終わる幻想郷-Last Word-   作:くけい

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東風谷早苗(2)

 朝の境内の掃除を、傘を持った少女に驚かされつつもこなし、昔使われていた和太鼓やお守りの在庫などを収めた蔵の掃除を一時間ほどかけて終わせた早苗は、それでやっと一息つく。

 失った水分を補給し、彼女は一柱に元へ歩く。

 

「私は今日、件の神社に行こうと思います」

 

 風祝の少女は神奈子に予定を伝えた。彼女はそれを了承し、自身の用事の事を付け加える。

 

「こっちも諏訪子と出かけてくる。まあ、すぐに帰れると思うよ」

「どこまで行かれるんですか?」

「早苗とあまり変わらない、東のほうさ。約束があってね。日程は決めてなかったんだが、この間のかっぱや妖怪の信仰の御陰で少しは力を取り戻せたし、あんまり待たせると悪いと思ってね」

「そうですか」

 

 了解を貰い、早苗は二柱よりも早く、守矢神社を出発した。

 

 

 博麗神社は自身の神社よりも古びた印象を受けた。開けた森の中にこじんまりと拝殿が建っている。住居棟は拝殿と一つの廊下でつながっている。そして、そこから少し離れた所に小さい倉が建っている。

 拝殿は飾り気もほとんどなく、必要最低限といった感じだ。賽銭箱はいかにも空っぽといった感じがする。それはこちらも一緒だが……

 こちらの信仰も頂き、妖と人、両方からの信仰を得ようと彼女たちは考えていた。これでは、神社を制圧するより、人里で信仰を得るアクションを起こした方が手っ取り早いのかな、と早苗は推し量る。

 石段から拝殿までの参道の距離も守矢神社と比べると半分もない。参道の脇に構える灯籠も二基しかない。

 夏を象徴する蝉の鳴き声だけが聞こえる。

 人気が全くない。拝殿は里とは反対の東を向いていた。拝殿の左手、つまりは南の方の地面が踏み固められている。早苗は拝殿の奥の方へと歩く。

 拝殿と一つの廊下でつながっている住居用の建物も古い。縁側の先に住居区に当たる玄関を見つける。早苗は軽く戸を叩き、

 

「ごめん下さーい」

 

 と、声をかける。

 戸を引くと、がらがらと音を立ててスライドした。不用心なことに鍵はかかっていない。

 

「誰かいませんかー?」

 

 中に声をかけるが、当たりは静まりかえっている。

 当てが外れた。本当は「この神社の信仰は私達守矢神社が頂きます」などとぴしゃりと、かっこよく、かつ可愛く件の博麗霊夢に向かって言ってやろうと思っていたのだが……

 

「……出直そう……」

 

 一人呟き、早苗は昼食を食べに里の方へと向かった。

 

 

 まだ時間は正午をまわっていなかったので、少し寄り道をする。

 貸本屋、鈴奈庵。

 

「あっ早苗さん、来てくれたんですね」

 

 小鈴はころころと人なつっこい笑顔で、早苗を出迎えた。

 そして挨拶もそこそこに、営業トークを始める。それが終わると、外の世界について色々と聞かれた。

 それが一段落すると店番の少女は、「そうだ」と今まさに何かを思いついたかのような声を上げ、店の中にいた笠をかぶった人物に声をかけた。なにやら説明をし、早苗の前に連れてきた。

 

「早苗さん。こちらは薬屋さんの鈴仙さんです。隔日で里を訪れるので、良かったら見てみてはどうですか?」

 

 薬箱の中なんてあんまり見ていない。生理痛の薬、風邪薬、包帯などなら入っていたと記憶しているが――

 

「どんな薬を扱っているのですか?」

 

 簡単にだが早苗は彼女に自己紹介をし、薬師に聞いた。

 部屋の隅に置いてある大きなつづらに向かって、彼女は歩く。

「どこにお住まいなんですか?」「お一人でこちらに?」早苗と会話をしながら、ごそごそと中をあさり、数個の小箱を取り出した。早苗の前で小箱を開け、鈴仙は説明をする。笠をずっとかぶっているため、早苗からは彼女の顔がはっきりとは見えない。

 

「様々な病気のための服用する薬に、傷などに塗る塗り薬があります。包帯は里で取り扱っている場所があるので、うちでは扱ってはいません」

 

 声の感じから、彼女は若いように感じられた。薄紫色の髪は艶があり綺麗だ。

 顔は笠で隠れ、見えない。

 見られたくないのだろう。

 これから長い付き合いになるかもしれない。早苗は覗き込むようなことはせず、説明を聞く。

 彼女は様々な症状とそれに対する薬の手書きラベルを見せながら、説明をした。

 早苗は一度家の救急箱を確認すると言うことで話を終わらせた。

 薬師は二冊の本を借りて、早苗にお辞儀をし、鈴奈庵を出て行く。

 と、店の時計が正午を伝える鐘がなる。

 

「もうお昼ですね」

「早苗さんはお昼、どうするんですか?」

「どこかのお店で済ませようと思っているんですけど……」

「それなら……」

 

 早苗は小鈴から今繁盛しているお店を聞いた。

 お礼を言い、店を出ようとすると、入り口の側に貼られてポスターが目に入った。

 涼しげな水面に浮かぶ大玉の西瓜が書かれている。

 立ち止まった青白の巫女に気付き、小鈴が駆け寄って紹介する。

 

「もうすぐ、夏祭りがあるんです」

「夏祭り、ですか」

 

 早苗は相づちを打つ。

 

「楽しいですよ。この日限りの屋台が出ますし」

 

 外の世界と同じように、季節で催し物があるようだ。

 見れば、開催の日付と時間が書かれている。二週間後、時間は昼前から深夜まで。

 特に決まった予定はない。

 早苗は祭りの誘いを了解し、鈴奈庵を後にした。

 




NEXT EPISODE 博麗霊夢(2)
紅魔館の面々と冥界の二人、だけではない。ルーミアとチルノもいた。
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