俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜   作:アドライデ

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Lv.27:銀世界の中を歩いた。

 

 暗い洞窟の中。求めていたものは、落とし穴の先、もう一度、落とし穴に落ちた先にあった。

「まさか、本当にあるなんてね」

 ムーンが感嘆する。噂は聞いていたが、どこにあるかは不確定要素であった。ローレの“ここの洞窟にある“と言う謎の自信が、諦めずに探しまくるハメになり、もう無いのでは、という気持ちに落ち入る手前で漸く見つけたのだ。

「凄い重そうな剣だね」

 片手で扱える程度なのだが、サマルはなぜか失笑していた。それにしても鋭い切れ味を感じさせる剣だ。

赤地に金糸の装飾がされている大振りの剣。魔力を溜め込む宝石が散りばめられており、反り返った片刃の対側は稲妻を模したように角張っている。

一度、大きく振り回し、上に掲げる。

「ライデン!!」

 かの有名な呪文を唱える。とある書物には雷を起こす究極の呪文だとか。勉学で魔力がないと知った後、呪文系は全てが右から左であったが、この呪文だけ耳に残っていたのだ。

「あーと、これは…」

「うーん。違うわね」

 二人は興奮しているローレと対極で言葉を濁していたのが印象的であった。勿論であるが、サマルが一撃で倒せる相手以外はこの効果を使用することを禁じられた。つまらない。

「普通に戦いなさい」

 そう言うムーンの顔がちょっと怖かった。

 

 寄り道した挙句、入り口に戻されたため、再び立て直し、ロンダルキアへの洞窟を進む。

「これ程、違うなんて…」

 今までの苦戦が嘘にようにサクサクと進む。道もサマルの地図があり、順調であったのも要因しているだろう。

 

 そして再び、一行はロンダルキアの雪原を目にすることができた。

「取り敢えず、進みましょう」

 実質二回目であるから、感動は薄い。見えぬ目的地を目指し、雪の地面を踏みしめて進む。雪自身は固く、恐らくは魔物により踏み固められているのだろう。やや滑るがそこまで苦労することはない。

 

「なっ! ローレ! ムーン!?」

 抗うことができない睡魔。一匹の時は弱いと思っていた白い毛を持つサルのような魔物、蝙蝠のような翼で空を飛び、甘い息とベギラマを交互に繰り返す【シルバーデビル】

焼かれて痛いのに瞼が重いと言う訳のわからない状況に陥る。

「ベホマ! ローレ起きてっ!! うっ」

 回復魔法が飛び交う。しかし【シルバーデビル】の甘い息は、容赦なく皆を包み込む。

「ムーン!!」

 サマルの悲痛な声。目を覚ませと自分に念じる。

「でりゃぁぁあぁぁー!!」

 覚醒と同時に斬りかかる焼かれようが無視だ。三匹の【シルバーデビル】が沈黙。既にサマルが一匹、倒していたようで楽であった。

「生きた心地がしなかったよー」

 なんか久しぶりにサマルの泣き言を聞いた気がする。実は棺桶に入るランキングがあったらサマルではなく、ローレがダントツトップだと思う。体力があるからって無茶し過ぎだと怒られっぱなしで耳が痛い。

「甘い息は魔除けの鈴の効果がないのが辛いわね」

 眠気と痛みでクラクラすると、頭を抑えてムーンが唸る。しかし一行ができる対処法はできるだけ逃げるか、強力魔法でのゴリ押ししかない。

一つ目の青い巨体を利用し、皆を踏みつけんばかりに襲い来る【サイクロプス】そいつを一刀両断しながら進む。

 

「あれは!」

 サマルが指差す方を見る。微かな視界の先に見える小さな祠。

「ハーゴンの城か?」

「違うわ。でも油断はしないほうがいいわね」

 あの場所は確かに怪しい。ハーゴンの支配下であってもおかしくないその場所に、祠があるのだろうか。

 

「何だこいつ!?」

 【フレイム】の青い炎バージョンと言うべきだろうか、冷気を纏っているので炎という言葉は違うかもしれない。名は【ブリザード】数は三匹。ローレの攻撃で一撃で倒せる相手なので、今までの敵より弱い印象。

「あれは、ローレまずいわ」

「何が?」

 一瞬ムーンを見る。ムーンの目線の先は先程の【ブリザード】だ。奴の周りに魔法を駆使する時に形成する魔法陣、その色がやや気味が悪い。

そう思った瞬間、ミスト状の髑髏が襲い来る。

「………!?」

「お返しだよ。ザラキ」

 思わず目をつぶってしまうと言う失態に被せるように、サマルの呪文を唱える声が聞こえた。ミスト状の髑髏に喰われたのか、跡形もなく朽ちる【ブリザード】

唖然とサマルの方を見る。

「死を呼ぶ呪文だよ。結構、効果あるもんだねー」

「魔除けの鈴のおかげで、こちらには被害がなかったのが救いね」

 サマルとムーンの反応にとてつもない危機が訪れていたらしいことを理解するが、実感がいまいち湧かないのは、なぜだろう。

「お、おう」

 ちょっとサマルが怖かった。

 

 敵は僅かな休息を許してくれない。あと少しで祠と言うときに先程の【ブリザード】に加え、一つ目の緑の巨体、【ギガンテス】が襲い来る。手に巨大な棍棒を持ちそれを軽々と振り回す。

「ザラキを打たれたら厄介だ。先にブリザードだ」

 ギガンテスの棍棒を盾で受け止めながら、サマルの叫びを聞く。

「イオナズン!! ダメだわ。ブリザードに効き目が薄い」

 ムーンのイオナズンのお陰で【ギガンテス】との距離ができて、【ブリザード】への攻撃が容易となる。薙ぎ払うように稲妻の剣を横に振り切り裂く、手応えは薄いが相手は倒れ沈黙。

「うわ!」

 【ギガンテス】に弾き飛ばされるサマルを横目にタイマンを張る。【サイクロプス】より数倍硬いし強いが変な魔法を使って来るわけではないので対処は容易。時間を掛けずに撃破。

「ふぅ」

 また、一段と強くなった相手にハーゴンの根城は近いと実感する。もう、あの殺戮兵器の【キラーマシーン】が癒しと思えるぐらいに…。

 

 

「ここは聖なる結界が張ってあるわね」

 漸く辿り着いた祠は、敵の根城ではなく、神聖なる空間であった。三人を迎えたのは恒例の神父と若いシスターである。

「よく来た。わしはそなたたちが来るのを待っておった!」

 癒しと徒労を労ってくれる言葉に嬉しさがこみ上げる。死と隣り合わせの世界での生あるこの場所。

「おお、カミよ! 伝説の勇者ロトの子孫たちに、光あれ!」

「その言葉……」

 遠くラダトームの地で聞いた文句。ここロンダルキアでも聞くことになるとは思わなかった。

「ラダトームに寄ったか。あそこにいるのはわしの後を継いだ弟子じゃよ。わしの名はムツヘタ。遥か昔から、ロトの血族を見守る役目。大地の精霊ルビスの右腕である」

 ムツヘタ、自己紹介してくれたがどこかで聞いたことがあるような気がする。主に勉学面で…。剣術の練習と違ってあまり頭に残っていないのがもどかしい。

「ムツヘタですって!? まさかっ!? あの預言者の」

 ムーン曰く、『先代の勇者が預言の通りに現れ、そして見事に竜王を倒した』と言う、勇者の再来を予期したまさにその人物であるらしい。名前だけは聞いたことがある気がすることもない。

「そのまさかじゃよ。人間の寿命の禁断を犯した最古の生き証人」

 絶句する二人。ローレは話に若干ついていけてないが目の前の男がとてつもない人物であることはわかった。

「あの話は本当でしたのね」

 後方から別の人の声が聞こえる。温かい飲み物を机の上に置いてくれる。この祠は今まで訪れた中で一番生活感があるように感じた。

「あの話?」

「ロトの装備を携えて、大神官ハーゴンを討ち取るもの現る」

 予言の言葉のように呟くシスター。

「勇者ロトにそっくりじゃ。その装備を見ているうちにそう思えてくる」

「この装備か?」

 全身を覆う青い鎧。盾や兜も同じ色で統一している。防御力とかなんか色々凄いので気に入っている。

「今こそ話そう。ロンダルキアに何があるのか」

 神父は静かに語る。なぜハーゴンはここロンダルキアを拠点としたのか。聖なる場所すら蝕む悪の存在。

 

 ロレンLv.28、核心に迫る。




ローレの総合経験値がサマルに抜かれている事実。

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