生命の焔   作:刹那・F・セイエイ

3 / 4
その人が好きなモノと、周囲のイメージはだいたいあってないことが多い。


生徒会との邂逅。

「財布よし、スマホよし、寮のカギよし。あとは……もういいかな?」

 

 今日から大洗女子学園の新年度のスタートを切る始業式を控えたみほは、浮かれる気持ちを抑えつつ、身支度のチェック。とりあえず、今日は始業式だけだからさして時間はかからないし、荷物も少なくてすむ。ちなみに、明日は入学式なのだが、そこは今深く考える必要はないだろう。まずは始業式を終えて転校した実感を掴む、あとのことはそれからだ。

 いくら始業式だけとはいえ、転校初日に遅刻などシャレにならない。ほぼ空っぽ同然の通学鞄を携え、寮のカギをかけたことを確認して出発。犬を連れて散歩する人、こじんまりとしたパン屋から漂う焼き立てのパンの匂い、地元では見かけることのないコンビニ、そして、今日から共に過ごす大洗の同級生たち。目に映るもの、そのすべてが新鮮で心が躍る。まぁ、新天地なんだから当然と言えば当然だが。

 のびのびとした印象を受ける大洗の校章に目をひかれつつ、みほは新生活の門をくぐる。県立大洗女子学園普通一科二年A組、ここが私の新生活の舞台(ステージ)。担任と思われる女性の、間延びした新年度のあいさつを廊下の外で聞きつつ、入出を促されるのを待つ。話し始めてから数分後、ようやく中から呼ばれたため入室。

 

「西住さん、自己紹介を」

「あっ、はい。熊本から来ました、西住みほです。まだまだよくわからないことが多いですが、よろしくお願いします」

 

 「では西住さん、あちらの空いている席に座ってください」と、自分から見て左手奥の席を指され、そこへ座る。その後行われた始業式での生徒会長──確か、角谷とか言った──のあいさつを聞きつつ、大洗でどうやって戦車道チームを立ち上げるかを考える。もっとも、立ち上げたところで人員が集まらねば意味がない。そのあたりに関しては、ここの生徒会にも協力してもらうとしよう。とりあえず、今後の予定は決まったし、始業式も終わったのでこの後の予定を考えることにする。

 授業はすべて終わったので、あとやることといえば夕飯の買い出しくらいか。ついでに、お昼も買って食べながら明日からの予定を組むとしよう。さて、そうすると、何を食べようかで悩んでしまう。衣サクサクのフライに味わい豊かなコロッケ、なんならお弁当ならボリュームも満点だし、ちょっと背伸びしてお寿司をつまむのもいいだろう。ああ、想像しただけで今からおなかがすいてきた。

 いや、せっかく転校してきたのだ。ここは自分へのお祝いとして贅沢に外食してみるのも悪くないだろう。だが、どこで食べようか……と考えていると、ひとつの店が目に飛び込んでくる。こじんまりとした昔ながらといった感じの喫茶店、こういった長年続いた店ほどハズレが少なくおいしいのだ。それに、喫茶店である以上、地雷を踏み抜く心配もないし、などと思いつつ入店。中はカウンター席とテーブル席がいくつかあるだけの、小さなお店。

 店員の男性が、若干砕けた口調で「っしゃっせー」っと挨拶する声を耳に席に着く。メニュー表の片隅に書いてある「ボリューム満点」の文字を眺めつつ、何を食べようかで悩む。店の入り口にあった看板にあった人気メニューベスト3があったが、そこから選べばハズレはないだろう、人気メニューなんだし。けど、ベスト3に入らない中にも、おいしい料理はあるのかもしれない。そんな期待をうっすら抱えつつ、メニューの両面をしばらく眺めるも、やっぱり人気ナンバー1のハンバーグ定食にしよう。初っ端で地雷を踏み抜くとかたまったもんじゃないし。

 そんなこんなで待つこと10分近く、ようやくお目当てのハンバーグ定食が到着。内容は薄切りレモン付きのハンバーグにパチパチと鉄板の上で跳ねる目玉焼き、そして控えめに存在を主張しているウインナー。マヨネーズらしいドレッシングのかかったキャベツのサラダと、切り干し大根の煮物とお新香がセットになった小皿に、気持ち多めな味噌汁とごま塩のかかったごはん。メニュー表の片隅にあった謳い文句通り、コレ確かにボリューム満点だ。食べ応えはありそうだが、味はどうだろう。あっ、レモンよけとこ。

 そんな期待と不安を抱きつつ一口、うん、これはうまい。ハンバーグにうるさいエリカさんにしてみれば妥協点レベルなのだろうが、私には十分合格ラインだ。次に目玉焼き、これは特にこだわったというわけでもなく、普通の目玉焼き。そしてサラダ、キャベツメイン……じゃなくて、キャベツいっぱいの四角い小皿を手に取り頬張る。結局ドレッシングが何なのかは最後までわからなかったが、口直しにはなった。切り干し大根の煮物もお新香も、ちょうどいい感じの箸休めになったし、控えめにアピールしていたウインナーもいいアクセントになった。

 もっとも、ご飯は適量だったのだが、この味噌汁がちょっと問題。いや、味じゃなくて量的な意味で。これちょっと多いような気が……セットで選んだウーロン茶とついてきた謎のお茶、お冷と合わせるとやっぱり多い気がする。味も値段もそこそこいいだけに、そこが唯一残念。

 そんなこともあったものの、無事に一日目を終え、二日目がスタート。この日は入学式、高校へ進学したばかりの初々しい一年生たちが、これからの学校生活に期待と不安で胸を膨らませながら一歩一歩進んでいく様子が見て取れる。そんな一年生を眺めるみほには、彼女達とは別のベクトルでの期待と不安が混ざっていた。新一年生であるため、高い確率で戦車道を履修してくれるであろうという期待と、その履修した生徒の中からいったい何人──最悪の場合、自分を含めた履修者全員──を処刑台送りにしなければならないのかという不安。

 そんな期待と不安を抱えつつ、二日目終了。寮までの道中、さて、今日は自炊でもして……と考えていたところで、ふと背後からの視線に気づく。こちらに対して敵意はなさそうだが、つかず離れずの距離を保ってこちらを窺っている。よく言えば熱心なファンなのだろうが、これではただのストーカーだ。振り切るか?いや、あえて釣り上げるか。

 そう考えたところで、あえて後ろの視線に気づかないフリをして寮までの道のりを進む。相手も相手で、あくまでも偶然を装うような歩調でつけ回しているため、ここで理由もなく不自然に走ると逆についてこなくなるかもしれない。しかし、ついてきてくれないとなるとそれはそれで困る。さて、どうしようか……

 

「何か私にご用でしょうか?昼食をタカろうという魂胆なら、他を当たっていただきますが」

「さ、さすが、伝説のSS12部隊のエース。索敵能力ハンパないです!!あっ、申し遅れました。私は、普通Ⅱ科2年C組の秋山優花里と申します。本物の戦車乗りの方と出逢えて誠に光栄であります」

 

 結局、考えても妙案は思いつかず振り返って声をかけると、一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐに上機嫌な表情を浮かべて自己紹介を始めるふたつ隣のクラスメート。コロコロと表情と体制をせわしなく変えて話す姿はどこか見ていて飽きないが、どうも何かが引っかかる。ミーハーなファンというよりは、のめり込んで周りが見えなくなっているような……そんな感じが。

 

「前から黒森峰のファンで、試合はいつも戦車マガジンでチェックしてました。私も戦車大好きです!!一番好きな戦車はポリッシュ7TPです!!いえ……決してウケ狙いではないです。西住殿はどの戦車がお好きですか?………あっ、西住殿と呼ばせていただいてよろしいでしょうか?私も是非、西住殿のお仲間に加えてください!!」

 

 べらべらとよく回る頭と舌から矢継ぎ早に繰り出される内容はあまり多くを得られなかったものの、彼女がいわゆる軍オタ、と呼ばれる私が最も嫌いなタイプの人間だとわかった。息を殺し、生に縋りつき、幾度となく死線を彷徨い続けた私にとって、軍オタという連中はそれを──お涙頂戴の安っぽい三流のテレビドラマを見るような感覚で──面白おかしく楽しんで見る人間という解釈だ。よくものこのこと私の前に現れたものだ。今ならコイツを地獄への体験ツアーに連れて行っても誰も文句は言わないだろう。

 

「あの、秋山……さん?」

「はい、マイフューラー!!優花里と呼び捨てでお呼びくださいッ!!」

 

 とりあえず、目の前の軍オタを落ち着かせようと名前を呼んではみたものの、今度は今度でローファーの踵を鳴らして右手を伸ばして掲げてみせる。それは、かつての黒森峰での敬礼。正直言うと、早く忘れてしまいたい。というか、目の前の勘違いした軍オタに一言言ってやらねば、私の腹の虫も収まりそうにない。

 

「戦車は人を殺すための道具です。私はやむを得ず乗っていましたけど、ああいうのは早く世界からなくなってしまえばいいと思っています。だから、遊びでそういうのが好きな人とは、お友達にはなれません」

 

 溜まった文句(フラストレーション)を次々に喉元に装填しては目の前の目標に砲撃、直撃する度に捨てられた子犬よろしくしょげた表情を見せる姿はかわいらしいのだが、今の私にそれを楽しむだけの余裕はなさそうだ。しょげた子犬をほっといて帰ろうとすると、数歩遅れて腰元に衝撃を感じる。先程の軍オタが抱きついてきたのだろう。

 

「も、申し訳ありません、西住殿!!私が生意気でした!!仲間なんてとんでもない、家来です、家来!!西住殿の家来にしてください!!忠犬優花里とお呼びください!!」

 

 おいおい、ちょっと待て。話が斜め上どころかICBM並にあらぬ方向にぶっ飛んでいってないか?友達になれないからといって、なぜ家来に?おそらく、彼女の思考としては『友達になれない→対等につき合えない→つまり、西住殿より立場は下→じゃあ、家来だ!!』という感じなのだろう。とりあえず、この勘違い(ノーコン)っぷりを修正をしておかないと、このあとの話がこじれそうだ。

 

「だからなんでそうなるんですか」

「す、すみません。ひとりで舞い上がっちゃって……わ、私小さい頃から人見知りが激しくて……パニクってるうちに変なテンションによくなっちゃうんです……」

 

 腰元から抱きつくのをやめてしおらしくなった忠犬をなだめつつ、とりあえず改めて話を聞くことにする。アレ(パンツァー・ハイ)を変なテンションというのかどうかはさておいて、なぜこうも私に執着気味になるのかは知っておきたい。っていうか、それがわからない限り、今夜はぐっすり寝れそうにない。

 

「あ、いえ、人見知りするのは私も一緒なので……けど、なんで私に執着するんです?優秀な戦車乗りなんて、掃いて捨てるほどいるじゃありませんか」

「それでも、私にとっての一番は、西住殿なんです。ここへ転校してきた理由も、ある程度は察しているつもりです。きっと、このダラダラ続く利権絡みの戦争(硬式戦車道)を終わらせるために来てくれたんですよね?私、戦車は好きでも、戦争は大嫌いで……もし終わらせてくれるというのなら、この秋山優花里、全力で西住殿のお力になってみせます!!」

 

 そう一息に言って、今度は陸自式の敬礼で決意表明をする秋山さん。どうやら、あの戦争をうんざりしていてくれていたようで、私としては少しありがたい。きっと彼女にとっては、戦車はスポーツカーと同じような感覚なのだろう。カッコいいから好き、というだけで、戦争がしたいわけではなさそうだ。なるほど、彼女なら少しは信頼できるかもしれない。

 その後、特に何事もなく三日目を迎え、ここで私は二日連続で運命の出会いをすることとなる。

 

「西住ちゃーん、必修選択科目だけどさ、戦車道選んでね」

「ヨロシク」

 

 生徒会長、角谷杏がそこにいた。これはまた、面倒なことになりそうだ。




・秋山優花里
大洗女子学園の軍オタで、高校に進学したら戦車に乗ろうと決めていたものの、実家の経済力と両親の猛反発に合い、泣く泣く戦車のない大洗へ進学。
戦車は好きだが戦争は大嫌いで、高校に進学してからは両親ともロクに会話もしていないという。
戦車道については軟式、硬式ともにそれなりに知識があり、国家間同士の代理戦争と化した硬式戦車道に嫌気がさしており、止めてくれることをみほに期待している。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。