ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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ついに11章が始まりました。
クライマックスもようやく見えてきました。

11章はあまり長くはなりません。どうぞお付き合いください!


【第11章】 家庭訪問のベビードラゴン
第1話 囚われの兵藤一誠


 目を覚ましたら、俺の視界は知らない天井で埋め尽くされていた。

 豪華絢爛なシャンデリアに、不思議な模様の天井。身体が妙に浮ついていてふかふかな感触さえある。

 

 ……だけど俺の頭は冷静でいてくれた。

 

 ──そうだ、あの日、俺はインターホンが鳴って家の外に出た。そしてそこにいたのはリリスで、あいつは俺が話しかける間もなく襲い掛かり……抵抗するよりも早く意識を奪われた。

 

 ……つまりここは禍の団──いや、もうクリフォトというべきか。そこの本拠地ってところか。敵の懐に入っちまったのか。

 

「ドライグ、聞こえるか?」

 

 ……応答はなかった。ドライグの声が聞こえないのは、俺が転生悪魔に転生したばかりの頃の時以来だ。

 考えられるのは二つ。寝ているか、ドライグの意識が俺に届かないようにされているか。

 ……神器はどうだろうか。

 

 俺は左腕に意識を向け、神器を引き出そうとするが──これも失敗した。

 

 よく見ると俺の手首には何やら黒い腕輪のようなものがつけられており、触ってみてもピクリとも動きはしない。おそらくこれが俺の中の神器を封印しているのだろう。

 

 ……ものは試しだ、フォースギアは──

 

「……フォースギアは展開可能なのか」

 

 ──俺の胸元にはブローチ型の神創始龍の具現武跡が展開されており、創造力も微弱だが溜まる。

 ……これは敵が知りえない情報かもしれないから、悟られないようにしよう。

 

「──さて、状況整理は済んだとして……」

 

 俺は辺りを見渡す。室内は広々とした貴族宅のような豪華絢爛な様式美となっており、家具もいちいち高そうだ。

 まずベッドが騒々しい。天街にはひらひらのレースが付いており、まるでお姫様のベッドみたいだ。

 

 そもそもこの室内自体、女の子が好きそうなもので埋め尽くされている。

 

「……ん、イッセー、おきた?」

 

 ……不意に、俺は声をかけられた。

 ──気配を消して隣で眠っていたのか、そこで俺はようやくリリスの存在に気が付く。

 

 ……俺をここに連れてきた張本人様が、すぐそばで寝ているってどういう状況だ。

 

「あのな、リリス。無理やり連れてくれ、起きた? はねぇだろ!」

「……イッセー、げんき」

 

 ……くそ、調子が狂う。

 俺が知っているリリスは、初めて出会った頃のオーフィスに近しいものがあった。少なくとも──今、俺の目の前で頬を赤くして、笑顔を浮かべるような存在ではない。

 

 これもリゼヴィムの野郎の仕業か? としたら悪趣味にも程があるぞ。

 

「……イッセー、ごはんたべる?」

「いや、腹はへって」

 

 ない、と言いたいところだったが、間が悪くお腹がなる。

 ……しかし敵が提供する料理なんて食べる気になれない。特に英雄派ならともかく、クリフォトの飯なんて、絶対毒の一つでも入っていても可笑しくない。

 

「ふふ……いっしょにいこ?」

 

 リリスはベッドから降りて、小さな手で俺の手を握った。

 ……こんな状況下になっても、俺はリリスのことを邪険に扱う気にはなれない。俺は引かれた手を振りほどくことはなく、リリスに連れられて廊下に出た。

 

 ……建物は予想通り、西洋のお屋敷に近い内装だ。外から見れば城に近いものか? 

 夏休みにリアスの実家に行ったが、あそこにどこか内装は似ている。

 窓から見える外には大きすぎる庭と、綺麗に切りそろえられた木々がある。花も植えており、まさかここがテロ組織の総本山などとは誰も思わないだろう。

 

 ……っていうかここはどこなんだ。

 

 禍の団の本拠地の捜索は、今三大勢力が躍起になって探している。戦力を整え、補足した段階で攻め込むことが決まっている。

 

 その矢先に、俺が連れ去られた──作戦に大きく支障をきたすはずだ。

 

「……リリス、ここはどこなんだ?」

「ここ? ……じげんのはざま」

 

 ……なるほど、そういうことか。

 ほぼほぼ宇宙と同じように半永久的に増え続ける次元の狭間。そこに空間を作り、それを隠匿する術を施せば、確かに補足にはかなりの時間がかかる。

 

 そもそも次元の狭間の捜索自体が出来る存在が限られているし、そもそも捜索している間に敵に気付かれて袋叩きに合うのが目に見えている。

 

 ……敵を認めたくなくはないが、合理的な方法だ。

 

 ……とはいえ、次元の狭間へのアンテナは常に三大勢力も張っている。それにここにはグレートレッドも住んでいるんだ。

 

 ……あのドラゴンの兄貴が自分から三大勢力に力を貸すことはないだろうけども。

 

「──あらあらぁ、赤龍帝くんではあーりませんかぁ」

 

 ──不愉快な声が聞こえた。俺とリリスの前方から貴族服を着こんで歩いてくるには、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーだった。

 その背後には気配を消している、恐らくクロウ・クルワッハだろうか。全身黒装束と黒髪に金色のメッシュだから、間違いない。

 

「……俺をリリスに襲わせて連れ去ってくれたな、リゼヴィム」

「んー? 君、何か勘違いしていないかい? 君を連れてきたのはリリスの独断行動だぜ?」

「……なんだと?」

 

 ……当てが外れた。それよりも驚きなのは、リリスの独断行動だ。

 確かに北欧に現れたリリスも独断行動をしていた。それの見張りでクロウ・クルワッハがきていたほどだ。

 

 ──既にリリスは、リゼヴィムの意思に反する行動を起こしているのか? 

 

「本当にそこのがきんちょは勝手なことをしてくれたおかげで、今は隠滅が大変だよ──リリス、赤龍帝くんを渡してくれるかなー?」

「……イッセーは、リリスのもの」

 

 一歩、俺に近づこうとしたリゼヴィムに、リリスは立ち塞がり黒いオーラを噴射した──それだけで付近の窓は次々と割れていき、激しい風に襲われる。

 ……リリスが、リゼヴィムに敵対していた。

 

「……リゼヴィムにも、わたさない。リリスは、イッセーとずっといっしょにいたいだけ」

「──あぁ、思い通りにならないなぁ。ちっ」

 

 リゼヴィムは不愉快な様子を隠そうとはせず、盛大に舌打ちをした。

 するとそれ以上は何も言わずに、俺とリリスの隣を通り過ぎる。

 

 ……そして再びリリスに手を引かれるが──クロウ・クルワッハの隣を通り過ぎるとき、彼と目があった。

 

「お前と会うのは初めてだな」

「……あんたのことはティアマットから聞いてる。馬鹿みたいに強いんだってな」

「あぁ、強い。だがお前のティアマットも俺に匹敵するだろうな。……お前は、どうなんだろうな」

「戦闘狂だな──お前、なんであんな奴の下についてるんだ? お前ほどの実力なら、一人で三大勢力を敵に回しても……」

 

 俺は以前から気になっていたことを尋ねた。すると……

 

「俺は奴の部下になった覚えはない。ただ奴の近くにいたら、強者と戦い続けることが出来る。ティアマットや、もしくはオーフィス……お前ともな」

「狂ってるな」

「誉め言葉だ、煽ててくれるなよ」

 

 ……戦いが全て。まるで出会った頃のヴァーリを相手にしているようだ。

 

「……まぁそれは建前だ。本当の目的は、ドラゴンの行く末を見たい──お前の周りには世界中からドラゴンが集まっている。二天龍、真龍、神龍、龍王、三善龍……お前がその気になれば世界を滅ぼすこともできるほど、ドラゴンという種族は最強だ。にもかかわらず、お前と関わるドラゴンは皆が平和ボケをして……それなのに強くなる。ティアマットが良い例だ。奴はお前と関わることで殻を破り、もはや天龍クラスにまでなった。……俺はお前たちを、敵として見ていたいだけだ」

 

「……人も悪魔も天使もドラゴンも、きっと同じだよ。見たいんなら見ていればいい。ただ、俺たちは俺たちの大切を壊そうとする輩は許せないんでね。もちろん、応戦する──あんたと分かり合えるのは、その先になりそうだ」

 

「……お前、捕虜になっているがな」

 

 クロウ・クルワッハは痛いところをついてくる。

 ──ただ俺に不安はない。

 

「俺が連れ去られて、あいつらはきっと黙ってない。だからリゼヴィムも焦っているんじゃないか? リリスの独断行動とはいえ、裏でリゼヴィムが糸を引いていると、俺の仲間は思っているだろうからな──同時にドラゴンファミリーの全ドラゴンの逆鱗に触れたんだ」

 

「……はは、それは恐ろしいものだな。だが昂るな」

 

 ──やっぱり、こいつは別格だ。最強の邪龍は、強大な敵を前にも笑って戦うと聞いたことはあるが、それは間違いではないってか。

 

「……兵藤一誠。この城にいる間は、常にリリスが君の近くを離れないだろう。離れなければ、リゼヴィムがお前に牙を剥くこともないだろう」

 

「……そうかい、ご忠告ありがとよ」

 

 俺はそこでようやくクロウ・クルワッハの隣を通り過ぎた。

 ……不意にリリスに目を向けると、リリスはなぜかむくれるように頬を膨らませていた。

 

「……ほうち、いや」

「お前な……いや、もういいや。とりあえず一緒にご飯食べるんだろ? 行くぞ」

「……たべさせてね?」

「──お前、急に感情豊かになったけど、本当にどうしたんだ? 可愛いんだけどさ」

 

 どうにも調子が狂ってしまう今日この頃であった。

 ──みんな、焦って冷静さを欠くことだけはしてはいけない。むしろこれはクリフォトを一網打尽にするチャンスでもある。

 

 だから頼むぞ。

 

 俺は心の中でそう願いながら、リリスと食堂に向かうのだった。

 

 

 ―・・・

 

 

 駒王学園、大会議室。

 総勢100名以上が同時に集まれる大きな部屋には、三大勢力のトップ層やグレモリー眷属、シトリー眷属、赤龍帝眷属に加えて兵藤夫妻、ヴァーリ・ルシファーの姿もあった。

 

 大会議室の中心には六角形の机があり、その角のところにアザゼル、ヴァーリ、サーゼクス、ティアマット、オーフィス、ガブリエルが座っていた。

 

 事案は一つ。

 

「今日、急遽この場に集まってもらったのは他でもない。先日の昼間、突如兵藤家に現れたリリスによってイッセ──―現赤龍帝・兵藤一誠が誘拐及び拉致された件についてだ」

「……私も聞いたときは耳を疑ったものだよ。あのイッセーくんが、成す術なく連れ去られるなんてね」

「それには同感です。ミカエルも心底驚くとともに、恐怖もしていました。リリスにそこまでの力があるということに……」

 

 それぞれ堕天使、悪魔、天使の代表が思ったことを口にした。

 ──この場にいる誰もが思っていることだ。数多くの武勲を掲げ、関わる人たちを変えるイッセーの存在は、禍の団との闘いにおいて最重要戦力の一人。近距離、中距離、遠距離、援護共にすべてを均等にこなすことの出来る万能タイプの戦士で、冷静に戦況を把握する戦略、戦術においても高い能力を保持する。

 

 そんな兵藤一誠が敵の象徴に連れ去られたのだ。

 

「リリス、か。……兵藤一誠は子供には甘い。リリスと彼は多少なりとも関わりがあったと聞く。そこを利用されたんじゃないか?」

「ヴァーリの言う通りかもしれんな。あのリリスもイッセーと触れ合うことで変化はあったらしい──となれば、あながちリゼヴィムの命令で動いたという線は若干怪しいな」

「……何が言いたい、鴉」

 

 アザゼルの考えに、ティアマットは反応する。

 

「逆の立場になって考えてみろよ。悪いが、俺が奴ならイッセーを誘拐して、ドラゴンファミリーを敵に回すのはごめんだ。三大勢力を敵に回すだけなら、少なくともイッセーの確保は優先度は限りなく低い……それにあいつは問題解決能力が高い。俺たちがどうにかしなくても、自分で何とかする可能性もある」

「……イッセー、最強」

「っていうことだ。俺はリリスの独断行動を視野に入れてもいいと思う」

 

 アザゼルの分析は正しかった。

 彼もイッセー以上の観察眼と分析力を持つ存在だ。三大勢力にとってブレーンは、既にそこまで見抜いていた。

 

「……結論から言おう。原因は不明だが、リリスはイッセーに対して強い執着を持っている。それは過去の行動と、そしてこの監視カメラに映った映像を合わせて考えてもらったら、間違いない」

 

 アザゼルはモニターのリモコンを操作すると、光の照射されたモニターには、兵藤宅の玄関の監視カメラが映る。

 それはイッセーが襲われた瞬間の映像だった。

 

『──イッセーは、リリスのもの』

 

 その言葉と共にイッセーの目の前から姿を消し、ありえないほどの打撃を彼の後頭部にぶち込む姿が映った。

 意識を奪われて倒れこむイッセーを抱きかかえ、そのまま飛んでいく。

 

「……以上と通り、リリスはイッセーに執着を持っている。つまり逆を言えば、リリスがイッセーの傍にいる限り、例えリゼヴィムであろうと、イッセーに手出しは出来ないってわけだ──問題は、今回の事案は発見が遅れた。イッセーが連れ去られて数時間も経ってしまっていた……それは完全に俺の失態だ」

 

 アザゼルは深く頭を下げた。特に、イッセーの両親である兵藤謙一と兵藤まどかに対してだ。

 ……まどかは謙一の腕にしがみついて、つい先ほどまで泣いていたのか、涙の跡があった。まどかに代わり謙一は一歩前に出た。

 

「……今、この場で誰に責任があるとか、どうとか責任の押し付け合いをする場ではないだろう──今は俺とまどかの息子、そして君たちにとっての友人である兵藤一誠をいかにして救い出すか。それを考える場所のはずだ」

 

 これほどのメンツに囲まれながらも、謙一は言い淀むことなくはっきりと意見を言った。こういったところは流石、兵藤一誠の父親らしい。

 

「謙一……すまねぇ──もちろん策はある。むしろ今まで上手く姿をくらましていたクリフォトの尻尾を掴む手掛かりになる。色々な説明は後でするが、奴らの本拠地は恐らく、次元の狭間のどこかにある」

 

 ──アザゼルの発表に、その場の一部を除く全員が驚きを隠せなかった。しかしすぐに納得したのだ。

 

「とはいえ次元の狭間は際限なしの広さを誇る。流石に奴らの本拠地を割り出すのに時間がかかると思う。そんでもって、その間に奴らは恐らく、大きく動くだろうよ」

「……奴も、こちらの考えを読むということだな」

 

 ティアマットの指摘に、アザゼルは頷いた。

 ──兵藤一誠不在の今、赤龍帝眷属は主に黒歌とティアマットが中心となって動いている。

 ティアマットはともかく、黒歌はイッセー並みに頭が切れるため、自分たちが何をすればいい、既に答えは出ていた。

 

 それはオーフィスも同じで──ティアマットとオーフィスは同時に立ち上がった。

 

「私たち赤龍帝眷属は、お前たちとは別行動で先に動かせてもらう」

「我も……。一度、次元の狭間に、帰る」

「……どういうことか、説明はしてくれるだろうな」

 

 アザゼルは二人の宣言を否定ではなく、まず内容の確認からする。

 するとティアマットに代わって、黒歌が一歩前に彼女を席から離れさせて前に出た。

 

「簡単な話にゃん。アザゼルちゃんたちの捜索とは別に、実際に次元の狭間に乗り込んで捜索するってわけ」

「待て、それはあまりにも危険だ」

「そう、危険。だから私たちがすべきよ」

 

 黒歌は眷属で作った赤い制服についている赤龍帝のエンブレムを強調して、そう断言した。

 

「次元の狭間の捜索自体がそもそも強者でなければできないの。その上でクリフォトに対抗出来て、今、自由に動けるのは私たちだけにゃん」

 

 もちろん赤龍帝眷属の中でも実力差は激しい。

 ティアマット、黒歌、朱雀とメルティ、ハレ、アメとの戦力差は激しく、メンツは厳選しなければならないだろう。

 

「……敵にクロウ・クルワッハがいる時点で、答えは一つか──わかった、お前たちの独断は許可する。それに加えて、俺が選抜する追加メンバーも連れて行ってくれ。それが条件だ」

「──了解」

 

 アザゼルの条件に、黒歌は吞んだ。

 アザゼルは次にオーフィスを見る。

 

「お前の目的は大体察しはついている。グレートレッドに会いにいくんだろう?」

「肯定。我よりも狭間に詳しいの、グレートレッドだけ」

「そもそもお前は止められないからな。途中までは必ずティアマットたちと行動を共にする。それが出来るなら構わねぇよ」

 

 そもそも選抜部隊にお前を入れるつもりだったと付け加えた。

 

「じゃあ今後の方針だ。赤龍帝眷属に加えて俺が選抜した捜索隊は次元の狭間にてクリフォトの本拠地を探すこと。もしもこちらよりも早く見つけ出したなら、連絡をくれ。可能であれば最速でイッセーを奪取する。それ以外は、クリフォトが何かをしかけてくるはずだ。それの対処を──では選抜を発表する」

 

 アザゼルは最初からこうなることを見越していたのか、懐から紙を取り出した。

 

「まずはヴァーリ・ルシファー」

「……俺でいいのか?」

「あぁ。自由に動けてかつ戦力面でもお前が適任だ。リリスを相手にしなければならない事態になったら、お前が主戦力になる」

 

 アザゼルの決定に、ヴァーリも受け入れる。

 

「次に、グレモリー眷属からアーシア・アルジェント、塔城小猫。アーシアは回復要因で、小猫は黒歌と共に仙術での捜索がメインだ。だがグレモリー眷属の戦力を分散させるわけにはいかない──リアス、木場、ここは堪えてくれ」

「……あなたの指示に従うわ。アーシア、小猫、お願いするわ」

「……もちろんです。イッセー先輩は、必ず取り戻します」

「わ、私も皆さんのサポートを徹底します!!」

 

 そして次に、アザゼルは赤龍帝眷属の面々を見た。

 

「……悪いが、レイヴェル、ハレ、アメは今回のミッションには実力が足りていない。現世で待機を命じる」

「謝る必要はありません。アメさん、ハレさん」

「ぼ、僕も本当はイッセーさんを助けに行きたいですけど……わがままは言いません」

「その間に、修行」

 

 ──こうして、三大勢力も準備を整える。

 実際に、アザゼルもクリフォトが何か大きな戦いを引き起こそうとしているのには、勘づいていた。

 見えないところで、アザゼルとリゼヴィムの読み合いが起きている。今回の一件、クリフォトにとっても三大勢力にとっても好機なのだ。

 

 ……アザゼルからしてみれば、最も読めないのは英雄派の動きだ。

 クリフォトよりも個人個人が強大な力を持つ英雄派。

 曹操、ジークフリート、晴明、ゲオルグの四名に関しては、こちらの最大戦力を投入しなければならないほどに強く、それ以外のクー・フーリン、ジャンヌ、ヘラクレス、レオナルドもまた決して油断はならない存在である。

 

 クリフォトの目下最大戦力はクロウ・クルワッハとリリス、そしてリゼヴィムの三名のみ。

 

 未だに手札を隠すリゼヴィムに対抗するのは、この中でアザゼルしかできないことなのだ。

 だから彼は生徒であり友であるイッセーを救うため、頭を回転させるのであった。

 

 

 ―・・・

 

 

 ──リリスに連れ去られて数日が経った。

 その間に起きたことは…………何もなかった。

 それはそうだろう。何せ、リリスはいつ何時、俺から離れることはなかった。そう……何があろうと彼女は常に俺の身体のどこかに触れているのだ。

 

 寝るときも一緒。

 ご飯も一緒。

 昼寝も、お風呂も、トイレも──リリスが俺から離れることは一度もなかった。

 

 流石のこの状況はリゼヴィムであろうと予想してもいなかったのか、最近では俺の顔を見るだけで溜息を吐いていた。

 

 ……やることがない俺は、もっぱらをリリスと話すか、遊ぶか、それかクロウ・クルワッハと関わるかの三択しかなかった。

 

「なぁ、クロウさんや」

「……なんだ。おい、チェックはやめろ」

 

 いつの間にか俺はクロウ・クルワッハのことをクロウさんと呼ぶようになっていた。

 なお、俺は今、ルークでチェックをかけた。

 

「俺っていつまでここにいるんだろうな」

「俺が知るわけ──おい、待て、何故俺がお前に負ける。何か反則行為をしたはずだ。もう一度だ」

「うん、あんたのそういうところに一々警戒するのに疲れたんだよ──あ、これでチェックメイトな」

「ぐっ……」

 

 ──クロウは、戦闘以外は存外平和な人物であった。今まではクリフォトないで関わる人物がリリスくらいだったようで、しかし会話がまともにできるリリスと何かすることもなく。

 

 そこで俺とリリスがチェスをしているところを通りかかり、興味を持ったのか、俺と一局することになったのだが──あえなく大敗北を喫した。

 

 しかしあまりにも無残な敗北だったため、彼の勝負心に火が付いた。ドラゴンというのはやはり、単純だ。

 

 そしてそれからクロウは俺と顔を合わせる度にチェスをした。

 

 常に俺と遭遇する可能性を考えて、チェス盤を持ち歩くのはどうかと思う。という感じで、何故か敵の本拠地で打ち解けたのだ。

 ティアがこの光景を見たら、きっとぶちぎれること間違いない。

 

「……お前は豪胆だな。肝が据わっている」

「──チェック」

「うぉぉぉぉ……何故だ。何故俺の動きが、読める──貴様、まさか心を読んで」

「ねぇよ。……やっぱドラゴンって変だな」

 

 これまで出会ったドラゴン全員に言えることだが、彼も同類であった。

 

「……リリス、イッセーのおひざでおひるね……ねむねむ」

「リリス……仕方ないなぁ。おやすみ」

 

 チェスのさなか、暇なのかリリスが眠ってしまう。俺の膝の上で眠るのも慣れたのか、ソファーで座っているとすぐにこうだ。

 

「……お前は不思議だな。ドラゴンを魅了する術でも持っているのか?」

「そんなもん持って……ないよな?」

 

 自信はない。何分、実績がありすぎるのだ。

 ただ──リリスのこれは、今までのとは何かが違う気がする。

 確かにオーフィスやチビドラゴンズも同じような甘え方をすることもある。だけどリリスのには、どうにも俺に対する執着や依存のようなものを感じてしまうのだ。

 

 片時も離れない様子がまさにそれだ。

 

 ……それもクロウは分かっているのか、静かに気配を消して駒を進め──こいつ。

 

「おい、勝てないからって反則とはドラゴンの風上にもおけねぇな」

「──何故。やはりお前、読心術を」

「使ってねぇよ。俺も仙術の少しは使えるから、気配消しても分かるんだよ──ほい、これでチェックメイトだ」

「う……これで18戦全敗か」

 

 ……若干、キャラが崩れているようにも思えるが、俺としてはこちらの方が接しやすいからな。言葉には出さないでおこう。

 

 ──こいつ、ティアのことを腑抜けと言っていたけど、この場面をティアが見れば間違いなく同じことを言うだろうな。

 だが、チェスばかりは流石に飽きる。俺も少しは身体を動かさないと鈍るな。

 

 ……俺はクロウをじっと見つめた。

 

「……なんだ、兵藤一誠。もう一戦か? もちろんやろう」

「違う! ……クロウさん、はまりすぎだぞ──そうじゃなくて、俺とスパーリングしないか?」

 

 俺はクロウにそう提案した。

 普通の捕虜ならばありえない提案だ。しかし俺のこの状態はリリスの24時間密着型の完全監視がついている軟禁みたいなものだ。

 

 それにリゼヴィムもリリスがいるからか、俺に強くは出て来ることはない。

 

「……赤龍帝の力を使えないお前では、俺の相手にもならんぞ」

「まぁまぁ、こんだけ負けてんだから、たまには勝ちたいだろ?」

「──それとも創造の神器を使うつもりか?」

 

 ──驚いた。クロウは俺が隠していることを即座に言い当てた。

 

「知ってたのか? 創造の神器は封じ込めていないって」

「見ればわかる。ただ、リゼヴィムは知らないだろうがな──別に進言するつもりもないが、隠しておきたいのだろう。やめておいた方が──」

 

 クロウがそう言おうとした瞬間、俺は刹那で懐から無刀を取り出し、クロウの首筋に刃を当てた。

 

 もちろん俺がこれで勝てることはない。だが──神器なしでも戦える術は、鍛えているつもりだ。

 

「……ほぅ。ティアマットもそうだが、主のお前も俺を滾らせてくれるのか?」

 

 するとクロウ・クルワッハの瞳に火が灯る。戦闘狂の火をつけるのは得意だ。何分、俺の周りには戦い大好き野郎が揃っているからな。

 

「まぁ、多少はな──リリス、起きて」

「……はなし、きいてた。とめない。でもはなれない」

「……どうすればいいと?」

「こうする」

 

 するとリリスは俺の背中に赤子のように抱き着いた。

 ……この状態で戦えと、そう言っているのか。

 

「……俺は構わん。それに俺が力を出しすぎたときはリリスが止めるだろうからな」

 

 クロウは黒装束を脱ぐと、そこには細身ながら見事な肉体があった。

 窓から外の庭に飛び出て、俺もそれに続いた。

 

 ……俺がいま使えるのは魔力制御と無刀、ドラゴンの翼だ。あとは一応プロモーションも使える。フォースギアは一応使わないようにしておく。

 

 ……そうだな、想定では神器なしでリゼヴィムに応戦だ。

 

「──プロモーション、クイーン」

「悪魔の力か……さぁ、来い」

 

 クロウは何も武器も出さず、ドラゴンの力も使わない。人間形態のまま、拳を構えた。

 

「んじゃ、遠慮なく──爆撃の龍弾(エクスプロウド・ドラゴンショット)

 

 俺は魔力弾に爆発を付加して放つ。クロウの付近で爆発するように設定し、それ通りに爆撃がクロウを襲う。

 しかし……

 

「傷一つつかないぞ、こんなもの」

「だよな、なら」

 

 次は無刀に魔力を込めて、魔力で出来た刃だ。刀を掴み、クロウの元まで走る。たどり着くまでに時間はいらない。

 

「大した速度だ。神器なしでもそれなりに出来るようだな」

「驚くのはまだだ──オーバーフローモード」

 

 刃はクロウの手で簡単に止められるが、すぐさま俺は手を変える。魔力を身体中に過剰に循環させて、肉体を半強制で強化した。身体からは魔力による赤い湯気のような靄が生まれ、俺は無刀から手を放してクロウの懐に拳を放つ。

 

「……ッ。飛躍的な身体強化か。魔力制御が得意なようだな。しかもこれはたかが数年の練度ではない──何十年の月日の修練によるものだ」

「へっ、見せただけ、そんなに分かるもんかよ」

「分かるとも。俺とて、キリストから身を隠してから長い間、自身に厳しい修練をかしたものでね。お前の血が滲む修練は理解できる」

 

 ……敵なのに、嬉しいことを言ってくれるぜ。

 だけど、涼しい顔で全てをいなされる。……こいつはドラゴンの性質におごることなく、本来ドラゴンが怠る格闘術までもを取り入れている。

 しかも練度は高く、人間態で本気を全く出さなくとも、素の俺を歯牙にもかけない。

 

「できれば本気のお前ともやりたいが、しかし互いに制限された戦いも面白いものだ」

 

 クロウはまるでボクシングのような動作で俺との距離を詰めて、見えないほどの拳を放つ。

 

「──余所見はご法度だぜ、クロウさん! 無刀!!」

 

 ──俺は事前に無刀に魔力を過剰に込めた。半分は先ほどの刃に、そしてもう半分は俺の言霊と共に放つように。

 

 刀身のない刀の空洞は、クロウに向いている。俺はその中から巨大な刀身を放出し、それはクロウに完全に命中した。

 

 ……下着のシャツがはじけ飛ぶ。少し身体が焦げたのか、黒ずんでいた。

 

「……やるな。今のをもしも完全な状態でされていれば、無傷ではすまないな」

「力がなかった期間が長かったもんでな、そういう小手先の技はいくらでも思いつくぜ」

「──翼は出しても良さそうだな」

 

 クロウは露になった肢体の背中から、黒翼を生やせた。黒と金の混じった羽に、何色にも染まらない黒色。俺はつい、見ほれた。

 負けじと俺も赤いドラゴンの翼を生やせた。

 

「……ほう。赤と白銀の翼か。随分美しい翼だな」

「──白銀?」

 

 俺は、クロウに指摘されて自身の翼を見る──俺の知る翼は、ドライグの性質をくみ取った赤色だったはずだ。だけど今の俺は、赤い羽根と白銀の羽が入り混じったものになっていた。

 

 ──いつから、変化した? この環境が、翼を変化させたのか? 

 

 ……赤龍帝の力が使えないから、フェルの力が俺の中で大きくなっているのか? 

 

「──試してやろう」

 

 クロウは背中の強靭な翼を振るう。俺もすぐにそれに反応して──

 

「──え?」

 

 翼を振るった──クロウの黒翼が、はじけ飛んだ。

 

「なっっっ!? ……兵藤、一誠。なんだ、それは」

「……これは、フェルの力」

 

 クロウははじけ飛んだ翼の修復に集中しているようだが、俺は未だに俺の中で眠り続けるフェルが力を貸してくれようにも思えた。

 

「……なに、このつばさ」

 

 ……俺の背中にいるリリスは、どこかつまらなさそうな声を出した。

 

「……イッセーには、リリスのつばさをあげる──こんなつばさ、いらないくらいつよいちからを」

 

 リリスは身を乗り出し、俺の頬を無理やりつかんだ。そして──無理やりキスをしようとしたその時、上空から何かが飛来した。

 

 激しい轟音と共に飛来したそれは、俺とクロウの間に降り立って、土煙を払う。

 

「──これ以上の勝手は、よしてもらおう」

「……お前は」

「兵藤一誠。リリスを連れて自室に戻るんだ」

「──晴明」

 

 そこには、悪魔の翼を生やした晴明が、以前よりも黒い瞳で立ち塞がっていた。

 ──晴明は英雄派の制服ではなく、クリフォトの衣装の貴族服を身に纏っており、暗にそれが英雄派と袂を分けたといっているようなものだ。

 

「晴明……お前は、それで本当にいいのか?」

「……? 何のことを言っているかわからないな。俺は、最初からクリフォトから英雄派に出向していただけだよ」

 

 ……そういうことを言ってるんじゃないんだよっ。

 晴明、お前は──最初に会った時よりも、明らかに歪んでいるんだ。

 

 全ては、リゼヴィムによるものだろう。

 

 ……この白銀の翼を使えば、この場から逃亡できると思ったが、それはやめだ。

 

 俺は──ここで、仲間を待ちながら安倍晴明……土御門白虎に起きたことを明らかにする。

 

 それがせめてもの、朱雀への計らいだ。

 

 だけど俺は知らない。俺の知らないところで、全てが動いていることに。

 予想できるものと、できないもの。

 

 それが静かに、蠢いていた。

 

 

 

 

―・・・

 

 

 

 

 

『ええ、主は既に暴走状態、いつ何時暴れまわるか分からない。主君の好きなようにしてあげるわ』

 

『……えぇ、世界を終わりに近づける。あなたの望みだものね。叶えるために、私は生まれたのだから――始創の龍はダメ、もう使い物にならないわ』

 

『いざというときは大丈夫、核だけは引き抜けばまた新しい存在は作れる。安心して、主君――貴方が直接手を下すまでもなく、上手くやってみせるわ』

 

『……そろそろあの子が起きるわ――全ては主君たる貴方のために。それが聖書の神への手向けになることを願って……』

 

 

 

 

「――アルアディア、おはよ」

 

『主、ようやく起きたのかい?』

 

「うん――アルアディア、誰かと話してた?」

 

『主以外の誰と話すっていうんだい。……それよりも、兵藤一誠のことでしょう?』

 

「……取り戻すよ、私のイッセーくんは――たかが欠片の一人(・・・・・・・・)に、渡すもんか」

 

『とはいえ今は動かない方が良い。なんなら三大勢力を利用するのが吉よ』

 

「……そんな悠長なこと言ってらんない」

 

『だが――いや、わかったわ。主に私は従う』

 

「……待っててね、イッセーくん。私が、観莉(・・)がイッセーくんを助けるからっ!」

 

 

 

 

 

 

彼女の中でも、確かな変化が訪れていた。

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