スペースヒーローお茶子見参!   作:疋田

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第4話 入学~個性把握テスト

 求む英雄。至難の旅、わずかな報酬、絶えざる危険、生還の保証はなし……

 

 だが成功の暁には、名誉と賞賛を得る。

 

 そういう文句に釣られて落ちる虎の穴。UとAの合わさった校章を前に、俺は仁王立ちしていた。

 

 一歩踏み出せば物語が始まる。未完の物語が動き出す。希望と絶望に満ちた学園生活が

 

(おっちゃん、気持ち悪いモノローグ入れてないで早く教室行かないと遅刻するよ?)

 

 キモいとか言うな。女子高生にそれ言われるとおっちゃんのガラスのハートが

 

(はいはい進む進む!)

 

 深層意識に急かされ、俺は仕方なく第一歩を踏み出す事にした。

 

 だがこれだけは譲れないぞと、口に出す。

 

「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが」

 

 ランディング。足が雄英の土を踏み締めた。

 

「人類にとっては偉大な飛躍である」

 

(おっちゃん……)

 

 深層意識の呆れた感情は無視する。後で書く自伝のために少しでもネタを増やさねばならんのだ。

 

 

 

 

 

 

 やる事やったので教室に向かう。劇中のお茶子も最後に教室にやってきたが、似たような事をやってたんだろうか。

 

(私はそんな事しないって)

 

 えぇ~? ほんとにござるかぁ~? と煽っているうちに、教室に到着した。

 

「君を見誤っていたよ! 悔しいが君の方が上手だったようだ!」

 

 飯田が緑谷に挨拶しているシーンだった。原作的にもちょうど良いタイミングに着いたようだ。

 

 えぇっと、なんて言って挨拶してたんだっけか……

 

 思い出せない。いいやもう。

 

「ようモサモサ! 合格出来たんだな良かった!」

 

 絶対こんなんじゃなかったという思いは宇宙にかっ飛ばそう。予定外の奴が死ぬとかそうならなければ後は野となれ山となれだ。

 

「パンチ凄かったもんな。そりゃ受かるか当然」

 

「いやっあのっ、あなたの直談判のおかげで……ぼくはその……」

 

 真っ赤になった緑谷が顔を隠しながら鼻の下を伸ばしている。

 

 うん……対象が俺じゃなければ青春だなぁとニヤニヤ出来るんだけども……

 

「おっと、もうそろそろ始業だな。じゃあ席に座ろうぜ」

 

 という事で緑谷には悪いがさっさと切り上げる。肩くらいは叩いてやって、自分の席を探す。

 

 見回して、あぁ、本当にヒロアカの世界に来ちゃったんだなぁと実感した。

 

 才能と希望を抱いた英雄の卵達。漫画で見たあのキャラ達が、立体になって目の前に存在する。

 

 しかもその仲間となって3年間一緒に学ぶのだ。ヒーロー自体をやる気はそんなに無くても、これは流石にワクワクするだろう。

 

(有名人にあったミーハーな人だ)

 

 何か言ってくるのを無視して、席に向かう。どうやら一番後ろの席のようだ。麗日なんて名前だから出席番号順だとまず後ろにいかない。変なとこで新鮮味を感じさせてくれるなヒーロー科は。

 

「ふむ、最初から全員席に座っているか。君達はそこそこに合理的なようだね」

 

 席に座り、お隣さんに挨拶しようとした所で、寝起き感満載のお声が掛かった。前を向くと、そこには巨大な芋虫がいた。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 抹消ヒーロー イレイザーヘッド。不健康感丸出しの顔で、そう自己紹介をしてきた。

 

「早速だが、体操着(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 と、本当に早速授業開始を宣言する。雄英の自由過ぎる校風が、早速牙を剥くようだ。

 

 

 

 

 

 

 さて、牙を剥くといえば俺の精神にとても良くない時間が来た。

 

 お着替えタイムである。

 

「女子少ないねー。全部で6人?」

 

「男女まとめてヒーローって言うくらいだから、まだまだ男社会か」

 

「女子更衣室がちゃんとあるだけマシですわ」

 

「えー? 普通に着替えれない? 別に減るもんじゃないし!」

 

「それを出来るのは小学生と透ちゃんだけだと思うの」

 

「梅雨ちゃん酷い!?」

 

 ワイワイ言いながら無防備に着替えている彼女らに目を合わせないよう、俺はそそくさと着替え始める。

 

 小学校中学校の頃はまだ良かった。ロリコンでも何でもない俺の性欲を刺激される事は無かったから。

 

 だが高校生はアカン。体が出来てきてフェロモンを放ち始めるお年頃だ。しかも平均値から圧倒的に上な子ばっかとかほんとにアカン。無理。今は亡き息子が息吹き返しそう。

 

 てか発育の暴力さんが本気で暴力的過ぎる。形も整ってて尚大きいってどういう事だ。

 

「あ、麗日さんでしたわね。先程は挨拶が出来なくて申し訳ありませんでした。私は八百万百と申します」

 

 俺の視線に気付いた八百万さんが無造作に近寄ってきて、手を差し出してくる。

 

 着替え途中だったので、下着姿のままだ。

 

「よ、よろしく八百万=サン。麗日お茶子デス」

 

 目線を胸に落とさないよう自制心を振り絞ったせいで、出てきた言葉がカタコトになった。

 

 握手をする。手は見ない。目線を下げたらそれで終わりだ。墜ちちゃダメだ。どれだけ引力が強かろうと墜ちれば100%捕捉される。例えその瑞々しさ溢れる球体がどれほど魅力的だろうと、目線を落としては……!

 

「ケロケロ、(はした)ないと思うよモモちゃん。ちゃんと着替えてから挨拶しないと」

 

「はっ! 確かにそうでしたわ! ごめんなさいね麗日さん!」

 

 横槍が入り、八百万さんが急いで着替えを再開する。そのおかげで木星級の重力に引かれ大気圏に突入しそうだった視線を、どうにかスイングバイさせる事が出来た。

 

「初めまして麗日ちゃん。私は蛙吹梅雨。梅雨ちゃんって呼んで」

 

「ああ、初めまして梅雨ちゃん。こっちもお茶子ちゃんでいいよ」

 

「ホント? 分かったわお茶子ちゃん」

 

 八百万さんに代わり挨拶してきたのは、蛙の個性を持つクラスの常識枠・梅雨ちゃんだった。こっちは既に着替え終えている。さすがしっかりしているな常識枠。

 

「なになにー? 自己紹介タイム? アタシは芦戸三奈!」

 

「あ、なら私も私も! 葉隠透だよ! よろしく!」

 

 梅雨ちゃんに挨拶していると、異形系元気女子二人組・芦戸さんに葉隠さんが輪に飛び込んできた。こういう感じのはだいぶ付き合いやすくて助かるなと思いつつ、「よろしく。芦戸さん、葉隠さん」と挨拶する。

 

「もー、他人行儀! 三奈でいいよ! でもお茶子って呼ばせて!」

 

「私も透でいいよお茶子ちゃん!」

 

「分かった。三奈に透ね」

 

 そうそうこれで友達だね!、と角の生えた即席友人が笑う。幼稚園時代並の友達作りの速さだと、こっちも思わず笑ってしまった。

 

「あー、この流れで自分だけ紹介しないのもアレだね。ウチは耳郎響香。よろしく……えーとお茶子で良い?」

 

「いいよ。じゃあこっちも響香って呼ぶからよろしく」

 

 それまで静かに着替えをしていた耳郎さ……響香とさらっと紹介をし合った。ロッキンガールはサバサバしてて、こちらも非常にやりやすい。

 

 女子に馴染むというのは毎度大仕事だったが、今回は大丈夫そうだ。さすがヒーロー志望のコミュ力といったところか。

 

 そのままSNSのID交換しないー? と女子会が始まりそうな空気になった。しかし扉の外から響いた飯田の声が、空気を見事に霧散させる。

 

「女子の諸君! 相澤先生が遅いと言っていらっしゃる! 少し急いだ方がいいと思うぞ!」

 

「あ、ヤバッ! 委員長だ! ハイハーイ今行くー!」

 

「まだ委員長は決まってないよ三奈ちゃん」

 

 梅雨ちゃんのツッコミも聞かずに、三奈が飛び出す。いきなり扉が開いたせいで、三奈と飯田が正面衝突しそうになった。

 

 ぬおっ!? と叫びながらたたらを踏む飯田に、ごめーんと適当に謝り駆けていく三奈。この騒々しいのが日常になるかと苦笑しつつ、俺達もグラウンドへ向かった。

 

 

 

 ちなみに余計な事は何もしなかったので、個性把握テストは原作通りに終わった。

 

 

 

 

 

 

 不適格者の炙り出し。その目的で行われる個性把握テスト。

 

 150人以上を退学にした相澤は、その目でもって新入生――特に緑谷出久と麗日お茶子を見張ったのだが……

 

 結果から言うと埃は出なかった。

 

(個性を消したところで、何かしら動きがあると思ったんだがな)

 

 やはりマイクの妄想だったのか、それとも麗日の隠蔽能力が高かったのか。授業後に職員室で1-A生徒の評価をまとめながら、相澤は黙考する。

 

「よう、どうだったよ例の連中は」

 

「マイクか」

 

 非合理的に時間を無駄にしていると、後ろからマイクがやってきた。相澤は飲みかけのウィダーを一気に吸い込んで、ゴミ箱に放る。

 

「どうだったも何も、一例だけでは判断は保留するしかない。今日の所は尻尾は出さなかった」

 

「150人斬りの相澤でも即断罪とはいかなかったか。コイツは強敵だぜ」

 

「怪しい所はあったがな。麗日なんかは、俺が除籍チラつかせてもケロリとしていた」

 

 そう、クラスの他の生徒が多少なりとも動揺して見せる中、麗日だけが予定通りとばかりに何の反応も見せなかった。自分は最下位にならないと確信している轟や爆豪ですらピクリと反応したのにだ。

 

「ただそれが知っていたせいで落ち着いていたのか、単に胆力が並外れているだけなのかは判断できん」

 

 事前に相澤の事を知っていたならば、反応は薄くなるかもしれない。しかしそれは同時に相澤がしてきた事も知るという訳で、覚悟なりなんなりの反応を見せて然るべきだろう。

 

 百歩譲ってその場を凌いだとしても、緑谷にちょっかい掛けたタイミングで何かしらの反応を見せたはずだ。しかし麗日はやはり動きを見せなかった。サポートするのは入試までだったのか、相澤が処分しないと予知したのか。

 

 マイクの妄想だと断ずるのが一番簡単だが。

 

「いっそマンダレイでも呼んだ方が良さそうだな」

 

 相澤の考えを聞き、マイクが眉間を揉む。確かに”テレパス”という個性の字面は便利だろうと相澤は思った。だが、

 

「あいつ心の読み取りなんて出来たか?」

 

「そんな事出来たら今頃ピクシーボブの婚活に付き合わされてヒーロー活動なんて出来ないかハッハー!」

 

「今度会った時、記憶読まれて大変な事になるんだろうな。ご愁傷様」

 

「……おい、デタラメ言うんじゃないぞ相澤。おい、ホントは心読めるとか無いよな? おい、何で目を逸らすんだおい」

 

 

 

 

 

 

 初日がつつがなく終了した。結局ぶっ飛んでいた授業は個性把握テストぐらいで、後は普通の高校と同じような授業内容だった。

 

 特筆する事もなく、後は帰って自主訓練をするくらいだが、今日はまだイベントが残っている。

 

「よー二人とも! ちょっとストップ!」

 

 前を歩く緑谷と飯田に声を掛ける。わざわざ女子達と別れて追っかけてきたのも、原作イベントを消化するためだ。

 

 緑谷のヒーローネーム命名式である。

 

「君は∞女子」

 

 飯田が素晴らしいネーミングセンスを発揮する。初対面では無いが挨拶もそこそこな人間に真正面からそう言える神経は……いや俺も緑谷を地味なモサモサと言っているし、この世界のデフォかもしれない。

 

「麗日お茶子だ。飯田天哉君に緑谷デク君だったよな」

 

「デク!?」

 

 俺の言葉に緑谷が大きく反応する。まぁ悪口だからしょうがない。

 

「あれ? テストの時爆豪とかってのがデクてめー! って言ってたからそうだと思ったんだけど」

 

「あの……本名が出久で……デクはかっちゃんがバカにして……」

 

「ああそうなんだ。悪いな間違えて」

 

 目も合わせず両手を左右に振る緑谷に、俺は謝った。飯田が顎に手を当てながら「蔑称か」なんて言っている。

 

 さて、こっから俺が彼の名前を付けてやるんだが。

 

(深層意識さん深層意識さん)

 

(なんなん改まって)

 

(未だにデクに頑張れって意味を感じとれないんだがどうすればいい)

 

(知らんわ)

 

 ここでお茶子がデクに頑張れって意味を与える。が、与える側の俺が何度考えても、頑張れって響きを感じる事が出来なかったのだ。

 

 唯一思いついたコジツケは、

 

 

 でくの坊って響き

 ↓

 でくの坊と言われる劣っている奴がなんか雄英で頑張ってる

 ↓

 頑張れって感じ

 

 

 という爆豪に勝るとも劣らない上から目線から来た感覚ではなかろうかと、

 

(私そんな酷い事思ってないよ!!)

 

(じゃあどういう風にデクが頑張れになったのか説明して貰えませんかねぇ)

 

 でないと悪意なく付けられた蔑称をヒーローネームにまでしてしまうのだ。それはあまりに忍びないではないか。

 

(そんなん言うならおっちゃんが好きなの勝手に付ければいいやん!)

 

(……ま、そうなる訳だが)

 

 深層意識に言われるまでもなく分かっている。だが残念な事に、俺もさしてネーミングセンスがある訳ではないのだ。

 

 下手すると常闇と同レベルの名前を付けてしまいかねない。真面目な緑谷にそれは酷だろう。

 

 しょうがない。不思議ちゃん扱いは今に始まった事じゃないしな。このまま進むか。

 

「でも「デク」って「頑張れ!」って感じで、なんか良いと思うぞ俺は」

 

「デクです!」

 

「緑谷くん!!」

 

 スピードを売りにする個性持ちなだけあって、飯田のツッコミは速かった。

 

「浅いぞ! 蔑称なんだろ!?」

 

「コペルニクス的転回……!」

 

「自分で言っといてあれだけど、いいのかそれ……」

 

 思わず言ってしまった俺に、「本当によく言えたね麗日くん」とばかりに飯田がきつい目線を飛ばしてくる。友達思いの良い奴だな。

 

「ま、何にせよよろしくな緑谷!」

 

「!?」

 

「緑谷くんをこんなに感動させといて普通に呼ぶのか麗日くん!」

 

 飯田のツッコミに首を傾げてやる。

 

「え、だって蔑称だし名前呼びするのもまだあれだし?」

 

「だ、だよね~! 緑谷でいいよ! ……はぁ」

 

「これ以上なく正論だが鬼だ……! 鬼がいる……!」

 

 緑谷と飯田が震えているが、俺は無視した。

 

 原作通りに進むにしても、フラグは徹底的に折っていく。悪いな緑谷、この体を野郎に渡す訳にはいかんのだ。

 

(え~、別に好きにさせてもいいんじゃない?)

 

(表出れないからって発酵してるんじゃねぇぞマセガキが)

 

 しょぼくれる緑谷に慰める飯田。その背を見ながら、俺はにやけ顔の深層意識に鉄拳を叩き込む妄想に耽っていった。

 

 

 




そろそろ色々変わり始める予定


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