【7月25日(1)】
翌日、再び東風谷早苗は博麗神社の地を踏んだ。
古ぼけた拝殿の前には二人の少女が談笑している。
一人は赤と白の巫女服を纏った黒髪の少女。髪は白いフリルをあしらった赤いリボンで留めている。
もう一人は昔の魔法使いをイメージしたような白のブラウスに黒のスカート。長いブロンドの髪を隠すような大きな黒の帽子を被っている。
二人共自身とそう年齢が変わらない感じに見える。
早苗は腰に挟んだ大幣を抜き、ぴしゃりと赤白の巫女に向けた。
「貴女がこの博麗神社の霊夢さんですか?」
「……そうよ。あんたは……」
霊夢はうさんくさそうな顔で緑髪の少女を見る。
「私の名前は、東風……」
「東風谷早苗、でしょう?」「東風谷早苗、だろう?」
「そう、東風谷早苗で……あれ? どうして」
かっこよく名乗ろうとした出鼻を挫かれる。
どうして、この二人は私の名前を知っているのだろうと、首をかしげる。
「鈴仙が言っていたわよ。最近外から来たそうね」
「うっ……そうです」
まさかそんな形で、知られてしまうとは。早苗は呻く。
「単なる挨拶って訳じゃなさそうね」
赤の巫女は睨みつけるような目で、早苗を見る。その目に怯まず、緑髪の巫女は目的を告げる。
「そうです。私達は山の信仰を手中に収めました」
「しんこう?」
風祝の少女の言葉を魔理沙は聞き返す。
「次は貴女の所の信仰を頂きに参りました」
「漬け物なら、店に売ってるぜ」
「お新香でも香の物でもありません。信仰です」
「信仰ねぇ……参拝客なんて、来たことあったっけ?」
魔法使い風の少女が、おめでたそうな色の巫女に聞く。
「見たことないわ。大体こんな辺鄙なところまで来る人なんて、魔理沙ぐらいだけだし」
「里から遠すぎるんだよなぁ」
「ふっ、信仰を集めるカリスマのない巫女は不要ですね」
目を輝かせ、早苗が宣言する。
「なら守矢神社が、貴女に変わって管理してあげましょう。奇跡を起こす私にかかれば、こんなおんぼろ神社でも人々の信仰は簡単に得られるわ。そうすれば、この幻想郷の信仰は全て守矢神社のもの……」
博麗の巫女は冷めた目で熱く語る守矢の巫女から目を反らし、踵を返す。
「それもいいかもね」
「……おい、霊夢。お前、あんな事があったからって……」
黒白少女の声を無視し、赤白の巫女は賽銭箱の裏にまわる。引き出しを開けるような音がした。箱の中身を確認しているようだった。
「……と思ったけど、私の知らないうちに参拝している人が居るみたい」
黒髪の巫女の手には一枚の通貨あった。これ一枚で買える物などないが――
「参拝してくれる人がいる以上、勝手に鞍替えするわけにはいかないわ」
毅然と宣言する博霊の巫女。
と、空を切る音、瓦が割れる音、木が砕ける音、そして何かが地面を叩き付けるような音が連続で聞こえた。
博霊の巫女と魔法使いの地面が揺れる。
「おい、地震か」
砕けた瓦が地面に落ちる。拝殿の柱が軋み声を上げる。揺れはどんどん大きくなる。
拝殿の近くに立っている二人は、揺れに耐えきれず座り込んだ。
しかし、彼女らから数メートル離れた早苗には立っていられないほどの振動は感じられない。
地なりが響き、地震は止まない。
やがて、拝殿が左右にぐにゃぐにゃと大きく揺れ動き、そして――
けたたましい音と共に、拝殿は倒壊した。
「……」「……」「……」
ガラッと瓦礫が音を上げると、早苗が見ている前で崩れた拝殿から小岩が、天へともの凄い勢いで上っていった。
二人にはそれが見えたのかは分からない。ただ揺れはおさまっていた。
「なに?」
「おさまったか?」
魔法少女がきょろきょろと周りを見回し立ち上がる。周囲には薄く土煙が漂っている。
博霊の巫女も立ち上がった。崩れた拝殿を見、そして早苗の方を見る。
その目が鋭い。
「これが、あんたのやり方って訳?」
「えーっと」
早苗は返事に窮する。身に覚えがない。神奈子、諏訪子の二神がこれを行ったとは思えない。やっているなら、感覚で分かる。
「とりあえずは、今日はこの辺で……」
答えようにも、解答を知らない守矢の巫女は焦り、そう言ってこの場から逃げ出した。
「どうする?」
「魔理沙の魔法で元に戻らない?」
「いやぁ、これはさすがに。復元するにはさぁ……」
後ろ髪を掻きながら、簡単に復元魔法について説明する。
「だから、瓦とか、簡単なものなら元に戻せるよ。こんな風に」
魔理沙は真ん中で割れた瓦を拾うと呪文を唱え、瓦を元通りにした。
「後は、建築は大工の仕事だな」
「霊夢は、どうする?」
「こんな事されて、このまま黙っている訳にはいかないわ」
博麗神社に一人残された魔理沙は、瓦礫から瓦を拾い復元させていく。瓦礫からと言ってもまずは地べたに転がった瓦から取りかかった。
一刻ほど、作業をしていると「これはまた酷い」と少女の声が後ろから聞こえた。
見ると、魔理沙より一回り小さな少女が立っている。
小さな体躯は白い袖のない服に、紫色のスカートに包まれ、ブラウンの長髪にねじくれた二本の角が生えている。手首には囚人が引きちぎったような短い鎖が垂れ下がり、右手には瓢箪を持っていた。
そして、少女の隣にはスキマ妖怪の式神――八雲藍が立っていた。
「霊夢に用事か、あいつならいないぜ」
「知っている。用はこっちにある」
真顔で言う魔法使いの言葉に、妖怪狐は顎で壊された拝殿を示す。
「もう一人の霊夢は、そっちにいるのか?」
「ええ。彼女には役割がありますので」
「役割?」
「狐っ子。図面はあるか?」
角の生えた少女が、魔法使いと式神の会話に割って入る。
「ええ、こちらです」
八雲藍は袖口から筒状に巻いた紙を取り出し、少女に渡した。
「萃香殿、数刻したらこちらに戻ります。足りない物はその時に……」
「まぁそれでいいよ。お酒の方は宜しく」
手短に予定を伝え、妖狐はスキマを開き消えていった。
「あんたは?」
手首に繋がった鎖を揺らし、黒白の少女に問いかける。
「ここに遊び来たんだ。ここの巫女――霊夢の友人だよ」
「さて、その様子だとあんたも手伝ってくれるよな?」
萃香と呼ばれた少女が、魔理沙の周りに整頓して置かれている瓦を見て笑顔で言う。
「それはいいさ。お前は、鬼なのか?」
「鬼を見るのは始めてか?」
「霧雨魔理沙だ。初めてだよ」
「そうか……まだ、あいつは……」
萃香は口を押さえて小さく呟き、「まあいいか」と小さく零した。
「さて、仕事を始めるか」
小さき鬼――伊吹萃香がそう言うと彼女のの周りに白い霧が立ちこめ、その姿が埋もれてしまう。その霧から、握り拳ほどの大きさの萃香が次々に飛び出す。
霧が次第に消え、そこには百を超える小人の萃香が立っていた。
「分身の術か?」
少しばかり魔理沙は顔を顰めた。てくてくてくと一体の萃香が前に出て疑問を返す。
「まあ、そんなものかな。他にも、巨大化したりも出来るが……天狗の奴らに……いや、今は意味がないか」
言葉を濁し、小人の萃香は「解体作業はこちらでするから、直せるものは直してくれんか? 無理強いはせんが」と魔法使いに聞いた。
「式神が恐らくフォローするだろうし」
「私に出来ることなら構わないさ」
了解の返事を聞くと崩れた萃香の大群は拝殿に群がり、瓦や柱などを軽々と持ち上げていった。
伊吹萃香 密と疎を操る能力
分裂や巨大化他、色々
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DNA認証を開始する音が、イヤリングを通して伝える。