終わる幻想郷-Last Word-   作:くけい

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博麗霊夢(2)

 博麗霊夢(2)

 

 

 花見の場所は幻想郷の南。そこは人工的なものは全く見られない自然に溢れた世界だった。霊夢と魔理沙の二人が目的地に着くとすでに全員そろっていた。

 紅魔館の面々と冥界の二人、だけではない。ルーミアとチルノもいた。

 

「霊夢だぁ」

 

 二人に気がついたルーミアがこちらに手を振った。

 闇の妖怪ルーミア。ボブカットの金髪に、白と黒の上着に黒のロングスカートを身につけている。赤眼に、同色のお札で髪を一房纏めている。

 満開の二本の桜、その木陰となっている木の下に薄っぺらい茣蓙を敷いて座っている。

 レミリアと幽々子の二人が睨み合っている。側にはそれぞれの従者が、うんざりと言った顔をしていた。二人の従者はお手上げといった状態だ。

 二人の周りには従者が作った料理が並べられている。共におせち料理に使うような重箱に色とりどりの料理が飾られている。

 

「あんたの所は、味が濃すぎるわ」

「そういう貴女の所は、少し甘すぎるわね。お子様にはお似合いかしら」

「何ぃーー」

「ほい、料理に合う酒を持ってきたぜ」

 

 言い争う二人に割って入り魔理沙が酒瓶を置いた。吸血鬼が魔法使いを睨む。

 

「言い始めはあんたなんでしょ。何遅刻してんのよ」

「別に少しぐらいいいだろう。お前のメイドは優秀なんだから、そのくらいフォローしてくれるだろ」

 

 いいながら、視線を移す。

 視線の先は、美鈴が闇の妖怪と氷の妖精の二人を相手にしている。幼い二人の側のグラスに注がれた飲み物が置かれている。

 こちらの名を呼ぶルーミアの近くに座る。

 

「霊夢、これ私が採ったんだよ」

 

 ルーミアは竹串に刺した緑色の豆を霊夢の口元に近づける。

 

「収穫を手伝って貰ったんですよ」

 

 紅魔館の門番――紅美鈴が言う。霧の湖でよく遊ぶ二人は時々、紅魔館を訪れていたそうだ。最近になって、収穫を手伝って貰っていることがバレ、メイドに怒られたそうだ。

 

「それは、塩ゆでした枝豆を串に刺したものです。そちらの方が手を汚さずに食べられるからだそうです」

「霊夢、あーんして」

 

 とりあえずは、言葉に甘え一口食べる。ほんのりと塩味の効いた枝豆の味と香りが口に広がった。ルーミアは残りをチルノの口に運ぶ。

 

「おいしぃ」

 

 妖精は頬に両手をあて、うっとりとした表情を浮かべている。

 氷の妖精チルノ。ブルーのショートヘアにグリーンのリボン、ブルーのワンピースの背中には氷の羽がついている。心なしか彼女の周りの空気は少しひんやりしている。

 

「ねえねえ霊夢、何食べたい?」

「私は自分で食べるから、チルノに聞いてあげたら」

 

 ずいっと迫る闇の妖精からのリクエストを返し、霊夢は重箱を覗く。

 重箱には天ぷら、魚の焼き物、だし巻き玉子、紅白なます、昆布巻きなどが詰め込まれている。

 色とりどりの料理を眺めていると、「霊夢さん、ありがとうございます」と美鈴が礼を言った。巫女はそれが何の御礼なのか分からない。「何のこと?」と言い返す。

 

「この間私の野菜を買いたいという方が現れたので、霊夢さんが宣伝してくれたんですよね?」

「え?」

 

 記憶を探るが、覚えがない。

 以前咲夜経由でもらった白菜はみずみずしく、形も良く甘みもあって美味しかった。

 野菜をもらった事は魔理沙ぐらいにしか言っていない。加えて、春雪異変で咲夜と出会って以降、紅魔館へ足を運ぶようになった。目当ては館の地下にある図書館と、同種の魔法使いパチュリー・ノーレッジとの談義らしい。

 魔理沙が周囲に言いふらしたのだろうか。それを聞こうとしたが、彼女はレミリアと幽々子の間に入って文句を言われながらも重箱の料理をもぐもぐと食べていた。

 

「咲夜さんも色々お世話になっているそうなんで、寄って貰えれば取れたての野菜など差し上げますよ」

「あぁ、そう。ありがとう」

 

 言葉に合わせ、とりあえず御礼を言う。

 まぁ、大したことではないだろうと霊夢は深く考えず、持ってきた酒の一本の封を開け、美鈴のグラスに注いだ。

 

 

「兎さん、兎さん」「耳長―い」

「うぅ」

 

 ルーミアとチルノが、鈴仙のうさ耳をふにふにと触っている。美鈴が引きはがしたりするが、しばらくするとまたひょこひょこと動き耳を触られた。薬師の格好をした鈴仙の方はもう仕方なしといった感じで諦めている。

 あれからしばらくして、数人がここを訪れていた。

 一人目が鈴仙・優曇華院・イナバ、二人目が鈴仙の背負っている大きなつづらに身を潜めていた因幡てゐである。

 鈴仙とてゐ。二人の深長差から鈴仙が姉で、てゐが妹といった感じに見えるが――

 

「こちらで、只でご飯にありつけ……痛っ……薬の調合に使う薬草を採りに」

 

 ごまかしきれていない訂正を強制的に促され、二人の立場を認識する。

 今も鈴仙は食事もそこそこに幼い二人の相手をしている。対して、てゐは鈴仙の分も、といった感じで飲み食いしていた。

 三人目はもうすでに帰ってしまったが、烏天狗のブン屋――射命丸文だった。

 彼女はこの花の異変をカメラに収めようとここにやってきた。理由通り、彼女は花の写真を撮っていたのだが、鈴仙を見つけると目の色を変えた。聞けば、この間の異変のことで要となる月兎の写真が手に入っていないからだと言う。

 しかし、文は写真を撮ることなく去って行った。理由は二つ。一つは鈴仙がカメラに写真を撮られることを拒否したことだ。苦手なのだそうだ。もう一つが、写真を撮ることにてゐが金銭を要求したことだ。肖像権がどうだの、本人が嫌がっているのだからと法外な金額を提示した。

 喧嘩になるかと思われたが、文は大人しく引き下がり、西の太陽の畑の方へと飛んでいった。

 魔理沙から聞いた話だと、迷いの竹林から外へ出ていない月人――八意永琳と蓬莱山輝夜、二人の写真をこの世界に張られた結界――幻と実体の境界を展開した八雲紫から見せられたという。あの女が写真を撮り、現像するといった事をするようには思えない。恐らくは誰かから手に入れた。つまりは、別に当てがあると言うことだ。

 彼女が書いた春雪異変が出鱈目である以上、あまり異変の事を書いて欲しくはないのだが、話のネタとしては派手なのだろう。

 

「これは、霊が取り憑いて咲かせているのさ」

 

 幽々子とどことなく似たような着物を着た赤毛の少女が言った。

 四人目。文がここを離れてほどなく、現れた大鎌を持った少女。

 幽々子とは旧知で仕事仲間と言うことだ。

 死んだ魂を赤毛の少女――小野塚小町が三途の川を渡り彼岸へと送っていく。

 小町が言うには、幻想郷の外で大量死があり、これらはその霊であること。彼岸へと渡す処理が追いついていないため、霊が拠り所を求め花に取り憑いているそうだ。

 

「つまり、あんたが仕事をさぼったせいなのね」

「まあ、それもあるけど、渡し船が小さくてね。一度に大人数を渡すことができなんだよね。ここから見た限り、千じゃ利かないぜ。しばらくは大忙しだ」

 

 話を聞き、レミリアが棘のある言い方でレミリアをするが、小町はさして気にする様子も見せず飄々と喋る。

 

「まぁあの船じゃあねぇ」

「ゆっこもそう思うだろ」

 

 亡霊姫の言葉に喜々とした表情を浮かべる赤毛の水先案内人。

 

「幽々子様、知っているんですか?」

 

 主人のグラスにお酒を注ぎながら、魂魄妖夢が問いかける。

 

「まあ私は、乗ったことがあるしね」

「いかんせん、普段の数百倍に膨れあがっているからさぁ」

 

 霊が行き着く三途の川へのゲートは無数にある。幻想郷にあるゲートが小野塚小町の管轄であり、そこには幻想郷内だけではなく、その周り――外の世界からもやってくるそうだ。

 小町の説明を聞き、この異変に対し自分がするべき事は特にないと霊夢は思った。

 

 

 日が暮れようとしている。宴はもうお開きだ。

 十六夜咲夜は片付けを門番に少しばかりお願いし、鈴仙に近づき、薬師に耳打ちする。

 どうやら、必要な薬があるようで、ルーミアとチルノを引きはがした鈴仙はつづらから薬瓶を渡していた。

 

「レミリア、咲夜。ちょっといい」

 

 終始、幽々子といがみ合っていた吸血鬼を呼ぶ。

「なによ」不機嫌そうな顔を見せるレミリアに霊夢は自分が作ってきた護符の説明をし、実際に発動させる。

 赤い吸血鬼の上空に陽光を遮るように大きな護符が浮かび上がった。少しばかりどよめきが起こる。そんなに大したものではないのだが――

 試しに高低の調整、護符の拡縮、高度の調整を確認してもらう。

 メイドが終始日傘を差しっぱなしにさせないようにと考えたものだった。実際には桜の木陰があったので不要だったのだが。

 自分が持っていても使うことはない。霊夢は咲夜に作った残りの六枚を渡した。

 改めて、帰る準備をしていると、鈴仙が声を掛けた。

 

「霊夢さん。今日、鈴奈庵で……」

 

 もう一人の巫女、東風谷早苗。外から来訪者。服装と特徴、妖怪の山に移住してきたこと、守矢神社。二柱の神。

 話の途中で、皆が各々の帰路へと帰っていく。残っているのは巫女、魔法使い、月兎、素兎の四名。

 

「その……大丈夫……ですか?」

 

 説明が終わると、鈴仙は心配そうに霊夢に聞いた。

 

「酷く、思い詰めているように見えたので……」

「霊夢?」

 

 魔理沙が霊夢の顔を伺う。

 強くも弱くもない風が吹き、桜の花びらが舞う。

 

「花見と言っても、これも異変だしね。少し気を張っていただけよ」

 

 言葉を返すが、どこまで信じてもらえるのか。

 鈴仙は顔を見たわけではなく、裡を見ていっただろう。それがどこまで、視られているのか、判じられない。

 

「幸いあの水先案内人が解決してくれるし、こちらとしてはありがたいわ」

「そうですか。それなら、良かったです」

 

 それ以上、鈴仙は何も言わず、迷いの竹林の方へと去って行った。

 

 

 博麗神社に戻った。

 赤い鳥居、すり減った石造りの参道、古めかしい拝殿、がらんどうの賽銭箱。

 黄昏時の博麗神社は、我が家の筈なのに、どこか寂しげな場所だと感じてしまう。

 でも、それは錯覚。

 先ほどまで大勢といただけで、その比較に過ぎない。

 霊夢はとぼとぼと参道を歩く。

 夕食は必要ないだろう。

 風呂に入るにはまだ時間が浅い。

 しなければいけないことは沢山ある。

 参道から外れ、霊夢は”それ”に向かってゆっくりと歩いていく。

 




NEXT EPISODE ???(2)
大岩の下には聖輦船が封印されている。
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