俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜 作:アドライデ
「ようこそ、ペルポイの町に。私は町の歌姫アンナです。あなたに歌を聞かせましょう」
取り残された人がいた町にある金の扉を開けるとそこに地下街が広がっていた。
アンナの歌を聴きながら街をめぐる。ここでは大神官ハーゴンの名前をよく聞く。それに恐怖したこの住民が地下に街を移したそうだ。
「そうなのか!」
「いいえ、待っておかしいわ」
普通に納得しかけたら待ったが掛かった。
「町自体は遥か昔竜王がこの世界の闇を覆っていた時代から作り上げたと言います。幸い竜王の時代は竜王の侵略がなく討伐されたので、今回はその苦労が身を結んだ避難場所ですね」
さり気ない疑問を自慢するように町の武器と防具のお店が教えてくれた。売っているものはどれも高くて手が出せなかった。個人的に16000Gの光の剣が凄く欲しかった。
「もしかして、外から来た人かい?」
振り返ると頼りなさそうな男がそこに居た。
「私の名前はルーク。しかし、それ以外、思い出せないのです。気づいたら、この町の近くの海岸に倒れていました」
どうやら記憶喪失らしいが名前も聞いたことがなかったので彼の手助けにはなれなかった。
「ゴメンなんだぞ」
「いえ、帰らなければならない場所がある気がするのです」
残念そうに去って行く姿を見ると申し訳なく思う。名前だけは覚えておくんだぞ。
のんびりと観光みたいな感じになっていたときである。
「おい、おたくたちも牢屋のカギを買いに来たのかい?」
あまりにキョロキョロと何かを探している風だったからか大男が近づいて来てそう耳打ちして来た。牢屋のカギ、ローレシアにいたあの囚人が言っていたカギのことか。
「そうだぞ」
「俺もよお、この町で売ってるって聞いてきたんだが、デマだったようだな。ちっ!」
「そうなのか!」
それは残念だと互いに肩を落としあった。
「ローレなんの話ししているのー?」
「牢屋のカギだぞ」
「牢屋のカギねー」
事情を説明したら、何か納得したようにサマルはとあるお店に視線を送る。
「牢屋のカギがどうしたのよ」
「欲しんだぞ!」
ムーンの疑問に答えつつサマルが誘導する場所へと歩む。道具屋の主人と視線が合う。
「バレちまったか、高いぜ」
2000Gきっちり取られてしまった。しかし、手に入れたそれは無駄ではない。行けるところが増えたと言うことなのだから。
意気揚々と手始めにこの町の牢屋を開ける。そんなことしていいのかと言うツッコミは受け付けない。
勿論罪状が重いのなら考えなければいけないが、行方不明だったり、価値観の相違のような人たちだったりだから問題ないだろう。
しかし、大盗賊と言われたラゴスよ。なぜそんなところに隠れていたのか、わからない。本人がいいのならいいのだろう。世界中でラゴスを尊敬して探していた人が可哀想な気がする。
「カギを貰ったんだぞ」
「水門のカギね。どこのかしら」
ちゃんと持ち主に返さないとと言う話し合いになった。今まで訪れた場所には水門がなかったので、また探さないといけないが。
大まかに仕入れた情報を整理する。
テパの村があってそこのドンモハメという人物が水の羽衣を織れる職人らしい。ムーンが目を輝かせていたので、次の目的地はそこになりそうだ。
ハーゴンの情報もある。
やはりロンダルキアが彼の根城らしい。
そこへ行くためには邪神の像が必要とのこと、その像がロンダルキアへの道を開くらしい。事実その現象を見た人がいるので間違いないだろう。
また、ハーゴンは幻術を使うらしい。この世界の精霊ルビスの加護があれば良いらしい。
ん? ルビスの加護? どこかで聞いたことあるどこだっけ?
「曾孫さんが言っていた守りってルビスの加護だったのね」
全てが繋がったわと納得するムーンの言葉でそうか、竜王の曾孫だったと思い出す。
精霊ルビス、この世界の創造主とも言われている存在。実在しているか不明だが、カミと言われ崇められている存在でもあるらしい。
「そんなことして大丈夫なの?」
場所は再びローレシアの城の地下牢。以前にカギを開けてくれたら良いこと教えてやると言っていたのを思い出したのだ。
開けると命の紋章の在処を教えてくれた。ロンダルキアへ通じる洞窟か。
(ん? 紋章なしでロンダルキアに行けるのか?)
疑問が湧いたので後で聞こうと思う。
この囚人は地下牢の護衛の兵士が対応してくれるだろう。『宜しくなんだぞ』と笑顔を送っておいた。
それよりもだ。牢獄の一番奥眩しい光が地面から発光しているその先にあるものが気にかかる。
「ローレ待って、トラマナ」
「ん?」
「サマルが床の放電魔力から身を守る魔法をかけてくれたのよ」
何をされたのか、よくわからないまま戸惑っているとそう教えてくれた。
「サマルはなんでも覚えるな!」
お礼を言った後、歩みを進める相当痛そうな火花が襲い来るが、肌に触れる寸前で搔き消える。全く凄いものだ。
「ほっほっほっ。私をここから出してくれるのですか? ありがたいことです」
牢獄の奥には紫色のマントを羽織った人型のモンスター【じごくのつかい】が居た。不気味な仮面は表情を隠す。なぜここに捕まっているのか、いつから捉えられていたのか、わからない。わからないが今ここで野放しにはできない。
「あなた方の亡骸をハーゴン様への手土産にしてあげましょう」
鉄球を振り上げ襲い来る【じごくのつかい】攻撃を盾で防ぎつつ応戦する。後方から攻撃魔法が飛ぶ。それに応戦するかのように相手もベギラマを放つ。相殺いや相手の方が上回っている。
周囲に覆う煉獄の炎。
「サマル、マホトーン! ムーンは回復を!」
そう叫んで二発目は撃たせるかと切り込む。上手く逃げられるが、サマルが丁度魔法を封じ込めることに成功。打撃のみとなったらローレの得意分野だ。回復を二人に任せて切り込む。
「おりゃぁ!」
渾身の力を込めて切り裂くと霧のように姿を消した。カランと何かが落ちた。
「まさか、雷の杖!?」
拾ったムーンが驚愕する。とんでもないものらしい。後で聞いたが道具として使うと魔力の節約になるし、何より高く売れるらしい。
「王子!? ご無事ですか!」
騒動に気付き、駆け込む兵士に大丈夫であることを伝える。
「この魔物は以前この城に単身で侵入して近衛兵達に討伐されました。しかし、不死身の肉体を持っているらしく、身動き取れないようここに結界を張り閉じ込めています。お気を付けを」
再び厳重にカギを閉め入り口まで戻る。単身とは舐めた真似を、いやおかげで助かったのか。しかし不死身の体ね。
「ハーゴンってどんな奴なんだ?」
「わかるのは私たちにとって良くないものってことよ」
「悪魔に心を売った。さっきの親玉かなー」
ボソッと呟いた言葉に単純に噛み砕いた返事が返ってきた。
「そっか」
倒すべき相手であることに変わりない。
ロレンLv.21、漸くボスの存在に実感が出て来る。