俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜 作:アドライデ
「ターゲットはおれだぞ!」
死地を乗り越え、何度目かの海底の洞窟。流石に慣れてきたと言うべきだろう。【キラータイガー】の攻撃を防ぎつつ叫ぶ。
「ローレ! 今、回復するわ!」
【キラータイガー】の対応は直ぐに誰を標的にしているか把握、ムーンとサマルは初手は自分がターゲットになった時を想定し、防御ないしは力の盾を掲げることで対応。ローレ自身の場合はベホマと言う回復の最上位の呪文を覚えてくれたムーンが即座に対応してくれる運びになった。
ムーンは一人取り残されてから、元気はないが目に意思がちゃんと宿る所まで回復していた。
「ローレ何かいるよ」
下への階段がない為、最下層と思われる場所で新たな敵。
丸みを帯びたメタルボディーを四つ足で支え、手には弓を持つ機械仕掛けの殺し屋【メタルハンター】少し硬く二回連続攻撃をしてくるが身構えたほど強くなくやや長期戦になるが、【ゴーゴンヘッド】のスクルト態勢を経験しているとどうってことない。
【スカルナイト】(骸骨兵士【アンデットマン】が赤っぽくなった色違い)も印象に残らないほど、何だろう。【キラータイガー】が強過ぎたんだなきっと。
「礼拝堂を穢す、不届き者め! 悪霊の神々に捧げる生贄にしてやろう!」
いきなり奥から現れた神父…いや、【じごくのつかい】二匹に襲われる。しかし『何度』も倒した相手。
「………今の」
「ローレ、あっさりカタが付いたって言ってはダメよ。苦労させられたのだから」
今のローレシアの地下にいた奴だったよな。と言う言葉がムーンに遮られる。
「多分、ここを守ってたんだろうね」
奥に行くとマグマに彩られ、崇め奉っている不気味で邪悪な像。これが大神官ハーゴンが崇めているカミなのだろうか。大きな角の生えた髑髏を持つ魚の鰓のような飾りを対で顔の横に付け、体は蛇を思わせるような鱗に覆われている像。手に取り眺めれば眺める程、不気味であった。
さて、その邪神の像を捧げる場所はと言うと、地下に住まうペルポイの町で見た人がいたが、そこは山に隔たれて直接行けない場所である。
ならばどこか。
「この祠の西にロンダルキアに通じる道があると言う。しかしお若いの。焦らずにな」
「ありがとだぞ!」
神父に見送られて、旅の扉を進む。ここは水の都ベラヌールで厳重に守られていた扉の先。そこは何とペルポイの大陸に繋がっていたのである。
「こんな話をご存知か?」
嘗て、ロンダルキアは聖地であった。それを邪悪なものが占領し聖地は邪神へと姿を変えてしまった。魔物もその空気に当てられ凶暴化し誰も踏み入ることができない不毛の地となった。
望むは世界の破滅。
「そう、全ては大神官ハーゴンの目論見」
神父の話と合わせて、ムーンは静かにそう語る。完全に立ち直ったわけではないだろう。この選ばれし三人は精霊ルビスの加護を多く受けていると言う言葉で何とか失わないで済むと、地に足をつけているに過ぎない。
「おれ達、三人がいれば大丈夫だぞ!」
「そうだね。これまで三人で乗り越えてきたのだから、この先も頑張ろう」
二人が眉を潜めているムーンに笑いかける。目を瞬かせて同じように笑みを作るムーン。
「あなた達は本当に…」
その言葉の先は声に出さなかったのでわからないが、気持ちが持ち直したのがわかったので良しとする。
「その方が楽でしょ?」
サマルにはわかっているようで、そう相槌を打つ。わかってないの一人だけのようで首を傾げるしかなかった。
『ロンダルキアの南の麓に行きなされ。沼地に入り像を使えば奇跡が起こるというカミのお告げじゃ』
ローレシアのお城の遥か北、勇者の泉から北西にある小島の祠に住む預言者が教えてくれた。しかし、重要な手がかりを持つ人達は辺鄙なところにいる変わり者が多いな。そんな疑問を言うと、重要な情報はそれだけハーゴンに命を狙われやすいからだと直ぐに返された。成る程、隠れていたのか。
「恐らくここだと思うわ」
その毒沼の先、なぜかトラマナが効かなかった、この岩場にわかり難い程、同化している窪みを見つけてくれた。ムーンとサマルが何かを感じるように手を掲げ、指で場所を示す。
そっと邪神の像をそこに置くと小さく地響きが起き、石の扉が自動で開き、大きな洞窟への口が姿を現した。
「イテテ」
入って直ぐに落とし穴が有り、あっという間に下へ落とされた。
「もう。何なの」
落下ダメージは浮力の靴で何ともないが心臓に悪いと、汚れた服を叩きながらムーンは立ち上がる。ただ、いたるところに上り階段があるだけのだだっ広い部屋。出迎えるは【くさったしたい】と言う名のモンスター。人型であるが顔色が悪く、ヨダレを垂らし所々が腐り、朽ち果てている姿は、見ていても気持ちいいものではない。
動作が遅くやられる前にやる戦法で問題なく片がつく。ただ時折、吐き出す毒性の攻撃だけは注意が必要である。
「え?」
近くにあった宝箱を開けるとなんと命の紋章が入っていた。予想外の展開に思わず停止する。
「これで全部揃ったねー」
サマルが嬉しそうに笑う。揃ったらどこかへ持って行かなきゃダメだったなと思い出した。
「どうするの?」
ムーンが紋章をしまいながら確認する。
「うーん」
今、ここに入ったばかりである。最終目標はここを抜けてロンダルキアへ行かなければならない。その為、もう少し先へ進んで把握しておき、次来たときに迷わずに進めるようにしたいと考えた。
「もう少し探索したいぞ」
それに二人は同意し魔力がなくなるまでと、時間を決め探索を開始した。
「邪悪な何かが立ち込めているね。気味が悪いや」
一階に戻って来たときにサマルがそう言った。ローレには良くわからない感覚だが、その気味が悪い原因は直ぐにわかった。
「空間が捻れているわ」
二階へ登ったときだ真っ直ぐに進んでいるはずなのにいつの間にか同じ場所に戻っている。落とし穴もあってしまったと思う暇もなく一階下へと落下する。繰り返しの部屋は罠かと思って他の道を探すも全て行き止まりで宝箱一つない不気味な空間だけが広がっていた。
「同じ場所を巡っているみたいだけど、全部が全部ではないみたいだねー」
岩に傷をつけての検証をしながら地図を作って行くサマル。こちらは戦闘しかできないので、いつも助かっている。
「となると同じように見せかけて、出口があるってことね。虱潰しになるでしょうが、やって行きましょう」
ギュッと杖を握りしめてムーンは決意したように呟く。
「ローレも気を付けてね」
もう一度、声を掛けられた。それもそのはずこの一階で一度死んでいるからだ。
「おう!」
世界樹の葉の効果を改めて実感する。通常棺桶に入ると教会での蘇生以外では生き返ることはない。しかし、この聖なる木である世界樹から取れた葉はそれの代わりとなる。その場で使用できる為、町に戻らなくてもいいと言うのが大きいだろう。複数所持したいところだが、祈りを捧げてもなぜか一枚しか落ちてこない。
直ぐに使うと直ぐに落ちてくるので出し惜しみされている気分だ。
『世界の理かもね』
生きとし生けるものの定め、全ての生に平等を精霊ルビスの云々。とか何とかサマルが言っていた気がするがちっとも思い出せなかった。
【くさったしたい】を下層に置き、階段を上がるごとに強化されていくモンスター。
魔力を奪う【ダークアイ】(天井から垂れ下がる【あくまめだま】が青色になり触覚がさらに進化している)を優先すると【スカルナイト】がルカナン(防御力を下げる。最近ムーンも覚えた)を使い【べビル】(下級悪魔【グレムリン】をエゲツなくした。オレンジ色の餓鬼)がベギラマや火の息で纏めて焼こうとする。
一戦一戦が対処できないわけでもないが、油断するとあっという間に全身傷だらけになる。只管、剣を引っ切り無しに振り回している様に感じる。この動作を辞めた時、全てが飲み込まれてしまう、そんな憔悴感がローレを襲う。
やっとの思いで永久回路を抜けた先に現れた新たな魔物【バーサーカー】赤い髪を振り乱し、軽々と振り回す斧の一撃は重い。更に集団で襲いくるのは息のあった連撃。倒せなくはないが数が多いと苦戦を強いられる。
「この先に…」
導かれるように進んでいた途中で見落としていたのか、傷付き疲労が少し溜まっていた身体に衝撃が走る。
「イオナズーン!!」
渾身の叫びのように何時もより声が低いムーンの呪文詠唱を耳にして、記憶は途切れる。
ロレンLv.25、焦っている理由はわからない。