第2話、始まり始まり。
この世界は三つの軍勢が互いに均衡を守りつつ存在している。
一つは、人類の力を使うレーム帝国。
一つは、七つの小国が互いに協力すると盟約を結んだ七海連合。
一つは、侵略国家である煌帝国。
これらの軍勢が現在、世界を支配しているといっても過言ではない。
しかしどれか一方がその力を大幅に強化した時、均衡は崩れ去るだろう。
そんな中、侵略国家の煌帝国の第一皇子である練 紅炎は少ない時間を趣味の読書に費やしていた。
「………」
紅炎は静かに本を読んでいるかの様に見えるが、実は彼が読んでいる本はつい先日迷宮内で手に入れた今はない世界の話がお伽話で書かれている本なのだ。
「ほう…これは興味深い……!!」
ニヤリと口角を上げる紅炎。彼は公私を分ければ知識欲の人間であり、自分の知らないことを知ることが出来るというのはとても喜ばしい事なのだ。もしできれば一日中自室で書物を読みたいと彼は考えている程に彼の知識欲は大きい。
そして紅炎が本を読み終わり、次の本に手をかけようと立ち上がった時に彼の部屋の真ん中が光り輝いた。
「……!?」
即座に腰にかけている剣を抜き臨戦態勢に入る。
しかし光は紅炎を攻撃する様子もなくしばらく光り輝いた後、
「はぁ〜やっと着いた……!え、でもここって……」
黒髪の少女レイが紅炎の目の前に現れた。紅炎は5秒程考えた後、彼女に第一声を発した。
「お前は何者だ!」
恫喝とも言えるような問いにレイは一度深呼吸してから答えた。
「まぁ落ち着け。俺はレイリス、ダンジョン攻略者だ」
「攻略者?貴様のような餓鬼がか?」
「後ろの財宝を見てそれが言えるのか?」
レイは自分の後ろにあるおおきな袋を少しだけ開いて中身を見せる。
中に入っているのは黄金のカップやら剣やらと豪華な中身だ。
紅炎はそれを見て、驚きの視線をレイに向ける。
「…驚いたな」
「まだ信じられないんなら金属器見せるけど?」
「いや…いい。お前は攻略者だ、でないとその財宝の説明とここに現れたのも納得がいく」
紅炎は攻略者が外に出る時、出現する場所がランダムであると知っていた。彼自身も攻略したダンジョンから出される時に迷宮のあった場所とはかなり別の場所に飛ばされた事があるからだ。
「そうか…てっきり牢屋とかに入れられると思ったんだが」
「本来ならするんだがな。攻略者なら話は少し変わる」
「良かった。で、ここはどこなんだ?」
「俺の部屋のだが?」
「え、マジ?」
レイは鳩が豆鉄砲を食らった様にポカンとする。
何故かと言うと練 紅炎の自室と言ったら煌帝国第一皇子の部屋だからである。一般人はもとより、煌帝国の他の皇子でさえ入るのを躊躇うだろうその部屋にレイは転移したのだから。
「本当だ。嘘をついて何の得になる?」
「それもそうか…ならここは煌帝国か」
「ほう、何故そう思う?」
「だってあんた練 紅炎だろ?煌帝国第一皇子の」
レイは転生者なので紅炎の事を知っている。これから煌帝国で何が起こるかすらも。
本来なら煌帝国の第一皇子にタメ語で喋る事は自殺行為であるが、紅炎は話のわかる人間なので多分大丈夫だろうと彼女は思っているからタメ語であるのだ。
「それを知っていてその口ぶりか」
「嫌なら直すけど?」
「いやいい。わざわざ自分の部屋で気を遣われるのも煩わしいからな」
「分かった、じゃあ一つ頼みごとしていいか?」
「何だ」
「チーシャンの町まで送ってくれない?」
チーシャン町とは領主ジャミルが治めている中規模の町である。
紅炎は何故、彼女がチーシャンの町に行きたいのかが分からなかった。あの町の領主と会った事がある紅炎はあの町が良い町とは思えなかったからである。
「何故だ?あの町は特別良い町ではないはずだが」
「会ってみたい奴がいるんだよ」
「そうか…なら手配しよう。その代わり貴様の後ろにある財宝を一つ貰おう」
紅炎はレイに揺さぶりをかける。ここで金に執着するような選択を取れば紅炎はレイを興味対象から外し冷遇するだろう。
しかしレイはなんだそんな事かと言わんばかり一番大きい財宝の山を指差した。
「じゃあやるよ」
「ほう…いいのか?」
「持っていても邪魔なだけだろ。あっ、どうせなら全部やるし換金して袋一つ分くらいの金くれよ」
「……ふっ、はははは!」
「何がおかしいんだよ?」
「いや…試したつもりがまさかこの俺が利用されるとはな」
紅炎は心の底から笑っていた。
自分の予想していた展開の斜め上に行くレイのような人間を今まで見た事がなかったからだ。
紅炎はかつてない程の興味をレイに対して抱いていた。
「面白い…俺はお前に興味が湧いたぞ」
「あっそ。で、換金してくれるのか?」
「あぁ、良いだろう。煌帝国にとって悪い話ではないからな」
「なら交渉成立だ」
レイは立ち上がり紅炎に握手を求める。
差し出されたその小さな手を紅炎はフッと笑って握った。
彼がレイの友になりたいという気持ちを感じたからだ。
そして、思い立つと即座に行動に移すのが紅炎である。
「ところで…俺からの頼みも一つ聞いてもらえないか?」
「あぁ、ある程度ならいいぜ」
「既に知っていると思うが、俺の名は練 紅炎。貴様の名は何という?」
「レイリスだ。レイとでも読んでくれ」
「ではレイリス、貴様に頼もう。俺の友になってくれ」
「あぁいいぜ。確認するけど"練 紅炎"の友達でいいんだな?」
「無論だ、誰が何言おうとお前と俺は友だ」
「じゃあよろしくな、紅炎」
「こちらこそよろしく頼むぞレイ」
こうして二人の間には友情が芽生え始めた。
後にこの話を盗み聞いていた紅覇が、驚きのあまりに色々な所に話をばらまいた事は言うまでもない。
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あの後、レイは財宝の一部を換金してもらい残りの財宝は煌帝国に寄付した。そしてそれに対する感謝の印として煌帝国宮殿内で宴が開かれた。
レイはお酒は断りつつ、煌帝国ならではの料理を食べながらこの煌帝国にいる主力キャラには全員顔を合わせておいた。
しかし公の場なので、レイは紅炎以外の全員に敬語を使った。
何故、紅炎だけ砕けた口調なのかと色々言われたり聞かれたりした彼女だが友達だからの一点張りで通した。
やがて宴がヒートアップしてくるとレイは静かに場を抜け出して外に出る。
「ふぅ…中々美味かったな」
「レイリス殿!」
夜空を見上げて少し黄昏ていたレイに槍を携えた一人の青年が声をかける。
彼の名前は練 白龍、煌帝国の王の妃である練 玉艶の息子である。
「お初にお目にかかります。私は練白龍と申します」
「私はレイリスと申します。ところで、一体私に何の用でしょうか?」
「貴方に少し訪ねたい事がありまして…」
「答えられる範囲であるならばいいですよ」
レイとて答えられない事はある。
例えば、まだ幼さが抜けていない少女なのにどうしてある程度の礼儀作法が出来ているのかなどと聞かれても前世の知識があるからとしか言いようがない。
「何故、紅炎殿に砕けた口調で話せるのですか?」
「友達だからですよ。私は煌帝国第一皇子の友達ではなく、ただの練 紅炎の友達なのですから。友達に気を遣うのはおかしいものでしょう?」
「そうですか…ではもう一つ聞かせてください」
さっきまで白龍の様子がゆったりとしていたものから突如真面目なものになる。
そして白龍は意を決したようにレイに視線を向け問いかけた。
「貴方は…私の母上、練 玉艶のご友人ですか?」
「……何故、そう思いに?」
「ダンジョンの財宝を殆ど煌帝国に寄付するなどありえない行為だからです。ですからこれは玉艶が手引きしたものと考えるました」
淡々と答える白龍。
しかし穏やかそうな顔つきをしていて瞳の奥の猛烈な憎悪を感じたレイ。彼女はそれに臆する事なく、答えを返す。
「それは間違いですね。そもそも私の様な一介の攻略者がそのような方と会えるはずないでしょう」
レイはまだ練 玉艶に会っていない。
玉艶は急用のため宴に参加していなかったからである。
レイの答えを聞くと、白龍は抱いていたわずかながらの敵意を消した。
「それもそうですね…すみませんこんな事をお聞きしてしまい」
「まぁそう思われるのも仕方ないですよ。ところで話を変えますが、白龍様は何故こんなところに?」
「姉上の様子見ですよ、酒に関してはあまり強くはないので」
「なら今すぐ止めに行った方がいいですよ。凄い勢いでお酒をお飲みになられていますから」
「本当ですか!?ならすみませんが私はこれで!」
軽く礼だけして白龍は部屋の中に入っていき白瑛を止める作業へと移った。
そしてレイはまた一人になったので夜空を見上げつつある事を考えていた。
「……」
(練 玉艶…か、確かアルマトラン時代の魔道士で極大魔法バカスカ打てた奴だよな……。今はどうかなるべく会いませんように)
しかし運命はレイの願望を裏切るかのように働いてしまった。
「あらあら…こんな所に子供が迷いこんでいるじゃないの。大丈夫?お嬢ちゃん?」
「………!!?」
レイに向かって歩いてくる女性。
その女性こそが煌帝国を影で牛耳っている張本人。
煌帝国の王の妃、練 玉艶である。
「……申し遅れました。お初にお目にかかります私、レイリスと申します」
「貴方が財宝を寄付してくれたという人ですか。人は見かけによらないものですね。初めまして、練 玉艶と申します」
玉艶の笑みに背筋が凍る様な感覚に見舞われるレイ。
しかしここで不審がられてもいけないので会話が途切れない様にする。
「ありがとうございます。玉艶様は今夜、急用ができたと聞いたため会うことが出来ないかと思っておりましたが、お会い出来て光栄です」
「そういう事を言ってもらえると嬉しいわぁ。今度、私と一緒にお茶でもしません?」
「お誘い、大変嬉しいのですが私は明日にはここを発ちますのでまたの機会にしてください」
「それは残念ですねぇ。それはまた今度にしましょう。では私は宴に参加するとしましょうか。レイリスちゃんは参加しなくて良いのですか?」
「眠くなってきましたのでこれ以上の参加は厳しいと思います。申し訳ありません」
「いいのよぉ、ゆっくりと体を休めてくださいね?」
「はい、かしこまりました」
会話を終え、玉艶は部屋の中に入って行く。
玉艶の姿が見えなくなった時、レイは安堵のため息をついて、もう一度だけ夜空を見上げて呟いた。
「練 玉艶…いずれ敵になるから注意しないと」
そしてレイは本当に眠くなってきたので指定された寝室まで向かい、眠りにと着いた。
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