スペースヒーローお茶子見参!   作:疋田

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第3話 雄英高校入学試験

 さて雄英に入るに辺り、問題が幾つかある。

 

 その中でも最大のものは、原作通りに動くか動かないかというものだ。

 

 具体的には――

 

「大丈夫か?」

 

「わっ、え!?」

 

 倒れかけた緑谷の体勢を立て直し、地面に立たせる。キョトンとしている彼に微笑み、原作通り――なつもりで声を掛けた。

 

「勝手に悪いな。でも試験前に転ぶとか縁起悪いし」

 

 意味合いは確かこんな感じだったはずだ。緊張するなとか何とか言って、俺はまだフリーズしている緑谷と別れた。

 

 離れる。チラリと後ろを見る。緑谷はまだホゲーとしている。そして緊張から解放された途端、変な声を上げ始める。

 

 うん、俺も何でも無いようにやったけどもさ……

 

(細かい部分覚えてないからもうままよって感じでやったけど原作こんな男口調じゃねぇし! これホント大丈夫だろうなぁ!?)

 

(諦めた方がいいと思うよー)

 

 深層意識が駄目出しをする。だがそれに構う余裕も無い。

 

 原作通りにやると言っても、前世の俺は普通に単行本で楽しんだ程度で、単語の一語一語まで覚え込んだ訳じゃない。加えて読んだのも今となっては10年以上前になる。大筋は流石に覚えているが、細かい台詞に日常回とかそこらは全然覚えていない。

 

 そしてお茶子の中身は俺だ。どう頑張っても俺なのである。女の子っぽくなろうとしてみもしたが、ヒーローになるための鍛錬もやるのに女の子らしさを磨くタイミングなどあるものか。

 

(3日坊主だったよねその女の子っぽくなる努力は)

 

(うるせー! 別に俺っ娘だろうと実害は無いだろが! ヒーローのキャラ付けだ!)

 

 最初は一人称私で頑張ってたのだが、ふとした拍子に素の俺が出てしまう。その度に言い直したりしてはいたんだが、

 

『お茶子、自分の事は好きに呼んだらええ』

 

 と両親に言われてもう俺で押し通す事にした。

 

 どうもトランスジェンダーのように思われたようだが、まぁ間違っていないので訂正していない。特に狼狽されたりしていないし、本当に良い両親だ。絶対孝行しよう。

 

 かくしてメインヒロイン俺っ娘化。もう原作通りもクソも無い。だがそれでも大筋は、大筋だけは原作をなぞろうと思っている。

 

(それにしても、あの地味な感じの子と私がねぇ)

 

 深層意識が興味深そうにこぼす。

 

(ん? もう惚れたんか?)

 

(……おっちゃんの関西弁っていつになっても似非っぽいよね)

 

(ほっとけ!)

 

 三重県民に似非関西弁言うたら戦争やぞ! いばらきをいばらぎ言うみたいなもんやぞ!

 

(……それワザとじゃないなら凄いよね)

 

 すっかり標準語を使いこなせるようになった深層意識ちゃんに生意気言われながら、俺は入試会場内に入った。

 

 さて、プレゼントマイクがなんか言っている内に、今後の予定を再確認しよう。

 

 入試自体は何の問題も無い。天才の頭脳を持っている訳では無いが筆記は前世ブーストのおかげで余裕だし、実技の方も個性を超強化している。

 

 更に自分はメインヒロイン様だ。例えわざとヘマをしようと、なにかしらの補正が効く気がしなくもない。

 

 問題は、緑谷をどうするかである。

 

 これが全くの別人として生まれたり憑依したりしているのであれば、何も考えずに入試をパスすればいいだろう。

 

 だが俺は麗日お茶子だ。もっと言うなら緑谷が入試をパスするための課題だ。俺がヘマして緑谷がカバーする事で、始めて彼は雄英の門を叩けるのだ。

 

 しかし悲しいかな、今日の俺はヘマしそうに無い。

 

 開始何分何秒で0Pロボが現れ暴れるかは分からないが、現れると分かっていれば警戒出来るし、降ってくる岩なんざ幾らでも避ける事が出来る。

 

 原作と同じ状況に陥るには、わざとそうする他にないのだ。

 

 一応今のところ、彼には雄英に入ってもらう予定ではある。単純に主人公だし、OFA持っているし。あの力無しでヴィラン連合とやりあうのはあまりよろしく無いだろう。負けないにしろ犠牲者が出るとかそんな感じに変わりそうだ。

 

 なので一応はヘマする事には文句は無い。文句は無いんだが……

 

(おっちゃんおっちゃん、おっちゃんが出久君に恋したら異性愛になるのかな? 同性愛になるのかな?)

 

(知るかバカ……)

 

 問題は物語の強制力ってのがあった場合、俺が緑谷に恋心を抱いてしまわないかという事だ。

 

 いや無理。マジ無理。同性愛については何か言うつもりは無いが、自分がその対象となるのはマジごめんなさいなんです……

 

 現状が多重人格障害気味のトランスジェンダーだろうと、心はノンケのつもりなんです……

 

 ただ心に従うとそれは外面が百合になっちゃう訳でそれはそれで中々に難易度が高いのではとか思わなくもないという……

 

(恋する乙女は大変だね!)

 

(他人事のように言いやがってこんガキャ……!)

 

 もう何年も我慢しているが、そろそろ一発殴ってもいいかもしれない。お金に余裕が出来たら鏡を思い切り殴ってみよう。サイコさんだ。

 

 ともかく、最初は原作通りに動こう。恋愛関係はもうなるようにしかならない。万が一惚れたとしても、その後は惚れているのが正常な状態になるんだ。拘る必要は無い。無いんだ。無いんだよ……!

 

 葛藤する俺をよそに、試験開始の時間が刻々と迫る。目を閉じて胸を叩いていると、緑谷と委員長飯田が言い争う声が聞こえた。そろそろ開始かな。

 

『ハイスタートー!』

 

 プレゼントマイクの声が響く。俺は目を開くとすぐに自分を無重量化。地面を思い切り蹴って会場のビルまで飛んで行く。

 

 ゲロは吐かない。訓練で常時ゲロイン5秒前をやっているうちに、自身の無重量化にも耐性が出来ていたのだ。

 

 嬉しい誤算を有効活用しつつ、適当なとこで力を切り屋上に着地。敵がウジャウジャ湧いてそうな辺りまでまた跳ぶ。

 

 この辺りで『賽は投げられてんぞ!?』という声が聞こえた。フリーズしている連中もぞろぞろいらっしゃるだろう。

 

 まぁ、しかし――

 

「別に粗方喰ってしまっても構わんだろう?」

 

 とカッコいいポーズをしながら周りの敵を空に打ち上げる。点数稼ぎとフラグ立てを同時にやる高度な技だ。ある程度まで倒したら自重するが、たまにはこういうムーブをするのも悪くはない。

 

(ヒーローやる気ないとか言ってたのに凄い生き生きしてない!?)

 

(人助けとかはあんま興味無い。が、暴れるのは嫌いでは無い)

 

 いくつになっても男子は刀を振り回すのが好きなのである。俺は刀よか銃派だけど。ヒーローになってからもガン・フーやっていいんだろうか。オーバーキルしちゃうか。

 

 ともあれ試験は順調に推移し、俺も合格ライン分の点数は稼いだ。後は適当に流して、緑谷と合流し、助けて貰って終了である。

 

(緑谷はどぉ~こだぁ~っと)

 

(男漁りにせいが出るね!)

 

(お前なんかこうキャラが全然違くなったよなホント)

 

 俺が混ざったせいだってのは分かるが、深層意識の感じが原作と乖離し過ぎている気がする。

 

 矯正すべきかこのままでいいか悩んでいると、残り時間1分ちょっとという所でようやく緑谷を発見した。やはり1体もロボットを倒していないらしく、焦りながら周りを見回している。

 

 落ち着けと思わなくも無いが、同じ状況に置かれたらどんだけ焦る事か。まぁもうちょっとの辛抱だと思いながら、その時を待つ。

 

 轟音が響き、ビルが崩れる。青空をバックに、巨人が立ち上がる。

 

 お邪魔虫が起動したようだ。周りの受験生が蜘蛛の子を散らすように逃げ始め、緑谷も腰を抜かしている。

 

 ロボットが腕を振るい、地面に大穴を開けた。瓦礫が飛び、俺目掛けて――目掛けて――

 

(来ないっ!!!)

 

(運が良かったね)

 

 なわけあるかアホウ! と叫びたい欲求を押さえ込み、代わりに下敷きにしてくれそうな瓦礫を探した。だが重力はしっかりと仕事を果たしていて、既に飛来物は地面にタッチダウンしていた後だった。

 

 このままでは緑谷まさかの不合格だ。なんとか、なんとかしないといけないが……!

 

(わざと転べば?)

 

(……それしかないよなぁ……)

 

 それまでこれでもかと立体機動かましていた人間が転ぶものなのか。そんな風にもしかしたら試験官に見咎められるかもしれない。まぁパニック状態だったのでとか言い訳するしかないだろう。

 

 緑谷近くの適当な瓦礫を探し、自然に見えるように転ぶ。「イターイタスケテー」と棒にならないように声を出し、さりげなーく緑谷の方を見た。

 

 跳んでた。

 

 人が空に浮かぶと、あんなに小さく見えるんだなと、今更ながら気付かされた。

 

 その小さな粒が、何十倍も大きな鉄の塊を殴り付ける。衝撃波が走り、巨体がひしゃげる。ダビデとゴリアテどころじゃないジャイアント・キリング。

 

「おお、かっけーじゃん」

 

 思わず声を出してしまった。

 

 体を揺るがす大音響に、舞い散る火花。極上の特等席で見せられたそれは、そう唸るに値するものだった。

 

 彼の合格はこれで揺るぎなくなっただろう。

 

 巨体を粉々にし、ゆっくりと落ちてきた緑谷に、俺は心の中で万雷の拍手を送った。

 

 さておき、このままでは彼が地面の染みとなってしまうだろう。殴って落下速度を相殺しようとしているみたいだが、重力とはそんな甘いもんじゃない。例え正中線を外さずに打ち抜いたとしても、反動で体がバラバラになるはずだ。

 

 なのでメインヒロインが直々にお出迎えして進ぜよう。

 

(ノリノリだ)

 

(黙れぃ)

 

 再び自身を無重量化し、緑谷を真似て宙に飛び出す。劇中だと彼を叩いていたが、流石にここまで頑張ったのに叩くのはダメだろう。

 

 という事で俺は落ちてくる緑谷の手を取った。驚いている彼を無重量化してゆっくりと地面に下ろし、

 

「助けてくれてありがとうな。それと『終っ了ぉぉぉおうっ!!!!』

 

 プレゼントマイクの声が響き渡った。合格おめでとうという俺の声は掻き消されたのだろう、緑谷少年の目から滝のように涙が流れ、ガックリと地面に臥せってしまった。

 

 うーん、この後の結果を知ってはいるが、中々に居心地の悪い状況だな。

 

 とりあえず助けを呼んでくると緑谷少年に伝え、俺はリカバリーガールを探し始める。ハリボー配りのおばあちゃんはそう遠くない場所に居たので、腕とかバキバキに折れてるからとトリアージで黄色だからと緑谷少年の所に案内した。

 

「やれやれ、老人をそう急かすもんじゃないよ」

 

 と、呆れたように首を振るリカバリーガールだったが、次の瞬間緑谷少年に「チユ~!」とシャウトしながらキスをした。

 

 治療行為なのだが、唇が伸びたその様は吸血中の蚊にしか見えない。遊星からの物体○だとか寄○獣ばりの人体変化を実写でやられて、在学中なるたけ彼女のお世話にならないようにしようと心に決める。

 

 とにかく、これにて試験は終了だ。後はお家に帰って結果を待てば良い。

 

 プレゼントマイクにポイントを分けれませんか、と申し入れた後、俺は意気揚々と地元へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「”合格おめでとう”、ねぇ」

 

 動画を確認し終えて、プレゼントマイクが背もたれに思い切り身を預ける。

 

 雄英高校の職員室。そこの業務用PCに映されているのは緑谷出久がエグゼキューターを張り倒した場面だった。その後麗日お茶子が彼を支え、地面へと凱旋した映画のようなシーンである。

 

 リアルタイムでそれを見た時は、思わずYAEH! と言ってしまった。だがそのシーンを見直しった今、これはまずいのではないかと思う。

 

「何を見ている?」

 

「……相澤か。いや何、今回の入試のハイライトを見ていただけさ」

 

 背後から覗き込んできたイレイザーヘッドこと相澤に対して、マイクは気のない返事をした。

 

 だがそれで引くようならそもそも声を掛けてくるような男ではない。無言でしらばっくれるなと圧力を掛けられ、マイクは盛大にため息を吐いた。

 

「まだ誰にも言うんじゃねぇぞ。この麗日お茶子って奴が、事前に試験内容を手に入れていた可能性がある」

 

「続けろ」

 

「それでもってお前も目を付けていたアイツを手助けした節がある。まぁそれがカンニング扱いになるかどうかは微妙なところだが」

 

 連携プレイはヒーローの力の一つだしな、とマイクはおちゃらけて見せたが、相澤の顔は瞬き一つ返さない。

 

「その根拠は何だ」

 

「違和感。今のところそれだけだな」

 

 自分で言った通り、現時点では違和感以外に何の証拠も無い。

 

 そもそもは麗日お茶子が緑谷出久にポイントを分けて欲しいと言いに来た事から始まる。それ自体は救助ポイントを入れるに値する話だ。

 

 しかし二人の間にどんなやり取りがあったか気になって、試験中の録画を確認したのだが、緑谷出久が麗日お茶子に向かってポイントが足りないと言っているシーンをどうしても見付ける事が出来なかったのだ。

 

 勿論カメラの角度の問題で、そのシーンが映らなかっただけかもしれない。しかしそもそも麗日と緑谷が一緒にいたのは、試験最後の60秒間のみ。秒単位で調べてみたが、彼らが一緒にいる間に、カメラに映らぬ時間は無かった。

 

 そして調べる内に、今度は麗日が転倒するシーンに違和感を持った訳だ。

 

 試験開始時の大跳躍に加え、壁走りまでしてみせる個性を十全に使った機動力。それを散々見せつけたあの子供が、たかが瓦礫に蹴躓くか? そうマイクに思わせる程度に、麗日お茶子は暴れまわっていたのである。

 

 何しろ敵Pが56と、爆豪に続く撃破数を誇っている。マイクが疑いの目を向けても仕方ないだろう。

 

 プレゼントマイクの不意打ちのようなスタート合図に反応出来たのも担当した中では彼女だけ。担当した1000人の内あそこまで早く動けたのは彼女一人だけだ。

 

 こうなると全てが怪しく思える。

 

 だがマイクが簡単に調べた範囲では、麗日お茶子と緑谷出久が関係を持ったという事実は無かった。

 

 怪しい付き合いがあるとするならば、へんに陸上自衛隊隊員との交友が多いくらいか。その中にはレンジャー徽章(きしょう)持ちもいる。鳥の異形型個性など飛行出来る隊員ばかりを集めた第一空挺団特殊中隊元隊員までいた日には、一体どこの工作員を育て上げる気だとマイクの頭を悩ませた。

 

 だがそれだけと言えばそれだけだ。関係者は自分達よりも思想的によっぽど管理されている公務員で危険性は無いし、関係の希少度で言えばオールマイトと個人的関係を持つ緑谷の方が数段上である。 だから現時点では違和感、としか言いようが無い。

 

「そうだな。随分と陰謀論地味たイチャモンだ」

 

 遠慮なくこき下ろす相澤に、マイクは苦笑するしかなかった。

 

「これがイエロージャーナリズムすれすれだって事は分かっているさ。だから胸の内に留めておいてくれって言ったんだ。だが出来るんだったら……」

 

「……元々緑谷の事は考えていたからな。分かった、コイツらの事は注視しておこう」

 

「おお、頼もしいねぇ。イレイザーヘッドが注視するなら安心だ」

 

 茶化すように言いはしたが、この件を任せるなら彼らの担任になる相澤以上に適任はいないだろうし、このまま放り投げちまおう。

 

 そんな風に思ったマイクの心を見透かしたように相澤がボソリと言った。

 

「貸し一つな」

 

「奢り一回くらいの軽い奴で頼むぜ」

 

「ダメだ」

 

「コイツはシヴィーぜ……」

 

 

 




唐突な俺っ娘化と方言放棄
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