「わーたーしーがー!!」
ガラッと開かれる扉、一歩踏み出すだけで変わる空気、教室から溢れんばかりの期待。
「普通にドアからきた!!!」
HAHAHAとアメリカンな笑い声を上げながら、オールマイトがやってきた。
本当に先生やってたんだだとか、なんちゃら時代のコスチュームだだとかでクラス中が沸いている。目の当たりにしてみると、本当に人気があるんだってのが分かる。
まぁ無理もない。別にファンでもなんでもない俺ですら、その存在感に圧倒されているんだから。
オールマイト。平和の象徴。
彼という存在は、そう名乗るに値する本物なのだろう。言葉ではなく体で理解させられた。抑止力というのも伊達ではない。
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ! 早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!」
と、生ける伝説が早速切り出した。既に臨界点に達していたクラスが沸騰し、配られたコスチュームに身を包んで我先にと飛び出して行く。
キラキラと希望に満ち溢れた彼らを見て、オールマイトも「さぁ! 始めようか有精卵共!!」と激を飛ばした。殻を破り、現実というにどうしようもない物にまみれていない可能性の塊を相手にして、思わず言ってしまったのだろう。気持ちは分かる。
うんうんと頷いている俺の肩を誰かが叩いた。
「麗日少女。落ち着いていないで君も早くグラウンドに行くんだ」
「おっとすんませんっした!」
ドアップになったオールマイトに言われ、俺は慌てて皆を追いかけだした。
*
戦闘訓練。混迷極めるこの時代にピッタリのアグレッシブな授業だ。
今回の授業で緑谷と爆豪が拳を交え、ライバルになる道を進む。メインディッシュは彼らだけで、俺ことお茶子と飯田はその添え物だ。
別に原作を引っ掻き回すつもりはないから、外から核保存庫に飛び上がって
それにしても、
「お茶子、結構攻めてるね!」
遅れてきた俺に、三奈がそう言ってくる。つられて何人かこちらを見てきた。
緑谷と峰田、お前らの目はキモいからこっち見んな。まぁ気持ちは分からなくも無いが。
何しろ今着ているのは、色々原作と違う要望を入れたはずのに
男子に理解のある俺は奴らの目線を諦めて、三奈の方を向いた。
「そういう三奈こそいい格好してんじゃん」
「ホント? ありがと!」
三奈は素直に喜ぶ。正直大阪のおばちゃんがプロレスラーになったみたいなコスとか思わなくもないが、異形系の感性はまた常人と違うのだろう多分。そこは指摘しないが吉だ。
「それに攻めているといえば、あの二人には敵わんし」
「うん? ああ確かに!」
俺の視線の先を見た三奈が納得する。
そこにいたのは八百万さんと透だ。八百万さんはその豊満ボディを惜しげなく見せるスタイルで、透は手袋とブーツしか付けない公然わいせつスタイルだ。昨日裸を見せるくらいと言っていたが、マジでやるんだなぁと驚くしかない。
俺が文化がちが~う! と思っているうちに、オールマイトが説明を始めた。原作通りの班に分かれ、戦う時が来たようだ。
トップバッターは勿論俺達。訓練場の建物に消えていく爆豪達を尻目に、俺と緑谷は突入準備を進める。
「見取り図覚えないとな。実際の現場でそんな事出来るかは別にし……おい大丈夫かよ」
何気なく見ると緑谷が生まれたての子鹿のように震えていた。爆豪の相手をするのが余程怖いらしい。
「うん……相手がかっちゃんだから……ちょっと身構えちゃって」
「まぁ爆発物振り回すガキ相手するとか怖いよな普通に。そういや俺も怖い」
「ハハハ……でもかっちゃんはただ怖いだけじゃなくて、凄い奴でもあるんだ。だから、負けたくないなって」
「……そうか。じゃあ今のは武者震いだな」
「……そうだね。そうだ。僕はこの時を……ってゴメン! 麗日さんには関係ないのに!」
「そんなん気にすんなってコンビなんだから。存分に戦ってこい」
「うん!」
緑谷が勢い良く頷く。俺も頷く。これで怖い奴は緑谷に押し付ける事が出来た。俺は飯田と適当に遊んでいよう。
知らず知らずのうちに役割分担をした後、俺達はビルの中に突入した。中はコンクリが剥き出しになっていて、当たり前だが生活感など欠片も無い。
サバゲやってた時のように壁に張り付いて進みたくなったが、緑谷がズカズカ進むので俺も合わせて真ん中を通る。戦争後遺症じゃないが、非常に落ち着かない気分だ。
爆豪が飛び出してきたのは、壁際に張り付きたい欲が最高潮に達する直前だった。
爆音がヘルメットを揺らす。着ているコスのように手榴弾くらいの爆発を起こしたらしい。
てかあれもしかしなくても
緑谷が庇ってくれたおかげで直撃はしてないが、耐爆機能有りのスーツ来てる俺と違って、緑谷のそれは単なる布だ。普通の神経をしているなら、一目散に逃げるべきだろう。
残念な事に、彼は普通じゃないが。
「おい避けてるんじゃねぇよクソデク」
そう言いながらゆらりと体勢を立て直す爆豪に、緑谷はしっかりと対峙する。その様子がまた気に食わないようで、爆豪は青筋を浮かべながら殴りかかってきた。
右の大振り。緑谷はその内側に身を滑らせる。出っ張りの多いコスに手を掛けると、爆豪相手に思い切り背負投げを決めた。
路上で柔道はマジでヤバイ。下手しなくても背骨が折れる可能性がある。爆豪が爆豪なら緑谷もしっかり相手を殺す気でいるという事だ。
ふぅ、ふぅと息を整えながら、緑谷がこれまでの因縁を語る。爆豪が何故投げ飛ばされたのか、その因果を語る。
そして、
「僕は……いつまでも出来損ないのデクじゃないぞ……「頑張れ!!」って感じのデクだ!」
そう宣言した。これまでの呪いを跳ね除けるように。
まぁそういう意味で呼んであげる人、いないんだけどね。
そう思うととてもじゃないが緑谷と目が合わせられなくなった。いや、悪いとは思うがうん。
「……そういうところがよぉ……ムカツクんだよなぁああ!!」
爆豪が派手に爆炎を上げながら仕掛ける。緑谷が「麗日さん行って!」と叫んだので、後はもう任せよう。漢の世界に入るのはご法度だ。存分に殴り合うと良い。
核爆弾を探してフロアを上がる。もう少し時間が掛かると思ったが、5階で核爆弾と飯田を発見した。
林立する柱の影に隠れて、さて緑谷を待ってやるべきか
「俺はぁ……至極悪いぞぉお」
とかいきなり言い出した。
うん、原作で知ってるし、それで笑って減点される事も覚えている。覚えてはいるが……
無理。
「ブフッ! それあかんやつや!」
クラスメイトのアホな姿に思わず突っ込んでしまう。天然モノはこれだからタチが悪い。こっちに気付いた飯田は同じテンションのままぬかったなとか言ってくるし、青山では無いがもう腹痛で死にそうだ。
さて、
「さー笑うだけ笑ったし、お手合わせ願おうじゃないか。飯田君よぉ」
「う、麗日くん。出会った時から思っていたが、外見と言動が見事に一致しないね君は」
「まぁヒーローだしキャラ付けって奴だ、ぞっ!」
「っ!? させないっ!」
言い終わる前に、俺は核爆弾に向かって走り出した。飯田はそれを遮るように身を滑りこまる。体格差を活かして押さえ込むつもりのようだ。
だが、そいつは悪手だ。
「俺対策でフロア全部の物を片付けたって?」
「っ、しまっ!?」
覆い被さってきた飯田の顎に、下から掌底を叩き込む。同時に五指で触れ、飯田を無重量化。床から足が離れた所で、その脇腹に思い切りミドルキックを食い込ませた。
「ぬおおおおっ!?」
重力という支えを失っている飯田が、勢い良く飛んでいく。壁にぶつかり跳ね返されて、またぞろ宙を漂流し始める。
「でも自分を片付けてないのは片手落ちだよなぁ?」
マスクに隠れて分からないが、今頃唇でも噛んでいるのだろう。ともかくこれで飯田は無力化した。後は核に触るだけ……
ズシンと建物全体が揺れる。爆豪が大爆発を起こしたようだ。本気で大威力だったみたいで、思わず足がふらついた。緑谷はよく凌いだよなこの爆発。
「させ、ない……っ!」
「うおっ!?」
改めて核爆弾にタッチしようとした俺の目の前を、猛スピードで飯田が回転していった。伸ばした手を引っ込めなかったら、最低でも折れてただろう。
「……無茶するなぁ飯田。熱血系はこれだから怖い」
足のエンジンを使い、無理矢理姿勢制御をしたようだ。そういえばそんな事を委員長決めでやってたなと思い出し、俺は小さく舌打ちする。
高速回転しながらも何とか壁に着地した飯田は、また漂い始める前に力強く壁を蹴った。
「怖がらせるのが今の俺の役割だ。簡単にやられると思うなよヒーロー!」
「上等だ。遊んでやるよ」
どっちがヴィランだと思える言葉を吐きつつ、飛んでくる飯田を迎撃する。スピードを活かしての低空からのタックル。膝を合わせるのは簡単だが向こうもそれは警戒するはず。
なら、
「ぬおっ!?」
両手を合わせて無重量化解除。飯田の体が地面に引かれる。目論見を外された飯田がエンジン始動。サマーソルトキックと紛うばかりの蹴りを繰り出した。
喰らえばヤバイ。だがタイミングが早い。飯田の足先を少し身を引くだけで避け、がら空きになった背中に思い切り前蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ!!」
顔面から床に突っ込む飯田。だが腐ってもヒーロー志願者。叩きつけられた反動を使い、跳ぶように体勢を立て直す。
追撃する事は出来ただろう。そこで訓練終了にする事も。だがそれじゃあ折角の授業が勿体ない。
「正直に言う。どうやら君を侮っていたようだ。だがここからはそうはいかないぞ」
飯田の方も格闘戦が出来るように構えている。向こうもやる気になったようだし、遠慮なく胸を借りるとしよう。
「そうかい。ならコスチュームのテストするから付き合え」
腰のホルスターに手を伸ばす。グリップを握る。抜く。構える。引き金を引く。
爆豪のものに比べてだいぶ控えめな爆発が俺の手の中で起きた。マスクを被っているのに「えっ?」という表情を上手く表している飯田に向けて、弾丸がまっすぐ飛んでいく。
「うぉぉおぉおおおっ!?」
あと0.1秒でも再起動が遅ければ、その心臓に弾は吸い込まれていただろう。だがすんでの所で身を捻り、飯田は俺の攻撃を避ける事が出来た。
「はぁ……はぁ……う、麗日くんっ!! なんでそんな物騒な物を持っているんだ!」
「ん? 銃くらい普通だろ? コスチュームの装備品欄に書いて支給されるくらいだし。それにこれ暴徒鎮圧用のゴム弾だぜ」
そう言いながら、俺は手に持つグロック似の角張ったハンドガンをヒラヒラさせた。スナイプのように実弾じゃないだけ有情である。
それにしてもここまで簡単に避けられるとは思っていなかった。抜き撃ち練習なんかは一応モデルガンの方でもやってはいたが、やはり実銃となると勝手が違う。出来るならばそれこそスナイプ先生に扱い方を習いたい所だ。
そんな風に今後の方針を考えていると、息を整えていた飯田が盛大に息を吐いた。
「はぁ……まぁいい。銃を持とうが当たらなければいいだけだしな」
「お、強気発言」
「これでも速さに関しては自信がある」
「だろうな。そいじゃ的役頼んます」
発言と同時に二発目を撃つ。射線は合わせていたが飯田はいない。エンジンを掛けて俺の後ろに回り込み、蹴り入れようとしてくる。
振り向かない。脇から背中に牽制射撃。それから振り向き本射撃。
飯田はそれも避けたが、攻撃のタイミングは逸した。
何度か同じ攻防を繰り返す。狙いは付けられるが弾が届く前に避けられる。弾速が光速ならいいのになと苦笑していると、ハンドガンの弾が尽きた。
チャンスと思った飯田が突っ込んでくる。エンジンで勢いを付けてのハイキック。後ろには避けられない、前進。マガジンをリリース。しゃがむ。頭上を足が通過。マガジンをリロード。
「ちぃっ!!」
マズルフラッシュが
ようやく止まった対戦相手に、俺は呆れと賞賛の言葉を送った。
「避けられるとは思わなかったぜ」
「……だろうな。俺も切り札使わなければ無理だったと思う。ここで切るつもりは無かったんだが」
悔しげに俯いてから、だが! と飯田は指を突きつけてきた。
「悪いが相手が出来るのは後数秒だ。今から手加減は出来ないぞ」
「上等、っと言いたいとこだったんだが、残念。こっちが先に時間切れだ」
「何っ!?」
一々大げさに驚いてくれる飯田に向けて、意味ありげな笑みを浮かべてやる。それをハッタリと判断した飯田が、今までと比べものにならないスピードで突進してきた。
『行くぞ麗日さん!』
「おう」
緑谷の声がヘッドセットから漏れる。直後に振動。床が割れ、破片が大量に浮き上がる。
「飯田、悪いな。即興必殺!」
崩れた柱を掴む。身長の3倍はあるバットを思い切り構えそして、
「彗星ホームラン!」
振り抜いた。
滞空していた破片がまとめて吹き飛ぶ。「ホームランではなくないかぁぁあぁあ!!?」とツッコミ精神忘れぬ飯田に、瓦礫が
その隙に彼を飛び越え、俺は核にタッチした。
悔しがる飯田を尻目に『ヒーローチームWIIIIIIIIIIN!!!』とオールマイトの声が響く。
こうして最初の戦闘訓練は、俺と緑谷の勝利に終わった。
原作にないお茶子装備その1.ハンドガン
世界中の法執行機関と絵描きの味方であるグロックシリーズっぽい銃。
実弾は(まだ)入れておらず、今の所ゴム弾のみで運用。装弾数10+1発
テーザー弾はゲイっぽいので使っていない(ネタ
気付いたら日間ランキングに載っている……だと……?
読んで頂き有り難う御座います!