ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第2話 若手は色々と大変だそうです!

 現在、俺たちのクラスでは迫っている体育祭の種目決めをしていた。

 駒王学園の体育祭と言えば学年を4つの組に分けて行い競うものであり、俺たちのクラスは事前の抽選で組の色は赤になっている。

 ちなみに眷属内では小猫ちゃんとギャスパーたちと一緒らしく、他はまんべんなく分かれていたりする。

 ともあれこの体育祭は非常に盛り上がる……特に最後の男女混合リレーなんかはかなり盛り上がり、この時に限っては身体能力が高い松田は非常に活躍する場でもある。

 去年までは俺もかなり盛り上がってたんだけどな……うん、身体能力が人間とかけ離れたからあんまり自身の力を使う種目は出たくないのが本音だ。

 勝ちが決まっている勝負ほど面白くないものはないし、この学園で俺は負けることはまずない。

 例え他の悪魔が相手でも。

 っということで今年の種目は比較的に優しいものを選ぶことにするか。

 

「えっと……あと残っているのは男女混合二人三脚と男女混合リレーと借り物競争、騎馬戦だね」

 

 すると体育員が黒板に書かれた種目を見て何度か頷く。

 このクラスの最高戦力である松田は男女混合リレーに出ていて、ちなみに俺はまだ何もあげてない。

 残ったものを考えれば……リレーは反則、騎馬戦は一人で全騎馬を取れそうだから却下。

 となると残るは借り物競争と二人三脚か。

 これがかなり安全なところだな。

 

「あれ?兵藤君はリレーは出ないの?去年は出て3人抜きしたのに」

 

 っと体育員さんが余計なことを言ってくれる。

 いや、ホント出るのは勘弁なんだよ!

 去年はまだ人間だったからいいが、俺は手加減が嫌いだから仮に出れば本気でやってしまう。

 それが卑怯に感じるから俺は身体能力を使った種目は出たくないわけで。

 

「俺は借り物競争と二人三脚にするよ。って二人三脚は女子がまだ埋まってないのか……」

 

 ……出来れば眷属の仲間か桐生辺りならありがたい。

 話せる奴とが一番だからな。

 するとその瞬間、ほぼ同時にイリナ、ゼノヴィア、黒歌が手を挙げた!

 

「はい!!私、出たい!!」

「何を言っている、イリナ!イッセーと出るのは私だ!!」

「うるさいにゃん!ここは私の一択よ!!」

 

 ……うん、とりあえず争いが起きていることは間違いない。

 俺は溜息を吐きながらその光景を見ていると、すると俺のすぐ傍のアーシアが控えめに小さく手を挙げていた。

 ―――ああ、これは一択だな。

 

「悪いな、やっぱり俺はアーシアと出る。ってことで騒動は終了だ」

「は、はわ!!」

 

 俺はアーシアの手を取り、そのままアーシアを立たせて二カッと笑うと、すると今までいがみ合っていた三人は少し溜息を吐きながらも、仕方ないなっという風に納得してくれた。

 

「俺とアーシアが一位を取ってやるから安心しろって!な、アーシア?」

「は、はい!!イッセーさんとゴールインします!!」

 

 ―――アーシア?それはまた全く違う意味だよ?

 そんなアーシアの爆発発言に周囲は騒然となり、騒がしくなった。

 まあこのノリならリレーは出なくてよさそうだな。

 俺はそう思ってほっと胸を下した。

 

「アーシア、昼休みに練習しようぜ?アーシアと俺の相性の良さを見せつけるんだ!」

「は、はぅぅ……あ、相性最高だなんて……嬉しいですっ」

 

 うん、やっぱり最近のアーシアは意味の取り違いが多いよね?まあむしろ大歓迎だから良いけど―――大歓迎って、おい。

 とにかく、騒然とするクラスの中で俺とアーシアは笑顔を交わし合うのであった。

 

 ―・・・

 イリナはあれから色々な、本当に様々な試練を乗り越え無事に兵藤家に居候が決まった。

 ―――突然のことであれだけど、実は兵藤家に入るためには鬼の関門というものが存在する。

 ちなみにこれをアーシアは一発合格、部長は何度も落ちて同居までに時間が掛かった。

 ちなみに関門というのは言わないでも分かるだろうが、我が母、兵藤まどか。

 その人である。

 まあ簡単に言えば母さんの許可なしでは家には立ち入ることすら難しく、その試練っていう具体的な内容は知らないが中々厳しいものらしい。

 良くは分からないけど、小猫ちゃんは割とすんなり合格したそうだ……本当にどんな試練何だろうな。

 とにかく、そういう経緯でイリナも兵藤家にお邪魔することになり、うちの女率がまた上昇したという割と笑えないのが今の俺の状況。

 ―――父さん、いったい貴方はどこで何をしているのですか?

 

「いっち、に。いっち、に~」

「よし、アーシア。いい感じだ」

 

 ……ちなみに今、俺とアーシアは二人三脚の練習をしている。

 アーシアがこれ以外で出場する種目は女子マラソンらしく、マラソンの練習は特には必要ないだろうな。

 何せ毎朝俺のランニングを欠かさずに付き合っているからアーシアは結構スタミナがついているからな。

 前のレーティング・ゲームでも瞬間回復から回復オーラの縮小、そして拡大、あのゲームでは反転(リバース)があったから使わなかったが回復を弾丸にして放ち、遠く離れた仲間を遠距離で回復する術も手に入れたらしい。

 うんうん、アーシアの成長にはお兄さんも鼻が高いよ。

 今も俺のペースに何とか付いていこうとする姿は微笑ましい……まあ流石に俺がアーシアに合わせるが。

 

「ふふ……イッセーさんとの共同作業は楽しいです」

「うん……確かに共同作業だけど、何かニュアンスが違う気がするのは気のせいだろうか」

「気のせいだと思いますよ?はい、イッセーさん!」

 

 アーシアが笑顔でごまかし、俺はアーシアにつられて足を結んでいる状態でアーシアの肩を掴み、体と体が触れ合いながらも練習をする。

 

「むむむ……あれは不味いにゃん!アーシアちんの未発達ながらも出るとこは出始めているおっぱいが触れているにゃん!!」

「くっ!流石はサラブレッドのアーシアだ!伊達に小猫と並び”イッセーを癒す二大女子”と言われることはあるというものかッ!!」

「うそ、そんな風に言われているの!?なら私も癒してあげるわよ~!!ってか二人とも速い!?」

 

 ……俺たちが練習する傍で3人で徒競走の練習をする黒歌、ゼノヴィア、イリナ。

 おぉ、すごい速いな。

 あれは100メートル走を9秒代で走ってるんじゃないか?まあ手加減してあれなのは色々と笑えないけど。

 流石は眷属一の脳筋馬鹿と転生天使に妖怪の黒歌だけのことはあるな。

 

「はわわ……速いです、みなさん!!」

「アーシアは俺とのんびり練習しような?あんなのほっといて」

 

 俺は止めていた足を動かし、アーシアと練習を続ける。

 ―――っと、ギャラリーが多いな。

 

「アーシアさん!兵藤君!頑張ってぇぇぇ!!!」

「くそ、兵藤!!アーシアさんと一緒に走るんだから勝てよな、男前!!」

「くそォォォォ!!!どうしてあいつは!!!」

 

 ……うん、貶すか褒めるかどっちかにしろよ。

 我がクラスメイトながら愉快だけどな……っと、すると望遠鏡を両手に何かを覗き込む俺の悪友の松田と元浜の姿が一つ。

 何してんだ?

 

「おおーい、松田と元浜は何を見ているんだ?」

 

 アーシアの速度に合わせ、タイミングよく足を交互に動かして松田と元浜に近づく。

 だけど反応は皆無だ……気付いてないのか?

 俺は存在に気付かない松田の望遠鏡を奪い取った。

 

「ぬわッ!?い、い、い、イッセー様!?」

「いや、何で様付けなんだよ。それにいったい何を見ていたんだ?」

「や、止めろ!!それに目を通せば太陽光が色々とあれで目が潰されるぞ!!」

 

 何を言ってんだか。

 俺はそう思い二人が見ていた方向に望遠鏡を向けてそこを覗き込むと―――

 

「さぁ、二人とも―――お説教の時間だ」

「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいい!!!!???」」

 

 俺は二人の肩を掴み、満面の笑みを見せてそう言うと、松田と元浜はまるで鬼を見ているかの表情をしながら震え始める。

 俺が覗き込んだ先、そこには俺たちと同様にグラウンドで女子騎馬戦の練習をする女の子たちの姿があった。

 まあ騎馬戦だから多少は衣服が肌蹴るんだろう、木々に隠れて衣服の乱れを直していた、そこをドンピシャで覗いていたんだろう。

 こいつらには女性に対するデリカシーというものを徹底的に教え込まないと気が済まないな。

 

「―――正座」

「「はい!!イッセー様の仰る通りに!!!」」

 

 俺がそう言うと慣れたようにすぐさま土下座に移行する我が悪友。

 こういう時は抵抗しない方が良いということを理解しているんだな。

 

「何度も言ったよな?女の子の嫌がることはするべからず。着替えを覗くのは言語道断。セクハラは死刑―――あぁん?」

「「お、お、お、仰りました!どうか!!どうかぁこの醜い豚をお許しくださいませぇぇぇ!!!」」

 

 …………予想以上に素直に謝って来たな。

 まあ謝るべきは俺じゃなく覗いた女の子なんだけど。

 

「さて、二人に質問だ―――自分たちは何をするべきか、俺の親友なら分かってるよな?」

「「は、はい!!!丁重に粗相を犯した我らは女子生徒に土下座をするべきと進言致します!!!」」

「分かってるじゃないか―――逝け」

 

 俺は二人に出来る限り優しく肩をポンポンと叩くと、先ほどまで覗いていた方向に歩いて行った。

 遠目から見ると……おぉ、凄まじい勢いで土下座したな。

 ん?あ、蹴られた。

 でも何故か松田は後輩?っぽい子に頭を撫でられてるな。

 

「あいつらも普通にしてれば良い奴なのになぁ……はぁ」

「でもイッセーさんと松田さんと元浜さんって仲が良いですよね。ちょっと……羨ましいです」

「まあ……俺の恩人でもあるからな」

 

 ……松田と元浜は悪友だ。

 まあ昔の話だし、実際にあいつらは俺が胸を張って言える親友だ。

 例え周りがどれだけあいつらのことを悪く言おうが、それだけは俺の中で絶対に変わらない。

 

「恩人、ですか?」

「ああ。俺さ……あいつらと小学校の時に出会ったんだけど、それまで友達が一人もいなかったんだ。イリナは別だけど、男の友達っていうのは少なくとも一人もいなかった」

 

 いつもスケベで女子に嫌われるような事ばっかをしてる二人だけど、あいつらがいなかったら俺はこんな性格にはならなかった。

 

「あいつらはそんな俺と友達になってくれた大切な親友なんだ。だから……まあほっとけないっていうか、あんな感じで上下関係みたいなのになってるけど」

「……イッセーさん」

 

 アーシアが優しそうな表情で俺の頭を撫でてくる。

 う~ん……なんかこんな感じは調子が出ないな。

 っていうか最近のアーシアが若干俺に似た行動をし始めているのは気のせいか?

 この前の北欧旅行以来、アーシアがリヴァイセさんと出会ってから俺への態度とか、表情が更に優しくなったっていうか。

 こんな風に俺の頭を撫でてくるかと思えば、普通に甘えてくるし。

 

「と、とにかく……練習だ!練習…………全く、こんなの俺のキャラじゃないだろ」

「そうですか?ふふ……イッセーさん、可愛いです!」

「―――い、行くぞ!!いっち、に!!」

 

 俺は照れ隠しに顔をそむける……ホント、調子狂うな。

 っと、そこで足が絡まる!?

 やば……俺は態勢を崩し倒れそうになって、せめてアーシアを庇おうと無理に抱きしめて体をねじり、そのまま倒れる。

 何とかアーシアは庇えたか?

 俺は起き上りアーシアの確認をすると―――

 

「んん……イッセーさん……恥ずかしい、です……」

「わ、悪い!!すぐ離れるから!!」

 

 俺の手はアーシアの胸元にあり、まるで俺がアーシアを押し倒したような態勢になる!

 俺はすぐに離れようとするが……って離れられない!?

 そうだ、二人三脚で足を紐で結んでいるのを忘れてた!

 っていうかアーシア、何故艶やかでトロンとした表情で俺の方を見ているの!?

 

「イッセーさん……触るなら……家とか、その……人のいないところでなら……いくらでも良いですから……」

「アーシア、落ち着こう。うん―――誰の差し金だ?」

「えっと……今回は桐生さんは関係ない感じで……はい」

 

 ……チッ。

 あいつだったら紐を解いて一瞬で血祭りに上げるんだけどな。

 とりあえず俺は先に立ち上がり、そのあとアーシアを立たせて状態をどうにかする。

 さて、誰にも見られては―――

 

「む、む、胸を揉みしだいて、家でベッドで―――い、イッセー!嘘だと……嘘だと言ってくれぇぇぇぇぇえええ!!!」

 

 ……そこには頭を抱えて地面にデコを打ちつけている匙の姿。

 まるで何かに憑り憑かれた様な感じがするけど。

 ってか匙の野郎、今までの一部始終を見てたのか!?

 アーシアは恥ずかしがって俺の背中に隠れてるし!

 

「こら、匙。兵藤君を困らせてないで、私の仕事を手伝いなさい」

 

 すると匙の方に会長が歩いてきて、その場にしゃがんで匙の頭を軽くはたいた。

 

「か、会長ぉ……イッセーが……女の子にモテまくりなんですよぉ……」

「それはそうでしょう。彼は特に後輩の人気が高いようですし、3年生からの人気も高いです。兵藤君、あの時以来ですね。お久しぶりです」

「ええ、お久しぶりです」

「こ、こんにちは!」

 

 アーシアはぺこりと頭を下げ、会長は微笑ましそうに笑う。

 

「うちの匙が迷惑をかけて申し訳ないです……匙、あなたも頭を下げなさい」

「良いですよ…………会長、何か変わりました?」

「……いえ、変わっていませんが」

 

 ……どこか会長の物腰が前よりも柔らかくなってる気がするんだけどな。

 何ていうか、微笑みが柔らかいというか何というか。

 それにさっきの匙を見た時の表情が特に慈愛に満ち溢れていたというか―――あ、そういうことか。

 

「匙、早くしなさい」

「分かりましたよぉ……じゃあな、イッセー……二人三脚ガンバレ……俺はパン食い競争頑張るから」

 

 すると会長に連れられて匙はトボトボと歩いていく……おっと、少しここでからかってやるか。

 

「会長!!いろいろ(・ ・ ・ ・)と頑張ってくださいね!!いつでも相談に乗りますから!!」

「―――なっ!?ひ、兵藤君!?」

 

 会長はその瞬間、今まで見たことのないような狼狽した顔で振り向き、そして俺はアーシアの腰に手を回して二人三脚の練習を継続する。

 これはこれは……まああんな男を魅せられたらしょうがないか。

 

「イッセーさん?どうしたんですか?そんな新しいおもちゃを見つけたようなお顔をして……」

「いや……色々と向こうも楽しい感じになって来たと思ってさ」

 

 俺は会長の最後の顔を思い出して、少し笑いを堪える。

 あれだ―――恋する乙女って感じだな。

 

「Sな兵藤ね……これ、需要がどれくらいあるのかしら?」

 

 ……すると制服姿で腕を組み、うんうんと唸る桐生が現れた。

 

「お、Mな女子筆頭の桐生じゃん」

「Mって言うな!!……ふふ、この匠と言われる私がこの程度で動揺すると思った?」

「…………はは、そうっすね」

 

 俺は気持ちが全く篭ってない声音でそう言うと、桐生は納得していないような表情になりながらも本題に入るように俺とアーシアの方に近づいてくる。

 

「それにしてもあの会長を手玉に取るなんて兵藤もやるわねぇ……あの動揺顔はすごかったわ」

「手玉に取る?別にそんなことはしてないけど……」

「……なるほど。天然のドSってわけね。危険だから私も気を付けておかないと」

 

 何かものすごい馬鹿にされてる気がするのは俺だけだろうか。

 

「時に兵藤?あんた、新学期に入ってからどうにも後輩人気が急上昇しているらしいけど、何故に?」

「知らねぇよ……まあ夏休みは割と小さい奴らの面倒見たり、一緒に色々としたからな」

 

 主にチビドラゴンズ、したことはサバイバルだけど。

 

「まあ兵藤は元々面倒見が良い方だし、何故か兄貴オーラ噴出で男も”兵藤信者”が多いほどだからねぇ……あ、兵藤信者ってのはあんたの兄貴肌に違う意味で惚れこんだ男のことよ?」

 

 ……まあ?身近に親愛とは違う意味の愛を俺に向けてくる野郎は居るけど?

 今日の昼休みなんてアーシアと黒歌を連れて一瞬で教室から避難し、そのまま屋上に直行してご飯を食べたくらいだからな。

 

「ちなみにアーシア。兵藤って触れたらどんな感じなの?」

「触れたら、ですか?」

 

 アーシアはキョトンとするも、すぐに桐生の言った言葉の意味を理解したのか、ひらめいたような顔をして……

 

「触れていると、顔が熱くなって……その、恥ずかしいんですが、離れたくないって感じになるというか……」

「はいはい、ごちそうさま、ごちそうさま……でも、それも一興よね」

 

 ……すると桐生は何故かは知らんが俺の腕に引っ付いてくる。

 ―――おい、てめぇ何しやがる。

 

「おい、桐生?どういうつもりだ?」

「ん?アーシアが離れたくなくなる兵藤がどんな感じか実験中……かなり鍛えてるのね、兵藤」

「そりゃあまあ……っていつまで引っ付いてんだよ!早く離れろ!!」

「そ、そうです!桐生さん!イッセーさんから離れてください!!」

 

 するとアーシアも桐生に異を唱え、俺の傍で暴れ始める……ってなんでこんなことになったんだ?

 

「…………………………あれ?なんで私、こんなこと………………ま、いっか♪」

 

 桐生は一瞬、ポカンとした表情になりつつも気を取り直してという感じで再び強く俺の腕を組む!

 いや、ホントなんでこいつがこんなことしてんだよ!

 ―――その時、俺の背後で殺気のようなものを感じた。

 俺はそっちをギリギリと人形のような動作で向くと……

 

「イッセー?何をしているのかにゃん?」

「ふふ…………まさかそこまでその毒牙を伸ばすとはな」

「イッセー君?断罪が必要かな?」

 

 ………………黒歌、ゼノヴィア、イリナが口元は笑っているのに、目が一切笑っていなかった。

 奴らは俺の方を見て恐ろしいほどに殺気を飛び火している。

 これは―――ライザーなんか目じゃないぞ?

 こういう時は………………逃げる!

 俺は足を結ぶ紐を解いて、そしてアーシアを抱えて走り出した!!

 

「お、お姫様抱っこにゃん!!」

 

 黒歌が余計なことを言うせいでまた騒ぎが大きくなる!

 辺りからは「兵藤がアーシアちゃんをお姫様にする!?」とか「アーシアちゃん、羨ましいな……俺も……」とか―――って

 

「今、男で羨ましいとか言ったの誰だ!?」

 

 俺は黒歌、ゼノヴィア、イリナから逃げつつもそう叫ぶが、応えるものは誰もいない。

 …………ちなみにこの追いかけっこは30分ほど続き、ある意味俺は鍛錬になったのだった。

 アーシア?

 そんなの、俺の腕の中で顔を真っ赤にして放心していました。

 

 ―・・・

 追っかけっこが終わり、俺たちは着替えを済ませて部室に向かっていた。

 放課後に部室に向かうことは既に日課となっていて、そう言えば俺の今日の悪魔稼業は珍しくなしだな。

 夏休み期間は悪魔の稼業は休業していたから、ここらでお得意さんが挙って依頼してくると思ってたんだけどな……ま、昨日はびっくりするくらい依頼が来ていたから今日は休みなのはありがたい。

 今日はのんびりと過ごせるだろう、そう安堵して俺は後ろのうるさい者共をスルーして部室の中に入っていく。

 

「だからどうして私にはお姫様抱っこというのをしてくれないんだ!?」

「ああ、もううるさいよ!ゼノヴィア、しつこい!」

 

 室内に入ってなおうるさい後ろのゼノヴィア。

 確かにゼノヴィアに対してはあんまりそういうことをしたことはないけど……だってしたらやばい状況になりそうだし。

 ……っていうか、何か部室の中が静かと言うか、険悪な雰囲気というか。

 いつもよりも空気が悪いような感じが俺に伝わる。

 

「あ、あの部長?どうしたんですか?」

「イッセーも来たのね……じゃあ話すことにするわ」

 

 すると部長はいつもの席から立ち上がり、俺とアーシアの方に歩いてきた。

 

「……今度の若手のレーティング・ゲームの相手が決まったの」

「へぇ……誰が相手なんですか?その空気からするにサイラオーグさんとかですか?」

 

 確かにあの男を相手にするのなら、こういう空気になるかもしれないな。

 俺は俄然やる気が湧くけど。

 でも部長はそれを首を横に振って応えた。

 

「サイラオーグならまだ良かったわ。強いけど、芯の部分がしっかりしているもの……でも違うの。今度のゲームの相手は」

「…………まさか」

 

 俺は察しがついて部長に視線を送ると、部長は静かに頷く。

 

「今度のゲームの相手は―――ディオドラ・アスタロトよ」

「え?」

 

 その言葉にアーシアは驚いたような声を出し、そして俺は頭を抱える。

 まさかあの野郎だとは、な。

 少し頭が痛くなる。

 未だにしつこくアーシアに迫るあのフラれ野郎が相手とか面倒極まりない。

 

「アーシア」

 

 俺はアーシアが気がかりになり、アーシアの手を握って安心させる。

 ……アーシアは安心したのか、肩の力を抜いてリラックスし始めるのを見て俺は部長に更に問うことにした。

 

「あいつから何か連絡が来たんですか?」

「ええ、最悪の連絡が来たわ―――アーシアをトレードしたいと申し出て来たわ」

 

 ―――はあ?

 あの野郎、ふざけてんのか?

 アーシアはあいつの告白を勇気を振り絞って断ったのに、それなのにアーシアにプレゼントを送って気を引こうとしたり、挙句の果てにトレードだと?

 ……ふざけるのもいい加減にしろ。

 

「アーシアは絶対に渡しません。俺がゲームでディオドラを完膚なきまで倒して、二度と戦いが出来ないような恐怖を与えます」

 

 俺は出来る限り血が上った頭を冷やすようにそう言うと、部長は少し好戦的な顔になった。

 

「当たり前よ。アーシアは私にとっても、この眷属にはもう掛け替えのない存在だもの―――アーシア、安心しなさい。あなたをあの男になんて渡したりはしないわ」

「イッセーさん……部長さんッ!!」

 

 アーシアは涙目になって俺と部長の言葉に嗚咽を漏らす。

 

「……アーシア先輩は色々な意味で仲間なので」

「お、同じ『僧侶』として僕も頑張りますぅ!!」

「私はアーシアの友達だからな。当然、アーシアを守るさ」

「僕の友達も君を助けてあげてって言うだろうから……僕も騎士として、眷属を守るよ」

 

 他の眷属もアーシアの元に集まり、そしてアーシアにそう言葉をかけていく。

 アーシアはついには泣き出して、俺の手を握る力も強くなった。

 

「うぅぅぅ……こんなにも美しい絆を魅せられるなんてッ!私はなんて幸せ者なの!!」

「い、イリナちん。流石にちょっと空気読もうにゃん。悪戯好きの私でも自重してるのに」

「ふふ……良いんです……皆さん、ありがとうございますッ!!」

 

 アーシアは涙を流しながら頭を下げてそう言うと、皆優しい表情になった。

 っとその時、俺たちの後ろに人影があるのに気付いて、そっちを振り返ると……

 

「お、おう……流石の俺も入るのが躊躇われるぜ」

「ふふ。美しい友情と絆を見せてもらいました……ごちそうさまです」

 

 そこには苦笑いをしているアザゼルと微笑みを浮かべるガブリエルさんの姿があった。

 ……ちなみにガブリエルさんは駒王学園では理系の教師として働いていて、実はオカルト研究部のもう一人の顧問という立ち位置となっていたりする。

 

「アザゼルとガブリエルさん」

「あら、こんにちは。兵藤一誠君」

 

 ガブリエルさんはお上品に大人の品格を見せるかのごとく、淑女の社交辞令のように頭を下げる。

 …………これが、天界で最も美しいとされる女性最強の天使の成せる業かッ!!

 これをぜひともうちのゼノヴィアに伝授していただきたい……今度本気で頼んでみようか。

 

「絆を深めあったのは良いんだが、今日は次のゲームに関してのことやこれからのことを話すつもりだから部屋の中に入っていいか?」

 

 アザゼルの言葉に部長は頷き、俺たちは普段の部室内でのミーティングの陣形になる。

 アザゼルがソファーに座り、今回はガブリエルさんも居るのでその隣、イリナはアーシア、ゼノヴィアの傍に立っている。

 

「とりあえずはこの前のゲームを労うぜ。お疲れ様。俺から見ても不利な戦場ながら最大限に戦えたと思うぜ。冥界の上層部でも若手でこれほどの試合を見せたお前たちを高く評価していた」

「私からも賞賛を贈ります。私が鍛えた者が負けたのは悔しいところでありますが、やはりリアスさんの眷属の方がソーナさんの眷属よりも一枚も二枚も上手でした」

 

 ……少し匙たちに厳しい言い方だ。

 あいつらも評価は高いと聞いていたんだけどな。

 

「ガブリエル様はグレモリー眷属とシトリー眷属の評価はどのような考えなのですか?」

 

 すると部長はガブリエルさんにそう尋ねる。

 

「……そうですね。評価を10段階にするとグレモリーは8、シトリーは2です」

「そりゃ随分厳しいな」

 

 アザゼルも俺の意見と同じようだ。

 あまりにもそれは厳しい。

 俺たちの8は納得できるが、ソーナ会長の2は低すぎる。

 

「納得できないでしょうが、私の評価は覆りません。これは既に彼女らに言いましたが、あんなものたった一度きりの命を賭けたゲームにしかなりません」

「だけどあいつらはそれだけの想いでやっていたんです!それなのに……」

「想いは満点です。ですが、将来の可能性を踏みにじって得るものに何の意味があるでしょうか?反転なんて曖昧で危険なものに手を出して、それに頼って負けたのです。考えれば反転の成功例は一度だけ。しかもそれ以降は全てを対策され、役に立たなかったのです―――あれに時間を費やすぐらいなら、もっと強くなれたはずです」

 

 ……俺の言葉はガブリエルさんの言葉に封殺される。

 確かに、命を費やして会得した反転の力は結果的に俺に対する不意打ちでしか成功していない上に、あれに頼り過ぎたせいで他の力があまり伸びてないところもあった。

 あの中で真に実力を大幅に伸ばしていたのは、悪いが匙ぐらいだ。

 テクニック系の能力は上がっていたし、神器の応用もかなり磨きがかかっていた。

 

「本来、2の評価もつける気はありませんでしたが……匙君に救われましたね」

「……でも、あいつだって命を賭けて戦っていました。その点では同じではないのですか?」

「同じですよ。でも彼は倒れなかったでしょう?あなたという強敵と戦い、自分の弱さを理解して貴方を倒すために奮闘した。戦闘意欲が失われた眷属に叱咤を駆け、立ち直らされた―――本来は『王』の役目です」

 

 ガブリエルさんはそう言うと、部長の方を見た。

 

「リアスさん、あなたのライザー・フェニックスとのゲームを見せていただきましたが、悪いですが貴方の評価はとても低いものです。ですがあなたの前回のゲームではそれを振り払い、『王』に相応しい行動をとりました。負けたことに対する執念、ソーナさんはそれを理解していなかったんです」

「……つまり、ガブリエルさんのソーナ会長の評価は」

「一番下。兵藤一誠君の覚醒に戦闘意欲を失ったことが減点対象ですね。それと……匙君の捨て身のあれを止めなかったことが一番の悪い部分です。彼女の課題はそうですね……相手を軽く見るな、でしょうか」

 

 ふぅ、そうガブリエルさんが吐息を漏らして一息つく。

 ガブリエルさんはシトリー眷属のアドバイザーをしていたからこそ、それだけの厳しい評価をしたんだろうな。

 

「でもゲーム自体は最高評価です―――ちなみにグレモリー眷属で最も評価しているのはギャスパーさんです」

「……え、僕ですか?」

 

 するとギャスパーは俺の背に隠れて少し顔をガブリエルさんの方に覗かせた。

 ガブリエルさんは優しい微笑みを見せている。

 

「ええ。アザゼルから聞いた話ではあなたは神器を使いこなし始めている。ですが万が一の可能性を考え、今回はその力を禁じられた―――あなたに制限が掛かっていなければ、ソーナさん達は圧倒されていた可能性が非常に高いです」

 

 ……ギャスパーの停止の力は絶大だ。

 視界に映らなければならないということで欠点は多くあるけど、それは何人かでチームを組めば克服される。

 例えばあの場で俺と小猫ちゃんの組んでいた時、もしも停止の力を使うことが出来るとする。

 視界を仮に幻術で邪魔しても、小猫ちゃんの気配察知で相手の幻術を打ち破り、そしてギャスパーが相手を停止、俺が極大の魔力弾を放つ。

 それだけで既に勝利は確定していた。

 

「しかしギャスパーさんは制限されていた状態で眷属の勝利に貢献し、更に自分の有用性を理解した上でそれ以降のゲームに必要なゼノヴィアさんを身を挺して守り、自らをサクリファイスにした……私はあなたを最も賞賛します」

「で、ですが……やっぱりイッセー先輩がいたからこそ、僕はあの時、まともに動けました。だからイッセー先輩が一番だと思います!」

「兵藤一誠君は私が評価する必要もないです。既に高水準を叩きだしている赤龍帝ですから。土壇場の覚醒はゲームとしては最高の見せ場です。何だかんだでゲームはエンターテイメントですから」

 

 確かにゲームの様子は冥界中に放送されるからな……うぅ、この前のチビドラゴンズのテレビでの行動を思い出すと泣けてくる。

 恥ずかしくて冥界を歩けないぞ、俺……

 

「我、イッセー、慰める」

 

 すると俺の背中に突然、誰かがのしかかって俺の頭を優しく撫でた。

 この声から察すると恐らくはオーフィス……またもや風のように現れたのか。

 

「これは龍神ですか。お初にお目にかかります」

「………………」

 

 ガブリエルさんはオーフィスの突然の登場に驚くも、いつもながらの淑女挨拶を発動する!

 あれは大抵の男や女ですら憧れてしまうレベルだからな……きっとすぐに学園でもファンクラブ的なものが出来るはずだ。

 

「天使。イッセーの、敵?」

「いえ。親交を深めようとするものですよ」

「なら良い。イッセー、今日、一緒にゲームをする」

 

 するとオーフィスは手元の携帯ゲーム機を出して俺に差し出してきた。

 最近のオーフィスはゲームが趣味になっていて、よく部屋にゲーム機を持って遊びに来るんだ。

 チビドラゴンズはまだ小さいからゲームなんて出来ないけど……まあ少し成長する術は持っているから、出来ないこともないけど。

 

「帰ったらな?今は話の途中だから……」

「わかった。我、イッセーの背中、くっつく」

 

 ……まるで親鳥が雛に引っ付かれるような状態だろうけど、俺はそれを気にせず話しの続き聞くことにする。

 

「ギャスパー、ガブリエルさんの賞賛だぜ?素直に受け取っておけよ」

「で、でも……やっぱりイッセー先輩が一番活躍したんですから……」

「あの時のお前の行動で俺たちは勝てたものだから、気にせずに胸を張れ!な?」

 

 俺はギャスパーの肩を掴んでそう言うと、ギャスパーはガブリエルさんの方を向いて頭をペコリと下げた。

 

「ようやくグレモリー眷属は動いたと思うぜ?小猫はようやく自分の力を解き放ち、しかも仙術のエキスパートである黒歌が傍にいることで力は高まるだろう。朱乃も一歩踏み出し、リアスは『王』として進化をし始めた。イッセーは言わずもがな、そして木場は――――――色々と覚醒している」

「おい、言葉を濁すな。こいつの被害にあっているのは俺だぞ?」

「被害は酷いね。イッセー君」

「…………イッセー、良い男は同性すらも惹きつける。お前の定めだよ、うん」

 

 そんな定め、俺は全力で捨て去りたい!

 俺はアザゼルの言葉に涙すると、オーフィスはアザゼルに殺意を向けた。

 

「……アザゼル、イッセー、泣かせる?殲滅対象?」

「………………いや、殲滅すべきは木場だ!!」

「あ、アザゼル先生!?僕を売る気ですか!?」

 

 あ。あの野郎、祐斗を売りやがった!

 流石の祐斗もそのことに顔を青くして、そして俺から少し距離を取る!

 オーフィスに至ってはメラメラの死線を……いや、視線を送っており、祐斗はガクガクと震える。

 

「我、許さない。イッセー泣かせる、許さない」

「ぼ、僕がイッセー君を泣かせることなんてあるわけないないよ?」

 

 そう言うとようやく殺意を抑えるオーフィス。

 ……すげぇ、あの木場が恐れるなんて相当な殺気なんだろうな。

 

「とにかく、話を戻すぞ。この前のゲームで随分とゲーム前調査の順位が変更した」

「ゲーム前調査?」

 

 俺は聞きなれない単語に質問すると、アザゼルは親切丁寧に説明をしてくれた。

 要は若手悪魔のそれぞれの眷属の力の総量を平均化したもので、しかも眷属のデータは俺とかがいない時のものだったらしい。

 そこに新しく入った眷属の大体の予想データを組み込み、そしてその6人の若手悪魔の眷属の順位を出したそうだ。

 

「元々は一位がサイラオーグ・バアル率いるバアル眷属、二位がシークヴァイラ・アガレス率いるアガレス眷属、三位がリアス率いるグレモリー眷属、四位がディオドラ率いるアスタロト眷属、五位がソーナ率いるシトリー眷属、六位がゼファードル率いるグラシャラボラス家だ」

 

 ……納得の結果だ。

 バアル眷属はほとんどの眷属が集まっているそうだし、アガレスは全ての席が埋まっている。

 俺たちは色々と少ないながらもイレギュラーな存在が集まっている。

 事前調査ならそんな感じだろうけど……どういった風に変わったんだ?

 

「ここからグレモリーは二位に格上げ、シトリーは四位だ」

「三位じゃないのか?アガレスが三位とか……」

「いや、ここからは俺も予想外だったんだが……アスタロトがアガレスを下して三位にはアスタロトがついた」

 

 ……何?

 あり得ない―――あのシークヴァイラ・アガレスさんは予想ではディオドラよりも更にオーラがあったはずだ。

 それを倒したのか?

 ……確かにゲームは何が起きるか分からないが、ソーナ会長と同じで相当頭が働く人のはずだ。

 

「お前たちも知っていると思うが、ゲームはグレモリーとシトリーだけでなく他の若手でも執り行われた。実際に冥界に放送されたのは好カードだったお前たちだけなんだが……バアルとグラシャラボラス、アガレスとアスタロトだ」

「……結果は?」

「ああ。前者はバアル、後者はアスタロト……実際に映像を見た方が早い」

 

 するとアザゼルは端末のようなものを出現させて、そこから映像を流す。

 そこにはサイラオーグさんとあのヤンキー野郎のゲームが繰り広げられていた。

 その力は……拮抗とは言い難かった。

 圧倒的なサイラオーグさんの眷属の強さ。

 ヤンキー野郎の眷属も対抗しているものの、やはり押され、一人一人リタイアしていった。

 そして最後に残るヤンキー野郎。

 最後はサイラオーグさんが出てきて、サイラオーグさんとヤンキー野郎の一騎打ち。

 ……勝負は一瞬だ。

 ヤンキー野郎の放つ様々な攻撃は何の意味もなさず、サイラオーグさんは防御すらしない。

 ただ冷たい目で、しかし獅子の如く獣のような目でヤンキー野郎を見ていて、次第にヤンキー野郎はそのあまりにも違いすぎる実力差で恐怖に染まっていき、そして……サイラオーグさんの神速の拳打で屠られた。

 ―――圧勝、というのが一番しっくりする。

 眷属も強いと思うけど、それ以上にサイラオーグさんの実力が飛び抜けている。

 魔力の才能はない、にも関わらずここまでの体術の強靭な体。

 まさしく若手最強と名高いことはある。

 そう……才能なんて全くなく、ただ愚直に力を昇華させた努力の体現者と言うべきか。

 

「サイラオーグは事前調査でも圧倒的だが、実際にやってみてそれすらも超越した。リアスと違い、滅びの力を得ないにも関わらず、これほどの実力だ」

「確か、部長の母親方の親戚でしたっけ?」

「ええ。滅びの魔力を持たずに生まれたバアル家の長男……その味わってきた苦しみ、悔しさ……想像を絶するわ」

 

 悪魔には未だに才能によって侮蔑されることもあると聞いている。

 グレモリー家は特別慈愛に深い家なだけで、それ以外の悪魔は実力重視、家の名が一番なんだ。

 にも関わらず親戚側の部長やサーゼクス様に滅びの力が色濃く継いで、そしてサイラオーグさんはそれがなかった。

 

「サイラオーグは普通の上級悪魔と違い自分を鍛え抜き、それは死と隣り合わせの修行をしていたそうだ。いいか。あいつには一切の妥協も慢心もない―――上級悪魔にありがちな慢心があいつには一切ないんだ。それの恐ろしさはイッセーを持つお前たちが一番よく分かっているはずだ」

「……そうね。イッセーの相手をすると思うと恐ろしさしかないわ。私はそれに勝たなければならないわけね」

 

 ……慢心もなく、容赦のない上級悪魔。

 でも実力だけなら既に最上級悪魔ともいい勝負なはずだ。

 それほどの力を画面越しで感じる。

 

「……とはいえ、タイプ的にはこいつとまともに当てれるのはイッセーのみか」

「サイラオーグ・バアルは極端な接近戦による肉弾戦の人物ですわ。この眷属で単純な拳で戦うのはイッセー君だけですわ」

「でも俺は剣とか飛び道具も使いますよ?」

 

 朱乃さんに向かいそう応えると、朱乃さんは口元に手を当てて少し笑った。

 最近ではアスカロンとかもよく使うし、神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)で飛び道具を創って戦うしな。

 

「イッセーは稀にみる万能タイプだからな―――ここに各若手のパラメーターをまとめた資料がある」

 

 するとアザゼルは机の上に資料を置き、それを俺に見るように視線を送る。

 俺はその資料に目を通すと、そこには立体のグラフがあってパワー、テクニック、ウィザード、サポート、そして『王』という項目がある。

『王』っていうのは資質だろうな。

 部長は全体を通してバランスが良く、パワーとウィザードの項目が高い上に『王』の項目が高い。

 ソーナ会長は『王』の資質が高くテクニックが飛びぬけており、パワーが弱い。

 サイラオーグさんは―――極端だ。

 サポート、ウィザードの項目はほとんどないのに対し、テクニックと『王』の項目は若手でトップ、パワーに至っては他の追随を許さないほどに高い。

 サイラオーグさんを抜いた若手で最もパワーのあるゼファードルよりも何十倍も高いな。

 それ以外は大体平均的な高水準を叩きだしているけど。

 ……何故か知らないけど、俺のデータもあった。

 

「ついでに将来、王を目指すイッセーのやつも出してみた。リアスや他の若手には悪いがな…………イッセーに関しては唯一低いのはウィザードだ」

 

 そこには全体的に平均を大きく飛び越えるパラメーターがある……これは俺のデータなのか?

 

『……納得できるデータだ。パワーはサイラオーグ・バアルと同等以上、『王』の資質はこの中でトップに近い……っというよりウィザード以外はほとんどトップだな』

『主様は自分を下に見ることもありますが、明らかにオーバーアビリティーですよ。全ては努力の結果です』

 

 ……なら嬉しいけど。

 

「ウィザードは魔法関連だが……イッセーの場合はこれも上昇気味だ。龍法陣だったけか?あれをマスターすれば全体的にトップクラスだからな―――オールラウンダーとはよく言ったもんだ。まあ感情的すぎるのが『王』の資質が飛び抜けない理由だが」

「感情的なのがいけないか……」

 

 少し反省しよう。

 確かに不条理に対してすぐ頭にきて、感情的になり過ぎる。

 言ってしまえば我慢強くないんだ。

 

「お前の美点だが、『王』としては弱点にもなるな。お前は力以上にそこをどうにかするべきか……つっても、それを望まないのはお前の周りなんだがな」

「肝に銘じておくよ―――だけど、あのサイラオーグさんと相対したヤンキー野郎は大丈夫なのか?」

 

 俺がアザゼルにそんなことを言ったのは、あれほどの恐怖を植え付けられた悪魔が普通でいれるのか、と思ったからだ。

 普通なら戦意なんて消失し、下手すれば一生モノのトラウマだ。

 するとアザゼルは首を横に振る。

 

「ゼファードルはもう駄目だ。サイラオーグに完全に心を折られ、もう若手のゲームには参加することすら出来ないだろう」

「……聞いていたけど、やはりそうなのね」

 

 部長はさも当然のような表情で理解した。

 

「っていうことは、これからは五人の若手で戦うのか?」

「いや。違う―――一人、若手悪魔というか既に当主の悪魔が補充されることになった」

『―――ッ!!』

 

 眷属の皆は驚く。

 実際に俺も驚いた……まさか若手を補充することになるなんてな。

 

「補充と言うのは少し言葉が足りないな。元々、前回の若手の会合の場にいるはずだったんだが、その時期に色々あってあの場に参加出来なかったんだ。そしてその空席にゼファードルが埋まったことで今回は見送りにされた若手悪魔を補充する―――言っておくが、既に実力だけなら上級悪魔でトップクラスだ」

「そんな悪魔が参戦、か」

 

 こりゃあ大荒れになるぞ、おい。

 

「それで参戦する悪魔は誰なのかしら?」

「ああ―――現ベルフェゴール家の当主、エリファ・ベルフェゴール」

 

 ……………………嘘だろ?

 まさかのディザレイドさんの娘!?

 しかも三大名家二人の血を受け継いでいるって話だし……最悪のライバル登場ってわけか。

 

「既に当主という看板を背負っているから今回は見送ったらしいが、前党首のシェル・サタンが仮で一時的に当主の仕事を請け負う形で参戦となった―――リアス。サイラオーグと同じレベルで気を付けろ。エリファ・ベルフェゴールは三大名家のディザレイドとシェルの血を色濃く受け継いで生まれたサラブレッドの悪魔だ」

「……分かっているわ。会ったことはないけど、名前くらいは聞いたことがあるもの」

 

 ……そんなに有名な人物なのか?

 

「噂では女性の悪魔の中でも上位に食い込むレベルらしいですわ」

 

 すると朱乃さんが俺の思っていたことをそのまま俺に教えてくれた……そうか、それほどのレベルの人物なんだな。

 女性悪魔のトップと言えば……魔王であるセラフォルー様や最強の女王、グレイフィアさんだ。

 アザゼルに聞いたけど、その二人と同等以上にやり合うのがシェル・サタンっていうディザレイドさんの嫁さんだ。

 ……それの一歩手前にいる『王』ってわけか。

 

「近いうち若手に挨拶に向かうらしい。ディザレイド曰く、自分とシェルの娘とは思えないくらい社交的で人付き合いが上手らしいから、たぶん大丈夫と思うぞ」

 

 それを聞き部長がほっと胸をなで下ろす。

 ……うん、平和が一番だもんな。

 

「三大名家の参戦……そして魔王を排出したグラシャラボラス家の脱落。今回の若手は面白いことばかりが起こるな!見ている分にはかなり面白い!」

「こら、人の不幸を馬鹿にすることは駄目です、アザゼル。貴方の昔からの悪いところですよ」

 

 するとガブリエルさんはアザゼルの頭をゴツンと叩き……ゴツンか。

 そこはせめてコツンだと思うんだけどな。

 アザゼルは叩かれた部分を抑えて蹲る―――アザゼルが微妙にガブリエルさんを苦手としている理由が分かった気がした。

 確かに怒らせたら怖いと思う!

 

「っと、話が途切れたな。次はアスタロトとアガレスのゲームだが―――」

 

 アザゼルが先ほどと同じように映像を流そうとした時だった。

 ―――部室の一角に魔法陣の光がパァァ、っと光り輝いた。

 小さい魔法陣……悪魔稼業で使うときの一人用の大きさくらいの大きさの魔法陣だ。

 見たことがない魔法陣だな。

 だけどその瞬間、俺は少し嫌な魔力を感じた。

 ……これはまさか

 

「……アスタロト」

 

 朱乃さんがそう言葉を漏らし、俺はそこで合点がいった。

 そして魔法陣の中から少しずつ人が転送されてきて、そして

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

 

 ―――そこには張り付くような気に食わない笑顔を浮かべるディオドラの姿があった。

 その姿を見た瞬間、アーシアは俺の後ろに隠れ少しだけ震える。

 ディオドラが何をしに来たのかは分からない。

 だけど―――アーシアを怯えさせるのは許さない。

 俺はそう思った。

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