泡沫の園 -Paradise lost-   作:くけい

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冒頭は
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のPIXIV絵をイメージしたものです。


【除―ジョ―】

【除】

 ①とりのぞく。

 ②古いものをのぞいて新しいものを迎える。

 ③わり算。

 明鏡国語辞典 第二版

 

 ◆◆◆◆◆

 

 透明な金魚袋の中で泳ぐ二匹の金魚。

 赤い紐で口を縛ったその袋の中でゆったりと泳いでいる。

 光りを反射しきらきらと揺れる。

 紅白の金魚と真っ白な金魚。

 遠くから歌が聞こえる。

 君さえいれば、他は何もいらない――

 良くあるラブソングの、良くある歌詞。

 二匹の金魚が恋人同士なら――

 この金魚袋は、二匹にとって楽園なのだろうか?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 透明な金魚袋の中で泳ぐ二匹の金魚。

 赤い紐で口を縛ったその袋の中でゆったりと泳いでいる。

 光りを反射しきらきらと揺れる。

 紅白の金魚と真っ白な金魚。

 遠くから歌が聞こえる。

 君さえいれば、他は何もいらない――

 良くあるラブソングの、良くある歌詞。

 二匹の金魚が恋人同士なら――

 この金魚袋は、二匹にとって楽園なのだろうか?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「……」

「……ぇ」

 

 声が聞こえる。

 少女の声。

 

「早苗、朝ご飯できたわよ」

 

 霊夢さんのその声。

 ゆさゆさと揺り動かされる私の体。

 

「お早う……ございます」

 

 私は重たい瞼を少し開け、定型文的な挨拶を零す。

 呼び起こす少女の姿は朧気で、はっきりと見えない。

 

「返事は良いから、体を起こしなさい」

「はぁぃ」

 

 朝は苦手な方ではないけれど、体が重い。瞼を擦り、体を起こす。「んんー」と両手を挙げ、体を伸ばした。

 横を見ると、霊夢さんが寝ていた布団はいつものように折りたたまれている。更にその先には、古めかしい丸いちゃぶ台と座布団が置かれ、その上には朝食が並んでいる。

 布団は部屋の奥に敷かれ、テーブルは部屋の対角に置かれている。縁側へと続く襖は開け放たれ、鮮やかな朝日が部屋を照らしていた。

 無精ながら四つん這いで歩き、紅色の座布団に座った。

 ご飯に、油揚げと長ネギの味噌汁、きゅうりの漬け物に卵焼き。霊夢さんは私を待たずに食べ始めていた。

 服も着替えており、いつもの二色の巫女服を着て、耳飾り、大きなリボンで髪を留めている。

 

「いただきます」

 

 手を合わせ、箸を手に取り、卵焼きを一口サイズに割って、口に運ぶ。

 

「今日は、仕事が少ないから三時ごろに帰れると思うわ」

 

 食事をしながら、今日の予定を伝える。こちらは、変わらず家の掃除、洗濯などの家事だ。

 

「帰りに、魚でも買ってくるから」

 

 いつも通り夕食のおかずは霊夢さんが買ってきてくれる。焼き魚にするか、煮魚にするかあるいは――

 帰りが早いのであれば、そのとき決めればいい。と言うか、いつもそれだ。

 先に食べ終えた霊夢さんが、お茶を用意し、朝食を平らげて、熱いお茶をゆっくりと飲んだ。

 食事が終わると、食器をお盆に載せ、台所のシンクにある水を張った桶に浸けておく。

 すぐに食器を洗わず、私は着替えを先に済ませる。霊夢さんとは型は違うが、同じツートーンの巫女服に着替え、髪留めをつける。

 私は白いエプロンをつけ、食器を洗う。

 洗い終わった時には、霊夢さんはお茶を飲み終え仕事に出る準備をしていた。

 

「それじゃあ、行ってくるわね」

「はい。気をつけて」

 

 

 宙へと舞う霊夢さんを、鳥居の前まで見送り、私は家事を行う。

 まずは、洗濯。寝間着、巫女服、下着を水の張った深めの桶に入れ、洗濯洗剤を投入する。大幣をふり、桶の中で水流を作る。

 しばらくして、洗濯物を取り出し、泡だらけの水を入れ替え、すすぎと脱水を行う。今日も天気が良いので、神社裏手にある物干し竿に洗濯物を掛けた。一緒に布団も干しておく。

 洗濯が終わると、境内の掃除を行う。

 今の季節は落ち葉も少ないので、石造りの参道の上の砂埃を払う程度だった。

 

「早苗さん、お早う御座います」

 

 箒で掃いていると、鳥居の方から本居小鈴さんの元気な声が聞こえた。「お早う御座います」と私は挨拶を交わす。

 小鈴と一緒に歩いてくる稗田阿求さんが、遅れて小さな声で「お早う御座います」と会釈をした。

 神社には毎日ではないが、参拝客が訪れる。顔ぶれは今の二人の他に、豊聡耳神子さんに物部布都さん。あとは聖白蓮さんといった感じ。

 二人が参拝を終えると、いつも通り世間話をする。

 夏の強い日差しもあって、縁側に案内し、お茶とせんべいを出した。

 

「明日の夏祭り、霊夢さんと一緒にまわりませんか」

 

 小さな口を大きく開けてせんべいを食べる小鈴さんに対し、阿求さんはリスのように少しずつ囓っている。

 

「早苗さんはこちらのお祭りは初めですし」

 

 そうだっただろうか? それとも外でのお祭りと混同してしまっているのか? 今日の朝、霊夢さんも同じようなことを言っていた。

 祭りは霊夢さんと一緒に行く予定だ。

 皆で言った方が楽しいだろう。私は約束し、一時間ほどおしゃべりをし、二人は里へと帰っていった。

 表の掃除の続きを終えた頃には昼頃で、私は簡単に昼食を済ませた。

 外から涼やかな風が流れ込む。

 柔らかな風。

 チリンチリンと軒先に吊った風鈴が涼やかな音を立てる。

 お腹が満たされたこと、肌を、髪を撫でるそよ風が気持ち良く、いつの間にか私は寝てしまった。

 

 

「ちょっと人が仕事をしてきたのに、あんたは居眠り?」

 

 頭を小突かれ、ちゃぶ台から重い頭を起こす。瞼が重い。

 

「ふぁれ、早かったんですね」

「明日の祭りの準備があるらしくてね。早苗、よだれ」

「ふぇ?」

 

 慌てて、私は口元を拭う。

 

「霊夢さん、今日本居小鈴さんと阿求さんが訪ねられて……」

 

 覚醒した私は夏祭りの約束を伝えた。

 

「別にいいわよ」

 

 予想通りの返事が帰ってくる。

 

「それと……はい、お土産」

 

 突き出された籠を覗き込む。歪な氷をかき分けると二匹の鮎が入っていた。

 

「鮎ですか」

「どう料理するかは早苗に任せるわ」

 

 後はいつも通りだった。洗濯物を取り込むのを手伝って貰い、夕暮れ時までお茶を、菓子を抓み、まったりと二人で過ごす。

 日が暮れ始めると私は夕食を作る。ご飯を炊き、味噌汁を作り、鮎は塩焼きにすることにした。

 作った夕食を二人で食べ、片付けて、風呂に入る。

 艶めく髪を乾かし、私達はいつもと同じように床に就いた。

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