終わる幻想郷-Last Word-   作:くけい

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【7月25日(3)】

【7月25日(3)】

 

 

 帰る道すがら、どうしたものかと霊夢は頭を悩ませる。

 元凶である二柱に修復を命じるわけにはいかない。そんなことをすれば、裏で何か仕掛けを施しそうだったからだ。

 里の大工に頼むしかない。

 拝殿の建て直しにどれぐらいお金がかかるのか。

 質素な生活を送り、蓄えはある程度あるが、少ないにこしたことはない。

 とりあえずは自分でできることがあれば、何かあるだろうか?

 里にいる大工屋に立て直しの見積もりなど出して貰うのは後にして、霊夢は一度神社に戻った。

 崩れた拝殿は解体され、その手前にぽつんと小さな人影があった。

 こちらの気配に気付いた、ねじくれた角を持つ少女がぽかんと口を開け、こちらを見つめる。

 すっと石畳に足を下ろすと、自分より一回り小さいその少女に声を掛けた。

 

「何? 私の顔に何かついてる?」

「……おっと。いや、失礼」

 

 かぶりを振り、少女は詫びた。

 

「今期の巫女は、えらく美人だったもんでな。見とれてしまっての」

「始めて言われたわ、そんなこと……嘘っぽいけど」

 

 喜ぶでもなく、霊夢は言葉を続ける。

 

「今期って。てか、あんたは誰なのよ?」

「私の事を知らないのか?」と、少女は首をかしげる。

「知らないわよ。初めて会うのに……」

 

 自分でも初対面な感じの台詞をのたまっていた分際で――

 

「巫女は勘が良いと聞いていたからね。私の名前は、伊吹萃香って言ったら分かるかな?」

「……スキマ妖怪の仲間ね」

「仲間と言うより友人だよ」

「その友人が、ここに何の用なの?」

「何って。そりゃあ、この崩れた神社を直すためだよ。紫に頼まれてね」

「あの女がどうして……」

「どうして、ここが紫のお気に入り場所だから、かな?」

「そんなわけ……」

「あんまり知らないようだね。伝えられていないのかな?」

 

 博麗神社の移設は結界の管理をしやすいため、加えて秘匿すべき事柄があるからだ。

 上白沢慧音が説明していた。

 鬼は巫女の前で、開けっぴろげに能力を見せた。かなり自分の腕に自信があるのだろうか、それとも――

 霊夢は考える。

 あの女にとって必要なのは、巫女であって神社そのものではないはず。

 その疑問を言うと、からからと萃香は言葉を返す。

 

「ここは友人の家だからね。おっと、これは言わない方が良かったのかな?」

 

 人をあんな地獄のような責め苦を味合わせた女が、友人?

 

「……あんたは、その人を見たの?」

「少しね。もう大分昔のことだからね」

 

 少し嬉しそうにしながら、「あんたに似て美人だったよ」と言い、遠くの方を見た。

 わざと波風を立たないように、そんな言い回しをしているのだろうか?

 

「……」

「早く仕上げてくれって事で、夜通しの作業になる。順調にいけば、明後日には元通りだよ。その間までお友達の家でゆっくりしていると良いよ。黒と白の魔法使い。ええっと、キリサメ……」

「魔理沙」

「マリサね。あの子にそう頼んどいたから。そっちでしばらくゆっくりとしてるといいよ」

「そんなに簡単にいくものなの? 使い物にならないものだって沢山あるでしょう」

 

 目配せで、へし折れた柱の木を示す。玩具の家を造るのとは訳が違うのだ。それとも、妖にとってはたわいのないことなのか。

 

「それは狐の方がなんとかするよ。あいつは几帳面だから、いや計算が出来るから、きっちりしたいのかな? まぁ、とりあえずはきちんとした寸法の物を出してくれる。あのスキマを使って、バツンって木を切断してね」

 

 空間の開閉。能力上、それが出来てもおかしくはないだろう。

 霊夢は改めて、周りを見る。魔理沙が直したであろう瓦。割れて、あるいは変形した材木。使える材木――石筆番号が振られている――ときれいに分けられている。

 

「心配することはないよ。変なことはしない。というか私はそんなこと興味ないし」

 

 意地で拒んでも仕方がないことなのか。

 状況はそんな感じだった。

 とりあえずは任せてみて、仕上がった物を見て判断しようと、霊夢は考えた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 霊夢が萃香と出会った頃――

 

「随分と疲れた顔、しているわね」

 

 と、青白の巫女が自宅に戻ってきた八雲紫の顔を見て、そう言った。

 式神は何も言わず、グラスを用意し氷と酒を注ぐ。

 その酒を紫は一気にあおる。

 

「なに? やけ酒?」

 

 リビングに当たる部屋で本を片手に青白の巫女は、にやにやと笑いながら茶化した。

 

「別に、ちょっと疲れただけよ」

 

 ぶっきらぼうに言葉を返す。空になったグラスに、八雲藍が黙って酒を注いだ。

 まったく、あの天人くずれめ。と、忌々しく心の中でスキマ妖怪は毒突いた。

 天人の体が頑丈なのは知ってはいたが、こちらの放った光弾やくないは天子の体をほとんど傷つけなかった。

 服がぼろぼろになってもお構いなしに突進してくる。

 全裸で生娘のような体を男どもの前に晒しても、余程のことがない限り平然としていそうな神経の、少女というより餓鬼だ。

 とはいえ、痛覚はある。

 叩けば叩くほど動きは鈍くなり、やがて倒れた。

 眼や口腔、性器にはさすがに弾くことや激痛に耐える――というか、攻撃を弾くとは思えない――とは思えない。

 次にくだらないちょっかいを出そうものなら、そういった手段に出るのもいいだろう。

 その方が短期で決着がつくだろうし、痛みでもがくあの天人くずれを眺めるのも悪くはない。

 妖力は無限ではない。例年通りの冬眠をしていないし、切断された腕を治したりと妖力はそれなりに消費している。

 妖力を消費しすぎれば、この世界に展開した幻と実体の境界の維持が困難になる。それだけは避けなければいけない。

 

「紫。明日私、早苗に会いに行ってくるわ」

 

 物思いにふけっていると青白の巫女が予定を告げた。

 

「どうして?」

「どうしてって彼女、かなり使えるでしょ?」

 

 何が言いたいのか、いや――

 

「今、博麗の血をひくのは霊夢、ただ一人だけ。千年の歴史の中で血をひく者は、最低二人はいた、そうでしょう?」

「つまり、貴女は――」

「そう彼女も計画の歯車になって貰うの。方法は二つ」

 

 巫女は指を二本立て、言葉を続ける。

 

「一つは博麗、守矢の両名で抑止力として機能させること」

 

 指を一本折る。

 

「もう一つは霊夢と早苗でセックスして、子供を作ること。もちろん、東風谷早苗が孕んでね」

「……」

「霊夢と魔理沙の子供、霊夢と早苗の子供。一度に二人も継承できるわ。やったね、これでひと安心だね」

 

 機器とした表情で巫女が喋る。紫は肯定も否定もせず黙っている。

 

「って言ってもね、私としては、最初の方がいいんだけど」

「それは貴女があの魔法使いと一緒に居たいから?」

 

 言うと巫女がむっとした顔を作る。

 

「一緒に居られるわけないでしょう? どうせ、あんたが止めるんだから」

 

 ため息が一つ。

 グラスの氷がからんと音を立てる。

 

「私が早苗とセックスしたいのよ」

「……」

「別に構わないでしょう?」

 

 八雲紫は答えない。式神も何も言わない。

 

「あの護符、調べてみたんだけど、私が使っても孕ませることが出来るみたい」

「……貴女は、相手は誰だっていいんでしょう?」

「そうよ。私は綺麗で可愛く魅力的な子なら何でもいいのよ。紫と、だっていいんだよ?」

 

 巫女は指に黒髪を絡ませながら、無垢な笑顔をスキマ妖怪に見せる。

 八雲紫は答えない。式神も何も言わない。

 冗談だと思っているのだろう。

 が、「冗談はそのくらいでいいわ」とぼそりと紫が呟いた。

 

「そう。でも、早苗を味方につけることは、あんたにとっても得だと思うわ」

 

 今のところ彼女はこちらに言われたことを従順にこなしている。自分の立場も、こちらが望んでいることもほぼ知っている。

 彼女の動静は今のところ問題はない。

 しかし、他者との接触は霊夢との会話の齟齬が生まれる。

 

「双子の姉だか、妹だか言えば、問題ないでしょう?」

 

 思慮している問題を言い当てるかのように巫女が言った。

 問題が起これば、力でねじ伏せればいい。

 

「……あんまり面倒事は起こさないでよ」

「分かってるって」

 

 指に絡んだ黒髪を解き、巫女は笑った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「汚い部屋ねぇ」

「随分と酷いこと言うなぁ」

 

 霧雨魔法店二階の研究部屋を見て、霊夢はそう呟いた。

 

「いいんだよ、ここは。見せものじゃないしさ」

 

 半ば予想していた感想を言われ、魔理沙はそう言い返した。

 最初に一階の商品の展示兼商談部屋を見た後ではそう感じるのは当然だった。

 下の部屋は好印象を持たせるために棚に商品を並べて展示し、対して二階は雑然としている。部屋の中央に置かれている横長の四角テーブルの上には実験器具や魔道書、研究途中の試験管などが乱雑に転がっている。

 

「ねぇ、いつもはどんなことやっているの? 見せてよ」

「別にいつも研究しているわけじゃあ……」

「いつも、は言葉の綾よ。何か派手で面白い物でも見せてよ」

「ん。そうだなぁ、簡単に見せられそうな物は……」

 

 少し嬉しそうにしながら、魔理沙は棚から本を取り出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 八雲紫にコテンパンにのされた天子は、そのまま草原に寝転がったまま考える。

「んー」と一人唸り、あの面倒な空間開閉を封じられないかな、と考える。

 そよ風が青色の前髪を撫でる。同時に体が震える。寒い。そういえば、服のあちこちに穴が空く半裸状態だった。スキマ妖怪の弾幕を受けた部分が裂けて肌が露出している。肌には傷一つない。のされた直後は一部腫れたように赤かったが、今はひいている。

 八雲紫の弾幕は大した殺傷能力はなかった。相手のそれが分かりと、接近戦あるいは格闘戦となった。相手の顔面に叩き込む拳は、後ろから開いた空間から伸びる腕に掴まれ、ほとんど一方的に殴られた。一発一発は軽いものだったが、それでも、何度も受け頭を揺さぶられ、敗北した。

 

「とりあえずは、着替えに帰るかな」

 

 と一人呟き、天子は立ち上がった。

 

 

 着替えを済ませた天子は地上へと降りる。目的は本来通り博麗霊夢だ。

 崩れた博麗神社はすでに修復作業にかかっているようだった。瓦礫は取り除かれ、側には復旧用の材木や瓦は整列して並んでいる。そして、二つの人影が見えた。子供のようなちっこい人物と、狐の少女だ。

 前者に見覚えはないが、後者は知っている。八雲紫の式神、八雲藍だ。顔を見られるのはまずいと感じ、天子は神社から少し離れたところに降り立った。

 八雲藍が立ち去った――空間に消えた――のを見計らい、石段を登った。

 一人の残った少女には角が生えていた。大きな紙と木材を交互に見ている。と、こちらの足音に気づき、顔を向けた。

 

「参拝なら、今日は無理だぞ」

「……ええ、見たら分かります」

 

 どうやら私のことは知らされていないようだ。そう判断した天子は、二本の角が生えた少女に話しかける。

 

「何があったんですか」

「地震だってさ。どこの誰がしたのかは知らんがな……」

「そうですか。それで、ここの巫女さんは……」

 

 さらりと流し天子は霊夢について、少女に聞いた。

 本当であれば、天子は伊吹萃香の言葉に疑問を持たなければならなかった。普通、地震は個人で起こせるものではないからだ。

 しかし、萃香は巨大化し、大地を叩く、あるいは歩くだけで、地震に相当する揺れを起こすことが出来た。

 加えて、今の萃香は妖狐が置いていった酒の方に興味が向いていた。

 

「それなら、いないぞ。修復が終わるまで、友人の家にいるぞ」

「そうですかぁ。それじゃあ、また今度伺います」

 

 居ないのでは仕方がない。

 天子は踵を返す。

 その時、視界の端に酒瓶が写った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 早苗が守矢神社に戻った頃には空は黄昏時だった。

 少し里で時間を潰して戻る予定だったが、鈴奈庵から帰る途中の稗田阿求と出会った。外の世界の話を聞きたいという事で、稗田家にお邪魔することとなった。

 外の世界の本には幻想郷にはない物が多い。本の書かれた描写だけではイメージが着かない物も多いそうだ。

 TV、ラジオ、コンピュータ、インターネット、鉄道、自動車、飛行機、警察機構、ロープウェイ、スポーツなどなど。

 話し込んでいたら、日が暮れ始め慌てて守矢神社に戻った。神社は壊れてはいなかった。周りを見ても特になにがしかの被害を受けたといった感じはない。

 

「ただいま戻りました」

 

 今に入ると、いつものように神奈子と諏訪子がいるが、心なしか少し疲れたような顔をしている。

 

「あのぉ、大丈夫でしたか?」

「麓の巫女の事だね。大したことはないさ。それより、まずそっちの報告を」

 

 神奈子に言われ、神社の倒壊を報告する。

 

「誰が起こしたのか、見当はつかないが……」

「博麗霊夢が、来たんですよね?」

「ああ。なかなかの手練れだよ。今の早苗とはかなり力の差があるね」

「そんなに強いんですか?」

「まあね。こっちは……」

 

 諏訪子がこちらで起こったことを早苗に伝える。

 

「と言うわけで、向こうは帰って行ったよ。いずれにせよ、どこかで早苗には戦闘訓練させないとね」

「戦闘訓練ですか……」

「まあ、気楽に考えたらいいさ。こっちに来てまだ日も浅いし、その気になれば天魔から色々便宜を図ってもらえるだろうし。ゆっくりやっていこうじゃないか」

 

 顔を強張らせる早苗に、神奈子は笑いながら言った。

 諏訪子は早苗があのことを言うのか気になっていたが、結局彼女がそのことを言うことはなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 隣の石棺で寝ていた物部布都を起こした豊聡耳神子は彼女と共に霊廟の門の前にいた。

 石造りの霊廟の門は固く閉ざされたままだった。

 

「変ですね。我々の封印だけを解いて、門は封印されたままだなんて」

 

 言いつつ布都が門に手を伸ばす。

 門に触れると電気を流されたかのような痺れる感覚を受ける。

 

「彼女の方で、何かトラブルでもあったのでしょうか?」

「……」

「太子様、何か聞こえますか?」

 

 目を閉じ、黙している豊聡耳神子に布都は再び問いかける。

 ゆっくりと目を開け、

 

「いえ、近くに人はいないようです」

 

 と、布都に言葉を返した。

 

「太子様。どうなさいますか?」

「こちらから何も出来ない以上、彼女が来るのを待つしかありませんね」

 

 神子は悔しがる様子もなく、布都に告げる。

 千四百年の時を過ぎたことも知らない二人は、のんびりと彼女が来るのを待つことにした。

 




NEXT EPISODE 【Fragments 3】
メリーが蓮子と始めて出会ったのは、旅行先だった。
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