すみません。
「…ふぁ…あぁ……ねむっ」
煌帝国のとある寝室の一つでレイは朝早く目覚める。
レイは一人の少女が寝るには贅沢すぎるほどの大きさのベッドから降りて洗面台に移動し顔を洗い口をすすぐ。
そして用意してもらって着た寝巻きから元々着ていた短いズボンと白シャツに着替える。
そしてそれが終わると同時に部屋の扉がノックされる。
「俺だ、開けてくれ」
声の主が紅炎である事を知ると、レイは扉の鍵を背伸びして開ける。
「鍵開けたから入ってもいいぞ」
「そうか、なら入るぞ」
紅炎が部屋に入る。彼の手にはパンが二つあった。
「起こしにくるの早すぎだろ」
「俺は色々とやることがあるからな。まぁ俺が起こす前に起きていたようだが」
「長年の習慣になってるしな」
「?」
「あ…いやなんでもない」
「おかしな奴だな」
レイの転生する前の生活は日が出る前からが一日の始まりだったのでこれくらいの時間に起きるのは造作も無いことである。
しかし、そもそもの問題であるが子供はこんな時間には滅多に起きない。自分の意思でとなるとなおさらである。
レイが行った事を含めその事に紅炎は疑問を感じたが追求はしなかった。
「それで?こんな朝早くに何の用だ?予定じゃ送ってもらうのは昼過ぎのはずだが」
「予定が変わった。今からお前を送ることにしたんだ」
「何でだよ?」
「自分で考えてみろ」
そう言われ昨日の事を思い出しながら考えるレイ。
紅炎との出会い、宴会、白龍との会話、玉艶との会話。
これらの中で紅炎が時間をずらしてでも送り届ける理由をレイは考えた末出した答えは――――
「……錬玉艶か」
「正解だ」
「やっぱり…」
「ほう…何故か分かるのか」
「多分、あいつが俺に"興味を示した"からだろ?」
「そうだ。お前とて玉艶とは関わりたくないのだろう?」
「何で分かったんだ?」
「実は玉艶と会話をしているのをみかけてな。その時お前が警戒心を隠そうとしているのを感じた」
「ばれてたか…じゃあ一刻も早く出発しないとな」
紅炎が持っているパンを取り、レイは素早く食べきると金属器アザゼルの短剣を腰にかける。
紅炎もパンを食べ、そして食べ終わるとレイに小さめの手提げ袋を手渡す。
「例の財宝を換金しておいた。持っていけ」
「サンキュー、まぁ俺が頼んだんだけどな」
「入ってるのは金だけじゃない。色々と入っているが後で見ろ」
「分かった」
レイは手提げ袋を受け取ると靴を履いて立ち上がり肩にかける。
その姿は幼いながらもしっかりとした旅人の服装であった。
「準備できたか?」
「あぁ、おかげさまで」
「では行くぞ」
紅炎はレイにそう言うと部屋を出て移動を始める。
レイも頑張って紅炎に付いて行くがやはり子供と大人の歩幅はかなり違う物なので少しずつ差が出る。
それを見かねた紅炎がレイを担ぎ上げた。
「ちょっ!何すんだよ!」
「このままお前に合わせていたら日が出てしまう、我慢しろ。不満なら抱えてやってもいいが」
「あ、いやそれは勘弁して」
「分かった」
そうしてレイは紅炎に運ばれる事五分、目的地へとたどり着いた。
そこは煌帝国第二皇子、練 紅明の自室であった。
「すまんな紅明」
「いえいえ、兄王さまの頼み事なので引き受けますよ」
「そう言ってもらえると助かる。ではすぐにでも取りかかってくれ」
「承知しました。ですが…まずはレイリス様を降ろされてはどうですか?」
紅炎は紅明に指摘されてレイの存在を思い出してすぐに降ろす。
レイは恥ずかしかったと紅炎を叱り、紅炎はそれを素直に聞いていた。
紅明はその光景を見て苦笑しながら準備にとりかかる。
「それでは少々離れていてください」
「はい、分かりました。ほら紅炎も離れて!」
レイは紅炎を押しながら少し離れる。
それを確認した紅明は軽く礼をして黒扇を持つ。
「我が身に宿れ、ダンダリオン!」
紅明の持つ黒扇の柄に八芒星が浮かんで光り、光が紅明を包む。
そして光が徐々にやんでいくとそこにはさっきの服装ではない物を着ている紅明がいた。
彼がしたのは金属器使い達が使うことのできる全身魔装である。
金属器に宿るジンに限りなく近い状態にするという全身魔装はどれも強力無比な物なのだ。
「これが全身魔装…」
「これくらいならほとんどの者ができますよ。貴女もすぐできるようになります」
「そうなんですか?」
「絶対できる、とは断言しかねますけどね」
クスッとレイに笑いかける紅明。
その目はまるで子供達の相手をするお兄さんの様な物である。
彼は内心ではレイの事をまだ遊びたい盛りの無邪気な子供として見ているようだ。
しかしご存知の通り、レイの中身は半分以上がおっさんである。
それを知れば彼は恐らく立ち直る事ができないショックを受けるだろう。
「ところで、何故私に全身魔装を見せたのですか?」
「兄王さまにレイリス様に全身魔装を見せてやれと頼まれましたので」
「全身魔装の例を見ておけば具体的なイメージが持てるだろう?」
「いいのか?敵か味方かもわからない俺に見せて?」
「例え敵だとしてもお前なら喋らんと俺は信じているからな」
「それ反則じゃね?まあそんな事はしないけどさ」
レイと紅炎は互いに笑う。
それはまるで他愛もない会話をして笑いあっているような光景である。
「兄王さま…そろそろいいでしょうか?」
「あぁ、もういいぞ」
「承知しました、ではレイリス様この円に乗ってください」
そう言うと紅明は光っている両手をかざす。
すると床に八芒星の円が浮かび上がる。
ダンダリオンは後方支援が得意な金属器、得意魔法は転送魔法である。
どれほどの物質を転送できるのかは定かではないが、いずれにせよ大量の物を転送できる事は戦争において役立つ能力である。
「今からレイリス様のみをチーシャンの町の入り口に転送します」
「何故私だけなのですか?」
「チーシャンの町は非常に遠いのでもし向こうで何かあって帰るのが遅れた場合、玉艶に気づかれかねない可能性があるからです」
「そんな事滅多にないでしょう?r
「だとしても常に最悪の状況は想定しておきませんといけません」
「…分かりました」
「すまないなレイ、本当なら見送りたいのだが」
「いいよ、別に」
「それでは転送しますので兄王さま、お離れください」
紅明に言われ後ろに下がる紅炎。
それを確認した紅明は手を上に振った。
そうするとレイのしたにある八芒星の円が上へと上がっていきレイの姿もそれに伴い消えていく。
「じゃあな紅炎、次会えたらゆっくり話でもしようぜ」
「その言葉、覚えておこう」
「あのー…一応私もいるのですが……まぁいいですか」
送るのは自分なのに何故こんなに空気みたいな扱いを受けなければならないのかと紅明は思うが、思うだけに留めてレイを転送した。
「ふぅ…転送完了しました兄王さま」
魔装を解き、紅炎の方に見る紅明。
しかし紅炎の表情が優れないことに気づく。
「……そうか」
「どうかされましたか?」
「いや…何でもない」
「名残惜しく思われているのですか?」
「そうだな」
「何故…あのような少女に?いくらダンジョン攻略者といえどもたった1日で兄王さまがそこまで思うことあるのですか?」
「……あいつは人を惹きつける何かがある、俺はそれに魅入られた人間さ」
そこまで言うと紅炎は話を切り上げ早々に紅明の部屋から出て行く。
紅炎にも色々と思う事はある。自分が何故あそこまでレイに惹かれているのか、またレイがまだ何か重要な事を隠している事も彼は気にしている。しかし、送り出したからにはもう聞けない。
そして彼は少し歩いたところで頭上を見上げた一言呟いた。
「ふっ…今度会った時にでも聞くとするか」
こうして紅炎はのちに煌帝国の国王となるが、それはまた先の話である。
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「うおっ!?着いてる!?」
高くて綺麗な声で間抜けな叫びを上げるレイ。
彼女の感覚的には目の前が暗くなった後、数秒後に別の景色になったのだから仕方ないだろう。
ちなみに、彼女が転送された場所はチーシャンの町のとある路地裏である。
レイは路地裏から出て大通りに出ると感嘆の声を漏らす。
「ここがチーシャンの町…」
まだ朝早いというのに周りを見ると店を開いている所がある。
これだけの数でも軽いお祭り状態なのに、昼になるとどうなるんだろうとレイは思う。
「って!見とれてたら駄目だ。取り敢えず生活の拠点を探しつつアリババも探さないと」
首をプルプルと振って気合を入れるレイ。
彼女の今日の目的はまず宿を取るところからだろう。
「よっしゃ!やるぜ!」
気合に満ちた声を出しながら、レイは自分の勘に任せ走っていった。
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