終わる幻想郷-Last Word-   作:くけい

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【7月27日(12)】

 

 

 巫女は正邪よりも背が高く、少名針妙丸にとって巫女はあまりに巨大だった。

 その大きさに圧倒される小人。

 

「世話が焼けるわね……まったく――」

 

 小さな針妙丸のことなど無視し青白の巫女は古紙を屈ませ、天邪鬼の体に触れる。

 

「正邪に、触るな-」

 

 正邪が殺される。そう思った針妙丸は覚悟を決め、腰に携えた縫い針を引き抜くと、巫女の顔目がけて投げつける。

 鋭い光を反射した針は、巫女の右目に突き刺さった。

 

「痛っ――たいわね」

 

 顔を押さえた巫女が小人を睨む。

 その表情に「ひっ」と、針妙丸は悲鳴を上げる。

 殺される――そう確信した針妙丸。

 青白の巫女の白い手が伸び、針妙丸を抓む。

 

「離せ!」

「うるさいわね。あんた一人でこの子を守れるの? 出来ないんでしょう? だったら黙って」巫女は正邪を両腕で抱える。「ホントは山の方がいいんだけど、生憎こっちは里の用事があるの。今近くて安全な所はそこだから、着けば誰かが守ってくれるでしょう」

「……助けて……くれるの?」

「死なれた方が困るのよ、色々と……ただ……それだけよ」

 

 どこかつかれたようにも見える表情を見せ、巫女は呟いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 見知らぬ二人の少女が慧音の頭上で空からの攻撃を防いでいた。だが、降り注ぐ槍はあまりに多く、完全に防ぐことなど到底できない。彼女らから離れたところでは、里を囲う壁や畑が破壊されている。

 

「おーい、慧音。大丈夫かぁ?」

 

 呼びかけられた声の方を向くと、そこには宙に浮かぶ妹紅がいた。両脇に人を担いでいた。

 

「妹紅」

「派手なことをする妖怪がいるもんだ。目茶苦茶じゃないか」

「それは――」

 

 妹紅が小脇に抱えている二人の人物を指さす。ブラウンの短髪と青紫の長髪を後ろで束ねた少女。

 

「いや、いきなり襲われたんだ。私の曲を聴けぇーってさぁ」

 

 よく見れば、一人は赤い琴爪をつけ、もう一人は古めかしい琵琶を片手に持っていた。

 

「慧音、預けるぞ」と、妹紅は二人をひょいっと放った。

 

 慧音は慌てて、二人を受け取り、地面に横たえた。

 

「気絶しているから、たぶん大丈夫だ。まずかったら、頭に一、二度蹴りでもいれときな」

 

 妹紅は天に顔を向け、両腕を構えた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ゆっくりとだが傷が治っていく物部布都と、側にいる豊聡耳神子。

 空から降り注ぐ光の槍の力は彼女らの力より数十倍強力で歯がゆいながら見守るしかなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 狭い幽明結界の門を抜け、白玉楼へと続く長い石段を越え、小野塚小町が白玉楼の門の上を飛び越える。その瞬間、小町の目に入ったのは満開の桜だった。

 白玉楼の最奥に位置する西行妖が咲いていた。

 ふんわりと、春を感じる桜の香りがする。微かに桜の花びらが空中を舞い踊っている。

 それは、見る者を魅了する満開の桜。

 眩いほどに――

 屋敷を越え、西行妖の全体が見えた。

 コの字に囲われた枯山水の先にある桜の木。

 地面近くの幹周は三十メートルを超え、高さは八十メートルを超える。

 力強く根を張った幹は今や夥しい護符が張られている。

 そして、幹の手前には西行寺幽々子が浮かんでいる。

 白の死に装束を纏い、両手を胸の前で交差させている。袖口から覗く手首は細い。顔は青白く少し痩け、桜色の瞳は閉じて、髪は艶めきを失っている。

 つい先程まで見た彼女の面影とは正反対だ。

 死の間際の彼女は人と会うことを避けていた。

 結果の食べる事がなく、飢餓状態に落ちつつあった。

 舞い散る桜吹雪の中に、赤白の巫女達が宙を飛んでいる。

 百を超える巫女が一斉に、小町を見た。そこに表情はない。

 彼女らはすぐに赤髪の水先案内人を敵と認識し、一斉に護符を構えた。

 

「随分と不気味な光景だね」

 

 小町は大鎌を構えると、巫女の一人に向かって宙を蹴った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 鈴仙は豊姫の事は伏せたまま、三妖精の守護をサグメに任せ――了承したことが不思議だったが――霊夢の元へとたどり着く。

 迷うことはなかった。なぜなら、そこにはドーム状の赤い結界が張っていたのだ。

 

「これは……」

 

 砕かれた大地の横たわった黒白の魔法使い。霧雨魔理沙。

 胸を貫かれ、左足は膝下から下はなっている。

 口元に残る血痕がなければ、穏やかに眠っているような顔だった。

 魔法使いの側で座り込んでいる赤白の巫女。博麗霊夢。

 ただじっと魔法使いを見つめ、動かない。

 まるで、それは一対の像のようだった。

 二人のいる上空で赤白の巫女が結界を張り、像を守っている。

 それが、鈴仙が見た風景だった。

 

「霊夢さんが……二人?」

 

 鈴仙の声に気付き、空中にいる巫女が振り向いた。

 

「鈴仙、貴女の力で、霊夢を正気に出来ない?」

「え? 正気……」

 

 結界は簡単にすり抜ける事ができ、霊夢の側に月兎は着地する。結界は天から降り注ぐ雨から身を守るためのものだった。

 巫女は魔理沙の服を握っていた。

 瞬きをせず、じっと魔理沙を見つめている。

 口はだらしなく、半開きのまま。

 心ここに在らず、といった感じだった。

 

「貴女は一体……」

「私のことは気にしないで。あんたの力で霊夢を呼び起こして!」

「いや、そう言われましても……」

 

 鈴仙は放心状態の霊夢を見る。

 ショックとなった原因は目の前で死んでいる少女だろう。だとするなら、彼女を蘇生させれば解決するだろう。しかし、こんなに肉体を損壊している者を蘇生することなんか鈴仙にはできない。

 

「――私はもう、限界なの」

「え?」

 

 見れば、彼女の足が塵と化し、消えていっている。

 

「私の存在全てを結界に変えるわ。何とか、霊夢を助けて――」

「けど、私にはどうしたら――」

 

 鈴仙の言葉を待たず、彼女は結界を残して音もなく消え去った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 突然の出来事で、赤蛮奇は里から出られなくなっていた。

 蛮奇は時々里の中に入り込み、居酒屋で酒を飲むのが趣味だった。この日も日中に店に入り、ちびちびと飲んでいたのだが、突然の騒動でゆっくりとしていられる状況ではなくなった。勘定を済ませる必要はなくなったが、あちこちで悲鳴や助け声が轟く状況に隠れて外に出ることができなくなった。今も建物の影に隠れていたのだが――

 

「ちょっと、そこの赤いの」

 

 こちらを呼びかける声が聞こえた。

 

「聞こえているんでしょう? 早く出てきなさい!」

 

 急かすような声に蛮奇は顔だけを物陰から出す。そこには青いリボンで髪を纏めた博麗の巫女がこちらを見ていた。

 

「早く!!」

 

 無銭飲食の刑罰で退治されては堪らないと、蛮奇はいそいそと彼女の元に走る。

 

「悪いけど、この子達を頼みたいの」

 

 巫女の足元には一匹の妖怪が横たわっていた。頭に二つの角の生えた小鬼。一目で致命傷を受けていることが分かる。

 

「この子の傷を塞いで……私より同類の力を使った方が、親和性が高いでしょう」

 

 この子を助けろと言うことだった。

 

「そこまで、できなくても出血だけでも止めてくれれば大丈夫よ。私の力だと完全に止血するのは難しいから」

「私からもお願い。正邪を助けて」

 

 小さくも力強い声。正邪の腕の辺りに小人が見えた。蛮奇は頷くと、両手を傷口に当て、妖力で傷を覆う。

 

「さて、早苗がどこにいるか……」と、正邪の手当を尻目に明後日の方を見る。

「霊夢さん!」

 

 声を上げ、東風谷早苗が近づいてきた。

 

「ああ、ちょうどよかったわ。探してたの」

「れ、霊夢さん……眼」と、彼女の姿を見て、早苗がさぁーっと青ざめる。さらに倒れている正邪と博麗の巫女を見比べる。

 

「ああ、忘れてたわ」

 

 黒髪の巫女は、目に刺さった針をさっと引き抜いた。

 

「ほら、返すわ」

 

 巫女は腰をかがめ、それを針妙丸に返す。

 

「こんな小さい……貴女が……」

「早苗、怖がらせちゃ駄目でしょっ」と、巫女が早苗を手で制す。

「あの……御免なさい」

「別に気にしてなんかいないわ」

 

 近くで炸裂音がし、横風が巫女の黒髪をなびかせた。

 

「完全にここを守る事はやっぱり無理ね」と、独り言のように黒髪の巫女が呟く。「早くしないと……早苗、一緒に来て」

 

 言い終わるやいなや、洩矢の巫女の腕を掴む。

 

「先に霊夢さんの傷の手当てを――」

「そんな事はどうでもいいわ……」

「どうでもいいわけないです。傷が脳に近いんですから」

「生憎時間がないの。これ以上、ここを――幻想郷を目茶苦茶にされるのは避けないといけないのよ!」

「――だけど――」

 

 少しきつい口調で言ったが、早苗は青い顔のまま。

 ただ、心配なだけなのだ。言い争うのも時間の無駄。

 

「わかったわ。けど早くして」

 

 早苗はすぐさま包帯を取りに戻り、帰ってくる。

 傷ついた眼に消毒液をしみ込ませた脱脂綿を当て、包帯で頭を巻いた。

 

「応急処置です。全て終わったら、病院で診てもらって下さい」

「はいは。分かったわ。あんたたちもここが危ないと感じたら逃げなさいよ」

 

 蛮奇らにそういうと、巫女は早苗の手を掴み、西の空へと飛んでいく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 一度動き出した幽々子を妖夢一人で止めることなどできない。体格差、それによる体重差あるいは本来持つ力の差による影響もあるかもしれない。

 幽々子は磁力に引かれるように真っ直ぐ西行桜へと向かう。

 

 

 妖夢の背後に幽明結界の門が近づく。

 このままの勢いのまま通り過ぎてしまうと思われたが、妖夢の背中に携えた楼観剣が閂のような役割を果たし、入門を拒んだ。楼観剣の鞘と柄が声なき悲鳴を上げる。

 その衝撃はまず妖夢の肉体に突き刺さる。力は細い楼観剣からかかり、背骨が折れ、続けて肋骨が折れる。もちろん、妖夢の肉体だけでは衝撃は吸収できず、幽々子もまた腹部に妖夢がめり込み、肋骨が折れ、肺腑に突き刺さる。だが、肉体が幾ら傷つけられようと、幽々子の進行は止まらない。幽明結界の門が少しずつ閉まる方向に動き始める。

 声なき悲鳴を上げる妖夢の体を、幽々子の体をギチギチと締め上げていく。

 食い込む楼観剣の鞘に亀裂が走る。

 ――と、ベキンッと楼観剣の柄部分がへし折れ、閂が外された。

 主と剣に挟まれた妖夢はサンドイッチの状態から解放される。しかし、脊椎を損傷した体に力はいらない。妖夢は頭から石階段に叩き付けられる。その目に逆さに写った白玉楼へと向かう主人の姿がちらりと映った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 もはや、それは博麗霊夢一人で処理すべきレベルを遙かに超えていた。

 八雲紫は光の原泉を探す。

 見つけるのは簡単だった。一つの光球のすぐ側にスキマを作り、光の雨を異次元へと飛ばす――はずだった。

 スキマを作った瞬間、一つの光球が大きさを変えず四つに分離した。加えて、スキマから距離を置くように移動する。

 もう一度行うことはせず、今度は一本のくないで光球を狙い撃った。しかし、光球は分裂、命中することはなかった。

 

「……術者を止めなければいけないって訳ね」

 

 苦々しく呟く。もしかしたら、別の方法で攻撃すれば潰せるかもしれないが、下手をすればより苛烈な雨が幻想郷に降り注ぐ。

 紫はその場から地上を見下ろし、術者を探す。南西にある向日葵畑で目立つ動きがあった。紫はスキマを使い、近くまでジャンプする。

 

「どうして――」

 

 絶句する紫。そこには二人の人物が戦っていた。

 一人は風見幽香。もう一人は名の知らぬ金髪の女。しかし、その人物の脅威はすでに知っている。前年前の月面戦争で出会った女が、何度対決しようと倒せなかった相手。

 風見幽香一人で何とかできる相手ではない。いや、誰一人として勝てる相手ではないのかもしれない。それでも――

 

「……ッ!!」

 

 その人物は幽香の攻撃を軽くあしらいながら、上空にいる紫を視た。笑みを浮かべて――

 




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