俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜 作:アドライデ
幾らか歩いたか不明。時刻は既に夕暮れになっていた。
辺りは薄暗く、視界が悪くなって来た頃、襲い来るは新たな敵、【ドラキー】(悪魔のような尻尾に蝙蝠のような翼を持ち、鋭い牙で襲って来る黒い物体)の空中からの攻撃に翻弄される。
「うわ!?」
剣を振るいながら、逃げる。倒すのに羽と腹で二撃は必要であるため、集団で襲われるとその分、攻撃回数が倒すのに必要になる。相手の攻撃は時折避けられるが、空を飛んでいる上に動きも素早く容赦がないため、毎回かなりのダメージは負ってしまう。
そうなると、薬草が必要となり手持ちが少ない今、不安になる。ここまで来るのに『随分強くなった』と思うが、まだまだ辛い。
現状を打破するため、一回リリザの町に戻って出直そうと思っている。しかし、行きよりなぜか遠くに感じる絶望。また道を間違えたのだろうか。薬草がかなり減り、残り一個。
ローラの門から、町はここから東(正確には南東)そろそろ見えて来ても良いはずなのに森ばかりが辺りを支配する。
もうダメだと思ったその時、森を抜けたそこには、見慣れぬ立派な城が建っていた。
「あれ? サマルに着いたのか?」
町に戻るつもりが、サマルトリアのお城に着いたようだ。若干脳裏の地図が混乱したが、助かったとばかりにそこの宿屋へ転がり込んだ。宿代が少し高かったように感じたが疲労の方が上回り、そのまま朝まで爆睡してしまった。
次の日、意気揚々と城の兵に取り次ぎを頼み、直ぐに謁見できたのだが…。
「良くぞ参られた! わしの息子パウロ王子も既に旅立ち、今頃は勇者の泉のはずじゃ」
何と、サマルトリアの王子は既に旅立っていたのだ。
サマルトリアのお城は山と森に囲まれた内陸部にある城である。ローレシアの城が海沿いで港の近くだったので真逆の環境である。
それは最初に建国したのがローレシアで、その息子の代で分裂したのがサマルトリアだからである。争いを避けるため、奥地で差別化をはかり発展したと言われている。
盆地に近く、更に肥沃な土地であったこの周辺は、開拓が進められ、自然を残しつつ小麦やワイン等を豊富に作れる豊かな国となった。漁業と近郊鉱山のローレシアとはまさに真逆の環境である。
「あら、お兄ちゃんのお友達?」
王との謁見が終わり、サマルの王子を追いかけるべく、廊下を歩いていたら一人の少女に出会う。服装から王女だろう。その兄ということはサマルの王子かと見当をつける。
「おう! 今から会いに行くぞ」
「良いこと教えてあげる。お兄ちゃんは割と暢気者なの。結構、寄り道したりするんじゃないかなぁ…」
サマルトリアの王子の噂は、ここに来てからも良く聞いた。魔法が使えるが力が弱いとか。(魔法、おれが使えないものの一つを操れる人物か、凄そうだぞ)と思ったので覚えている。
後は、南の空が茜色に染まったのを見た人がいる。王子はそれを感知して、旅立つことを決意したのかもしれない。
「こんなところによく来たな。何なら良いこと教えてやろう」
親戚同士のお城なので想像以上に自由に歩き回れる。ぐるりと探索中、牢屋越しに男が話しかけて来た。近寄り耳を傾けると、銀のカギというものが、どこかにあるらしい。それを手に入れると、銀色の扉が開くらしい。坊主とガキ扱いされたが、覚えておこうと思った。
(良いやつっぽいのに何で捕まってるんだ?)
首を傾げつつ、城を出る。
もう一人の牢屋にいた人は、「世界が滅びるのなら何しても良いだろう」とヤケになっていた。それは、良くはない。
「あれ?」
意気揚々と町を出て、東の方角を確認後、幾らか泉を目指しているはずだったのに、気付いたらサマルトリアのお城に戻っていた。
「死んでしまうとは、情けない」
状況が理解できずキョロキョロと辺りを見渡す。いつの間にやらベッドに寝かされていたのだ。
「死んだのか?」
最後の記憶は【やまねずみ】の集団に襲われて…。そうか、死んだのか。
「自覚なかったのか、ほれこのロトの御守りじゃよ」
指さされたのは胸のあたり、昔から肌身は出さず持っている御守りを取り出す。聖なる加護があるこの御守りは、先祖代々の品物らしい。これのおかげで『瀕死になると城に戻れる』と言うわけだ。
(知らなかったぞ)
マジマジと小さい頃から持っていたそれを眺める。いつもと変わらずキラキラと輝いていた。取り敢えず、この御守りのお陰で、命を落とさずに済んだと理解し、安堵の溜息をつく。
「そなたにもう一度機会が与えられた。再びこのようなことがないようにな」
王に勇気付けられ、元気よく頷くと、既に旅立ったサマルトリアの王子に追いつくため、泉へと駆け出す。
この時、丸一日寝ていたことや、所持金が半分に減らされていたことは、結局気づかぬままであった。
ロレンLv.3、正式名称は覚えられない。