俺たちの冒険の書No.002〜ローレシアの王子〜   作:アドライデ

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Lv.29:ローレシアの城に戻った。

 

「大分来れたわね」

 大きな巨体、斬り伏せ一息と共に一振り、刃に着いた汚れを遠心力で払い落とす。二人にもここまで来れた事への安堵が混じっている。

何度も往復した後、ロンダルキアの南西部、禍々しい城塞が見える場所まで辿り着けた。

「なんか落としたぞ」

 巨漢が消えた後、今まで目にしたことのないものが目に付く。禍々しい光を帯びている剣。【ギガンテス】が落とした、それはなんとも言えない気持ちになった。

「それは使えないね」

 好奇心で見つめてもサマルに首を横に振られた。今持っている稲妻の剣より強そうではあるが、使用者を呪う、破壊の剣らしい。その名の通り全てを破壊することができそうな貫禄である。装備してはダメなのが残念だ。

「さぁ行くわよ」

 武器には興味ないムーンが先を急かす。【デビルロード】が落とした悪魔の鎧といい。如何にもという呪われた装備を立て続けに拾った。幸先いいのか悪いのか。

 

 

「あれ?」

 建物に入った瞬間である。辺りを見渡すと物凄く見慣れた風景が目の前に広がっていた。物心ついた頃から縦横無尽に歩き回った良く知る場所。

ローレシアのお城が見える城下町。いつの間にここに戻ってきたのだろうか。キョロキョロと見渡すが、何も変わっていない。人々は活気に溢れているし、見送ってくれた時と同じ状況である。

旅の心得を教えてくれた兵士に、次へ行く場所を教えてくれた老人。教会のシステムを教えてくれた、本人は何もしてくれない神父。

いつも通りである。

唯一違うと言えば……。

「あれ? 何で下に降りて来てるんだ?」

 ローレシアの王が出迎えるように下に降りてきていた。疑問に思いながら話しかける。

「今こそ、この世界の危機、そなたもロトの血を引きし者。その力を試すときが来たのじゃ!」

 見送られた時に言われた言葉を思い起こす言葉だ。

「おう!」

 短く答えて踵を返して、再び旅立とうとした。この時になって初めて、仲間がいないことに気づいた。キョロキョロと見渡すもあの日の旅立ちの時の光景である。多くの人に見送られ…。

「???」

 あれ? 何を倒しに行くはずだったのだろう。

「なー。オレはどこへ行けばいいんだ?」

 近くの人に尋ねる。確か色々と教えてくれたはず。

「私は自分が恥ずかしい! 何も知らなかったとはいえ、あの大神官ハーゴン殿を倒そうなどと思っていたとは…」

 質問とは違う返答だったが、先程の雰囲気から、何かが変わっていった気がする。

「倒しちゃいけないのか?」

 さっきまで倒せと言われていた気がするのに皆の言い分が二転三転するように纏まりがない。疑問符ばかり浮かび、何がどう正しいのか、どの言葉を信じたらいいのか、わからない。

「ハーゴン様のようないい人を倒すだなんて…。ああ、恐ろしい……」

 兵士はありえないと身震いする。そうか、ハーゴンは良い人だったのか。あれ? でもムーンブルクを襲ったのはハーゴンのはずではないか。

「ムーンブルク城がハーゴンの軍団に襲われたというのは、デマだったようですね。詳しいことは知りませんが、実はただの火事だったとか……」

 商人が優しく声を掛けてくれた。そうか、火事か。じゃあ、世界が闇に落ちるとか、世界の危機は起こってないのか。

「何を迷うておる」

 入り口でまごまごしていると、王が再び歩み寄り叱咤する。ロトの血の力 を試す時と言っていたよな。それはどうしたら良いんだ?

「ハーゴン殿を誤解していたせいで、そなた達にはずいぶん心配をかけたな。しかし、もう安心じゃ! ハーゴン殿は実に気持ちのいい人でな。わしも部下にしてもらったのだよ。わっはっはっ」

 王が語るのは複数形。サマル、ムーン、どこにいるのだろう。二人がいないと先程から思考がグルグルする。呆れながら解説してくれる二人が恋しい。部下って、傘下に入るということだ。

「そなたのこともよく頼んでおいたからな。もう戦おうなどと、馬鹿げたことを考えるでないぞ」

「そうなのか」

 確かにローレ自身、自分が馬鹿だと認識していた。ムーンやサマルにもよく怒られる。心配してくれるから怒るのだ。

だから、ゆっくりと改めて考える。

自分はロトの血を引きし者。魔王が現れたのなら戦う使命。大地の精霊ルビスに愛された者の末裔。

(ルビス? …ルビス! …そうだ!!)

 懐からゆっくりと取り出すのは、ルビスの御守り。

 

『騙されてはいけません。これらは全ては幻です』

 

 声が聞こえた瞬間、一瞬で辺りは光に包まれる。

開ける視界。

光が消えると目の前には、朽ちた壁や柱が地面に転がっていて、さらに視点を下げれば、床に抉られた跡が見える。そして何より嬉しかったのは傍に二人がいることだ。

「ケケケケ! 騙されていればよいものを! 見破ってしまうとは、可哀想な奴め!」

 先程の華やかさはなく、複数の火の玉を纏った影が、今まで聞いていたのと同じセリフを繰り返している。その脇にはコーモリの羽が生えたモンスター。

「これがハーゴンの幻覚。なんて残酷なの」

 一番先に我に返ったムーンが怒りに震えながら、生意気に叫んでいた魔物【デビルロード】を雷の杖で蹴散らす。火の玉は怯えるように隅によった。

「ハーゴンはいい奴なのか?」

「な訳ないでしょ! 幻覚よ。滅ぼしておいてタチが悪い」

 再度憎しみを露わにするように吐き捨てるムーンは何を見せられていたのだろうか。

「…ハーゴンの目的がわからないね」

 何時もの、のほほんとした姿ではなく眉を潜めているサマル。こちらも良い感情を持つ幻覚ではなかったようだ。

日常から一変ハーゴンを持ち上げる幻覚。確かに目的が不明瞭ではある。友好を築いてくれるのだろうか?

 

「サマルとムーンには離れて欲しくないぞ」

 寂しかったと二人と手を繋ぐ。ここまでの旅で何度全滅し、絶望したか。ほんの僅かな気まぐれで、窮地に陥ってしまう。

「ハーゴンが良い奴か悪い奴か良くわからん。けど、サマルとムーンが笑う世界にしたいぞ」

 未だ漸くハーゴンの城の入り口だというのに、疲労感が半端無い。でも、どんな絶望でも、諦めず何度も何度も挑戦して、ここまでの来れたのだ。

「……そうね」

「そうだね」

 ギュッと握り返してくれた手を見て、嬉しくなって笑う。三人は気合を入れて、空に拳を突き上げる。

 

 少し迷ったが暗い牢の扉の先。

白い祭壇の十字の部分。崇め奉るはルビスの対極にいる邪のモノ。ゆっくりと中央に備えるは邪神の像。この二つが共鳴反応して、邪悪な気配と共に上へ引き上げられる。

 

 複雑に入り組んでいるようで道は一本しかなく迷ういようがなかった。

出迎えるは、今までの上位神官であるかのように鉄球を持つ【あくましんかん】

ザラキ、イオナズンと今までの恐怖する魔法を打ち出す。マホトーンが効かないので、練る呪文に一喜一憂する。しかし、ロンダルキアの平原で鍛えられた一行の敵ではない。勿論、油断は禁物だが打たれる前に素早く攻撃していく。

 

 三階程上に登った所で魔物の気配が消えた。正確には消えてはいないがこの階に魔物が見当たらないのだ。

いや、広い部屋に巨体の影が見える。【ギガンテス】いや、それを遥かに凌ぐ、大きな一つ目が光る。ゆっくりと地響きを立てて進む道、光が差し込む部分で全貌が明らかになった。天井ギリギリまで聳え立つオレンジ色の身体に大木を加工したような棍棒を持つ巨漢。

 

「我ガ名ハ、あとらす。はーごん様ノ命ニヨリ、オ前ヲ潰ス」

 

 いきなりの戦闘、一瞬の間に吹き飛ばされたサマル。ひび割れた地面がその威力を物語っている。盾をなんとか持ち上げ回復しているが劣勢である。なぜか相手は他二人には目もくれずサマルを狙う。

それは逆に好都合、この手のモンスターは目が弱い。悠々と呪文を唱え終えたムーンが叫ぶ。

「視界を遮られてなさい、マヌーサ!」

 目玉を手で覆い苦しそうにもがく。勿論マヌーサは視界を霧で覆うだけで、直接の攻撃するものではない。それでもサマルを見つけにくくなり、やたらめったら攻撃する。

 されど一撃一撃が強い、必死に防御するサマル。ムーンがサマルを回復しようとするも【アトラス】の振り回す棍棒が直撃、回復のため動きを停止したその一瞬の隙がサマルの致命傷となる。

「サマル!」

「ローレ後よ!!」

 駆け寄ろうとするがムーンに止められ、再び【アトラス】と対峙する。サマルを始末することができ満足したのか、両手を広げ吼えている。先程から、これでもかと、切りつけているのに、痛みを感じないのか平然と動き回る。良い加減、倒れろと股の合間をくぐり何度目かの足を思いっきり斬りつける。漸くグラリと後方に倒れる巨体。今だとアトラスの身体を駆け上り、目に稲妻の剣を振り下ろす。

 

「サマル大丈夫か?」

 世界樹の葉を使いサマルを蘇らせる。

「僕で良かった」

 目眩しと回復の要であるムーン。攻撃の要のローレでは無く。二人のサポートである自分で良かったと笑うサマル。

「何言っているのもう葉が無いのよ」

 世界樹の葉と同じ魔法が使えるサマルが次こうなれば、こちらの詰みである。そういう意味合いを持ちムーンは叱咤する。

「……そうだね」

「何か、隠してそうだけど、使わせないわよ?」

 どういうことだろう。先程から二人のやり取りを見ていると、背筋が凍りそうになる。嫌な予感しかしない。交互に二人を見ていると、サマルが、大丈夫大丈夫と手をヒラヒラさせる。

「メガンテは使わないよ」

「…!?」

 自己犠牲呪文。自分の命と引き換えに相手を滅する禁断の呪文で、研究されてないんじゃないのか。

「見れたからかしら、敵の魔法陣を…かと言ってできるわけでは、ないはずなのだけれど」

「なんか覚えちゃったんだよねー」

 凄く軽いやり取りだけど、これって凄いことじゃないのか?

「ダメなんだぞ!!」

「大丈夫大丈夫、しないしない」

 イマイチ不安だが、何度か念を押す。

少しばかりだが、休息もできたことだし次の階へと進む。

 

 ロレンLv.30、目指すはハーゴンの居る祭壇。


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