泡沫の園 -Paradise lost-   作:くけい

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【派―ハ―】

【派】

 一 流儀・思想・主義などを同じくする人々の集まり。

 二 ①もとから分かれ出る。

 ②一部を分けてさしつかわす。

 明鏡国語辞典 第二版

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

「早苗、朝ご飯できたわよ。」

 

 霊夢さんの声。変わらない、いつもの声。

 ゆさゆさと揺り動かされる私の体。

 今日はお祭りの日。

 しかし、私はいつものように霊夢さんに起こされる。

 朝食を食べて、いつもの服に着替え、境内の掃除をする。

 そして、神社を出発し、霊夢さんとともに町に向かって西へと飛んだ。

 

「小鈴ちゃんの家に集合だったっけ?」と、霊夢。

「はい、阿求さんともそこで落ち合う予定ですよ」と、私が返す。

 

 喋りながら、大空を飛ぶ。

 町のあちこちに大小様々な白い霧がうっすらと立ちこめていた。

 いや、それだけではない。森も北の山も全て、薄い靄がかかっているようで、くっきりとした輪郭などは拾えない。

 ゆっくりと地上に降り、小さな白い粒子が混じっていそうな茶色い地面に足をつける。

 私達は塀に囲まれた町には、東門から入る。

 門の先は東西に延びる大通り。

 すでに多くの人で賑わっていた。

 いかにもお祭りといった音楽が流れている。

 うっすらと白い靄を感じる町並みに紅白の提灯がずらっと並んでいる。まだ明るいということで、提灯の火は灯っていなかった。

 少し歩くと、商業施設が立ち並び、所々に屋台が並ぶ。

 また、あちこちに木製の長椅子と簡素なテーブルが置かれていた。

 休憩や食事の時に使うのだろう。

 セール品がでかでかと割引率とその値段が書かれた札と共に並べられている。

 私達はまずは鈴奈庵――貸本屋に向かう。

 いつもとは違い、貸本屋の前には張り紙がされている。

 内容は、今夜八時から怪談話をする百物語を開催するというイベント案内。そして、語りの人の名前が書かれていた。

 

「こんにちは、霊夢さん。早苗さん」と、小鈴の声。

 

 中に入ると、すでに阿求さんは来ており小鈴さんと談笑していた。

 小鈴さんはいつもと同じ市松模様の服で、エプロンを外しているだけ。

 対して阿求さんは、着物の色自体はいつもと同じだが、有職文様があしらわれている。

 豪華な作りだ。

 四人揃ったところで、祭りを見て回る。

 

「早苗さんはこのお祭りが初めてですし、色々説明してあげますね」

 

 小鈴さんは私に微笑む。

 

「そういえば、あんたはこっちにはあんまり来てなかったけ?」と、霊夢さんが私を見る。

「え? ええ、まあ……」

 

 言葉を濁す。

 そんな事は無い。

 しかし、三人の中では知識は無いだろうから、間違ってはいないだろう。

 

「先に何か食べませんか? 正午を過ぎると食べ物屋凄く込むんですよ」と小鈴さんが言う。

「早苗、それでもいい?」

 

 小鈴さんの言葉を聞き、霊夢さんは私に尋ねる。

 

「はい」

 

 先ずは腹拵えと、私達は屋台をいくつか見て回る。

 すでにいくつかは列が出来ていた。

 うどん、焼きそば、丼もの、焼きトウモロコシなどなど。

 私達は一番空いている焼きそばを買うことに決めた。

 私と霊夢さんで焼きそばを、小鈴さんと阿求さんは飲み物をそれぞれ買うために一時的に別れる。

 買い終えると屋台の側にある長椅子に二人並んで座り、二人を待つ。

 そう待たずに二人は戻ってくる。

 

「お好きな方を選んでください」と、小鈴さんがグラスを差し出した。

 二人が買ってきたのは冷えた甘酒と梅のジュース。

 私は梅のジュースを選ぶ。霊夢さんは甘酒。

 こちらが買った焼きそばを二人に渡し、焼きそばを食べる。

 ソースの香りが香ばしい。

 阿求さんは少しずつ口に運び、小鈴さんと霊夢さんは割と口を大きく開け、豪快な感じで食べている。

 

「あのお店のお兄さんは……」と、小鈴さんは食べながら、この町の情報を教えてくれる。

 

 どこか聞き覚えのある話――

 私は相づちを打ちながら、焼きそばを食べる。

 時折付け足すように阿求さんが喋り、時折霊夢さんも知らないこともあるらしく感嘆な声を上げる。

 

「霊夢さんも知らなかったんですか?」

「そりゃあ渡しだって知らないこともあるわ。ここに住んでいない訳だし、ね」

 

 焼きそばの油のせいだろうか。

 霊夢さんの唇は、リップグロスを塗ったかのように艶やかだ。

 それは、蠱惑的で、艶めかしい。

 

「なによ。何か、私の顔に付いてる?」

「あっああ、いいいえ」

「――変なの」

 

 焼きそばを食べ終わった霊夢さんは、ナプキンで口を拭った。

 柔らかな唇が揺れた。

 梅のジュースを一口飲む。

 柔らかな甘みと酸味が口に広がる。

 おしゃべりをしながら、阿求さんが食べ終わるのを待つ。

 正午を告げる放送が、そして、まもなく秦こころによる能の演目が始まるというアナウンスが流れた。

 阿求さんが食べ終え、放送の能を見に行く事に。

 皿とコップを店に返却し、小鈴さんを先頭に会場に向かった。

 南北に大きく伸びる通りと交差する場所に高さ五メートルほどの櫓が建っている。

 その上ではピンク色の長髪を靡かせ、秦こころが能を舞っていた。

 既視感のある秦こころの舞踊。

 櫓の下で大人達が演奏する音楽に合わせて、面霊気が舞い踊る。

 能の演目が終了すると、拍手。そして、今度は子供たちの演奏会。

 寺小屋の先生の一人――上白沢慧音先生の挨拶があり、演奏が始まる。

 曲名も知らないが、聞き覚えのあるどこかノスタルジックなメロディー。

 演奏が終わり、拍手と挨拶、それらが終わる頃には午後二時を少し過ぎていた。

 この後はのど自慢大会だそうで、あまり興味の無い私達四人は色々な店を見て回る。

 陶器のお店で食器を見たり、呉服屋で服を見たり、ストレートの長髪に髪飾りをあててみたり――四時すぎだろうか、休憩がてらにかき氷を買う。

 種類はイチゴ、ゆず、夏みかんの三種類のシロップ。宇治金時、変わったものだと、みぞれに砕いた色とりどりの琥珀糖をまぶしたカラフルなかき氷がある。

 阿求さんは宇治金時を、小鈴さんと霊夢さんはイチゴ、私は夏みかんを注文した。

 それぞれのトッピングに小豆、小さくスライスされたイチゴ、夏みかんがのっている。

 それを、ほとんど食べ終わった時、「林檎飴って凄く食べずらいんですよね」と、小鈴さんがサクサクと氷の山を崩しながら呟いた。

 かき氷屋のすぐ隣で林檎飴を売っていたからだろう。

 

「同感。大きいのはいいんだけど、人前でかじりつくっていうのはね――」

 

 霊夢さんの呟きに、阿求さんも頷いている。

 

「それなら、食べ方を変えれば良いんですよ」

「食べ方?」

「うーん、説明するより……ちょっと聞いてきますね」

 

 私は一人、店の方に向かう。

 まずはかき氷屋で、包丁とまな板と器を少し借りられないかと尋ねる。

 店主に了解をもらうと、今度は林檎飴を四つ購入する。

 それぞれの店主が見る中、飴の包装を取り、それをまな板の上に置き、包丁を入れる。

 コーティングされた飴の層はそれほど厚くはなかったので、非力な私の力でも切ることが出来た。

 一個の林檎飴を小さな四つのブロックに切り分け、器に盛る。

 その様子に感心している林檎飴の店主に、「こんな風に小さくすると、女性は食べやすいんですよ」と、説明した。

 店主はこれから試してみるよと言い、フォークを四本貸してくれた。

 私は三人の元へ戻る。

 三人もこういう食べ方は初めてらしく驚いていた。

 林檎の果肉にフォークを差し、一口囓る。

 林檎の酸味と、パリパリとした飴の食感と甘さが口に広がる。

 すでにかき氷を食べ終えた、四人はあっという間に器の林檎を食べ終えてしまった。

 器を店に返し、

 輪投げ、金魚すくい、吹き矢の射的、駒回しなどのゲーム。そして、空中にシャボン玉が舞っている。

 空に舞う虹色に光る球体は、音もなく、弾けて、消える。

 私達は金魚すくいをすることにした。

 左手に椀を、右手に和紙を貼った輪っかを持つ。

 涼しげに泳ぐ紅白模様の金魚を輪っかを水面と並行にして、そっとすくい上げようとする。

 しかし、金魚は勢いよく跳ね、紙を破って逃げてしまう。

 再度、お金を払い同じような模様の金魚を狙うもやっぱり紙を破って逃げられてしまった。

 霊夢さんも腕をまくって、挑戦する。

 阿求さんは、小鈴さんの指さす金魚を狙っている。

 霊夢さんは泳ぐ黒の金魚に狙いを絞る。

 すくい取るように金魚は紙の上に乗り、吸い込まれるように椀に入っていく。

 

「まず一匹」

 

 今度は紅白の金魚を狙い、一匹目と同じようにすくい取った。

 三匹目の狙いは少し小さな白い金魚。

 水面からすくい取るように動かすも椀に流れる前に紙が破れて逃げてしまった。

 

「二匹か。まあこんなものかしら」

 

 霊夢さんは椀を店主に渡し、捕った金魚の入った透明な袋を受け取った。

 観察するように袋を顔の前にかざす。

 紅白の金魚と黒い金魚。仲良く泳いでいる。

 歌声が聞こえた。

 よくあるラブソング。

 泳ぐ金魚を見ながら――

 

「もしこの金魚たちが恋人同士なら、この中は二人にとって楽園なんでしょうか?」

 

 聞こえる歌の歌詞のせいか、私は何ともなしに呟いた。

 

「……早苗……」ため息が聞こえた。「……何しんみりしてんの。そんなわけないでしょ。二人だけなんて退屈でしょう。それに――」

 

 大通りに方を見やる彼女。

 

「こんな景色は見れないでしょ」

 

 どこか遠い目で――

 

「二人だけなんて、寂しい――――」

「私も欲しいぃー」

 

 近くで同じように金魚すくいをしていた少女の声にかき消され、聞き取れない。

 だけど、その言葉に不安がよぎる。

 祭りは後半にさしかかっていた。

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