魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【フェイト】
傷だらけの少女。特に額から左頬にかけて走る古傷が痛々しい。謎が多く、目的は不明だがジュエルシードを大量に集めようとしている。バリアジャケットのデザインや言動から冷たそうな印象を受けるものの、“なのは”的には「根は良い子そう」に見える模様。



第11話:変わる時なの

Side:なのは

 

 激戦と対話を経て帰宅後。リビングを横切り、自室へ向かおうとした時の事です。何故かそこではフェレットと男女が手を繋ぎ、ミステリーサークルを形成しているという摩訶不思議な光景が広がっていました。要するに、スクライアさんとお兄ちゃんとお姉ちゃんが円陣を組み、魔力を循環させているようでした。

 

 気にはなりましたが、宿題と寝支度を手早く済ませたかったのと、邪魔をしては悪いと思ったのでスルーして翌日。朝食後にお兄ちゃんに訊ねたところ、ひょんな事から魔法を体感してみようという話になり、ああなったのだとか。ちなみに結果は、お兄ちゃんもお姉ちゃんも魔法の才能はからっきしだったようです。

 

「まぁ、しかし……。強化魔法とやらを掛けて貰えば、何とかなりそうだ。とは踏んでいるがな」

「何とかって、ナニを?」

「今まで、“なのは”が学校へ行っている間は、ジュエルシードの回収が出来なかっただろう?」

「うん。そうだね」

 

 だからこそ、その時間帯はフェイトさんに御願いして未探索地域で探索して貰いたかったのですが断られてしまいましたし、いざとなれば休学届けを出して探索かなーと考えていたところです。

 

「そこで、だ。俺と美由希とユーノ君でチームを組み、その時間帯での回収に当たろうと思っているんだが……。許してくれるか、なのは?」

 

 許す、許さないで済む話であれば、本当は許したくありません。幾ら強くて速くても、バリアジャケットという防御機構の恩恵を受けられないお兄ちゃん達に万が一があっては、とても悲しくなってしまいます。

 

 しかし、お兄ちゃん達が振るう剣――――御神の剣は、誰かを守るための“力”である事も私はよく知っています。そしてその事に、どれだけ真摯なのかも。きっと、年端も行かない私に危険な事を一任させたくはないのでしょう。もしかしたら、ある種の責任感の発露なのかもしれません。なればこそ、互いの思いやりに折り合いを付けなくては……。

 

「1つだけ、約束してくれたら許しても良いよ?」

「聞こう」

「夕食までにはちゃんと帰って来る事」

 

 “ちゃんと”に言外の意味を込めつつ視線を向けると、お兄ちゃんはしばらく言葉を詰まらせていましたが、「……努力はする」という前向きな回答を以って許してあげる事にしました。

 

「それじゃ、頑張ってね。お兄ちゃん」

「ああ」

 

 そんな感じでシリアスチックな一時を過ごした後、本日の特製弁当(晶ちゃん作)を通学鞄に仕舞っていざ登校。そして何時ものように通学バスに乗り込みましたが、そこでは何故か御機嫌斜めなアリサちゃんが待ち構えており、私への電話が頻繁に繋がらないという指摘に始まり、溜め込んでいたであろう心配とも苦言とも付かない言葉を次々とぶつけて来ましたが、私はそれには反論せず、ただ甘んじて受け止め続けました。

 

 アリサちゃんは此方の事情なんて知りようがありませんし、知って欲しいとも思いませんので、此方の事情を知りもせずに心配したり怒ったりしてもそれは仕方無く、私としては申し訳無く思うのが精一杯の対応となります。

 

「ねぇ、黙ってばかりじゃなくて何か言い返しなさいよ!」

「言い返すも何も、心配してくれて有り難う。としか――――」

「違う! そうじゃなくて……」

 

 珍しく見せた逡巡。しかしそれでも、ちゃんと言葉にして伝えてくれました。

「そんなに、教えたくない事なの……?」

 

 ええ、はい。その通りです。だからこそ、それすらも答えたくありません。

 

「じゃあ教えたら、アリサちゃんは私になってくれるの?」

「それは――――」

「私は、アリサちゃんになれるのかな? ねぇ、“なのは”。そこんとこ、如何思う?」

 

 見る見ると表情を暗くするアリサちゃん。世の中には、こんなにも良心が痛むことを平然とする人も居るらしいのですが、一体どれだけの罪業を重ねれば出来るのでしょうか。私は今直ぐにでも、自分の喉元を貫いてやりたい気分です。

 

「“なのは”ちゃん。止めようよ……」

 

 そして珍しく“すずか”ちゃんに引き止められてしまった私は、相好を崩すことで誤魔化してみましたが、上手く笑えてなかったのでしょう。結局、重苦しい空気のまま学校へと到着し、そのまま朝の会が開始される事態となってしまいました。お陰で本日の教室は、水を打った様にとても静かです。

 

 嫌な言い方をして、嫌な子になって。少しばかりの後悔はあれど、きっとこれで良かったのだと思います。だって実状を知ってしまえば不安しか抱けない筈ですし、それは今まで、ボディーガードの仕事で出掛けるお兄ちゃん達を見送っていた側として、ほぼ確信しています。

 

 知らずに済むなら、それで良い。今まで通りで居てくれるなら、それが良い。

 

 かつてお父さんが、身体中に付いている傷の説明を騙ったように、仕事について曖昧にぼかしたように。そのままで、そうあって欲しい。――――そう思う事が、守りたいって事なのかな? と叙情的に思考を脱線させつつ、私は今日もまた並列思考を開始するのでした。

 

………

……

 

 そして昼休み。捨てられた子犬の様にしょんぼりしているアリサちゃんを見かねた私は、これでもかとスキンシップ――俗に言う“わしゃわしゃ”――を敢行し、ついでに髪を乱した代わりに、私が髪留めに使っていたリボンでツインテールにしてみたところ、フェイトさんの2Pカラーが思った以上の精度で出来てしまいました。

 

 ただ結果として、アリサちゃんの機嫌は直ったもののかなり恥ずかしかったようで、今度は頬を紅潮させたままOKANMURI状態へと移行。

 

 そして放課後になってもそれは尾を引いており、そのままツインテールの状態で“すずか”ちゃんと一緒にバイオリンのレッスンへと行ってしまいました。要するに、借りパクというやつです。そんなこんなで、久々に髪を下ろした状態で通学バスに揺られ帰宅した私ですが、玄関にある姿見に映った自分を見て、そういえば髪を切るつもりだったなと、ふんわり思い出しました。

 

 それから直ぐに、折角なので切ってしまおうと思い立ち、音がするキッチンの方へと向かう事にしました。勿論それは、キッチンを使っているであろうレンちゃんや晶ちゃんを理容師としてスカウトする為で、節約を美徳とする我が高町家では、割と普通の御願いでもあったりします。

 

「ただいまー、お姉ちゃん。晶ちゃん」

「お帰り、“なのは”。如何したの、髪なんか下ろして……?」

「お帰り、“なのは”ちゃん。何かあったのか?」

 

 予想は半分外れで、キッチンに居たのはお姉ちゃんと晶ちゃんの二人でした。そして後者は夕食の準備中なので、依頼は論外。となると、料理人としては戦力外のお姉ちゃんに頼むのが筋というモノです。

 

「えーと……。実は髪を切って貰いたくて、お姉ちゃんに御願いしに来たの」

 

 かなり前略したものの、嘘ではありません。

 

「おっけー。それじゃ、準備はしといてね」

「はーい。……あっ、晶ちゃん。弁当美味しかったよ」

「へへっ、あたぼうよ!」

 

 空の弁当箱を晶ちゃんに渡した後、自室に戻って荷物を置き、そして着替え一式を持って1階の洗面所へと移動し、セットアップ。暫くしてお姉ちゃんがやって来ましたが、何時も以上にざっくりと切る事を知った時の表情はまるで慈母の如しで、きっと変な方向に勘違いしているんだろうなーと無視しつつ、私はじっと鏡の中の私を見守り続けるのでした。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― カット ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 さて。レンちゃん並みのミディアムまで髪を切り、洗髪がてら身体も洗って、拭いて、着て、乾かし。最終確認として細かい調整をして貰っていますが、見慣れたはずの湯上り後の髪型がこうも短くなると、新鮮さよりもまず違和感を感じてしまいます。目の前に居る少女は、一体何処の誰なのでしょうか? フーアーユー? フーアムアイ? 

 

「一応、レンちゃんを参考にして切ってみたけど、こんなもん……かな?」

「有り難う、お姉ちゃん」

「どう致しまして。髪質が違うから結構アレンジしたけど、“なのは”的にはどう?」

「似合っているとは思うけど、見慣れないせいかどうも違和感が……」

「だよね~……。まぁ、“なのは”は可愛いから、その内しっくり来るよ。きっと」

 

 そんなよく分からないお墨付きを貰い、これにてカット終了。正直、かつて懸念したように特徴的なツインテールが無くなってしまったので地味な印象を受けますが、その代わりに中性的な格好良さが加わり――――どうなるのでしょう? よく分かりません。

 

「じゃあ、片付けたらお披露目タイムといこっか」

「それはちょっと大仰のような……」

「でも、遅かれ早かれなんじゃないかな?」

「うん。まぁ、そうなんだけどね」

 

 諦観したのも束の間。この後、何故かリビングに家族全員が揃っていたのを見て、私はお姉ちゃんに(たばか)られた事を察するのでした。今度機会があれば、お姉ちゃんの三つ編みをツインテールにしてあげようと思います。

 

 

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