俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜   作:アドライデ

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ぼうけんのしょ
Lv.1:異国の兵士がやってきた。


 

 ここはローレシアのお城。数多の世界を救いし勇者の血筋が、王となり、建国した国。

この平和で長閑だった世界に再び闇が落ちる。

 

 あれは、周りが慌ただしくなり、剣の修行が途中で終わってしまったときだ。何はともかく玉座へ向かえと皆に言われた。

言われるがままに玉座に腰掛けた直後のこと。ー何が起こっているのか確認を取る暇もなく、一人の異国の兵士が、我が城ローレシアの兵士に支えられ、謁見の間に現れた。

彼は跪き叫ぶ。

 

「大神官ハーゴンの軍団が我がムーンブルクのお城を! 大神官ハーゴンは禍々しいカミを呼び出し、世界を破滅させる気です!」

 傷ついた異国の兵士が、まくし立てるように現状報告をした。この兵士の生命は既に尽きかけており、報告できた安堵からか、そのまま崩れるように倒れ動かなくなった。

 

(えっと、ムーンと言うどっかの城が大変なことになったのか?)

 

「話は聞いたか? 我が息子、ロレン王子よ」

「おう! 聞いたぞ」

 混乱している王子を他所にローレシアの王はゆっくりと跪き、兵士がこと切れていることを確認し、手厚く葬るように近衛兵に指示する。

「今こそ、この世界の危機、そなたもロトの血を引きし者。その力を試すときが来たのじゃ!」

 王は熱く語る。取り敢えずハーゴンがヤバイっと言うことを理解する。

「おう!」

 同意すると兵士の元から離れ、階段へ向かう。王子も直ぐに後へ続こうと思ったが、側にいた教育係の爺と近衛兵が涙で見送ってくれた。

「逞しくなられて、爺は嬉しゅうございますぞ」

「おう! 爺にはいっぱい教えてもらったからな!」

 目を細める、皺くちゃの手を王子の手に重ね、喜んでくれている。

「私もついて行きたいでも城を守らねば」

「おう! この城のことは任せたぞ」

 共に行けぬことを悔しがりながら、声を掛けられたことで嬉しそうに『お任せください』と敬礼する。

 

 一階に降りると、王は激励とともに、サマルトリアの王子もロトの血を引いているから、一緒に行けと命ぜられた。

「えーと、サマルの王子だな!」

 わかったと父の言葉に頷き、何の疑いもなく銅の剣と50Gを貰い、堂々と前を見据え歩く。憂いを帯びた王の姿を気付かぬままに…。

 

「正しきカミは正しき者の味方なり! 行く先々の教会を訪ねなさい。きっと助けになることでしょう」

(ん? 教会に行けば役に立つことあるのか)

 城をぐるりと周り、躾けられた習慣で出かける前に教会へお祈りを行うと、神父が話しかけてくれた。

 

 教会は、世界的に分布している一種の組織だ。大神官と名乗ったハーゴンとの関係は、わからないから、考えない。

カミにも良い奴と悪い奴がいるんだろうと適当に思う。

「わかった教会を見つけたら必ず行くぞ」

 せっかく、お見送りしてくれた神父さんが言ってくれたから、覚えておこう。

 

 途中、【旅の扉】とやらの説明を受けた。遠いところに一瞬でいけるらしい。今まで危ないからと立ち入り禁止だった場所だ。

試しに行ってみたが周りが海に囲まれており、完全に孤島で、何もなかったので普通に戻って来た。

 

「ああ、王子。行ってしまわれるのですね」

 若い女性。幼い頃から色々と話し相手となり、疑問を口にする度、嫌がらずに答えてくれた。不安なのは彼女だけじゃない。

皆、口々に激励の言葉や忘れ物はないかと心配してくれる。

「おう! 無事にハーゴンを倒して戻ってくるぞ!」

 我が国の人達は皆、良い人たちだ。

 

 皆に見送られ、勢いよく城下町に出たがサマルのいる城が分からない。

「このお城から西に歩けばリリザの町です」

 直ぐ様困っていることを察知した町の人から教えてもらった。なので取り敢えず、リリザの町へ向かうことにした。

真西は海があるので、まずローレシアのお城から北に行き、そこから海岸沿いを西へと歩き続けた。

あまり出歩いたことがないため、リリザの町までの距離感がわからない。

 

 歩いているとで襲いくるモンスター。

最初は【スライム】(雫型の最弱モンスター)が三匹現れた。しかし、餞別に貰った銅の剣があれば一匹づつであるが楽に倒せた。また【おおナメクジ】(その名の通り大きなナメクジ)が出て来たときは、反撃を喰らい無傷ではすまないが、比較的簡単に倒せる。

体力が辛くなると事前に買った薬草(15G×3)を使いつつ、西へ西へと向かう、途中で険しく超えられない山や体力を奪う毒沼があり、回避するため南へ迂回しつつ、歩く。

 良くはわからないが、今は世界の危機。

最終目標の打倒ハーゴンと掲げ、仲間を探して、旅立つのだ。

 

 

「旅立ったか」

 ワイワイといろんな人に出迎えられ、それに律儀に返答して行く息子の姿を見て溜息をつく。

いろんな人にいろんなことを吹き込まれていたが、彼のことだ半分以上忘れているだろう。

素直に育ってくれたのはいいが、些か不安が残る。一種の洗脳教育だったのかもしれない。

 

 これは刷り込まれた仕来り、この国ができてから早百年弱。

「よもや、この時代にこの事態が起こるとは、送り出すのは辛いな」

 これも先延ばした罰だろう。もう少し早くに行動していれば…。いかに王と言えども幼子を世界の荒波に捧げるのは躊躇う。

そんな重責を背負うことなく、元気よく歩く息子の姿を見送りつつ父王は小さく「許せ」と呟いた。

 

 ロレンLv.1、言われるがままに前へ進む。


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