ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第3話 説教と情報収集です!

「―――それでは裁判を開始する。被告、兵藤一誠は前に出なさい」

 

 ……現在、平行世界のオカルト研究部部室は裁判所となっていた。

 俺は台の上の裁判官席に座り、兵藤一誠……もとい、変態を数メートル離れたところに立たせ、それ以外のグレモリー眷属はパイプ椅子に座っている。

 そして俺の隣の席には機械ドラゴン化したフェル、そして俺の手の甲にはドライグが宝玉として浮かんでおり、変態はびくびくとこちらを見ていた。

 

「あ、あの……オルフェルさん?どうしてそんなに怒って―――」

『発言を控えなさい、性欲のゴミ』

 

 俺の隣に佇むフェルが変態を一蹴し、変態は押し黙る。

 有無を言わせぬ圧力というべきか、そもそもフェルが本気で怒ることすらもあり得ないことだからな。

 この状況は異様とも言える。

 

「それでは尋問を開始しよう―――被告、兵藤一誠はどうしようもない変態で、女子更衣室覗きの常習犯で、誇り高き二天龍であるドライグにあり得ないほどの精神的苦痛を与え、あろうことか主であるリアス・グレモリーをスイッチ姫などというふざけた名で呼ばせている…………異論はないな?」

「いや! そ、そもそも俺はそんなことを望んでいたわけじゃな」

「―――聞く耳を持たない」

 

 俺はバッサリと変態の台詞をばっさりと切り裂く。

 なお、口をパクパクさせて何も言えない変態だが、俺は次なる言霊を続けた。

 ―――何故こんなことになっているかというと、それは先ほどの出来事が原因だった。

 それはこの世界のドライグの突然の大号泣。それによって露わになったこの世界の兵藤一誠の評判と、この世界における兵藤一誠の立場。

 乳龍帝の真実と、それに伴うドライグの現状……そして何より、力に目覚めた至り方に至るまで、全てグレモリー眷属に教えてもらったってわけだ。

 

「そんなお前に弁明を持てるか判断するために、まずはお前のこれまでの行動を俺から言う。それに対して意見があるなら言え」

「は、はい……」

 

 ついに兵藤一誠が静かにそう頷き、俺は話し始めた。

 

「まず堕天使レイナーレとライザー・フェニックスとの戦い……まあ結果は良い。むしろ男らしい決断、行動には俺も共感する」

「ま、マジっすか!?」

「―――だけど洋服破壊(ドレスブレイク)ってなんだよ!!!」

 

 俺は机をバンッ!!!……っと叩き、そう怒鳴った。

 振動する空気と、固唾を飲む観覧者。

 

「そ、それは……お、俺の魔力の才能を全て注ぎ込んだ俺の奥義で……」

「もっと誠実な追及はなかったのか!?そんなんただのセクハラじゃねぇか!!!」

『…………………………ッッッ』

 

 変態の中のかわいそうなドラゴン、ドライグが何度も頷くような声音を漏らす。

 俺は話を続けた。

 

「まあここらへんにしておこう……次はコカビエルとヴァーリの一件。まあ聞いた限りではお前にできることはしたようだし、結果論だけ言えば上出来だろう」

「……お、俺頑張りまし―――」

「―――力の覚醒がどちらとも煩悩全開じゃねぇかッ!!!」

 

 再度机をたたく俺、怯える変態。

 

「リアスにエロイことをしてもらうためにコカビエルを倒そうとして、ヴァ―リを退けたきっかけがみんなの胸が半分になるからとか、ふざけてんのか!? なんで親殺されるって言われた時よりも胸半分のほうがキレてんだよ!?」

「お、おっぱいこそ正義じゃ―――」

「うるせぇ!!お前に発言権はねぇんだよ!!」

 

 俺は裁判官席を飛び越え、変態にドロップキックを喰らわせた。

 腹を抱えて痛みに耐える変態だが、俺は構わずに席に戻って話を続ける。

 

「……次にいこう。次はシトリー眷属とのレーティング・ゲーム。その直前で禁手に至り、それで匙と渡り合ったそうだな。まあ聞いている限りでは戦いでは勝利に貢献したらしいからそれについては拍手を贈ろう」

「だ、だろ!? お、俺だって頑張ったんだぜ!?」

「―――女性の胸の内、すなわちおっぱいの言葉を聞くなんて技を創り、それで女性を強制的に辱めた経緯がなければ、な」

「え、ちょ―――ごふッッッ!?」

 

 ……俺がそう言った瞬間、隣のフェルがその場から飛び立って、勢い良く変態の鳩尾に翼で打撃を与える。

 鳩尾にきれいに入る翼の攻撃で変態は倒れそうになるが、変態のドライグがそれを許さなかった。

 無理やり倍増の力で体を強化し、そして強制的にその場に立たせる。

 

「おいおい、まだまだ尋問は続くんだぞ?―――さて、次はロキとの一戦の訳だが―――まあここに関しては素晴らしかったよ。俺もめちゃくちゃ苦戦したロキをよく退けたものだ。あの狡猾の神を結果的に犠牲なしで倒せたのは非常に好印象だ」

「……………………………………………………」

 

 ……変態はダラダラと冷や汗を掻きながら、俺と視線を合わせようとしない。

 あいつも俺が次に何を言おうとしているのか、わかってるんだろう。

 頑なに視線を合わせようとしない。

 ―――さあ、懺悔してもらおうか……己の罪を。

 

「―――異世界の神様を呼び起こし、奇跡を起こすなんて俺には絶対に真似ができないことだよな~」

「そ、そうですよね!」

「「あはははははははははははははは!!」」

 

 ……笑いあう俺たち、二人の兵藤一誠。

 だけど明らかに奴は怯えていた。

 そう、声だけ笑って、顔は一切笑っていなかった。

 そしてそれは俺も同じ事であった。

 

「―――で?乳神なんて大層な神様を呼んでしまったことに対する弁解、してみるか?」

「し、知らない!偶然なんだよ!俺の胸に対する執着が起こした奇跡なんだよぉぉぉぉ!!!」

 

 ……悪いが泣かれてもかわいそうなんて思わない。

 ってかそもそもだ。

 あいつが胸に対してそこまでの執着を持たなければ、こんな恥ずかしい状況にならなかった。

 つまり……

 

「―――ぶっちゃけ有罪だろうけど、一応被害者の意見も聞いてみようか。被害者、誇り高き二天龍の一角。赤龍帝ドライグ」

『……はい』

「お前の精神的苦痛、それは耐えがたいものだろう―――それに対して、どう考える?」

『………………良い相棒なんだ。今までの相棒の中でも俺に話しかけてくれて、馬鹿だが最高の相棒なんだ』

 

 その言葉に変態の表情がパァッと明るくなり、感嘆の言葉を漏らした。

 ……だけど

 

『―――だがッ!! 誇り高き世界最強と言われた俺が! 俺がッ!! 乳龍帝などと、おっぱいドラゴンだと言われるのは!!! もう……辛くて死にそうなんだぁぁぁぁぁぁ!!!!』

「………………」

『医者に薬を煎じて貰わないと生きていけないなんて、もう嫌なんだよぉぉ……俺は、誇り高く生きたいだけなんだ……』

 

 俺は無言で変態をにらむ。

 哀れすぎるッ!!

 宿主が変態なばかりに、あれほど誇り高き存在がこうも泣き崩れるなんてッ!!

 同情が俺の心を支配するようであった。

 

「お、俺が自分から名乗ったわけじゃない!!周りが勝手に―――」

「……でもイッセー先輩、レーティングゲームの時、自分からおっぱいおっぱい叫んでたような……」

「―――小猫ちゃん!そういうカミングアウトは今はだめだぁぁぁぁ!!!」

 

 ……さすがは小猫ちゃん、良いことを教えてくれる。

 

「おい、変態―――まだ言い逃れはあるか?」

「つ、ついに代名詞が変態に……た、確かに俺はドライグにすごい苦労を与えているとは思う! そこについては深く、深く反省している!!」

「ほう」

 

 俺は腕を組んで、変態の言い訳を聞いてやる。

 一応悪いとは思っているらしく、色々と説明という名の言い訳を重ねる変態。

 なお俺の中のドライグはすごい冷めた態度をしており、フェルに至っては今すぐにでも体当たりができる動作に移行していた。

 

「だけど美候の野郎が勝手に言い始めて、リアスをスイッチ姫とか抜かして、それを聞いた先生が番組で勝手に使ったんだ!! 乳神様に至ってはもう奇跡だろ!?」

「……まあそう言われると、どうしようもなかった感は否めないな」

 

 ……俺は「しかし」と続ける。

 上げて下げる……それこそが俺の役目であり能力の一つ。

 

「―――ここで被害者その2に話を聞こうか。リアス、前へ」

「ええ」

 

 俺にそう言われてリアスが前に出る。

 変態の第一の被害者がドライグとすれば、第二の被害者は間違いなく彼女だろう。

 

「リアス。あなたもまた、そこの変態の馬鹿な行動で精神的に苦痛を強いられた者の一人だろう……そこに関してはどう思う?」

「……確かにイッセーはオルフェル君の言う通り、エッチだし、私の胸で進化するし、乳首を押されるだけのために京都に呼び出されるし、スイッチ姫なんて不名誉なあだ名も納得しているわけではないわ」

「…………………………」

 

 またもやダラダラと冷や汗を掻く変態。

 ……しかしリアスは良い女だった。

 

「……だけど愛しのイッセーのためならそんなこと水に流すわ。確かに辛いこともあったけど、彼のその性質に私たちはみんな、救われてるもの」

「り、リアス部長ッ!!!」

 

 変態はその言葉に感動するように号泣する。

 グレモリー眷属の目はとても優しいものだ。

 ……だけどそんな空気を壊すかのように、俺の中のドライグの声が響き渡った。

 

『それでそこのおっぱいドラゴンとその宿主に対して、どういう判決を下すのだ?我が息子よ』

『ええ、性欲の権化であり、主様……いえ、わたくしの息子と同じにするなんておこがましい。名前を改めなさい、変態。あなたに兵藤一誠の名はもったいない』

 

 ―――二つの鋭い言葉が、変態に突き刺さる。

 まるで言霊という刃を持った剣のように、あいつに突き刺さった。

 ……それに一番早くに反応したのは―――平行世界のドライグだった。

 

『な、何故俺をおっぱいドラゴンとよ、呼ぶ?お、同じ天龍ならばこの気持ち、分かってくれるのでは―――』

『ふざけるな、貴様は天龍の面汚しだ』

 

 するとドライグのパパの凄味のある声音が響く。

 

『苦しみは理解した―――だがなッ!! 理屈ではわかっても、感情で俺は認めんッ! おっぱいドラゴンだと!? 乳龍帝だと!? そんなふざけた名前の者が二天龍であるものかッ!! 認めんぞ、何があろうとなぁぁぁぁ!!!!』

『―――うぉぉぉぉぉん!!! 仕方ないじゃないかぁぁぁ!!! 俺は何もしていない!! していないんだぁぁぁぁ!!!!』

 

 ……ドライグ、いくらなんでもさすがに冷たすぎるんじゃないか?

 なあフェル。お前も何か言ってやって―――

 

『流石一家の大黒柱、ドライグ。よくわかっているじゃないですか』

 

 …………ふ、フェルがドライグにそんな賞賛の言葉を贈ることに俺は戦慄する。

 フェルは間髪入れずに言葉を続けた。

 

『この世界の兵藤一誠』

「は、はいっ!!」

 

 フェルの静かだが圧倒的な威圧感を持つ声で、変態は反射的に背筋がピンとなる。

 

『―――良いですか? わたくしは今、想像を絶するほどの怒りに囚われています。主様と同じ顔をしながら、そのような破廉恥極まりない行動を女性に向かってするなど……するなどッ!!!!』

 

 す、凄まじい風が部室の中を襲う!

 こ、これが全てを創りだす創造の龍の力かッ!?

 

『冥界でお兄ちゃんドラゴンと呼ばれ、あらゆる武勲を立てて上級悪魔になり、その上級悪魔化も大切な存在を守るためだけという!! 更には赤龍帝の一つの答え、紅連の守護覇龍に目覚めた主様と同列に扱えとッ!? 笑わせないでください!!』

「は、はいぃぃぃ!!!」

 

 あまりもの迫力に変態がそう断末魔を木霊する。

 その迫力にグレモリー眷属は有無も言えず、フェルの独壇場となる。

 ……なお、あっちのドライグは何かをぶつぶつ呟いていた。

 

『お兄ちゃんドラゴン? ……しゅご、はりゅう?あは、っはははは……』

『……ついに壊れたか。哀れなドラゴンだ』

 

 ……俺の心の中でそう呟くドライグ。

 そもそもの原因があの変態にあるわけだけど、フェルはどうにも俺と同じ顔をしてそんな言動をしている存在が許せないようだ。

 フェルはドライグよりも頑固なところがあるから、しょうがないといえばそれまでだけど。

 ―――さて、そろそろ終わりにする頃合いだな。

 

「それでは決を取る―――兵藤一誠は有罪とし、これから三時間、俺がみっちり赤龍帝としての心構え。更に変態の更生プログラムを実施するが……異論は?」

『是非ッ!! 是非に頼む、俺の救世主となってくれぇッ!!!』

 

 ……この世界のドライグさんや、あんたの心労を少しでも俺は解消してみせるッ!!

 俺はふとグレモリー眷属の方を見ると……

 

「……ふふふ。まあ少しくらい、エッチなところを残してくださいね」

「まあそこさえどうにかしてもらえれば、特に問題はないわ」

 

 ……どうやら比較的賛成なようだった。

 

「えっ!?お、俺の意見は!?朱乃さん、部長!!」

「諦めなさい、イッセー。それに別世界のお兄ちゃんドラゴンと接することで、またあなたにも変化が起こるかもしれないわ」

「っというか起きてもらわないといけませね。教師的に、今のままでは色々と危険な面があったりするので」

 

 リアスとロスヴァイセさんからのツッコミで絶望の表情を浮かべる変態。

 俺は裁判官席を飛び越え、そして変態の襟首を掴んでずるずると引き摺って移動を開始した。

 

「ちょッ!? オルフェルさん、マジで!? な、何をするつもりなんだ!?」

「なに―――ちょっとした地獄を、お前に見せてやるだけさ」

 

 俺は爽やかにそう言ってみせると、変態は抵抗するようにジタバタと暴れる。

 が、それは当然のように無駄なこととなり、俺はリアスの方を向いて言った。

 

「ちょいとこいつを借りるぞ? それと観莉は当分の間、起きないからソファーにでも寝かせておいてくれ」

「わかったわ。とりあえず、起きたら連絡を送るから」

 

 リアスがそう応えるのを聞き、俺は移動する。

 ……その間、変態の絶叫が止まることはなかった。

 

 ―・・・

 

「俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い俺が悪い……………………」

 

 移動している最中、途中からお経を唱えるようにそうブツブツと呟く変態こと兵藤一誠。

 こいつは本当に俺が地獄のしごきをすると勘違いでもしているのか?

 ……いや、実際に後でするつもりだけど、今はそれが目的ではない。

 

「おい、いつまで俺に引き摺られてるんだよ。自分で歩け」

「―――に、逃げるチャ」

「逃げたら関節技48手ってことを忘れるなよ」

 

 危うく逃げそうになる兵藤一誠を封殺し、俺は移動していた―――この学園にあるはずの、アザゼルが頻繁に在住しているはずの、化学実験室に。

 

「それにお前をそうするために今、移動しているわけじゃない」

「は? じゃあ何のために……」

「お前の身内にもいるだろ?こういう緊急事態が大好きで、神器すら発明してしまう神器馬鹿が」

 

 俺がそう言うと、そこでハッとしたような顔になる兵藤一誠。

 俺はさらに続けた。

 

「別に俺一人が行って事情を話しても問題はないかもしれない……けど、アザゼルがそれで俺を信用するかといえば、微妙なところだからな。だからお前にも付いてきてもらってる」

「……確かにアザゼル先生が食いつきそうだもんな、オルフェルさんの存在」

「やっぱこっちの世界でも同じ感性なのか、あいつは」

 

 となればこの状況下で一番頼りになる存在は、やはりアザゼルしかいないわけだ。

 

「後でアザゼル以外にも、意識不明の匙の方にも行こうとは思っているけど……まだ起きる見込みはあるか知ってるか?」

「……いや。解析不能の正体不明な襲撃者の攻撃だったそうだから。痕跡すら残ってねぇって……ッ」

 

 俺は不意に憤怒する兵藤一誠の肩に手を置き、まっすぐとその眼を見る。

 

「ッ!! す、すみません……俺、まだまだガキだからすぐに―――」

「……いや、お前の在り方は正しい。仲間のために怒れる、憤怒することができるのは優しい証拠だ。憤怒は悪いことじゃない―――俺はそう教えて貰ったよ」

 

 俺はディザレイドさんを思い出して、兵藤一誠にそう言った。

 

「それにお前はまだ子供で良いんだよ。大人になったら、今みたいな成長も感性も、全部完成してしまってつまらないからな」

 

 それに俺はこいつの可能性に興味がある。

 過程ややり方は色々と文句を言いたいけど、でもその進化の結果はかなり面白いものだ。

 赤龍帝の力と駒の力を融合させ、それぞれの特化型の力を発動する力も使い方によっては相当のポテンシャルを誇っている。

 もしそれぞれの箇所を適したモードに変更することが出来れば、こいつの可能性はさらに大きくなるはずだ。

 それにこいつの信念、熱さは相当の熱血漢だと伺える。

 ……なるほど、グレモリー眷属がこいつに好意を抱くのは当然か。

 こんな何をするにも真っ直ぐで、馬鹿だけど自分の損得を無視して突き進める奴は、探せば簡単に見つかるものじゃない。

 それにこいつは見ていて楽しい。

 どことなく惹かれる部分があって、才能がなくてもそれを手に入れるために血の滲む努力が出来る男だ。

 だから俺もこいつを少なくとも気に入り始めていた。

 

「さっきの戦い、俺はお前たちを圧倒はしたけど舐めはしてない。もっとたくさんの意味で強くなれよ? 力だけじゃないんだ、強さは」

「……なんか、オルフェルさんにそう言われると、謎の説得力があるっていうか」

 

 窺うように兵藤一誠がそういうと、俺は少し笑って先に進む。

 

「俺が突き進むのは全てを護るため。ならお前が突き進むのは何か。それを目指せば、自然と強くなれるさ」

「―――はい!!」

 

 兵藤一誠……いや、もっとフランクに行こう。

 ―――一誠はそう言って、俺についてくる。

 そして……

 

「失礼するぞ、アザゼル」

「失礼しまっす!」

 

 俺と一誠はノックをした後、化学実験室の中に入っていった。

 

「おぉ、イッセー。ちょうどいい、今実験してるからそれの被験体にって―――うぉぉぉぉぉぉおお!!!? い、イッセーが二人いるだとッ!?!?」

 

 ……反応は予想通りだった。

 

 ―・・・

 

「なるほど、平行世界から謎の魔法陣によって飛ばされた、ねぇ。しかもそもそもタイムマシンを発明し、過去に行く予定だった―――いいねぇ!! おい、オルフェル!! お前、最高にいいぜ! 俺の研究者魂に火が付くってもんだ!!」

「……どこの世界のアザゼルも、やっぱり馬鹿か」

「は、ははは」

 

 実験室に到着し、案の定な反応をしたアザゼルに肩を竦める俺。

 あの後、アザゼルに丁寧な説明を施し、今の俺の状況を説明すること10分。

 それに対しアザゼルが興味を示すのに時間はいらなかった。

 一誠は凄まじいほどに苦笑いをしており、とりあえず話が一切進まない!

 

「ってか神器を創造する神器ってなんだよおい!! 神器を創りだすとかマジかよ!? それを利用して過去へ行くとか……―――ちょっと調べさせろ、イッセーセカンド」

 

 アザゼルの目が血迷っていて、なんか息も荒い!?

 予想はしていたとはいえ、流石はアザゼルといったところか……こっちの思惑通りの反応をしてくれる。

 

「お前に調べられたら解剖と同じ意味だろうがっ! おい、こっちによるな!」

「ちょっとぐらいいいじゃねぇか……郷に入っては郷に従えという言葉があるんだぜ?あれだ、先っちょだけだから!」

「うるせぇ! そもそも俺の郷はここなんだよ!」

 

 っていうかうかうかしてたら本当に解剖される!

 ここは―――やるしかねぇ!

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

『Reinforce!!!』

 

『Infinite Booster Set Up―――Starting Infinite Booster!!!!!!!』

 ……連続で鳴り響き、最終段階まで一気に辿り着く俺。

 そのタイムは過去史上最速で、俺は特に敵もいないのに鎧を神帝化させてアザゼルにアスカロンを向けながら本気で威嚇する。

 その圧倒的流れるような作業にアザゼルは血の気が引き、そして自分が犯した過ちに気付くように渇いた声で笑った。

 

「お、おぉぉぉぉッ!! す、すげぇ!! アザゼル先生が反応できないレベルの速度の自身の強化! すげぇよ、オルフェルさん!!」

「おう、一誠。さて―――お前は考えたことはないか?このいつも俺たちを騒動に巻き込みやがるマッドサイエンティスト、アザゼルに一泡吹かせてやりたいと」

 

 俺はアスカロンをアザゼルに向けながら、一誠にそう問いかける。

 すると……一誠はおもむろに涙を流し始めた。

 

「う、うぅぅぅッ! やっぱりあんたはすごいッ! そうだよ……俺はアザゼル先生のせいで地獄のドラゴン鬼ごっことか、色々辛い事をやらされたんだぁぁ!! だけど先生、ラスボスクラスに強いから逆らうことも出来なくてさ……」

「……だけど俺がいればそれが出来る。なあ、俺と一緒に革命を起こさないか?」

 

 ……言葉は不要だった。

 

「お、おいイッセー!? せ、先生を裏切るとか―――ぶへぼッ!?!?」

 

 一誠は流れるような動きでアザゼルの懐に到達し、そして迷いのない拳を面白いくらい真っ直ぐにアザゼルに放つ。

 情けない声と共に殴り飛ばされるアザゼル……あ、やっぱりアザゼルには恨みがあったんだな。

 

「……部長の乳が吸えなかった分だッ」

 

 ………………俺は最後の情けない一言は聞こえないことにするのだった。

 ―数分後……

 

「今の状態では何とも言えんな。何分、お前が飛ばされたであろうそのタイムバイクってもんがねぇんだ。パラレルリープをしたのならバイクも一緒にこの世界に飛ばされたはずだが……」

「そもそも俺が何故この世界に飛ばされることになったのかも疑問でしかない」

 

 ……普通に話しているように見えるのかもしれないが、アザゼルはスーツがボロボロの状態だ。

 今は反省したのか、俺に協力的である。

 何、これが俺のお話の力(説教)というやつさ。

 

「そもそも仮に何者かがお前に横槍を入れたとして、故意的にこの世界―――平行世界にお前を飛ばしたのなら、それこそあり得ねぇ。この世界に平行世界に干渉できる術なんか知る限りでは存在しねぇよ」

「……まあそこは理解しているよ」

 

 アザゼルの鋭い指摘に俺は頷く。

 そもそも俺の世界でタイムリープが可能になったのだって、様々な制限を重ねた結果だ。

 その上フェルと力がなければ到底実現不可能だったもので、俺の世界のアザゼルだって奇跡というほどの出来事だったからな。

 そしてこの世界と俺のいた世界とでは時間軸に対した差はない。

 俺のいた世界よりも数か月後ってくらいなもんだ。

 まあその数か月で色々なことがあったそうだけど……

 

「……えっと、つまりさ?俺たちの世界でもオルフェルさんの世界でもこんな現象を起こすことは不可能だってことだよな?」

「そういうこった。過去ならまだしも、平行世界に飛ばすなんてもんはそもそも無理な話ってもんだ」

 

 アザゼルはやれやれと言った風に肩を竦め、デスクの上に置かれているコーヒーカップに手をつけた。

 

「悪いな、イッセーセカンド。今のところは俺に手伝えることはねぇ」

「いや、仕方ないよ。こっちだって情報不足だからな―――あとアザゼル。俺のことはオルフェルって呼んでくれ。そっちの方が分かり易い」

「おっと、そうだったな!―――にしても。同じイッセーでも趣が随分違うようだな、おい」

 

 するとアザゼルは俺と一誠の方を交互に見ながらそう呟いた。

 顔を見て分かるくらいにその表情は興味深そうの一言で、流石はアザゼルというべきか。

 

「顔の基本的な構造はほぼ変わらんが、しかしオルフェルの方がはっきりとしてるな。が、面白味という面では弱いか……いや、おっぱいドラゴンとお兄ちゃんドラゴンでは天と地の差が―――」

『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! やめろぉぉぉぉぉ!!!! そこに触れるでなぁぁぁぁいい!!!!!』

 

 アザゼルの冷静な分析を前に絶叫を上げるこの世界のドライグ。

 本気の断絶魔ってこんな叫びなんだな。

 なあドライグにフェルさんや。

 

『変態を止められないこの世界の俺が悪い』

『ええ、同感です。格の差が目にも明らかです』

 

 あはは……二人はどうにもおっぱいドラゴンを受け入れられないようだった。

 まあ俺も受け入れたというよりかは諦めたってのが近いけど。

 変態性が若干あれだけど人間性はむしろ正常だし

 そもそもおっぱいドラゴンとか言われたのも俺みたいにやむなしだったかもしれないしさ。

 

「まあともかく今、俺にできることはねぇ。何よりもオルフェル、お前がこの世界に飛ばされたのは確実に理由がある―――もしかしたら待っている間もなく解決の糸口が見つかるかもしれねぇ」

「まあ難しく考えるのも面倒だしな。何よりもこっちの世界のアザゼルも、今頃は血眼になってるはずだからな」

 

 少なくとも同士を放っておくなんてことはないだろ。

 

「んじゃ俺たちはそろそろ行くよ。いくぞ、一誠」

「は、はい! じゃあアザゼル先生、また!」

 

 俺と一誠は化学実験室を後にする。

 

「でも一番頼りになるアザゼル先生でも分からないとなると」

「まあそんな最悪な状況じゃねぇよ。それに本命はアザゼルじゃないからな」

 

 化学実験室に背を向け、そのまま次の場所に向かう。

 ……っとその時だった。

 

「俺、まだ昼飯食ってなかった―――一誠、飯食いに行くぞ」

「……意外とマイペースだよな、オルフェルさんって」

 

 若干苦笑いをした一誠を連れ、俺たちは食堂に向かうのだった。

 ―・・・

 

「まあ食堂の味は変わらないよな」

 

 俺は食堂でカレーライスを頼み、今はそれを食べていた。

 俺の知っている駒王学園の食堂の味で、どこか親近感を持ってしまう。

 一誠はそんな俺を見て苦笑いを浮かべているものの、俺はそれを気にせず腹を満たす。

 

「いいか? 腹が減っては戦はできぬって言うだろ? 考えるにも脳細胞を動かすのも、まずは何か食べないとさ」

 

 俺は最後の一口を口に運んで、一誠にそう言った。

 聞いた話では現在、駒王学園は休校をしているらしく、学生はチラホラと見れるほどしかいない。

 そのチラホラと見える生徒は俺たち側のことを知っている人間や悪魔だと思うけど。

 

「一応、俺のことはお前の遠い親戚ってことで通す。もちろん、一般人に対してだけど」

「まあ今はその一般生徒が学校に来ることはないんだけどさ」

 

 突然の事態に警戒態勢が取れないから仕方ない。

 

「んじゃそろそろ行く―――」

「あ、イッセーく~ん!!」

 

 俺が席を立ち、目的に向かおうとした瞬間、突如一誠の名を呼ぶ女の子の声が響いた。

 もちろん俺は自分の世界で同じ名前で呼ばれてるから反応しそうになる。

 俺と一誠は同時に声の響いた方向に目を向けると、そこには予想通りイリナがいた。

 それと―――レイヴェル!?

 ……ああ、そういえば俺の世界のレイヴェルも日本の学校に勉学で留学しに来るって言ってたっけ?

 この世界は俺のいた世界よりも未来の時間らしいし、そういうことか。

 

「聞きましたわ、イッセー様。平行世界から飛んできたイッセー様がいるとお聞きしたのですが…………なるほど、そちらの殿方が」

「ほえ~、イッセー君にそっくり!!そもそもイッセー君と同一人物だったわね!」

「……まあ俺の世界と大差ないか」

 

 レイヴェルとイリナの反応を見て何故かがっくりとするが、言葉を聞く限りは事情は知っているみたいだな。

 

「な、なんかがっかりされてるんだけど!?」

「いや、そもそもイリナにそんな期待してないから大丈夫だ」

「き、期待してないッ!?」

 

 俺の反応に異を唱えるイリナだけど、がっかりするものはがっかりする。

 

「イリナ、オルフェルさんは思ったことを素直に言う人だから、あんまり気にしない方が良いぜ?」

「そ、それはそれで複雑っ!!」

 

 一誠のフォローも虚しくイリナは当然のように驚愕する。

 まあこの世界のイリナのメンタルが俺の世界のイリナと同じなら、何の問題もないだろう。

 

『相棒も逞しくなったな……のぉ、フェルウェルよ』

『えぇ。平行世界に飛ばされてこうも自然体とは……流石は私達の息子』

「はいはい、二人は今は神器の奥でしゃべってろ」

 

 俺は恥ずかしげもなくそんな会話をするドライグとフェルを、神器の深いところに誘導する。

 ……っとそこで一誠が関心するように見ていた。

 

「……まあドライグに関しては俺も理解できるんだけどさ―――神器を創る神器だっけ?オルフェルさんの中に存在しているもう一つの神器って」

「ああ。神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)。創造力を溜め、神器を創造する力を有しているぞ」

 

 俺は胸にブローチ型の神器を顕現し、それを三人に見せる。

 白銀の輝きを見せるフォースギアだけど、それを見て一番反応が早かったのはイリナだった。

 

「―――す、素晴らしいわ! 天使である私には分かるの! その神器はとても神聖で神々しいものって!!」

「まああながち間違いではないな。神器を創る神器って、やってることは聖書の神がしたことと大差はないからな」

 

 っていっても創れる神器は限られている上に、力の上限も定まっているからな。

 時に俺の想いの強さで神滅具並の力を発揮する神器を創り出すこともあるけど……まだまだ謎が多い神器だ。

 

「そういえば俺って自分のことは知られてるけど、実際にはオルフェルさんのこと何も知らないんだよな」

 

 すると一誠は俺に関心を持ったのか、そう尋ねて来た。

 確かにこの世界の一誠のことはあらかた聞いたけど、自分のことは何も話してなかったな。

 まあこれも良い機会か。

 

「次の目的地まで距離があるし、話しながら行くか―――レイヴェルとイリナはどうする?」

「私は残念ですがフェニックス家と連絡を取らないといけないので……此度の事件についての状況を報告する責務がありますわ」

「私も同じなの! この町にいる天界の使者だから、ミカエル様に報告しなきゃ!」

 

 ってことは、この世界ではガブリエルさんは駒王学園に所属してないのか。

 やっぱり俺の世界と違いがあるってわけだ。

 

「了解、じゃあ俺たちは次の目的地に向かうぞ」

 

 俺はそういうと二人と別れ、一誠を連れて向かう。

 

「そういえばまだ聞いてないんすけど、どこに行くんですか?」

「ん? そりゃ実際に敵さんと鉢合わせてる奴のところに決まってるだろ?」

「ッ!? そ、それって」

 

 一誠は俺の言葉を理解したのか、わかったような声を響かせる。

 俺はそれに頷き、そして言った。

 

「んじゃ行くぞ。匙が収容されてる病院に連れて行ってくれ」

 

 俺は一誠にそう言うのだった。

 ―・・・

 

「ま、マジっすか? な、なんか俺とは全然違う進化を辿ってるんすね……」

「まあそれもフェルの力があったからだけどな。お前みたいに胸に執着して、胸で進化するとかあり得ないし」

 

 俺はこれまで俺が戦ってきた敵のことを一誠に話しつつ、病院を目指していた。

 それまでの会話で分かったことは、この世界には三大名家なんてものは存在しないこと。

 それと過去にオルフェル・イグニールという赤龍帝がいなかったことだ。

 まあ平行世界に来てるんだから、これくらいの差が生まれても可笑しくない。

 後は……この世界ではオーフィスは未だ敵の親玉とされていること。

 あと黒歌とかチビドラゴンズも周りにいないってことくらいか。

 それはそれでどこか悲しい気分になるけど、そこは割り切るしかないか。

 結果論だけで考えれば、「俺の世界は俺の世界、この世界はこの世界」っていうしかないからさ。

 

「あと紅蓮の守護覇龍、だっけ? ドライグが未だに号泣してるけど。どんなことしたらあの怨念をその方向に誘導できるんですか?」

「誘導、ねぇ……最終的に俺が覇龍をどうにか出来なかったのは何より自分のせいだったからな―――自分を受け入れた、が答えだよ」

「ほへぇ……なんか、ホント俺と同い年には見えないっす!」

 

 ……意外と一誠は鋭いんだな。

 まあここで自分の過去を話すのも意味がないだろうし、言及もされていないから問題ないか。

 

「……………………っ? こいつは……」

 

 俺はその時、あるものを感じ取ってその場に立ち止まる。

 その途端に俺の中のドライグとフェルが声を響かせる。

 

『相棒、どうした?』

『なにかあったのですか?』

 

 ……いや、なんか視線を感じるっていうか。

 殺気とかの類じゃないけど……どこか観察されているみたいな視線を感じるんだ。

 

『……考え過ぎ、と言いたいところだが相棒は夜刀との修行で気配に敏感になった相棒。そこを考えると』

『虚言とは言い難いですね』

 

 確認してみる価値はあると思う。

 少なくとも事態が現状、最悪な段階だから少しでもきっかけが欲しい。

 

「一誠、先に行って説明しててもらって良いか?」

 

 俺は立ち止まって前を歩く一誠にそう言うと、俺の方を振り返って不思議そうな顔をしていた。

 今から匙のところに行くぞって言っていたやつが突然そんなことを言ったら当然か。

 

「別に良いっすけど……」

「んじゃ頼んだ!俺もすぐに向かうからさ」

 

 すると一誠は少し小走りで俺の先を行き、俺はそれを見送ると視線を感じる方向に移動した。

 道は路地裏に入っていき、そこは光が遮られて不気味とまで言える。

 しかもご丁寧なことに俺が路地裏に足を一歩踏み込めた瞬間、結界が展開されて現実と路地裏の空間が遮断された。

 凄まじいほどの綺麗な流れで、無駄のない結界にむしろ感動を覚えるくらいだ。

 ……思った以上に接触が早かったな。

 

『相棒はこうなることを予測してあの者を先に行かせたのか?』

「まあな。今のあいつじゃ目の前のこいつ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)を相手にしたら、一瞬で負けるさ」

 

 俺は嘆息を一つつき、そして―――少し歩いたところで、目の前に現れた黒いローブを被る存在を指してドライグにそう言った。

 

「……気付いていたのですね」

「当たり前だろ? いや、むしろ気付かれるためにわざと(・ ・ ・)気配を出してたんじゃないか?」

 

 俺が軽い口調でそう言うと、目の前の存在は薄く笑い声を響かせた。

 

「ふふ……いいえ、私にはそんな技能はありません。ただあなたがそれほどの技量を持っていただけです」

「それはありがとう―――声から察するに女なんだろうが、質問に応えてくれるか?」

 

 俺は顔が見えなく、背が俺より少し低い女にそう尋ねた。

 すると女性は薄い笑いを止めた。

 

「このタイミングでお前ほどの術者が、しかも俺の前に現れた。偶然にしては出来過ぎてるよな?」

「そうですね。私が偶然と言ったとしても、あなたは信じないでしょう」

「ああ、信じることは難しいな。それに俺を観察していたのも気になる。さ、俺の質問は二つ―――俺をこの世界に飛ばしたのは、お前か?」

 

 ……俺は女にそう直球で尋ねた。

 この手のタイプには下手に変化球を与えず、真正面からぶつかっていった方が早い。

 

「……その問いには半分正解で、半分間違いと返させていただきます」

「そっか。ならそれだけで俺は確証を持てた―――次の質問は、この町に起きている事件は全てお前の仕業か?」

 

 俺がそう尋ねた瞬間だった。

 

「……ッ」

 

 ……女は、明らかな動揺を見せた。

 今の反応は―――関係があるが、実際には犯行に及んでいるわけではないのか?

 それに顔は見えないが、口元は苦虫を噛んだように歪んでいる。

 

「……お前が何のために俺をここに飛ばして、どんな目的で俺に接触したかは知らない―――だけどな。この町を恐怖に陥れるなら、どんな目的があろうと俺はお前を倒す」

『Boost!!』

 

『Force!!』

 

 俺は籠手とフォースギアを展開し、拳を女に向けた。

 

「……ふふ。そうですね、やはりあなたもまた―――兵藤一誠(・ ・ ・ ・)ですもんね」

 

 ……くだけた口調と、どこか悲しそうな声音。

 口元には笑みが浮かんでいるのに、その女は何故か悲しそうだった。

 納得したような言葉と、意味深な言葉を口にする謎の女。

 だけど……だけどなんでだ?

 ―――何故か、その笑みと言葉は温かくて俺を包み込むようだった。

 

「……俺は、お前を知ってる?」

 

 俺がついその言葉を漏らすと、女は首を横に振った。

 

「あなたが私を知っていることはないです。あるようでない、すごく複雑な問いですが」

「お前、何を言って―――」

 

 俺がそう言おうとした瞬間だった。

 ―――ゾクッと、背筋の芯から体が冷えるような現象に襲われた。

 悪意とか、殺気とかそんな甘いもんじゃない。

 ……殺意。

 確実に俺を殺すという気配を俺は感じた。

 

「…………もうあなたは、来てしまったのですね……やはりあなたは―――」

 

 ……女は俺の方ではなく、空を見つめながらそう悲しそうに呟いた。

 それと同時に俺の後方から突如、魔の気配を感じた。

 がぎゅゅぅぅぅぅっ…………そんな気色の悪い呻き声をあげるのは歪な形をした一匹の魔物。

 身体中が真っ黒に染まっており、左右非対称の巨大な眼球、形が定まっていない液状の体。

 

「……平行世界の兵藤一誠、あなたにお願いがあります」

 

 女は一歩、俺に近づくと後ろの魔物は動きを止める。

 そして―――俺の前にたどり着き、俺の頬をそっと両手で覆った。

 

「―――これからこの町に来る脅威。敵を…………倒してください」

「き、脅威? あ、あんた何を言って」

「お願い、します……もうあなたたちしかいないんです、あのヒトを……倒せるのはッ!!」

 

 ……涙を堪えるような声と嗚咽がその女から伝わった。

 その手は氷のように冷たく、そして何より―――心まで冷め切っていた。

 だけど……何故か温かった。

 その言葉は、想いは。

 だから―――

 

「―――大丈夫だ」

 

 ……俺はその女を安心させるように頬を覆う手を握り、そう言った。

 

「俺を飛ばしたとかはもうどうでも良い。お前は俺に助けを求めていたんだとしたら、この町に脅威が訪れようとしているんなら、俺は全てを護る。お前の想いも、この町も……全部だ。だから大丈夫だ!」

「だい、じょうぶ?」

「ああー――不思議だろ? 俺の大丈夫には謎の説得力があるからさ」

 

 俺が笑顔でそう言うと、俺は後ろの魔物に対して手の平を向ける。

 そして

 

断罪の龍弾(コンヴィクション・ドラゴンショット)

 

 ―――一瞬で、その気味の悪い魔物を塵にした。

 破滅力を誇る断罪の龍弾を放ち、そして俺は女から一歩距離を取る。

 

「……だから、俺に任せろ」

「……はいッ!!」

 

 そんな良い返事を女はして、そして路地裏の闇と少しずつ浸透していく。

 

「……平行世界の兵藤一誠。私の名は…………アイ。アイとお呼びください」

「……ああ」

 

 姿は少しずつなくなり、そして……完全に消えた。

 ―――どうか、あなたに幸があらんことをお祈りします。

 その言葉が響き、そして結界は解除された。

 

「…………ドライグ、フェル―――平行世界に飛ばされてもさ。俺のやることは変わらないみたいだよ」

『全くだ。だがそれも性だろう』

『ですが、それだからこその主様。共に歩みます。我々は永遠に』

 

 俺は籠手とフォースギアを消し去り、そして路地裏を出た。

 途端に目に入る眩い太陽光。

 そして俺は―――

 

「じゃあ行こう。ドライグ、フェル」

 

 先へと、前に進んだ。

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