという事で、使い切りタイプのロケットが主流になっている。
つまり一度宇宙に行くだけで毎度毎度100億円がすっ飛んでいく訳で、地球を飛び出す事の難しさをこれだけ簡単に表す物もないだろう。
それが軌道エレベーターになると話が変わる。
エレベーターというくらいだから幾らでも上り下りが出来る。その昇降回数が増える毎に1回当たりの使用コストが下がるので、最終的には新幹線に乗って旅行に行くくらい簡単に宇宙に行けるようになるだろう。
これだけだとSFな話だ。しかしまるっきり実現不能という訳ではなく、現実世界でも建材の目処は立ち始めていたくらい、実現性の高い計画である。
だが勿論実際に作るには多数の大きな問題を抱えていて、建築が始まるのは早くて半世紀後という有様だった。
その中でも一番の理由が、建築コストがべらぼうに高い事である。何しろエレベーターの長さが約4万キロと、地球の直径の3倍の長さが必要になる。そんな馬鹿でかいものを作れば勿論建築コストも阿呆みたいになるわけで、楽観的な試算でも1兆円は下らないという話だ。
そしてその大部分は、宇宙開発最大の
先に説明した通り、宇宙開発に掛かるコストは打ち上げコストが大部分を占める。重力加速度9.8m/s。この数値を振り切るために、ロケットは膨大な燃料を燃やして運動エネルギーを得なければならない。
その結果、1kgの物体を
一昔前に言われた重さあたりが金と同じ値段、という状況よりは多少リーズナブルになっているが、水平方向での移動に例えるなら、牛乳パック1本を東京から大阪に届ける、たったそれだけの事にこれだけ掛かるのだ。
故にSFだと思われ、手が付けられていない。少し手を伸ばせば掴み取れる未来だというのに。
俺がまともに生きている間に拝めるかどうかも危うい話だった。前世の俺はそれが歯痒く、何故もっと未来に生まれなかったんだと思ったくらいだ。
だが転生だか憑依だかしたおかげで、その話がガラッと変わる。
俺の憑依先のお茶子という女の子は、重力を問答無用で打ち消せる存在だからだ。
勿論ロケットのスペース的な問題で1回に打ち上げられる量に制限は掛かるだろうが、今の時点でも3t分は浮かせれる。
現実の日本のロケット H-ⅡBの打ち上げで例えるなら低軌道で15%、静止軌道で40%程の貨物の重さを0に出来るのだ。
それを知った宇宙関係者は三顧の礼を持って俺を招聘するだろう。少ない予算をやりくりしている所に、億円単位でコスト削減出来る存在がやってくるんだから。これが冷戦時代なら、俺を巡って米ソが誘拐合戦を繰り広げたに違いない。
だからまず宇宙産業で打ち上げ補助の仕事をする。交渉次第だが、打ち上げ一発億円単位のお仕事に出来る。それはもうアホみたいに稼げるだろう。
そしてその金を両親の会社に突っ込み、会社を拡大させ、来るべき軌道エレベーター建設の礎とするのだ!
(おっちゃん夢見過ぎ)
(おっちゃんちゃうちゃう!)
……とまぁこのような感じで将来が決まった。
勿論その後にお茶子の文句が無くなる事はなかったが、みんなのためになるって事には変わらんし、個性強化と資格の利便性を考えてヒーローになっとくのもいいんじゃないか、という妥協案を出す事で落ち着いたのだ。
まぁ一番の理由としては、これ達成すれば13号と同じくスペースヒーロー名乗ってもいいんじゃないかって言ったせいな気がしなくもないが。
ウェブで調べただけの三重弁を躊躇なく使う関東人