俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜   作:アドライデ

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Lv.23:海底の洞窟を探した。

 

「うーぬ」

 再び、若干不正確な自作地図と水平線が広がる海を見比べる。以前偶然発見したそれは憶えているつもりで、位置情報が記憶から欠落していた。

海の上に浮かぶ珊瑚に囲まれた島、地底の洞窟と呼ばれる場所は何処にあるのだろう。

「トヘロス」

 再び効果が消えないように重ね掛けしてくれている。このムーンの魔法がなければ、この航海はより過酷だっただろうと推測する。

ゴウと潮風に吹かれ、滑らかな衣が悪戯に捲き上がる。ムーンが欲していた水の羽衣は無事に彼女の手に渡ったのだ。今は無理を言ってもう一着作ってもらっている。材料を取りに行く手間があったがそれ以上の利益がある防具だとムーンが力説していたのを思い出す。

 

 サマルは先日手に入れた月の欠片に興味が引かれたのか熱心にそれを見ている。月の満ち欠けによる月の引力を擬似的に作り出し、満潮時のような現象を起こし浅瀬で通れなかった道に潮を呼び強引に通ると言う。

ここまでで既に意味が理解できなかったのでこれ以上詳しくは聞いていない。

 

 月の欠片があった満月の塔はあっけなかった。モンスターもテパの村周辺の方が強かったのではと思えるぐらいだったし、パターンと言えばいいのか塔の最上階には何もなく、登ってから降りた先にいた守り人の老人がいて難し言い回しをして渡してくれた。

 

「月満ちて欠け、潮満ちて引く。すべては定めじゃて…か」

 思わずまた魔物かと警戒したが今回は大丈夫なようで、満月の塔の管理人と言うだけであった。

「自然現象の一つだね」

 独り言にサマルが返事した。海の側に城があるから流石に潮の満ち引きは知っていた。

「この欠片がそんな力があるなんて信じられないぞ」

「ほんとだねー」

 くるくると回転させるもどこが月なのかイマイチわからない形状していた。欠片だから当たり前かも知れないけれど。

「早く見つかると良いね」

 にこやかに返された言葉に頷く。本当にムーンのトヘロスの呪文が無ければどうなっていたか。

 

 途中でペルポイの町に寄り、光の剣(16000G)を購入する。気分はかなり高揚する。強さがワンランクアップしたように感じる。

散々道に迷っていたがそのお陰で金銭面はそれなりに確保できたのは幸いか。

 

「ちょっと、何か見えて来たわ!」

 ムーンが指し示す方向を見れば、前方に見えたのは浅瀬に囲まれた島。島というには小さく木々は生えておらず、凸凹とした黒い表面が不気味さを醸し出している。

「ここがそうなのか!」

「そうっぽいねー」

 のんびりと返事をして、サマルは月の欠片を空に掲げる。

 

「ここは…」

 潮が満ち、漸く入ることができたそこは、常に灼熱の溶岩が付近から溢れ出し大地を焼いている。この島が島である理由がわかった気がした。

徐々に深く降りて行くその場所は果たして人間が留まることが許される場所なのだろうか。

「トラマナ…ダメだ意味がない」

 サマルが唱えるも体力を削られるのを抑えることができなかった。元々この呪文は浮力を力にしているのでこの温度では無意味ということだろう。

「暑くないわ」

 ムーンが最後に降り立ったときに驚きを交えた声で周りを見渡す。こちらは既に汗だくだというのに、やせ我慢というわけでもなく涼しい顔のままなので本当に暑さを感じていないようだ。

「水の羽衣の力?」

「そうかも、想像以上だわ」

 サマルの呟きに合点が行く。ならばすることは一つだ。

「サマル戻るぞ!」

「え?」

 そのまま入り口を引き返す。ルーラするように頼む。ここの位置は既に把握済みだから次来るときは迷わず来れるだろう。

 

「そう言えばもう一着作ってもらっていたわね」

 テパの村への道。大変な思いは変わらずだが、何度も通う道は慣れたもので出た敵の処理も淡々と冷静にできる。

チームプレイが安定し、強くなって来たと言う実感が隙となり、窮地に陥ってしまうのだが、無事に水の羽衣を手にした時はまだ予期することすらできなかった。

 

「僕が着るの?」

「ムーンが二着とも着ててもしょうがないんだぞ」

 手渡すとサマルがキョトンとして見返す。ローレも確かに着れないことはないが、現在の装備がガイヤの鎧である為、問題ない。

さらに隼の剣(25000G)を購入しておく。この隼の剣が素晴らしい。一撃の攻撃力は落ちるが剣を素早く動かせる魔力の石が埋まっており、瞬時に二回攻撃できるのだ。硬い敵や強い敵が出る場所では光の剣が安定だが、それ以外の場所では速さを重視して隼の剣が良いだろう。

実はサマルも隼の剣を装備できて最初は彼に渡していたのだが、力が弱く鉄の槍の方が威力が出るという結果となり、鉄の槍オンリーとなったのは申し訳ないと思う。

 

 寄り道が多くなったが再び海底の洞窟へ向かう。お陰で準備万端だ。フロア全体が赤く灼熱を思わせるこの洞窟。一歩踏み入れれば徐々に体力が奪われる。

 

 入り口に鎮座しているのは魔力を吸い取る【あくまのめだま】(名前の通り大きな目玉を持っている洞窟の天井から釣り下がっており、無数の触覚を出して攻撃してくる)

それと共に出てくる【じごくのつかい】のベギラマとルカナンや【ガスト】(ピンクのガス状のモンスターで当たりにくい)のラリホーやマホトーンと、補助呪文の乱舞で、こちらの魔力をそぎ落としにかかるのが厄介である。

力の盾の補助効果が無ければ即、死に繋がっていただろう。

地下一階はそれでも何とかなった。

【あくまのめだま】の数が多いときはサマルのマホトーンでその場を凌ぎ、取られる前に倒す。ムーンの持つ雷の杖が効かないこともあるが、広範囲に高威力を発揮してくれる。残りをサマルと二人で地道に倒す。このパターンで多少魔力を取られるが攻略可能である。

 

「その昔、海底が爆発してこの洞窟ができたらしい」

「そうなのか」

「今は人を寄せ付けぬ高貴な場所となっている」

 虚ろな目で話しかけてくれた兵士。服装を見てもどこ所属なのかはわからなかったが貴重な情報を教えてくれた。

しかし、ムーンとサマルはそうは思わなかったらしく。

「関わってはダメよ。彼はもう手遅れだわ」

「邪神崇拝者なのに僕らを襲わないだけマシかもしれないね」

 そう言い説明を求める暇なく、腕を引きその場を後にした。確かに閉じ込められていたこの場所に人がいるというのも恐ろしい話かもしれない。

「礼拝堂は見つけたか?」

「まだなんだぞ」

 マグマが噴き出るほどの内部、虚ろな兵士が問いかける。

「ここのどこかに、悪霊の神を祀る、礼拝堂があると言う。そこにハーゴンの神殿に近づく、手掛かりがあるはず」

 兵士の言うのは邪神の像の事だろう。悪霊の神、それは恐らくハーゴンが崇拝しているカミ。

 

 地下二階以降、入り組み罠の宝箱はあるし、大量に階段がありどこへ行けば正解か、わからないカオスな空間へと変貌を遂げる。歩くだけで体力は削られるので長居はできない。魔力の底をつく前に脱出して、英気を養い再び潜るの繰り返しを余儀なくされた。

 

 さらに奥深く魔物の種類が変わってきて、今まで単体でしか遭遇してなかった【ゴールドオーク】とデルコンダルで見世物として闘った【キラータイガー】が集団で襲ってきた。生き生きとしたこの強さだ。あの時【キラータイガー】は気温が低く弱っていたから簡単に倒せたのかと思える程厄介である。

「ムーン! 回復と防御だぞ!」

 何故か他の人の攻撃を受けても顧みずムーンばかりを集中攻撃する【キラータイガー】

【ゴールドオーク】の対応していたら遅れをとる。

「ベギラマ!」

 灼熱のこの場所ではサマルのベギラマも効きが悪いのかなかなか上手く進めなくなった。

 

「地の利もあるけれど厄介だわ」

 装備できない力の盾を必死に持ちながらムーンはぼやく。水の羽衣に守られているはずの背中から汗が止まらない。

「でも、標的にされたら防御と回復を繰り返せば何とかなりそうだね」

「生きた心地はしなかったけれども、確かにまだ生きているわ」

 一段落したときにそう漏らしていたのを聞く。ムーンばかり狙われていて、どうしたものかと悩むのは確かだ。

 

「ムーン!」

 両手で構えた盾を前に出すムーン。それに牙を剥く【キラータイガー】その間に割り込み無理やり標的を変える。

「ローレ!」

 気分を害したのか、はたまた元々標的だったのかはわからないが、上手くこちらに誘導できた。しかし、それが甘い考えだったかもしれない。相手はキラータイガー三匹、その鋭い牙で総攻撃を喰らい、頭がクラクラしてきた。後方で癒しの呪文を唱えようとしている二人の姿が見えた。ならできることをするまでだ。

 

 力任せに剣を振りかぶり相手の喉元を斬り裂いたところまでは覚えているが、そこからプツリと記憶が途絶えた。

 

 ロレンLv.23、心の崩壊を見る。


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