【Fragments 3】
夏休みまであと一ヶ月。
試験期間に入りつつある二人は大学の講義を終え、近くにある喫茶店に入った。
京都XX大学。世界でも名の知れた大学でマリーも、蓮子もここの大学生だ。ただし、専攻している学科が違う。マリーは相対性精神学を、蓮子は超統一物理学を専攻している。
この大学が有名なのは、若い赤毛の大学教授が在籍していたからだ。
しかし、今はいない。先々月に失踪してしまったのだ。
原因は彼女が学会で唱えた非統一魔法世界論、というのが世間の見方だ。
彼女は統一原理とは異なる非統一魔法世界論を世界学会で発表した。だが、それは失笑の嵐だった。
心が折れて、はたまたそれを照明するためのなのか、第三者には分からない。
その当時は大騒ぎだったが、彼女目当てでこの大学を選んだわけではない二人にとっては、どうでもいいことだった。
そんな有名な大学の近くと言うこともあって、席は八割方埋まっていた。
外装、内装ともにベージュとブラウンを基調とした落ち着いた雰囲気で、カップルが多い。
周囲で聞こえる恋人たちの言葉のように、店内は甘い香りが漂う。
蓮子が空いている二人席を見つけ、先を歩いて、マリーを先導した。
椅子に座り、二人共鞄を降ろし、帽子を脱いだ。
蓮子の服装はいつものように上は白の半袖のブラウスに赤のネクタイ、下は黒のミニスカート、黒の靴下は短く、素足をかなり晒している。端末の指輪は赤イヤリング
対するマリーは紫色のワンピース 白い襟袖に蓮子のネクタイと同色のリボンをあしらっている。藤色に近い。菫色が好みだが、あのことがあって以来、着てはいなかった。
「私が先に注文するね」
テーブルの上に現れたウィンドウにタッチする。
蓮子はアイスクリームパフェにホットココアを選択し、続けてマリーがいつも通りのシフォンケーキに冷たいブラックコーヒーを注文した。
「さて、蓮子の旅行先の希望は?」
「宇宙、月」
「却下。お金無いでしょう、私達」
「まぁね。一応第一希望はそれね」
注文した料理、ドリンクが無人の配膳台で運ばれてきた。
「私は南の方がいいんだけど、蓮子はどう?」
お互い自分が注文したスイーツを取る。
「私は特に決まってないけど、何かお目当てのものでもあるの?」
「ここで、花火大会があるんだけど……」
蓮子にもウィンドウが見えるようテーブルの中央にスクリーンを移動する。
コーヒーを一口飲み、地図をスクロールする。
そういえば、メリーは思い返す。蓮子と始めて出会ったのは、旅行先だったと――
あれは大学の合格が決まって、下宿先を決めるために京都へ足を運んだ時だった。
不動産屋に行けば、バーチャルスクリーンで部屋の様子も、立地周りも見ることができるのだが、受験からの、または高校卒業の開放感もあってか直接足を運ぶことにした。
二泊三日の旅行。
一日目と二日目の大半を、町の観光と物件の部屋を見た。残りは大したことの無い観光ツアーのチケットを買って参加した。
内容は古い建物の観光と、養殖の魚を使った料理。
マリーがチケットを買った理由は後者の方だ。合成食品だらけのこの国で、養殖ものの魚が食べる事ができる(この金額で、ちなみに天然物は十数倍する)のはまれだった。
別にグルメではないのだが、格安の事もあり、購入したのだ。
案内ガイドを端末にインストールし、無人タクシーで移動する。
現地に着いてみると、ほとんどがカップルと、家族連れ。一人客だったのはマリーと蓮子の二人だけだった。
話してみれば、進学先は同じ大学ということもあり話が弾んだ。また、ホテルへの移動の際、相席となった無人タクシーが故障で止まり、台車が来るまでの間に蓮子の特技を見せてもらい――
「ホテルはやっぱり海が見える所がいいわよねぇ」
蓮子の声で、マリーの意識は現実に引き戻される。
「ホテルは和室? それとも洋室?」
「和室がいい」
マリーはケーキを一口食べ、蓮子の要望を引き出し、コーヒーを啜り、条件でしぼっていく。
「露天風呂はどう?」
「値段高くない?」
「まあそれなりにね。でも、あとで変更もできるから、いいでしょう?」
「別にいいけど……条件はそれくらいでいい?」
「んー、ワッフルも頼もうかな?」
「そっちじゃなくて……」
「有名な甘味処があるといいわね」
「はいはい。蓮子はホントに好きねぇ」
「マリー、糖分は頭にいいのよ」
「知っているわ。ものには限度ってものが……」
「別に病気になるわけじゃないし……」
「いえ、昔はそういう病気があったそうよ」
「昔、でしょう? 今は……」
「そうね。でも、どんなものでも、致死量があるじゃない」
「大丈夫、その前にお腹一杯になるから」
「いつも見てると、それくらいしちゃいそうなのよねぇ、蓮子は」
「私にはコーヒーなんて苦いもの、よく飲めると思うわ」
「苦い方が、頭がスッキリするのよ」
「あんな苦いの、飲んだら頭痛がしそうだわ」
「甘党の蓮子にはハードルが高いようね」
「人を子供扱いしていない?」
「別に、考えすぎよ」
そんなたわいもない会話をしながら、マリーは複数のプランをさっとまとめた。
「じゃあ、こんな感じでいいかしら?」
「メールで送ってもらえない? 家でゆっくり考えたいから」
蓮子は言いつつ、目配せをする。
視線の先が店の入り口。学生が並んでいるのが見えた。
「分かったわ」とマリーが簡単に返し、データを転送する。
送信完了のメッセージ音を聞くと、マリーは立ち上がり、それに続いて蓮子も席を立った。
NEXT EPISODE【7月26日】
はいみなさまこんにちは。とらちゃんですよ
ねずみもいるぞ!
ニコニコ大百科(仮)willow8713、より抜粋