今回は長めに書きましたので許してください…
でも久しぶりに書いたから途中おかしくなってるかもしれないです…
その時はご指摘お願いします。
時は過ぎて日が高く出ている昼過ぎ。
レイは現在、馬車を操作しているアリババの膝の上に乗っていた。
ブーデルに葡萄酒運びを命じられたからである。アリババは嫌々ながらもその仕事を引き受けたのだ。
実はこの仕事、葡萄酒を運ぶだけだと思われるが通る道には人を食べる植物型の魔物がいるのだ。商人の間でもかなりの犠牲者が出ている。要するに葡萄酒運びは命がけなのである。
そんな危険地帯に場所を走らせている最中に、荷台の方にいるブーデルは奴隷について語っていた。
「鼠は鼠、奴隷は奴隷らしく生きんとなぁ?」
「…そっすね」
「ん?何だ、聞こえんぞ?」
「いやー、全くもってその通りですね!流石旦那様!」
「そうかそうか、ワハハハ!!」
ブーデルとの会話中、アリババは縄を持っている手を強く握っていた。
本当はこんな事なんか言いたくないとアリババは強く思っている。彼は奴隷だろうが王族だろうが皆等しく同じ人間だと思っているからだ。
しかし彼の思いは口には出せない。今喋ってる相手は自分よりも立場が上、それに加えてブーデルの商品を食い荒らしたアラジンの代わりに金を払わなければならなくなっていて下手に文句を言えないのだ。
「(仕方ない…これは仕方ない事なんだ)」
レイはそんなアリババをただ見つめていた。
何も言わずに不気味な程静かに、それはまるで何かを見守っているような眼差しで──。
「お兄さんは嘘つきだね」
ふとアリババの横に座っているアラジンが声をかけた。
その顔をいつもの能天気な顔ではなくいつになく真剣味があった。
謎の迫力に気圧されるアリババの目をアラジンはまっすぐ見る。
「そうやって他の人に嘘をついていると、いつか自分自身も信じられなくなって誰も信じられなくなってしまうよ」
「…分かってるよ。けど、いったいどうすればいいんだよっ…」
アリババの問いにアラジンは答えない。
気まずい沈黙の中、馬車は進む。
その間アリババはアラジンに目を合わせなかった。彼は今、アラジンの純粋な瞳を直視できないのだ。自分がしていることがどれだけ卑怯かを知っているから。
そして目的地まであと半分というところまで行った時に地面が揺れた。
「おいっ!何事だっ!!」
気持ちよく眠っていたブーデルが怒って外を覗くと、地面が崩れ始め馬車が飲み込まれそうな状態だった。
その時ブーデルの部下の一人が叫んだ。
「ま、魔物だあぁぁぁ!!」
最前列の方にいたアリババは振り返る、そこには蟻地獄のような形に地面が崩れ中心には人を食べるという魔物がウネウネしていた。
もしその魔物に感情があるとするなら恐らくは喜んでいるのだろう。
何故ならこんなにも沢山の人(エサ)がいるのだから。
「ブーデル様いかがしましょう!!?」
ブーデルは焦っていた。
それは他人のためではなく、自分の葡萄酒を心配しているからである。
「積み荷の葡萄酒を出せるだけ出して馬と共に避難させろ!あの葡萄酒はわしの命そのものだ!!」
「奴隷を乗せた馬車の地面が崩れそうですがどういたしましょうか!」
「馬と馬車を切り離せ!奴隷(ゴミ)如きがワシの大切な商品と釣り合うと思うのか!!」
「りょ、了解しました!!!」
慌ててブーデルの部下は奴隷の馬車と馬を切り離そうとする。ほどなくして馬車から切り離された馬はブーデルの部下によって誘導される。
しかし馬車の方は今にも魔物に落ちそうな程傾いていた。奴隷の乗っている馬車は落ちないように端の方に寄っているため落ちてはいないが荷物が空になった馬車は数台落ちていた。
「うわあああ!!!」
「誰か助けてくれえぇぇ!!」
「おかぁさぁぁあん!!!」
奴隷が乗っている馬車はパニック状態だ。いつ誰かが暴れてバランスが崩れるか分からない。
そんな状況を見たブーデルは煩わしそうに舌打ちして部下に命令した。
「おい!奴隷の入っている馬車を落とせ!!腹がいっぱいになればあいつも収まるだろう!!その隙に逃げるぞ!」
ブーデルの命令に戸惑う部下達。馬車を落とすということは乗っている奴隷を全員殺す事。そんな事並大抵の精神でできるわけなどない。
そんな部下達にブーデルは言い放った。
「ならお前らが飛び込め!!できなければ馬車を落とせ!!」
この一言で部下達はブーデルを恐れて馬車を落とそうとする。
やはりどこの世界でも上の命令は絶対という事であり、上位の立場にいるブーデルの命令に背けば厳しい制裁が待っているのだ。
それはアリババとて例外ではない。
「(どうすればいいんだ…。誰か…誰か助けろよ!)」
「おい!アリババも早くしろ!!」
「は、はいっ!!」
ブーデルに言われて動こうとした時、不意に彼の脳裏にアラジンの言葉が再生された。
─────そうやって他の人に嘘をついていると、いつか自分自身も信じられなくなって誰も信じられなくなってしまうよ
その言葉が彼にきっかけを与えた。
「おい?どうした!!早く──うぐっ!!」
「……誰かじゃねぇ!俺がやるんだ!!!」
彼は決意を持ってブーデルを殴り飛ばした。
そしてブーデルの首に短剣を突きつけ叫んだ。
「今すぐ馬車を引きあげろ!!じゃないとお前を切る!!!」
「な、なな何をする!!?ワシを切れば貴様は大罪人になるぞ!!」
「それでもいい!!だから早くしろ!!!」
アリババの脅しが効いたのか、ブーデルの部下達は馬車に紐をくくりつけて一斉に引っ張る。
「正気かアリババ!?たかが奴隷の為に自分を犠牲にするなど!!」
「奴隷だろうが何だろうが俺は救える命を救いたいだけだ!!!」
馬車はゆっくりと着実に上がっていく。
しかし悠長に馬車を引き上げている時間はあまりない。
いつ崩れるかも分からない地面に加えてすでに馬車の端の方の地面は崩れて始めている。
「頼む…頼む!!間に合ってくれ…!!」
アリババは切に願う。
その願いが届いたのか、馬車はあと少しで引き上がる所まで来た。
しかしあと少し、あと少しと言うところで現実は非情な結果を突き付けてくる。
「ま、魔物が動き始めたぞ!!」
「うわああぁぁぁ!!!」
「な、何だって!!!?」
今まで動かなかった魔物が痺れを切らしたように触手をアリババ達がいる所に振り下ろしているのだ。
馬車を引き上げるのに夢中になりすぎていたため避難はできない。
「ここまで来たってのに!!くそっ!!」
(また守れなかった、全部俺のせいだ)
自分を責めるアリババだが無情にも触手は落ちてくる。
しかし誰もが万事休すと思い目を瞑った時、奇跡は起こった。
「生命の退屈≪アザベール・リープ≫」
「───!!?」
誰がが呟いた呪文により魔物の触手はまるで電源が落ちたようにその場で停止した。
「あーもうめんどくさいなぁ」
聞き覚えのある声。アリババは後ろを振り向きその声の主を確認する。
そこには気怠そうな表情で頭を掻いているレイの姿があった。
しかし彼の知っているにこにことして可愛らしいレイとは雰囲気が全く違った。
「は…え?」
驚きのあまりに声が出ないアリババ。
そんな彼を見かねてかレイはアリババの背中を平手打ちした。
「チェストー」
「うわっ!痛って!!」
「ボーッとすんな。驚いてるかもしれないけど今まで猫被ってただけだから」
「お、おう」
「魔物は俺が止めておく。その間に馬車を引き上げろ」
「わ、分かった」
淡白な会話を交わした後、レイは再度振り下ろされる触手に向かって自身が持っている短剣を振るう。
その時短剣から緑色の斬撃が飛んでいき触手に当たる。すると触手は電池が切れたように止まる。
これはアザゼルの能力であり、触れる物全てを10分ほど行動不能にする斬撃だ、ただし生物限定である。原理を言えば、斬撃が当たった対象の意識を一時的に飛ばし動きを止めるという技なのである。
「す、すげぇ…!!」
「こっちに見とれるな!!さっさと引き上げろ!!」
たしかに魔物の触手を止める事は出来るがあくまでもそれだけ。
意識を飛ばす斬撃は普通の人間相手なら非常に便利だが、大きすぎる生物に関しては部分的にしか意識を飛ばせない。
よって現状、倒す手札はレイには無い。
アリババはレイに急かされて馬車を引き上げさせるのを再開する。
ブーデルの部下達は本当ならば今すぐにでも逃げ出したいのだがそんな事をすれば最悪領主に罪人にされかねないので黙ってアリババに従うしかない。
「皆!引き上げるぞ!!」
誰かが叫んだ言葉で部下達は力を込めて引く。
馬車は徐々に上がっていく。
そして数分後、馬車は引き上げられて地面に着いた。
「や、やったぁぁぁ!!」
「ありがとうございます、ありがとうございます…!!」
「助かったぁぁぁ!!」
歓喜の声が上がる中、レイは息を切らしながら次を考えていた。
「(さて…次はどうする?少なくとも今の手札じゃ魔物を足止めくらいしか出来ないしな…。それに原作の話の流れと全然違うから対処しづらい)」
彼女が知っている話では奴隷の入った馬車からモルジアナと子供の奴隷が魔物の所まで落ち、それをアリババがアラジンに協力されながらも助けアラジンと共にアモンの塔へ向かうという話なのだ。
だが現実はアリババがブーデルにナイフを押し当て脅している状態である。
「(それにしても、誰かじゃねぇ俺がやるんだ!…とか言って人に刃物押し当てて脅すってアホだろこいつ……)」
後で注意しようと思ったレイは脱線した思考を戻す。
過程がどうあれ奴隷の乗った馬車は引き上げられた。あとは逃げるだけなのだが、今のレイでは魔物の足止めが限界でありジリ貧である。
一応レイの知っている流れでは、アリババが奴隷を助けた後にアラジンが空飛ぶターバンに酒樽を乗せて魔物にぶつけてベロンベロンに酔わせるのだが───
「お兄さん!!後は任せて!!」
「(来た!)」
レイの頭上を一枚の布が飛んでいく。
その布の上には大量の酒樽とアラジンが乗っていた。
ちなみに原作を知っているレイ以外は驚きで固まる。
しかしブーデルだけはいち早く我に戻った。
「お、お前!!その酒樽は!!!?」
「確かこの魔物はお酒に弱かったんだよね!」
慌てふためくブーデルに満面の笑みを返すアラジン。
アリババは空飛ぶターバンに目が釘付けになってブーデルを離してしまう。
「その酒樽はワシの物だぞ!お前が一生かけて働いても買えない葡萄酒なんだぞ!!!?」
「そーれ!!」
ブーデルの必死の制止もアラジンには届かなかったようで魔物に目がけて大量の酒樽が次々に落ちていく。
しかし酒樽を魔物の周辺に落としても、魔物が栄養を吸い取る口の部分に酒を入れないと意味がない。
そして不安なことに魔物の口の部分は殻みたいな物できっちりとガードされている。
それを知っているレイは非常に焦る。
あれを無駄にしたら次はない、そうなれば終わりだ。
そう思ったレイは金属器に残りのマゴイを使って魔物の口を覆っている殻目がけて斬撃を繰り出した。
「アザゼルの剣≪アザベール・サイカ≫!!」
金属器から放たれる緑色の斬撃は超速度で飛び、酒樽が落とされるよりも前に魔物の口を覆っている殻に当たる。
すると殻が一瞬にして腐り落ちて穴が空いた。
「どうだ…!!?」
突然殻が腐り落ちた事により、魔物は驚いて殻を開いた。
そしてそこ目がけて酒樽がどんどん落ちていく。
「よし、何とか間に…あった」
安堵するレイだったが目からは血が少し流れている。
その血をすぐに拭ってフラフラする足を動かす。
「あぶな…ギリギリ、だったか」
やはりマゴイの容量オーバー手前まで金属器の力を使用した反動は大きい。
そう思ったレイの元にアラジンが近づいてくる。
「レイちゃん…君は一体…?」
「話は後だ。取り敢えず…逃げるぞ」
レイはアラジンの空飛ぶターバンに乗り込む。
その乗り心地は独特ので何とも表現しにくいものだった。
「(あぁ…そうだ。アリババも拾っておかないと…)」
そう思い彼女はアリババの方に目を向けようとする。
だがしかし、体が限界を迎えてしまい倒れてしまう。
「大丈夫!?」
「大丈夫なわけ…ないだ…ろ……」
そう言ってレイは気絶する。
アラジンはレイに向かってありがとうと小さく呟くとアリババの元へ移動した。
「やっぱり嘘つきだねお兄さん。本当の事言えるじゃないか。でも人に刃物を向けるのは良くないんじゃないかな…?」
「あ、あの時は他に方法が無かったんだよっ。それに何であんな事が出来たのかよくわかんねぇし」
「…それはきっと君の本心なんだ。身分に関係なく誰かを助けたいと願う気持ちがね」
アラジンは満面の笑みでアリババに手を差し伸べる。
「決めた!僕、お兄さんと友達になりたい!僕と一緒に旅に出ようよ!!」
アリババはアラジンの真っ直ぐな瞳を見る。
その瞳には一切の邪心は無く、アラジンは心の底から友達になりたいのだと彼は直感的に感じ取った。
数時間の様に感じる数瞬の後にアリババはアラジンの手を握る。
「……あぁ!一緒に行こうぜ!!」
彼はターバンに乗り込む。
彼らを乗せたターバンは空高くまで上がり大いなる旅路へと足を動かしたのだ。
━━━
「おいっ!アリババとガキ2人はどこへ消えた!!あれはワシの葡萄酒なんだぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ブーデルが大損害をくらいあわや首が飛びそうになったのは別のお話。
何かだいぶ原作からかけ離れた気がする……