俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜   作:アドライデ

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Lv.2:リリザの町に着いた。

 

「死ぬかと思ったんだぞ」

 滑り込むように町に入る。

 

 途中までは順調だった。迂回した山の西側に出たとき、モンスターが一段と強くなった。

巨大な蟻【アイアント】は、外殻が硬く一撃で倒せない。一匹に苦戦すると、その分大きな隙となり、反撃を多く食らってしまう。

【アイアント】が三匹まとめて出て来たときは、もうダメだと思った。薬草を頬張りつつ一目散に逃げる。一度回り込まれつつも、何とか町に飛び込むことができた。

 

 ローレシアの国境にある、商業の町リリザ。サマル王子がいる国は通称、森のサマルトリアと言われている。王子が住んでいた海辺のローレシアと互いに異なる特産があり、この町で物資の交流が盛んに行われ、賑わっている。さらに南にある魔法の国ムーンブルクの物資が関門から出た直後の町でもある為、最も多種多様の物資で溢れていた。

しかし、近年は魔物が脅威となり、物流が以前の半分になったと言われている。そんな時分にどん底へ落とす不確かな話が舞い込んできた。不安を煽られていると言っても過言ではない。

 

 そう、ムーンブルクに降り掛かった出来事で話が持ちきりなのである。城が魔物に滅ぼされたと聞いたが真偽はどうなのかだの、それを受けローレシアの王子が旅立ったのは本当かだの。

国からの正式な公表がされていないのか、憶測で噂が飛び交っている。滅多に城から顔を出さないとされている王子が、今目の前のいると言っても信じてもらえなかった。

 

「取り敢えず、教会に行くんだぞ」

 ぼーっと町並みを眺めていたが、気を取り直し、どんな事を助けてくれるのか確認するために向かう。どうやら毒の治療や蘇生、呪いの解除など、今後お世話になるだろうものを教えてくれた。

 

 武器と防具のお店もついでに見てみたが、今の所持金で買えるものはなかった。

楔帷子(480G)、鎖鎌(390G)と少し手が出せない料金だ。皮の盾(90G)が一番近場の目標かもしれない。

薬草を買い足し、今日はここの宿屋で一泊する。やり方は爺から手取り足取り教えてもらっていたので問題なく行えた。

 

「あ、サマルの場所がわかんないんだぞ」

 城のベッドより硬いそれにごろりと横になってから、思い出したように飛び跳ねる。しかし、夜は危ないから寝ることにする。

あまり、外に出ることがなかったので、宿に泊まって寝ると言うのが新鮮だった。護衛もつけずに旅立つのも初めてである。

 

 そもそも王族である王子が旅立つ理由だが、先祖代々からの言い伝えによるものだ。暗唱できるまで言わされた言葉。

『世界がピンチになったら、勇者として旅立つ。そして、その悪しき魔物を討伐する。それがロトの血を引きし者の使命』

だったか。

正確には『世界の危機が訪れる時、勇者となりて旅立つ。そして、その悪しきモノを討つべし。それ即ち、ロトの血を引きし者の使命なり』であり、修正を加えられそうだが、口煩い爺はいない。

 

 実際、世界の危機と言われても、よくわからない。ムーンブルクがどうとか確かに大変なことには違いないが、実際に目にしていないので、どうもピンと来ない。

今はこうやって自由に旅ができるのは、悪くないなと、開放感の方が大きい。死にかけたし、大変だったけど、今まで爺が教えてくれたことが役に立っていて面白い。それにもうすぐ、旅の仲間サマル王子に出会える。高鳴る希望を胸に、眠りについた。

 

 

『この町を出て北に歩けばサマルトリアのお城ですじゃ』

 朝の散歩中の老人に聞くと快く教えてくれた。礼を言って、リリザの町を出る。

 

 リリザ周辺のモンスターはやはり強い。

最初に逃げ回っていた【アイアンアント】は甲殻の継ぎ目を意識して攻撃しないと弾き返されることを学び、そう対処する。一撃で倒しきれないので、みるみる傷が増える。

更に新たに森を歩くと、子熊のように大きな鼠【やまねずみ】が飛び掛かってくる。素早いので避けるのが難しい。群れで生活しているのか集団で現れることが多い。回避すべく、逃げているうちに道を間違えていることに気づかなかった。

 

「あれ、城じゃないぞ」

 立派は立派であるが、見えて来たのは門であった。

「ここはローラの門、王子はサマルトリアの王子に会うまで、ここは通すなと命令を受けています」

「おう。道を間違えただけだぞ」

 ローラの門の場所はリリザの町の北西だ。他国の物資はここで検問を受ける。ここを潜るとムーンブルクがある大陸に行けると言う。滅ぼされた今、魔物がここよりこちらに侵入しないよう、現在、封鎖状態である。

ここがそうなのかと辺りを見渡す。

因みにローラとは、この土地に国を築いた建国の姫。ローレシアと言う国の名前も彼女から取ったらしい。

正に彼女のための国だと言われている。

 

「ローレシアの南にあるという祠には行かれましたか? 」

 歴史上の建物であるから、見物がてら辺りをうろうろしていたら、初老の人に声をかけられた。

「いや、まだなんだぞ」

「そこにはわしの弟がいるはず。会ってやってくだされ」

「サマルの王子と会ったら行ってみるな!」

 何かいいことあるのかと思い了承する。

サマルトリアの城はまだ遠い。ここからどう行けば良いのだろう。迷ったのなら深く考えずに来た道を戻るに限るなと、まだ青い空を見上げて決意する。

 

 ロレンLv.2、現状をまだ深く知らない。


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