俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜   作:アドライデ

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Lv.25:精霊ルビスにあった。

 

「ムーン」

 壮大に効果のある呪文は、その分消費も激しくなる。サマルの心配を目の当たりにして、ムーンは瞳を閉じて何度か深呼吸する。そして、真っ直ぐにサマルを見つめて微笑む。

「大丈夫よ。戻りましょう」

 意志の強さを見てサマルも微笑む。

「それだけどね。もう少しだけ行かない?」

「え?」

 すぐ奥に見える階段。この光景にデジャブを感じた。竜王の曾孫が居た城でのあの光景に…。

 

 

 暗闇から突如、放たれた光の眩しさに眼を覚ます。光の正体は旅の扉が奥にある触れるものを一瞬で焼き尽くす光輝く床。呆然とその光を見ていたら、目の前にずいっと何かを渡された。

「ちゃんと自己回復してね。わかっているけど心臓に悪いから」

 渡されたのは力の盾。買うか買わないか迷っていた代物。そう言えば相談しようと思って忘れていた。ローレにはロトの盾がある為、別に防御の面では持っていなくても問題ないのだが、使う…その場で掲げるだけで傷を癒してくれるのは魔力がないからありがたい。

「ゴメンなんだぞ」

 前後の記憶が曖昧で取り敢えず、死んだんだなと反省する。

「あとこれも見つけたよー」

 サマルがニコニコと笑顔で取り出したのは、何とロトの鎧。

「ローレが行きたがってた場所の上に直ぐにあったんだ」

 呼んでいたのはこの鎧だったのか。勇者ロトが、その血を引きし者が装備していたと言われる歴代の装備。それが全て揃ったことになる。

 

 なぜあんな所にあったのか、ムーンとサマルで議論していた。ローレが言えることは自身を待ってくれていたって事ぐらいなので二人の会話を聞く。

「もしかしてだけど、この鎧はムーンブルクにあったんじゃないかな」

「まさか、ハーゴンが恐れる防具が?」

 考えたくもない結論にムーンの声が震える。

「うん。勇者…ローレに渡したくなかったんじゃないかな」

 だから、先代は一番護りの硬いムーンブルクに保管した。しかし、それを上回る勢力で襲い奪った。ロトの鎧があったから滅ぼされた何てまるで呪われた装備だ。

「………」

「ごめん。憶測で言うものじゃないね」

 自身の発言に不謹慎さを感じ、サマルは謝罪する。それにムーンは静かに首を振ることで返事する。

「それならば、父は覚悟の上だったのだわ」

 悪の復活する日が来ることはわかっていたのならば、その覚悟があったのではないか。死ぬ覚悟ではない、守り抜く強さ。実質は悪を侮っていた為、敗北した。

「私に強さがあれば…」

 ムーンはギュッとロトの御守りを握りしめる。

「…ムーンは強いぞ?」

「強くなったね」

 もしもなどと仮定を連ねても、もう戻らない。なぜこの御守りはロトの血を引くものしか護ってくれないのだろう。

 

「着心地はどう?」

「悪くないんだぞ」

 話題を変えたサマルの質問は理解できるものだったので、元気に答えたら、ムーンに呆れられた。

「それを過信して、先に棺桶に入っていたら意味がないのよ」

「おう!」

 でも、まあ、その後の表情が笑顔だったので気にしないことにした。

この呑気に会話しているこの時間が束の間の安息である事をまだ知らない。

あのロンダルキアへの道はまだまだ序の口であって、今以上の過酷な道のりになるとは思いもよらないだろう。

 

「ここなのか?」

 ロンダルキアへの洞窟は後回しに一行は、ローレシアのお城から船で南下した所、精霊の祠と呼ばれる小さな島に来ている。ここは五つの紋章を揃えたら行くがいいと言われた場所である。小さな祠には地下への階段があり、海抜より下へ潜って行く。どういう仕組みなのか、そこはガラスを一面に張った様に海の下の世界が見えるのだ。ここまで深くまで潜ったことのない三人はしばし煌めく水面、自由に泳ぎ回る生物や魔物までにも眼を奪われた。

「なんて神秘的な場所なの」

「まさに祠の名に相応しい絶景だね」

 徐々に太陽の光が弱くなり少しづつ辺りが暗くなって来た頃、最深部に到着した。

四方を海に囲まれているここはやや狭い。奥に火が灯っていない篝火が四つあり、中央の台座を囲っている。その中央には他の床と素材が違い白く輝いている。

 

「ムーンお願いなんだぞ!」

 紋章を保管しているのがムーンである為、ローレは振り返り、促す。小さく頷き、躊躇うことなく中央へ歩みを進める。それを追うようにサマルと共に台座へ登る。

ムーンが両手を広げ、五つの紋章を取り出すとそれは独りでに動き出し宙を舞う。順番にそれに反応するかの如く、篝火に火が灯る。

全ての篝火に光が灯った瞬間、一瞬にして辺り一面が光に飲み込まれ真っ白となる。

 

『私を呼ぶのは誰? 私は大地の精霊ルビスです』

 どこからともなく声が聞こえる。光が薄れていき徐々に視界が戻る。

『あら? お前達は! ロトの子孫達ですね?』

 疑問形であるにもかかわらず、確信があるのだろう。返事を待たず話し続ける。

『私にはわかります。では、私は勇者ロトとの約束を果たすことにしましょう。私の守りをお前達に与えます』

 低い天井の上部に光が集まって行く。

勇者ロト。この名前を久し振りに聞いた気がする。『ロト』に限れば、身近なところではロトの御守りを始め、ロトシリーズの防具一式、あー武器もあったか。しかし、『勇者ロト』の名はラダトームのお城以来ではなかろうか。

精霊ルビスとロトの関わりが不明である。

『嘗て、私の力が足りずに世界が闇に落ちたことがあります。その時の恩義は忘れる事がありません』

 光が集まって行く中、ルビスは語る。今の世界はまだ闇に落ちているわけではない。だが、再びその闇が世界を支配しようとしている。大神官ハーゴン。彼は復讐の心に支配され、闇に飲まれつつある。

復讐とは、勇者ロトの血を憎み、全てを葬り去ろうとしているとの事らしい。なぜ、ハーゴンはロトの血を憎んでいるのだろう。

『ルビスの御守り、これが邪悪なものを打ち払うでしょう』

 ムーンの手にキラキラと輝く菱形に象られた赤い宝石が二つと直ぐ下に一つ。シンプルなロトの紋章入りのロトの御守りと違い、随分と豪華な仕上がりになっていた。

見た目だけでなく中身も素晴らしいらしくムーンが感嘆を漏らしていた。

 

 もうハーゴンは怖くない。根拠のない自信が一行に溢れていた。ルビスの加護と言うべきだろうかそれが再び得られたことも起因して、気持ちが大きくなっていたのだろう。

 

何度目かのロンダルキアへの洞窟内。前半は特に消耗することなく、道も覚えたこともあり、順調に来れた。ここから先は未捜索の場所。ロトの鎧があった通路と逆の道を進んでいる時である。

 

「ドラゴン…」

 嘗てその名の由来となった竜殺しの勇者がローラ姫を助ける際に戦ったと言われる、緑の鱗を纏いし竜。それが四匹、ローレ達の目の前に現れた。吐き出される火の息は退路を断ち熱さで身を焦がされる。次々に襲い来る火の息や巨体を生かした回転攻撃、攻撃する隙がなく回復に手一杯となり、ジリ貧になること必須。打開策をと必死に考えていたその時だ。火の息より凄まじい火炎の息が襲い来る。叫ぶ暇もなかった。

誰一人、その場に残れずベラヌールへと飛ばされた。

 

「死んでしまうとは情けない」

 ベラヌールの町の北東にいる老人。町なのに復活の呪文を唱えてくれる人物。

うん。なんかその言葉が懐かしく感じた。ハーゴンは怖くないけれど、モンスターの脅威は継続してある。

 

 ロレンLv.26、悪夢の始まり。




ベホマラーが欲しくてたまらない。(本音)

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