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「うーん…」
紅明にチーシャンの町に送ってもらったレイは今、宿屋の一室のベットの上で悩んでいた。
着いた後の行動に差し支えはなく、宿も取ることができこの町の地図を宿屋の女将さんに貰うことができ、さらにはご飯を買う時におまけまでされたのだが彼女は悩んでいた。
その理由はただ一つ。
「……アリババ見つかんねぇ!!」
彼女が探しているこの世界の主人公のアリババが見つからないからである。
レイは宿屋を取り終えた後、日が暮れるまで探し回った。
しかしこのチーシャンの町は意外に広く、道も入り組んでいるので一人の少年を見つけるのは至難の技であるのだ。ましてや少女一人だけが探しているとなると尚更である。
「どうしよう…」
出鼻をくじかれガックリと項垂れるレイ。
彼女の考えでは探したらすぐに見つかる、ぐらいの認識だったのだろう。
「…悩んでいても仕方ない。まだ時間はあるんだ」
レイは根拠も無しに言ってはいない。
何故なら彼女が昼間チーシャンの町のどこからでも見えるように建ってある大きな塔を見たからだ。
その塔は迷宮であり、そこには礼節と幻覚のジンであるアモンがいる。
レイが見たマギの話だと、アリババはアラジンというマギと騒動を起こした後そのまま一緒に迷宮に入る事を知っているので町中にそれらしい話を聞いてみたが収穫はゼロであった。
なのでアリババはまだ迷宮内に入っていないという事がわかり、まだ時間はあると思うレイだがいつそれが起こるか分からない状況下にある事もまた事実である。
「取り敢えずまだ眠くはないからあれの練習を始めよう」
そう言ってレイが取り出したのはアザゼルの金属器である短剣。
彼女も迷宮に潜ろうとしている身。自分の身を守れる最低限の事…つまり金属器を扱えるようにする練習を今から始めるということである。
「えっと…確か怠惰と生命のジンって言ってたから…」
レイは周りをキョロキョロ見渡す。
そして彼女は花瓶に備えられている花を一輪取るとベットに置く。
アザゼルの金属器は生命関係の魔法だとレイは思っているからである。
そして彼女は短剣を鞘から抜き、構える。
「………そう言えば金属器って呪文っぽいの唱えるけどアザゼルのってどんなのだろう」
前世で見た漫画ではアリババ達金属器使いは普通に呪文を唱えていたが、レイにはそれご分からない。
だからいざアザゼルの金属器を手にしてもどう使えばいいのか分からないのである。
そうしてレイは数分悩んだ末、一つの答えを導き出した。
「よし、途中まで言おう」
現在打つ手なしの状態の彼女は取り敢えず試行錯誤を繰り返すしかない。
なのでそれっぽい事を言えば浮かんでくるのではとレイは思ったのだ。
そして再度レイは短剣を構える。
「怠惰と生命の精霊よ、汝と汝の眷属に命ず。我がマゴイを糧として、我が意思に大いなる力を与えよ。出でよ、アザゼル!」
レイは漫画で覚えていたアリババの台詞をアザゼルに置き換えて叫んでみた。
ダメ元で挑んでみたつもりだったが、レイの予想に反して金属器は光り輝く。
「……!!!?」
そしてその時、一瞬の時ではあったが、レイはアザゼルの金属器の能力が頭に入った。まるで最初から覚えていたかのようにアザゼルの知識が入り込んでいったのだ。
やがて光が治るとレイは息切れしたかのように呼吸して短剣を見つめる。
「はぁ…はぁ……これがアザゼルの能力」
アザゼルの能力を理解したレイは短剣を花に向ける。
「生命の断絶≪アザベール・シャウト≫」
金属器の短剣から紫色の光が花に当たる。
すると花はみるみるうちに萎れていった。
と同時に、レイの体から何かが抜けていく感覚がする。
「あっ…えっ」
レイは慌てて生命の断絶を止める。
そして落ち着いて考える。
(今のがマゴイを使う感覚…覚えておかないといけないな)
マゴイを使う度に驚いていては使いこなせない。
そう思うレイは恐れずに枯れかけの花に剣を向け、もう一度金属器を使う。
「生命の断絶」
またマゴイが抜けていく感覚がするがレイは耐える。
そして花が完全に枯れると、生命の断絶は止まりそこには茶色に変色した変わり果てた花の姿があった。
「や…やばいなこれ……」
枯れた花を手にとって見ながらレイは呟く。
植物でたった一輪の花だけだが確かに花の命を止める事が出来たのだ。人相手に使えれば強力無比な物になるだろう。
しかし生命の断絶には欠点があった。
「…え?」
突然素っ頓狂な声を出すレイ。
何故、彼女がそんな声を出したかというとベットのシーツが赤くなっていたからである。
マゴイは生命力と直結していて多くのマゴイを使えば体が耐えられなくなり出血したり最悪死ぬ場合がある。
レイは鼻と目からから、主に鼻から血が出ている。
つまるところレイはマゴイを使い過ぎて出血しているのだ。
「嘘だろ…まさか花一本でマゴイ切れかよ……」
そしてマゴイの使い過ぎによりレイは意識を失った。
その時、生命の断絶は強力な物だがマゴイの消費が著しく激しい物だったんだとレイは意識を失いつつも思ったのであった。
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時は流れレイは翌日の昼に目覚める。
まだマゴイが完全に回復しきっていないせいか倦怠感が残る彼女だが、色々と行動しないとまずい事もあるので頑張って起き上がる。
そして彼女は真っ赤で大きな円がベットの自分が寝ている下にできているのを見る。
「やっぱりマゴイ切れか…」
昨晩、彼女はマゴイを使い過ぎた為に出血して意識を失った。
生命の断絶のマゴイ消費量が高いだけなのか、はたまたレイのマゴイ量が少ないだけなのか、理由を考えるレイだが答えが見つからない為一旦保留にしておく。
「取り敢えず…これについて謝っておかないとな…」
血に染まったシーツを見て呟くレイ。
一晩放置されたレイの血はシーツに染み込み、洗い取るのが不可能なレベルになっている。
どう言い訳をしようと考えているレイの部屋の扉がノックされた。
「お客様ー、そろそろ退出の時間ですがよろしいですか?」
「あっ、はい!」
突然の事だったので慌てて扉を開けるレイ。
しかし彼女はその行動をすぐに後悔する。
「ちょっと!ベットが血まみれじゃないですか!?」
ベットに染み付いた血を見て金切り声を上げる従業員。
それはそうだろう、自分達の商品である物が汚されたのだ。
しかも染み付いたのは洗っても落ちないであろう血液。
怒る理由はこれだけで十分すぎるほどである。
「えっとその…ごめんなさい……。弁償しますから!」
「弁償すればいいって問題じゃないでしょ!!」
(いや弁償すればいい問題だろ)
軽くヒステリックみたいな症状が出ている従業員。
それはさながらモンスターペアレントのような勢いと圧力を兼ね備えている。
「貴方ねぇ!一体どんな教育を受けたらこんな事ができるんですか!!?血まみれですよ!血ですよ!血!!」
(この人面倒くせぇ…。元いた世界でもここまでの奴はいなかったぞ)
あまりの従業員のウザさにレイの顔がピクピクと引き攣り始める。
そしてそろそろキレかけたその時、宿の女将がドタバタと慌てて部屋に入ってきた。
「なんだいなんだい!騒々しいね!!一体何の騒ぎだい!!?」
「あっ、女将!聞いてください!このお客様が私達の宿のベットを汚したんですよ!!しかも血ですよ!!血!!」
「ごめんなさい…」
「取り敢えずお前は落ち着きな」
女将は従業員の様子とベットの状態を確認すると、レイの目の前でしゃがんで優しい口調で喋りかけた。
「お客様、一体何があったんだい?」
「すいません…少し、マゴイを使い過ぎて…」
「………」
「あっ、マゴイっていうのはですね。魔道士が魔法を使う時に」
「大丈夫さ、分かってる」
実は女将の職業は元々は魔道士であった。
しかし仕事中に一度マゴイ切れを起こした事があり、それがトラウマとなって二度と魔法が使えなくなった過去がある。
なので女将はマゴイ切れを起こした時にどうなるのかを知っている。
だがか弱い少女が魔法を使えるのか?そんな考えが女将の頭をよぎるが、見た所レイが刃物で自分を切りつけたような後は無かったためマゴイ切れの考えが強くなる。
様々な事を考え、その上で女将が考え出した答えとは。
「……あたいも昔に似たような事を体験してね。だからあんたの気持ちも分かる。今回は多めに見てやるさ」
「女将!!」
「あんたは黙っとき!!」
「は、はい…」
「すみません…すぐにでも弁償を」
そう言ってレイは金が入っている袋を取ろうと動くが女将がレイの肩に手を置いて止める。
「お金はいらないよ。稼ぎ口がないんだろう?」
「…!!ありがとうございますっ!」
「別にいいさ」
「わかりました!」
女将に言われ、レイは弁償する事なく受付に行く。
女将は優しい人なんだなとレイは思いつつも申し訳ない気持ちも感じた。
そしてレイは女将に礼をして、荷物を持って外に出る。
レイが取っていたのは一泊だけだったのだ。
「本当にごめんなさい」
外に出たレイは宿の前で振り返って深く謝罪した。
そして、レイは宿に背を向け歩いて遠ざかって行った。
そのまま少し歩いたところでレイはある事を思いついた。
「あっ!!何で思いつかなかったんだ!」
名案をレイは思いついたようにレイは自分を褒めて、走り出した。
彼女の目的地は……アモンの迷宮である。
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