終わる幻想郷-Last Word-   作:くけい

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幻想郷の夜にむけての夜想曲
Dark side of the star


 幻想郷の夜にむけての夜想曲

 Dark side of the star

 

 

 偽りの月が照らす深き夜。

 八雲紫の登場により、異変解決へと動き出す。

 魔法使いの二人が、紅魔館の二人が、冥界の二人が去り、部屋には八雲紫と巫女だけになった。

 

「主の横恋慕しといて、よく言うわね」

「リボンまで変えて、あの魔法使いの気をひいて……」

「今の貴女のことを知ったら、あの子はどう思うのかしら?」

 

 顔面を叩き付けられる。

 紫は髪を引張り、巫女の顔を天に向ける。指で口をこじ開け、開いた喉に丸薬を押し込む。

 

「三分待ってあげるわ」

 

 スキマ妖怪はそう言い外へと出て行った。

 八雲紫の言う事が本当なら、もう時間がない。

 博麗はずっと八雲紫の奴隷だっただろうか?

 母もまた霊夢と同じ目にあったのだろうか?

 体を起こす。

 何か出来る事は――

 おそらくは――ない。

 

「あはは」

 

 ただ、乾いた笑いしか出なかった。

 痛む体を起こし、家系図を丸テーブルの上に置いた。

 彼女は思考を巡らす。

 何か出来る事は――

 出来る事は――

 彼女は、棚から一枚の護符を取り出し、壁に向けて放る。

 護符は大きく広がり、中から自分と同じ姿の巫女が現れた。

 

「静かに」

 

 現出した巫女の口を押さえ、警告する。触れた手から、これまでの記憶を流し込む。

 数秒経ち、彼女は手を離した。

 

「これって」

 

 動揺する彼女に向かって、巫女は小さな声で喋る。

 

「いままで起きたことよ……いつか、霊夢は必要に迫られて貴女を呼び出すわ……だから、貴女は私のように失敗しないで」

「……」

「時間が経てば、ここに十六夜咲夜が戻ってくるわ、日傘を取りにね。その間に、情報収集をお願いしたいの。霊夢にも知られずにね。八雲紫を出し抜くための情報を探って」

「探すって、こんな夜中に」

「大丈夫。きっと近くにあるわ」

 

 言葉を一度切った。

 

「最後に、私の、貴女との記憶消して。あの子には気取られたくないの」

「消すって、そんな簡単には……」

「記憶を送ることが出来たんだから、消すことも出来るわ。私は……もうガラクタだし」

 

 彼女はもう一人の自分に手を伸ばし――

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 八雲紫に関わらせたくはなかったのだが、主人である吸血鬼は割とわがままな部分があるため、日傘を博麗神社に置き忘れると言う形で強制的に、夜明け前までにこの異変から退場するように、メイドの十六夜咲夜は設定した。

 神社を出るときに主人に指摘されれば、水の泡だったのだが――

 冥界の亡霊――西行寺幽々子に敵愾心を持った主人は日傘など気にせず、冥界の二人を出し抜くことに執心していた。

 結果として、それは鈴仙・優曇華院・イナバの能力のため有耶無耶になり、神社に二人は向かった。

 

 

 神社はここを出る時と変わらず、明かりは付いていた。紅魔館の二人は部屋を覗くと、そこには神妙な顔をした赤白の巫女が座っていた。

 

「あっお帰り」

 

 こちらに、気がついた巫女は、気さくに声をかけた。

 

「なんで、あんたがここにいるのよ?」

 

 吸血鬼は驚いたように相手に問う。

 

「あんたが解決するのが仕事なんでしょう」

「お嬢様、この人は……違います」

 

 主人の言葉に重ねるように従者が言う。

 

「あら? よく分かったわね……まぁ、当然か」

「あんたたちが先に戻ってくると思ってたわ」

 

 そう言って二人の前に日傘を差し出した。

 

「待ってた……と、言う感じですね」

「……そうね。貴女に頼みたいことがあってね」

 

 少し寂しげに巫女は笑う。

 

「いきなり頼むのもあれだから、まずは世間話でもしましょうか」

 

 巫女は吸血鬼を見る。

 

「レミリア、あんたの妹は元気?」

「……何が、言いたいの?」

 

 唐突に妹のフランの事を聞き、レミリアは顔をしかめる。

 

「別に、いつもと変わらないわ」

「そう。じゃあ次。あんたの能力って、その妹の為って感じがしない?」

「……」

「未来視と対象者の存在。まるで適正者を事前に見つける為の手段じゃない?」

「……」

「紅美鈴、パチュリー・ノーレッジ。二人が適正者だと知ったのはあんたの能力じゃないの?」

「そうよ。だから、何?」

「あんたは、妹をずっと地下に幽閉するつもり?」

「そんなのあんたに関係ないでしょ? 私の質問に答えなさいよ」

 

 レミリアの声に苛立ちが少し覗く。

 

「能力を制御させないと、いずれ取り返しがつかない事になるわよ」

「こっちの事情を知りもしないで、勝手なことを言わないでくれる」

 

 レミリアの声のボリュームも怒気も強くなる。

 

「西行寺幽々子」

 

 唐突に神妙な顔をし、巫女は亡霊少女の名を言う。

 

「……あの亡霊女が、何よ」

「彼女の能力は知ってる?」

「知ってるわよ。本人から聞いたし。ねえ咲夜」

 

 主に問われ、従者は「はい」と答えた。

 

「あんたの妹と似てない?」

「あんな女と同じな……訳……ないわよ」

 

 触れたもの壊す能力と、指先一つで生命の糸を切断させる能力。容易く相手を絶命させるが、それほど似ているものだろうかと、咲夜は思ったが、主の口調は滑らかではなく、思い当たることがあるようだった。

 

「彼女は生前、自身の能力をコントロールできていなかった。知らず知らずに能力を使い、近しい者を殺めて……最後は一人になって、自尽したのよ」

 

 三人の間に沈黙が降りる。

 咲夜は主人を見る。

 後ろから見ているため、表情は見えない。

 咲夜は思う。

 レミリアもまた自身の能力を理解するまで、色々とあったのではないか。

 しかし、それを問う事はしない。

 

「フランもそうなるって言いたいの?」

「さあ、でも能力を制御できたほうがいいでしょう?」

「……でも、パチェは」

「居候の魔法使いも全知全能なわけじゃないんだし、色々と調べてみたら」

「……本当に治ると思う?」

「さあ? でも、何もしないよりはましだと思うわ」

「……」

「さて、世間話はこれでおしまい」

 

 巫女はくだけた表情をし、言葉を続けた。

 

「こちらの頼みを聞いてもらえる?」

「……話によるわよ」

「簡単な事よ。私はこの護符の中に戻るから、その護符をそこの棚の中に戻して欲しいの。ここに」

 

 巫女が指さす先をメイドが見つめる。

 

「分かりました」

 

 レミリアの代わりに咲夜が答えた。

 

「……このことは、霊夢には内緒、と言うことですね」

「察しがいいわね。流石は紅魔館のメイドね」

「褒めても、何も出ませんよ」

「単なる感謝の代わりよ」

 

 とらえどころのない笑みを浮かべ、巫女は札に吸い込まれるようにして消える。

 収縮した護符がはらりと色あせた畳の上に落ちる。それを拾い、咲夜は頼まれた通りに、護符を棚へと仕舞った。

 

 

「咲夜はどう思う? さっきの話」

 

 正常化された月明かりに照らされた主人の表情は少し重い。

 

「西行寺の生前の話の信憑性は分かりませんが、能力を制御できるに越したことはないと思います。お嬢様の能力がフラン様の為のものなのかは、それは私には見当がつきません」

「……」

「……」

「まったく、人がどれだけ苦労してここに来たと思ってんのよ」

 

 怒っているわけではないだろうが、咲夜は主人を宥めつつ博麗神社を後にした。

 




NEXT EPISODE 【断章2】
そこには、巫女の遺体が転がっていた。
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