「まさか、生徒会自ら勧誘に来るとは。わざわざ指名してきたってことは、私の経歴も洗い尽くして事情はお察しかと思いますが?」
「まぁね、こっちも色々と事情はあるし、西住ちゃんが来てくれたのは本当にラッキーだと思ってるよ。ここじゃあなんだし、ちょっとついてきてくれる?」
生徒会の三人──うちふたりは終始無言だったが──に連れられて、生徒会室へ。そこで聞かされた話を要約すると、つまりはこうだ。目立った成績もなく、新規入学生も年々減少している大洗女子学園は、文科省の掲げる学園艦統廃合計画の対象となっている。なんとしても、今年何らかの大会で成績を出さなければ、大洗女子学園は廃校になってしまう。だが、既存のスポーツでは地区予選すら勝ち上がれない為、競技人口の少ない戦車道で一発逆転を狙うために勧誘に来た、とのことだ。
向こうの言い分はわかったし、こちらとしてはわざわざ交渉に向かう手間が省けて大助かりだ。だが、今年から始めるであろう以上、使える戦車があるのかどうか、という疑問が残る。話を聞く限りでは、昔は戦車道をやっていた時期があったようだが、数十年前に廃止になって以降ぱったりとその話を聞かなくなったという。これでは、使えそうな戦車など──あっても
「そちらの事情は理解しました、あとは戦車と搭乗員を集めるだけですが、そちらのほうにアテはあるんですか?」
「ん?あぁ、それなら心配はないよ、西住ちゃんが心配しなくとも。オリエンテーションを行ってそこで人員を確保する予定ではあるし、それに、大洗が出るのは
「なるほど、足らないのは搭乗員だけですか。では、そちらはお任せするとして、現在大洗が保有している戦車のデータを見せてください」
「お任せください」と返事をしてタブレット端末を手渡してきた生徒会員──副会長というのはあとで知った──に礼を言って、現在の保有戦車を確認。「西住ちゃんが乗り気でいてくれて助かったよ」と安堵のため息を漏らす生徒会長のボヤきを聞き流しつつ、個性豊かなラインナップに少々頭が痛くなりそうになる。
Ⅳ号D型やⅢ号突撃砲F型のようなスタンダードなタイプならともかく、38tは機動性はいいものの、火力に乏しく斥候向きと言えるし、逆にポルシェティーガーは火力と装甲が大洗一高いものの、お世辞にも脚の速い戦車とは呼べず、おまけに
M3LeeとルノーB1bisは運用と搭乗員次第ではかなり強力になりそうだが、いかんせん要求される搭乗員の数が多すぎる。戦車長と通信手が兼任したとしても、それでもそれぞれ最低5人は必要となるため、まずは搭乗員集めからスタートになりそうだ。と、まぁ、ここまでなんとかいいところ探しで運用方法をなんとか捻出してきたのだが、どう頑張っても上手い運用法を思いつけない二輌と向き合わねばならなくなる。それが八九式中戦車と三式中戦車の二輌だ。正直、こんなモノ売り払って燃料代にでもしたらどうですか?と危うく喉から出てきそうになるも、こんなのでも一応大洗の貴重な戦力なんだったなと思い直し、いつの間にか煎れられていたお茶の助けを借りてやや強引に飲み込む。
「どうだ西住、これで優勝できそうか?」とやや不安そうに聞く片眼鏡の生徒会員──後に広報と名乗った──に対し、「その前に搭乗員ですね、戦車道を履修したいと思わせるオリエンテーションを行って、なんとしても最低35人は確保してください」と返す。もっとも、生徒会広報様にとってはこの返答がよほど不服だったのか、こちらを睨みつけて文句を言ってくる。
「おい、いくら会長が気に入ってらっしゃるとはいえ、その態度は何だ?経験者だかなんだか知らんが、我々生徒会に対して舐めた口を利いて、ただですむと思うなよ」
「舐めてるのはいったいどちらなんでしょうね?諸事情ありきとはいえ、そちらの会長は終始下手に出て穏便に済ませようとしているというのに、そういうあなたは随分横柄な方ですね」
生徒会広報様と私の応酬に、あわあわとうろたえ始める生徒会副会長とどうにかしてこの場を収束させようと必死に頭を回しているであろう生徒会長を横目に、私は少々強引な手段に打って出ることになる──これで敵対する可能性もあるが──ことを承知の上で、ある行動に出る。すぐそばにいた生徒会副会長を引っ掴んで応接用のテーブルに仰向けに押し倒し、同時に腰裏に隠し持っていた
「西住ちゃんが乗り気でいてくれているのはわかった、そっちにもやらなければいけない理由があるのはだいたい察した。だから頼む、ここはいったん退いてくれ。………私の顔を……立ててくれ……!!」
どうやら、こちらの機嫌を損ねたくないのであろう生徒会長が、必死の形相で土下座──顔は隠れて見えないが、おそらくは血の気が失せて真っ青になっていることだろう──して頼み込んできたため、ねじ込んだ拳銃を引き抜き、
「わかりました、ここは会長の顔を立てるということで、先の一件は不問としましょう。ではオリエンテーションの件、よろしくお願いいたします」
そう言い残して拳銃を腰裏に戻しつつ、生徒会室を後にする。4限目を潰して生徒会と話し合いをしていたため、気づけばすっかり昼食タイム。道理で腹も減るわけだ。だが、先の一件もあり、どうしても学食へ行く気にはなれそうにない。
………屋上にするか。
助かった、そう思えるのに私は西住ちゃんが生徒会室から出て行ってから5分もかかった。西住ちゃんには少々強引ともいえるやり方での勧誘とはなったものの、──向こうにも事情はあるのだろうが──それなりに上機嫌で対応してくれたうえ、ある程度こちらを頼ろうとする姿勢を見せてくれていたため喜んではいたのだが、河嶋の余計な発言のせいでいらぬ諍いを引き起こすこととなり、下手をすれば小山が見せしめに射殺されかねなかった──おまけにどこまでがパフォーマンスなのかわからず、もしかすると本気で誰かひとり射殺する予定だったのかもしれない──ため、意地もプライドも投げ捨ててご機嫌取りのために頭を下げるハメになってしまった。
「河嶋、お前のせいでこっちの計画がご破算になるところだったんだぞ。もしおじゃんになっていたらどうするつもりだったんだ、えぇ!?」
「も、申し訳ありません、会長。我々生徒会のメンツを潰されるかと思うと、こちらも黙ってはいられなくて……」
「誰が言い訳しろと言った!!こっちは西住ちゃんの協力がなきゃ廃校まっしぐらなんだぞ!!テメェそこんとこわかってんのか、あぁ!?」
「はい、その点に関しては私も重々承知致しております。西住の協力がなければ、我が校は廃校に……」
それをわかっててなんで余計なことするんだ、と言いたくなったが、どうせ言っても無駄であろうことは分かり切っていたため、ストレス解消もかねて一発ぶん殴っておく。先程の射殺未遂事件以降、身を縮めて怯えっぱなしの小山に財布を渡して気晴らしもかねて昼食のお使いに行ってもらい、その間に私は河嶋にこれ以上余計なことをされないようにこれでもかと釘を刺しておく。
「河嶋、私が背負ってんのはこの学校だけじゃない、この学園艦に住んでいる、大洗の生徒と教職員を含めた3万人もの市民の生活と将来を背負いこんでるんだ。私の抱えている責任は軽くない、そこんとこ、忘れるなよ」
「はい、わかりました」と真面目に返答はしたものの、どうも信用に欠ける。なので「今度余計なことしてみろ」と前置きしたうえで、私以外誰も知らない河嶋の過去を使ってきっちり行動力を奪っておく。
「
その台詞を聞いた瞬間、拳銃を喉にねじ込まれた小山の比ではないくらいに怯えだし、ガタガタと震えてへたり込む。その後、すぐに小山が帰ってきて頼んでおいた昼食──どうやらカツカレーのようだ──も届き、ようやく昼食タイムとなった。もっとも、目下の問題は河嶋の問題行動よりも、放課後のオリエンテーションでどれだけの人員を確保できるか、が問題なのだが。
生徒会室をあとにして、教室に置いていた通学鞄を片手に屋上へ向かい、道すがらにあったパン屋さんで買ったサンドイッチと菓子パン、コーヒー牛乳でひとり昼食タイム。学食をパスしたのはパンを買っていたという理由もあるが、がやがやと騒がしいのは好きじゃないし、何よりも食後の
意地もプライドも投げ捨てて頭を下げて媚びを売らねばならない、それはすなわち、生徒会長が背負い込んでいるものがあまりに大きすぎて押し潰されかかっている、ということだろう。というか、そうでなければ簡単に頭を下げるはずがない。いつの時代も、権威にまみれた人間というのは──ポーズ以外で──頭を下げる、という行為をとにかく嫌う。政治家然り、社長然り、とにかく権威にしがみつく人間にはロクな奴がいない。もっとも、転校の話を切り出してノータッチを決め込んでいた母が何を考えているのかは不明だが、裏でもっと泥沼の戦いが勃発しているのだろうな、などと考えに耽っていると「西住さん……だったかしら?」と後ろから声をかけられたため、のけぞる形で振り向く。
「黒森峰ではどうだったかまではわからないけど、大洗では生徒の喫煙は校則で禁止されてるの」
「転校する直前までずっと死と隣り合わせだったもので、どうしても
おかっぱ頭の風紀委員──というか、風紀委員はみんな揃っておかっぱ頭なのでイマイチ見分けがつきそうにない──にひょいと取り上げられたタバコを軽く取り返しつつ、校則のくだりをサラッと聞き流す。「酒を飲まない奴は、すぐにノイローゼで頭がおかしくなっちまうんですわ」とは
「………そういうことなら、風紀委員の権限において、特例で不問とします。それと、あまり吸い過ぎないように」
「そこはわかってます」
納得して帰ってくれた風紀委員を見送った後、吸い殻を携帯灰皿に突っ込み、残っていたコーヒー牛乳を飲み干して通学鞄とともに教室へ。そのまま5限目を何事もなく終え、6限目に突入したのだが、なぜか急に頭が痛くなり、急遽保健室へ。さっきの風紀委員たち、何かしたか?などとあらぬ疑いをかけつつ、保健室のベッドに倒れ込んで休むことに。とりあえず、オリエンテーションでどれだけの人員を確保できるのか、どんな人員が集まるのか、どんなオリエンテーションを開くのか、など不安は尽きない──というか、いつやるのかもわからない──ものの、そこは生徒会に一任することにしよう。もっとも、自分が巻き込まれないという保証はどこにもないわけだが。
結局、原因不明の突発性の頭痛と付き合いながら6限いっぱいを保健室で過ごし、聞き覚えのない生徒会員の召集に従い体育館へ向かう。どうやら、思い立ったが吉日、とでも言わんばかりに早速全校生徒を召集してオリエンテーションを開催する生徒会の姿が見えた。藁にも縋る思いでひとりでも多くの人員を集めようと必死な生徒会長とオリエンテーションの司会進行を任されてガチガチに緊張している副会長、あのあと何があったのかは不明だが、どこか元気がなさそうに見える生徒会広報の三人で何事もなく進み、駄目押しにかなりド派手な得点をこれでもかと大盤振る舞いして人員の確保にかかる。
あんなオリエンテーションで大丈夫なのかとか、どれだけの生徒が興味を持ってくれたのかとか、一抹の不安を抱きつつ三日目終了。四日目を迎えたわけだが、やはり気になるのは戦車道を履修した生徒が何人いるか、に尽きる。できれば最低35人は欲しいところだが、あまり贅沢も言っていられない。そんなこんなで迎えた戦車道の初授業を迎えたのだが、人数を数えてみると最低ラインを5人も越えた40人もの生徒たちが集合場所に集まっていた。
とりあえず、ダラダラと立ち尽くしているのもアレなので、軽い自己紹介と私の隊長就任の挨拶もそこそこに、集まった履修者たちを振り分け。一年生の仲良し六人組はM3Leeに、バレー部復活を目指す四人は八九式に、風紀委員から参加した五人はルノーB1bisに、専攻する時代がどこかまちまちな歴女組五人はⅢ号突撃砲に、言い出しっぺの生徒会四人は38tに、オンラインゲームで知り合ったらしい五人は三式に、大洗唯一と言ってもいいメカニックである自動車部の五人はポルシェティーガーに、そして私は同じクラスメイトのふたりと学年主席の遅刻魔、そして戦車オタの優花里とともにⅣ号に、といったところで早速問題発生。ひとりあぶれてしまった。せっかく期待に胸を膨らませて戦車道を履修したというのに、余ったから余所へ行け、ではさすがにかわいそうだろう。どうやら学年は一年生のようなので、同じ一年生同士で仲良くなってもらおうとM3Leeにあてがうことに。
搭乗員の振り分けも終わって早速授業スタート、といきたいところだが、やっぱり上手くいくんだろうか、コレ?リストを見せられたときから不安いっぱいだったのだが、現物を見るとますます不安が募る。どう考えても八輌中五輌が、穴埋めの数合わせにしか見えない。そんな不安を見透かしたのか、いつの間にか隣にいた会長が背中を叩いてくる。
「西住ちゃん、エントリーするの軟式戦車道なんだからそんなに深刻に考えずに。これスポーツだから、スポーツ」
「あっ、そうですね。つい……」
あっ、そういえば大洗は軟式戦車道にエントリーするんだったか、すっかり忘れてた。どうやら、大丈夫じゃないのは自分もらしい。
・角谷杏
大洗女子学園の生徒会長で、廃校阻止を賭けて文科省相手に戦車道大会で優勝することを宣言し、一抹の望みを託して参加を決意。
大洗の学園艦に漂う心地よい空気を誰よりも気に入っており、みほが転校すると聞いたときは浮かれてひとり祝杯を挙げていたという。
みほが転校してきた理由は知ってはいるものの、なんとかして硬式に出ないよう考えを改められないか悩んでいる。