魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

11 / 69
人物紹介
【高町 なのは】:ver.1.10
家族と友達を大切に思う、心優しい小学3年生の女の子。魔法と出遭い、その切っ掛けとなった古代遺産“ジュエルシード”を回収するため、兄や姉のように非日常へと身を投じる事へ。大切なモノは大切にしていきたいと思う性格で、“守る”という事に関しては人一倍真摯である。最近、ある少女を意識するようになった。



第10話:コミュニケーションは大事!なの

Side:フェイト

 

「――――、目覚――――な?」

 

 あ……、れ? なんで私、寝ているんだろう……?

 

「うーん……。まだ、完全覚――はいかな――――だね」

 

 確か、白い魔導師と戦っていたら、あの子が……。アルフが私を助けるために飛び出してくれたんだけど、捕まっちゃって。それから――――

 

「――、レイジン――――。覚醒魔法とかあったり――?」

[- Sorry.――――. -]

 

 それから、(まと)めて撃ち落とされてしまったんだ。

 

「ア…ルフ……、何処……?」

「それはもしかして、このワンちゃんの事かな?」

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 初めに掛けるべき言葉は、「お早う御座います」か「こんばんは」か。話す切っ掛けとして、少しでも印象を良くしたいと思ってあれこれ考えていましたが徒労に終わり、何だかよく分からない方向へと転がっていきました。

 

 ちなみに何故か、赤毛の少女が赤毛の子犬になっていたりしますが、【レイジングハート】曰く彼女は“使い魔”というモノらしく、元である動物形態と人間形態のどちらにでも変身可能との事で、如何やら向こうの世界では珍しくもないようです。今は魔力ダメージが深刻なので、治癒効果のある結界の中に入れて様子を見ていますが、未だに目覚める気配はありません。

 

「アルフ……痛っ……!」

「無理をしない方が良いと思います。貴女も、結構ボロボロですから」

 

 我ながら、白々しい台詞だと思います。そうしておきながら、フェイトさんには何ら手当てもしなかったのですから。しかし、回復させたが為に第二回戦開始という最悪な事態は回避出来るので、これはこれでお互いの為となります。

 

「あ、自己紹介がまだでしたよね。私の名前は“高町なのは”です。この国では姓が名の前に来るので、“高町さん”とでも呼んで下さい」

「…………」

「ちなみに無言を貫いた場合、仮称として“バルディッシュちゃん”と呼ぼうと思うのですが、如何でしょうか?」

「…………“フェイト”です。姓はありません」

「では、“フェイトさん”と呼ばせてもらいますね」

 

 身体を起こすだけでも辛いはずのフェイトさんに視線を合わす為、1m程の距離を置いて私もぺたんと座り込みました。ビルの屋上という決して奇麗では無い場所ですが、未だにバリアジャケットを着ているので汚れる心配はありません。

 

「少し、御話ししませんか?」

「敵に話すことなんてありません」

「話すことで、お互いに協力出来るかもしれないのにですか?」

「えっ……?」

 

 フェイトさんのジュエルシード回収方法には幾つか不満はありますが、“回収=地球からジュエルシードの脅威を排除する”という視点から見れば、私が一人でするよりはフェイトさんとの二人態勢が望ましいと思うのです。

 

 それにフェイトさんの回収目的は不明ですが、悪用するにせよ、しないにせよ。締め上げてまで奪おうとは現時点では思えませんし、その辺りの交渉ないし実力行使は管理局にお任せするという算段を付けて、一時保留としています。

 

「実は私、この世界からジュエルシードを持ち去ってくれるのなら、それはフェイトさんでも管理局でも構わないと思っているんです」

 

 ですが今のところ、どちらも信用ならないので半分ずつくらい持っててくれると、保険という意味では有り難かったりします。

 

「……なら何故、私の邪魔をしたんですか?」

「それは勿論、フェイトさんが敵だからです」

 

 そもそも昨日の出来事を鑑みて、一戦も交えずに事が進むとは到底思えなかったのです。魔法には非殺傷設定があるとはいえ、躊躇(ちゅうちょ)無く人へ切りかかれるフェイトさんの思考を常識的に推し量ることなど無理なので、今回は何かされる前に此方から一戦を仕掛けた。――――というのが本当の経緯だったりします。結果としてはこれで良かったのかなとは思いますが、野蛮かつ性急過ぎたことは否めません。

 

「なので、もし良ければ一時休戦して手を結びませんか? 多分、その方が集めるのは早いと思うんです」

「お断りします。私にも、目的がありますので」

 

 嗚呼(ああ)、やはり。しかしながら、これでフェイトさんがジュエルシードを1個でも多く集めようとしているのは分かったので、今後とも何度か衝突が起こりそうだなーと思うと“()()き”してしまいます。

 

「分かりました。それでは、最後に1つだけ聞かせて下さい」

「何でしょうか……?」

「自己申告で構いませんので、ジュエルシードを幾つ回収したか教えて頂きませんか? ちなみに、私は8つです」

「…………4つ」

「なるほど……。情報提供、有り難う御座います」

 

 フェイトさんの言葉を信じるならば、ジュエルシードは残り9個。それは朗報でもあり、悲報でもあり。回収作業は思ったよりも進んでいるようですが、最後の1個まで気が抜けない事には変わりなく、私の夜廻りはもう暫く続くみたいです。グッバイ安眠、ウェルカム寝不足。

 

「左様ならば、これにて――――」

 

 失礼します。と続けて自宅へ直帰しようとしたのですが、フェイトさんが何か言いたげでしたので待つ事に。

 

「…………ミス高町」

「えっと……。はい、何でしょうかフェイトさん?」

 

 “ミス高町”という斬新な呼称のせいか、一瞬反応が遅れてしまいました。敬称の違いなどは、適当に“さん”付けとなるように和訳してしまえば良い気もしますが、【レイジングハート】がそんな風に自動翻訳するという事は、それなりに格式張った表現なのかもしれません。

 

「次に会った時は、叩き切ってみせます」

 

 その口から紡がれたのは、短くも固い決意の言葉。そして、敵意の篭もった視線を向けられた私は返事をすること無く、静かにその場を後にしました。だってそうでもしなければ、堪えきれなかったのです。ああ言ってみせたフェイトさんを前にして、“笑みを浮かべてしまう”。

 

 なんて事は流石に失礼だと思ったので、この様にただ去ることしか出来ませんでした。初めは、髪の色や体躯が似ているだけだと思っていたのに、敵として戦い、そんな眼差しを向けられてしまっては、如何しても想起せざるを得ません。

 

 

 

 かつて、アリサちゃんと喧嘩した日の事を。

 

 

 

 性格や言動などは全く似ていませんが、私を明確に敵視する雰囲気は何となく似ていて、私やアリサちゃんや“すずか”ちゃんは、その喧嘩が切っ掛けとなって繋がる事が出来ました。だからフェイトさんとも、そういった可能性が有るのではないか? という妄想が止め処なく溢れて……。

 

 しかしそれは、おそらく勘違いなのでしょう。もしかしなくても、思い上がりです。喧嘩をして、それから仲良くなった過去があるからといって、戦闘をして友達になれる未来が有るのか如何かは分かりません。ただ、もっと話してみたいと思う気持ちは本物なので、フェイトさんには今後もアプローチをしていきたい所存です。

 

「それなら、もっと邪魔をしないとだね」

 

 フェイトさん目線ではそうするしかないのが心苦しいのですが、なるべく嫌味にならないように気を付けなくてはいけません。脳裏にちらつく、『悪因悪果』の4文字。それだけは避けないと……。

 

 

 

~~

Side:アリサ

 

「む……。また圏外なの?」

 

 海の上から山の奥まで電波が通じるこの御時勢、“なのは”の携帯電話に繋がらないとは如何いう事なのか。もしかしたら、また神隠しに遭って物理的に圏外というオチなのかもしれないけれど、残念ながら其れは笑えないジョークである。

 

「一体何をしているんだか……」

 

 用が無くなった携帯電話をサイドテーブルに置き、ベッドの縁へと腰を下ろす。はぁ……。何だか最近、変な事ばっかりでうんざりしてしまう。

 

 例えば、この町で変な事件が起きるようになってからは、“なのは”の様子も段々と変になって来て。そして昨日はトドメとばかりに、巨大になった猫と“なのは”の神隠し騒動。あまりにも非科学的で、非現実的なことは信じたくないけれども、何か接点でもあるのかと勘繰ってしまいそうになる。

 

 別にそれは、“なのは”に裏があって怪しいとかいう事ではなくて、何か得体の知れない事象にでも巻き込まれているんじゃないか? という心配なんだけれども、昨日の平然としていた表情を思い出すと案外平気そうにも思えてきて、じゃあこの不安だか不満だか分からない感情を何処に投げつければ良いのやら。

 

「んー…………。寝よ」

 

 話したい相手が電話に出ないなら解決の仕様が無いし、“すずか”や誰かに愚痴っても仕方が無く、かと言ってゲームや読書もする気分ではない。そういった経緯も有り、私は『ふて寝』を決行すべく、いそいそと準備に取り掛かるのであった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。