終わる幻想郷-Last Word-   作:くけい

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【7月27日(7)】

【7月27日(7)】 

 

 

 パチンッと大幣を持つ巫女が指を鳴らした。一振りの刀が無数の短刀となって、青白の巫女に襲いかかる。彼女は護符で短刀を弾き、もう一人の赤白巫女に顔を向ける。

 

「あんたは魔理沙の所に行きなさい!」

「──けど……」

 

 戸惑う巫女。

 自分の分身である少女。

 彼女を豹変させた天邪鬼。

 数多の分身が紅霧の如く北へと向かい、魔理沙は異様な力を解き放っている。

 止めるべき事柄は複数ある。

 

「あんなの大したことじゃないわ。あっちで解決できるでしょう。それより、魔理沙を止める方が大事よ!!」

 

 彼女は北の空を見て、声を上げる。その声は少しばかり余裕を失っているようだった。

 

「──本当にそうなの……?」」

「当たり前でしょっ! 他は大したことじゃないわ。第一にあんたは魔理沙の所に行きたいんじゃないの?」

「……」

「それに、よその力を借りるような奴なんて、大したことはないしね……私一人で十分よ!!」

「言ってくれるわね。こっちだって、あんたと同じ神降ろしが扱えるのにさぁ?」

 

 嘲笑う巫女。手に持ったお祓い棒の紙垂が、音もなくわさわさと揺れている。

 

「──それをあんたが言うの?」

「別にいいじゃない! 私はたいして強くないの。この子の方が強いわ。だから行かせるのよ」 

「さっさと行きなさい!!」

 

 神妙な面持ちで頷き、彼女は西へ飛ぶ。

 

「ふっ、一人で私に挑むことを後悔させてあげるわ!」

「まぁ、できるならやってみなさい」と、彼女をかばうように青白の巫女は立つ。

 

 赤白の巫女は護符を投げる。青白の巫女も遅れて、護符をなげ、相手の攻撃を弾く。

 

「金山彦命よ──」

 

 大幣を持った巫女の周りに次々と銀の短刀が現出する。大幣を振るうと、相手を目がけて短刀が次々と飛びかかる。

 青白の巫女は護符で襲いかかる短刀を退ける──が、

 

「天照大神よ──」

 

 赤白の巫女の頭上で眩いほどの神々しい白い光が展開する。

 

「うっ……くっ!!」

 

 そのまばゆさに目がくらむ。白光に隠れ、二本の短刀が青白の巫女の腹部に刺さる。

 結界を展開するべきだったか──

 見えない攻撃をかわすのは難しい。巫女は後退──地上へと降下する。地上の木々であれば、視界を遮ることが出来る。もっともあれをずっと展開し続けることはないだろうが──

 距離をとったことで照度が下がり、短刀の姿を捉えることができた。

 攻撃を弾きながらも、ほとんど見えないお祓い棒を持つ少女に対しても、護符を投げる。

 照度が上がる。

 どうやらこちらを追っているようだった。腹部に刺さった短刀を掴み、金山彦命を呼び、分解させる。

 

「威勢は最初だけ? ──封魔陣っ!」

 

 声が聞こえ、天照大神の神々しい光が消える。空中に無数の赤い結界が生まれる。

 結界は地上へと勢いをつけて降下する。

 

「ちっ」

 

 舌打ちし、青白の巫女は横に飛ぶ。少し前まで自分がいたところが、結界で木々ごと押し潰された。

 木々の隙間から見える彼女は相手を捉え、護符と短刀で攻撃を繰り返す。

 拉げ、悲鳴を上げる木々と大地。

 相手の視界から逃れるため、地面すれすれをジグザグに飛ぶ。

 次々と叩き付けるように落下する緋色の結界。

 相手はこちらの動きを予測し、徐々に距離を詰めていく。

 破壊音が近づく。

 いよいよ振り切れない──

 

「金山彦命よ」

 

 手に短刀を顕現させ、地面に突き立てる。

 瞬時に、青白の巫女の周りに無数の刃が地面から生え出た。

 その刃が赤の結界にぶつかり、斜めに倒れこむ。

 祇園様の力。

 本来は相手を捉えるために使うのだが──

 青白の巫女は顔を上げ、空を見る。

 再び同じ場所に落とさんとする結界。

 それに、笑みを浮かべている赤白の巫女。

 大幣を持つ手と、もう片手には一本の短刀。

 彼女はその短刀を、自らの胸に突き刺した。

 同時に青白の巫女の周りの刃が地面に沈んでいく。

 祇園様の力は自らが持つ刀剣を何かに突き立てることで発揮される。青白の巫女はすぐさま短刀から手を離し、地を蹴る。

 刃が服を掠め、肌を裂く。構わず刃の檻を抜ける──が、

 

「痛っ、あ゛あああああああ──ッ!!」

 

 少女の悲鳴が轟く。その声は周りの破壊音に吸い込まれていく。

 赤い結界の方が早く、袴ごと膝から下の左脚が押し潰された。

 激痛が少女の全身に迸る。しかし、相手の攻撃は止まらない。

 巫女の頭上には緋色の圧殺結界が迫る。

 袴が地面と結界に挟まれ、動かない。

 青白の巫女は護符を顕現させると、袴の紐をきり落とす。すぐさま袴を乱暴に脱ぎ捨て、下着姿のまま、残る右脚で大地を蹴る。

 木々が悲鳴を上げ、脱ぎ捨てた袴ごと結界が押し潰す。

 次の圧殺結界が来る。

 飛ぶ。

 風圧と土埃が舞う。

 バランスを崩し、頬を大地に擦りつける。

 

「うっ!」

 

 攻撃が止んだ。

 赤白の巫女はクスクスと嗤う。

 

「最初の威勢はどうしたの?」

「……」

 

 痛む頬を押さえ、声の方──上空を見上げる。

 

「ホント、たいしたことないわね」

「……」

 

 左脚のない体を起こす。

 

「ふんっ、下着姿なんて好色なあんたにはピッタリね……」

「……」

 

 ピタリと笑みが消える。怒りの表情に取って代わる。

 

「……私と同じ顔でなければ、こんなに不快に思わないけど……ホント、むかつくわ」

「──無駄口叩いてないで、さっさととどめを刺せばどうなの? 後悔するわよ?」

 

 苦渋の表情で、しかし口だけは笑みを浮かべ、言葉を返す。

 青白の巫女は左腿を押さえ、霊力で脚を復元させる。

 

「今の復元で、どれだけの霊力を消耗したのかしら?」

「さぁ、どうでしょうね? 案外大したことはないかもしれないわよ?」

「……」

 

 冷めた目でしばし観察し、「ふん、強がって! その減らず口もここまでよ!」と、あら笑うように吐き捨てる。

 彼女は上へと飛んだ。

 お祓い棒を振るう。

 ──と、無数の封魔針が現れた。

 隙間なくというわけではないが、隙は数十ミリ程度でとてもではないが、体を横にした程度では避けることは出来ない。

 結界を使えば防げる。

 しかし、連続では使えない。

 その時、彼女は空に“終わり”を見る。

 もう時間はないのだと知る。悠長に引いている訳にはもういかない。

 

「さよなら」

 

 大幣を持った巫女の声を合図に、針の壁が迫る。

 青白の巫女は三枚の護符を針に向かって投げる。

 それは、針に接触する前に水の球へと変化した。

 水に針の勢いは吸収され、壁に三つの穴が開く。

 地を蹴り、開いた穴へと飛ぶ。

 壁を抜けた先に針の壁はなく、相手はこちらを待ち構えていた。夥しい刀剣類と共に──

 彼女の周りに漂う凶器。

 その量に圧倒されるが、引いている時間はない。

 青白の巫女は一直線に彼女の元へと飛ぶ。

 凶器が動き出す。青白の巫女に向かって──

 青白の巫女は叫ぶ。

 

「金山彦命よ──」

「──金山彦命よ──」

 

 相手は被せるように言葉を吐く。

 

「分解して」

「──保持しなさい」

 

 解き放たれた刀剣は消えず、巫女の体を切り裂く。

 短刀が黒髪を、リボンを、肌を裂き、槍が太腿を貫き、剣が腹を突き貫く。

 それでも、止まれない。

 顔を狙う短刀を、首を少し曲げて避けるが、髪が、耳を切られる。

 さらに顔面を貫かんとする剣を、左手──切り裂かれながら──で払いのける。

 一向に怯まない相手に、動揺する巫女。

 

「金山彦命よ──」と再び叫ぶ。

「金山彦命よ──分解して──」

「──金山彦命よ──そのままよ──」

 

 やはり、凶器は消失しない。

 距離が狭まる。

 もうすぐ手が届く──

 少女は結界で防御体勢を取ろうとする。

 

「ふうまっ──」

「遅いっ!!」

 

 青白の巫女の右手が動く。

 相手が結界を展開するよりも早く、右手の護符でお祓い棒を持つ手首を切り落とした。

 

「っああああああああああああああああああああ──ーっ」

 

 手首を押さえ悲鳴を上げる少女。

 落下する手は塵と化し、お祓い棒だけが紙垂を揺らし、落ちていく。

 

「ああああああっ……ううぅ……わたし……うっ私は──」

 

 悲鳴は慚愧の嗚咽へと変わる。

 青白の巫女は小さく呟くと、体に刺さった金属の塊がすうっと消える。

 後に残ったのは傷だらけの体。

 

「封魔陣」

 

 右手を上げ、青白の巫女は頭上に結界を展開する。

 

「……気にすることはないわ」

 

 青白の巫女は震える彼女を胸に抱きしめ、優しく声をかける。

 傷だらけの左手で少女の頭を撫でる。

 結界が悲鳴を上げた。

 

「貴女があの子を瓦礫から助け出してくれたんでしょう?」

「ううっ」

 

 嗚咽を漏らす彼女に優しく声をかける。

 

「それだけで十分なのよ」

「んく……ううっ……」

「ありがとう」

「……」

 

 彼女は泣き止んだ。

 

「後は私がなんとかするわ……私が今日までやってきたことは……もう()()()いるでしょう?」

「……ええ……」

「霊夢は貴女の助けを必要とすることはなくなる。そんなことをしなくても助けてくれる人たちがいる。だから彼らに託して、消えた方が──」

 

 その先の言葉は言えない。

 

「私も役目が終えたら……貴女のように……だって……私も……」

「……信じて、いいの?」

「ええ。その為に急いでいろんな事をしてきたんだもの」

「……ごめんなさい」

 

 少女は体を預けるように青白の巫女の胸に頭を預ける。

 やがて、少女は彼女に重なるように、静かに溶け消えた。

 しかし、周囲では世界を破壊する音が鳴り響いていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ダークスパァークッ」

 

 喜々とした大声で叫んだ魔理沙の声。

 放った閃光が霊夢を狙う。

 身を引き、帯電する光を避けながら、霊夢は思考を巡らせる。

 いつもの魔理沙ではない。何が原因なのか。

 病毒を撒いた妖怪が保険として、もう一つ何かの仕掛けを施したのか──もしそうなら、体内ではないだろうと思う。もし、経口であれば、あの日、話題に上るだろう。

 では体外では──

 魔理沙を見る。

 いつもの服装。

 少女は箒に乗っている。その箒が原因ではないだろう。あれは魔理沙自身が魔法で召喚した物だ。大元は瓦礫の中。誰かが何か出来る物ではない。

 ならば、彼女が握っている魔具──ミニ八卦炉。あれは彼女が常に持っている。

 あれが、魔理沙を操っているのかもしれない。

 八卦炉を魔理沙から引き剥がすには、彼女に接近しなければいけない。

 結界の消滅。

 魔理沙の台詞はあれを分身が起こしたように聞こえた。恐らく、それは正しいだろう。北の空へと向かうもの。それも向かう先は──

 原因は、何か? 

 自分から分離したあの巫女が、彼女に接触して──と、一瞬考えたが、すぐに否定する。

 ただの勘だ。

 魔理沙でもない。

 では誰が──

 

「霊夢、逃げてばっかりじゃあ、私を止められないぜ! ダークスパァークッ」

 

 魔理沙が叫ぶ。

 霊夢は横に飛ぶ。巫女の横を黒光が通り過ぎる。

 距離があれば、確実に避けることが出来る。だが、接近すればするほど、回避は困難になる。

 呼びかけど、魔理沙の戦闘態勢は変わらない。

 逡巡し、魔理沙に撃ち放った護符は黒い光に呆気なく焼き払われる。

 小さな護符程度では軌道すら変えることも出来なかった。

 その光は霊夢をも狙う。

 

「──ッ!」

 

 霊夢は横に飛び、黒い閃光をギリギリで回避する。

 

「そんなヌルい攻撃じゃあ、私の所まで届かないぜっ!」

 

 再び、魔理沙は腕を掲げ、魔砲を放つ。

 霊夢も、魔理沙に向かって護符を投げる。

 魔理沙は後方に、霊夢は横に飛んで、互いの攻撃をかわす。

 霊夢の後ろで、激しい爆音が轟く。

 西の大地は激しく形を変えている。

 森や里が、聖輦船によって嬲られたように。

 時間はない。

 霊夢は距離を詰め、接近戦を挑もうとするも、黒い光がそれを阻む。

 黒閃は大地を揺らし、深い爪痕を残す。

 さらに、「スターダストレヴァリエ」と、魔理沙が叫ぶ。

 金髪の魔法使いの周りに、無数の大きな魔方陣が現れ、黒い星々が弾幕のように展開する。

 左右に身を振って、光弾を避け、魔理沙に接近する。両手に護符を顕現し、矢継ぎ早に魔理沙に向かって投げた。

 魔理沙に攻撃を中断させる為だったが、彼女はひょいひょいっと躱し、霊夢に向かって魔具を持った手をかざす。

 

「ダークスパァークッ」

 

 躱しきれないと感じた霊夢は、瞬時に叫ぶ。

 

「くっ!! 封魔陣!!」

 

 両手を前に着きだし、結界を展開する。

 

「うっ、くっ……あぁ!!」

 

 肩に激痛が走り、踏ん張りきれない。

 圧倒的な力の奔流に為す術なく、霊夢の体を後方に押しやられる。

 巫女の背中に地面が迫る。

 結界の端が地面を削り、結界全体が少女を押し潰す方向に傾く。

 霊夢は咄嗟に結界を蹴って難を逃れる──が、大地を炸裂させる衝撃の突風に身をさらされ、体を吹き飛ばされる。

 

「っ……ああぁっ!!」

 

 瓦礫に肌を叩かれ、悲鳴を上げる霊夢は大きな岩に背中を叩き付けられる。

 息が一瞬止まるが、すぐに体を起こす。

 魔理沙の光弾が周囲で弾ける。

 森の木々が黒い星々に砕いていく。

 当たらなかったのはただの幸運だった。

 

「くっ」

 

 漂う土煙に腕で口を覆い霊夢は空を見上げるが、視界が悪く、魔理沙の姿は見えない。

 視界が晴れるまでここにいるつもりはない。上へと上がる。

 空に浮かぶ魔理沙を見つける。

 魔理沙もまた霊夢を見つけた。

 

「ドラゴンメテオ!」

 

 魔理沙が高らかに叫んだ。同時に黒い星々が空中で停止し、そこから次々と黒い閃光が四方に展開する。

 マスタースパークほどを大きさではないが、数が多い。

 その時、魔理沙の更に奥で光るものが見えた。

 一つではない。

 いくつもある。

 白い光。光のシャワー。

 それが、幻想郷の大地に降り注ぐ。

 霊夢を見ている魔理沙はそれに気がついていない。

 

「魔理沙!! 避けて!!」

 

 魔理沙が上を見る。

 彼女がそれに気付いた時には、すでに手遅れだった。

 光の矢が魔理沙の胸を貫いた。

 体に走る衝撃に、魔理沙は目を見開く。

 

「──なっ!」

 

 魔理沙が小さい悲鳴を漏らす。

 魔法使いの体から、急激に力が抜けていく。

 魔理沙の手から八卦炉がこぼれ落ちた。

 瑕疵のついた肉体は用済みと言わんばかりに地上へと落ちていく。

 ぐらりとバランスを崩した彼女の体はマジックアイテムを追うかのように落下していった。

 

「まりさあああああぁぁ────────────ーっ!!」

 

 霊夢の叫び声は、周りの破壊音にかき消された。

 

 

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