終わる幻想郷-Last Word-   作:くけい

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霧雨魔理沙

 霧雨魔理沙

 

 

 ベッドに寝転んで、お腹が空けば、保存食を少し食べて寝転ぶ。夜になると、ぼーと湯に浸かり、床に就く。

 枕元に置いた新聞記事を見る。もう何度も眺めている。そこには霊夢と魔理沙が写っている写真が載っている。そこに写っている霊夢は正確には霊夢本人ではない。霊夢が作り出したクローン人形だ。

 彼女は死んだ。正確には霊夢に吸収されたのだが、魔理沙にとってたいした違いではなかった。どちらにしろ、霊夢と同じ姿の彼女とはもう話すことはできないのだから。

 霊夢が彼女を作ったきっかけは魔理沙が会話のホムンクルス、賢者の石の話をしたからだ。

 さらにその会話のきっかけは、寺小屋で人形劇を行うと言う話を町で聞いたからだった。

 目を閉じる。

 だとするなら、霊夢が、アリスがああなった原因は自分なのだ。

 

 

 ◇◆◆◆◇

 

 

 ドアの閉まり、一人だけになった。

 アリスには悪いが、魔理沙にはそれを読む気にはなれなかった。言葉を、意味を知ったところですでに起きた現実は変えられない。

 魔理沙は立ち上がり、隣の部屋へと歩き実験台の上に本を置いた。

 何か腹に入れようと一階へと降り、キッチンへと向かう。棚を覗くが、保存食はほとんど残っていない。

 魔力を動力とする冷蔵庫にもほとんど食べ物は残っていない。

 

「そろそろ、本当に外に出ないとな……」

 

 

 呟く側で、先ほど開けた棚ががたっと音を立てた。見れば、蝶番が外れていた。捻子が外れていた。棚木の方は特に朽ちている様子はない。何度も開閉したはずみで捻子が緩んでしまったのだろう。

 これなら、魔法でなんとかなる。朽ちていたなら、それの時間を巻き戻し、朽ちる前の状態にする、なんて事は出来ない。時間に干渉することは難しいのだ。

 魔法は何でもできる万能な力ではない。

 壊れたものを修復するには、何者かの意志が必要である。意志、あるいは情報とも置き換えられる。

 壊れたものがシンプルな壺であれば、術者の記憶を頼りに再生される。これが、発電機といった複雑なものになれば、修復のレベルが一気に上がる。術者の意思に依存するなら、どこがどう壊れているのか、どうすれば直るのかを術者自身認識しなければ直すことが出来ない。

 別の方法として、それ自身に意思を持たせる、あるいは部品に擬似記憶を植えつける方法がある。

 前者は難度が高い。生命を造るというのはいつだって難しいのだ。

 後者は、設計図面を部品に記憶させる方法だ。修理は部品が図面に照らし合わせ、修復する。問題点は記憶維持の為にずっと魔力を供給しなければいけない事だ。まとめて送り込む事も出来るし、リアルタイム供給もできるが、現実的ではない。一長一短なのだ。術者としてのレベルが上がれば、その制約を軟化する事ができるそうなのだが――

 魔理沙は屈み、螺子を探す。床に転がっていたそれを見つけ、魔法で螺子をねじ込んだ。

 何度か開閉させ、直った事を確認し、改めて部屋を見回す。

 この家に住み始めておよそ四年。

 ここがいつ建てられたのかも定かではない。

 すでにこの地にはいなくなった魔法使いの家を、彼女は使っている。

 昔、魔理沙が実家の道具屋――霧雨店にいたとき、森近霖之助という青年が自分の面倒を見てくれていた。

 しかしあるとき、彼は独立し、里から離れたところで古道具屋――香霖堂を始めた。彼に連れられ、訪れた香霖堂には実家にはない様々なものがあった。

 幾何学的な形をしたもの、裡に光を貯め発光するもの、魔力の帯びた石など、実家では見る事のないものが沢山あり、魔理沙はそれらに魅せられ、結果魔法使いになろうと思った。

 両親の反対を押し切り、飛び出した魔理沙を霖之助は、歓迎するでもなく、この家に彼女を連れて行った。

 

「どうやら、素質はあるようだね」

 

 そう言い、ここまでの道中が試験だと言うようなことを言った。

 魔法の森。常に瘴気に包まれた森。常人では、この瘴気に耐えられない。

 霖之助は耐性のあった彼女に廃屋を案内した。

 彼は最低限の説明だけをし、ここでの生活が始まった。

 魔理沙はグラスを取り、蛇口をひねり、水を出す。適当にグラスに注ぎ、飲み干す。急いで飲んだせいで、口の端から一筋、水が流れ、顎の先から雫となって床にぴちゃりと落ちた。

 掃除をし、この家の中の物を集め、本でそれが何なのかを確認する。分からない物や必要ないものは、香霖堂に売り払い、金に買え、不足しているものを里で買う。そうやって一人暮らしの基盤を整えた。

 もう一杯水を飲もうと腕を動かす。肘がシンク台に当たり、グラスを取り落とす。透明なグラスは甲高い悲鳴を上げ、鋭利な刃となって床に散らばった。

 

「痛っ」

 

 破片の一つが、魔理沙の足首を裂いた。傷は浅く、うっすらと血が滲む。大きめの欠片を拾い集め、復元の魔法を唱える。細かい破片が浮かび、それらが一点へと集まり元の形に戻る。

 ついで、魔法で傷を治す。傷がふさがる熱を感じながら、魔理沙は感嘆には戻らないそれを疎ましく感じていた。

 

 

 

 魔理沙がすぐに博麗神社に訪れる事はなかった。

 まずはサボっていたことを大急ぎで行う。

 魔法の森できのこを採取し、ほとんどは乾燥させ長期保存できるようにする。

 家の窓を全部開ける。空気を入れ換え少しばかり掃除をした。

 そして数日ぶりに、魔理沙は人里へと食料を買いに出かけた。

 箒に跨がり、夏の空を飛ぶ。

 ふと、南の方に違和感を感じた。

 無名の丘に、白い色が見えた。あそこは鈴蘭の草原。つまり花が咲いている。本来は春に咲く花が、夏に咲いていると言うことだ。

 南西の方を見れば、太陽の畑は黄色い。例年通り向日葵が咲いているのだろう。

 遠くから種々の花々を見て魔理沙は思い出す。

 そういえば、今年は花見をしていない。

 冥界の少女が起こした異変のごたごたで、思い浮かばなかった。

 ふさぎ込んでお酒を最近、口にはしていない。

 二人で――とは、思わなかった。

 思い浮かんだのは、賑やかに競い合っていたあの二人組だった。

 町での買い物を済ませると、その足で魔理沙はまず霧の中に佇む紅魔館へと向かっていった。

 




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この神社の信仰は私達守矢神社が頂きます
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