魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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デバイス紹介
【レイジングハート】
発掘を生業とするスクライア一族の為に作られたコスト度外視の特注機で、これ1つで魔法に関する訓練プログラムやらシミュレーター機能を完備し、かつ運用面においても管理局が採用している高ランク魔導師用デバイスと遜色が無い程の性能を誇る。凡そ十全に性能を発揮されぬまま、スクライア一族の後進育成や遺跡調査の御供として使われる予定だったものの、偶然にも稀代の担い手である“なのは”と巡り合い、デバイス冥利に尽きる日々を送っている。




第12話:来たる第三勢力なの

Side:なのは

 

「お兄ちゃん。私、そろそろ出掛けるね」

 

 ただ髪を切るだけの筈が、お披露目からのプチ撮影会というよく分からないイベントを経た後に夕食を済ませ、時刻は19時半を過ぎた頃。

 

 何故か戻って来ていたお母さんは、放り出して来た翌日の仕込みをするために『翠屋』へとトンボ帰りしちゃいましたが、お兄ちゃんは御風呂の順番待ちをしているようでソファーに座って黄昏ておりました。ちなみに私はと言うと、何時ものように深夜徘徊へと出掛けるので、その旨を誰かに伝えようと彷徨っていたところです。

 

「相分かった。大丈夫だとは思うが、あまり無茶はするなよ?」

「はーい。行って来まーす」

「ああ、行ってらっしゃい。“なのは”」

 

 お兄ちゃんに送り出されつつバリアジャケットを身に纏い、庭先から目的地付近の上空まで転移魔法でひとっ跳び。それから飛行魔法で距離を詰めつつ――――

 

「フォトンランサー!」

「スティンガーレイ!」

 

 そして何故か、戦闘をしているフェイトさんと誰かさんからは距離を置いて、こっそりと探索を開始するのでした。

 

………

……

 

 探索と観戦を始めて、10分程経った頃でしょうか。存在は感じ取っているのですが、相変わらずジュエルシードは見つかりませんし、戦闘も終わる様子を見せません。

 

 尤も、魔法が乱発されている傍で微弱な魔力反応を探るのは難しく、そして戦闘もフェイトさんが優勢とはいえ、相手も手堅く戦っているようなので決着の見通しは立たずといったところで、なればこそ戦闘を終了させた方が探索が捗るという事ぐらいは指摘されるまでもなく察しています。

 

 しかし、分かってはいても率先してまでしたくはありません。

 

 仲裁をしようにも、私は中立とも第三者とも言える立場ではないですし、肩入れをしようにもフェイトさんに対して否やはありませんが、謎の魔導師を敵に回して良いのか判断が付きかねます。もし仮に、噂に聞く管理局であるならば“長いものには巻かれろ”と古来より日本では伝わっておりまして、それはもう決定的にフェイトさんと敵対する事になります。

 

 なので私的には、さっさとジュエルシードを回収して何事も無かったかのように帰りたいのですが、その肝心なジュエルシードが見つからないので、退くにも退けません。それでも根気良く探し、探して、飛び回り……。それから漸く見つけましたが一足遅く、フェイトさんと別行動をしていたであろうアルフさんによって先に確保されてしまいました。

 

 但し、今なら射線は通っているので、長距離砲撃で撃ち落とすという選択肢もありましたが、果たしてそこまでして得る物なのかと逡巡した結果、敢えて何もせず見送る事にしました。ついでにフェイトさんの離脱を見届けた後、此方も転移魔法でその場を離脱。結局、この日はお兄ちゃん達や私も成果ゼロという結果で、珍しく平穏(?)なままで一日を終えました。

 

 そして翌朝。髪を切った事による一騒動が通学バス車内で勃発しかねましたが、何とか事態を収拾する事に成功した私は、今日も今日とて真面目に授業を受け、それと並行して魔法であれこれしていました。

 

 例えば、【レイジングハート】のシミュレーター機能で戦闘訓練をやったり。はたまたは、スクライアさんと念話で遣り取りをし、ジュエルシードの探索状況やお兄ちゃんやお姉ちゃんの様子を聞いたりなど、とにかく色々です。

 

 正直な話、清く正しく真面目とは言い難いこの並列思考の乱用っぷりではありますが、ちゃんと授業内容は理解していますし、受け答えやノートへの書き写しも不足無く。更に自己弁護するならば、集中しなければどっち付かずとなるだけのなので、一応のところは真面目と言っても良いのでは? と思考してみたりする次第でありますれば。

 

 ………………あれ? 少し、記憶が飛んだような気も……? いやいやまさか、そんな事は……。いえ、『然もありなん』なのでしょうか?

 

「ねぇ、“なのは”ちゃん。そろそろ屋上へ行かないと、アリサちゃん待ち草臥(くたび)れちゃうよ?」

「あっ……。ごめんね、“すずか”ちゃん。直ぐに準備するから」

「うん。待ってるね」

 

 気付けば、時刻は正午。即ち、昼食とお昼休みの時間です。教科書と筆記用具を机の中に仕舞い込み、通学鞄からロッカーに移していた弁当を回収。その後、“すずか”ちゃんと一緒に屋上へと移動します。

 

 ちなみに、屋上は見晴らしの良さから当然のように人気が高く、特に食事時となるとベンチの使用権を巡る何らかの駆け引きが発生しがちですが、アリサちゃんや“すずか”ちゃんに関しては例外的に大丈夫だったりします。

 

 『バニングス』と『月村』。どちらもその名を冠した大企業が有名ですし、ただの同姓だとしても“触らぬ神に祟り無し”を信条とする日本人が好んで触れる筈も無く……。結果として、この小学校内であれば自然と人波が割れ、転じて場所取りが容易なのです。有名税という言葉もありますが、こういう時は便利で羨ましいなと思います。

 

 そして今回も予想通り、屋上へ上がるとアリサちゃんの座っているベンチの周辺だけがぽっかりと空いていて、私と“すずか”ちゃんは其処へ相席すべくコンタクトを試みる事にしました。

 

「お待たせ、アリサちゃん」

「ふーん…………。で?」

 

 しかし待たせ過ぎたようで、アリサちゃんは大層ご立腹の様子。どうやら食事の前に、この立ち込める不機嫌オーラを霧散させないといけないみたいです。

 

「遅参の段、御免なれ」

「現代語訳」

「遅れて来て御免なさい」

「もう一押しね」

「えっ……? もしかして、アリサちゃんの靴を舐めないと駄目なの……?」

「如何してそういう突飛な発想になるのよっ?!」

「何となく、最終的にそうして欲しいのかなと」

「そんなフェティシズムとか持ってないから! あー、全くもう……。許してあげるから食事にしましょ。良いわね?」

 

 このままでは、『高飛車サディスト御嬢様』のレッテルが貼られると危惧したのか、会話は一旦打ち切りとなってしまいました。――――ずっと、こんな風に穏やかで楽しい日々を過ごせるだけで良かったのですが、我が身の如何なる宿運が魔法少女ならしめたのやら……? とてもかなり極めて不思議です。

 

 

 

 それから(つつが)無く午後を過ごし、時は放課後。

 

 

 

 私は、帰りの会が終わるや否や最速で席を立ち、風のように教室を後にして屋上へと向かいました。身体強化をしたお陰か屋上にはまだ誰も訪れておらず、人目はありません。しかし念には念を入れて、結界を展開してから【レイジングハート】をセットアップ。バリアジャケットを身に纏い、座標設定を行いつつ転移魔法を発動させます。

 

 何故、こうも急いでいるのか?

 

 その理由は、お兄ちゃん達が現在進行形でジュエルシードの異相体と交戦しており、今直ぐ向かえば支援が出来ると踏んだからです。尤も、その配慮が無用であった事を知るのも直ぐではありましたが。

 

「何となく察しは付いていたけど、鬼に金棒ってこういう事なのかな……?」

 

 あまり鍛えていない私でも、身体強化の補助魔法を使えば一流の短距離走選手くらいの速度は軽々と出せます。つまり、その域を越えている御神の剣士を強化してしまうと、それは当然のように凄まじい事になってしまいます。

 

 現に二対四刀の斬撃は音を置き去り、それを振るう様子や走る姿も全てが残像で、竜巻も斯くやといった様子です。ただそれでも、御神流を最強たらしめる歩法――『神速』よりは遅く、更にその先にある奥義の『閃』に遠く及ばないあたり、人体の神秘を感じずにはいられません。

 

 尚、お兄ちゃん達に同行していた筈のスクライアさんはと言うと、やや離れた場所から拘束魔法やら補助魔法で二人の戦闘を適宜支援しており、今のところ卒倒する気配は無いように見受けられました。

 

「今だユーノ!」

「はいっ! 『妙なる響き、光となれ――――』」

 

 そして解体が一段落したところでスクライアさんが封印処理をし、戦闘終了。終始羽ばたけずにいた鳥型異相体は、さぞや無念だった事でしょう。

 

 それはさておき。お兄ちゃんとお姉ちゃん、スクライアさんは合流後に互いの健闘を称える等、意気軒昂(けんこう)にして士気上々といった感じで、一人だけ蚊帳の外の私としましては少々羨ましい光景です。基本的に妹として可愛がられる事はあっても、仲間として称え合うなんて事は日常の中では滅多に起こり得ないのですから、尚更そう思ってしまいます。

 

 取り敢えず、このまま去るのも虚しいので、挨拶がてらジュエルシードを【レイジングハート】に格納し、それから帰ろうかなと思った矢先に転移反応を感知。すぐさま砲撃態勢へと移行し、あとはトリガーを引くだけで何時でも直射砲を撃てるように準備します。お兄ちゃん達もそれぞれ臨戦態勢を取る中、転移して来たのはフェイトさんと戦っていたあの魔導師の少年でした。

 

「時空管理局執務官、“クロノ・ハラオウン”だ。君達を調査事案の関係者と見込んで、幾つか質問をさせてもらいたい。宜しいか?」

 

 如何やら、昨日の予想は予想通りだったようです。これでフェイトさんとは、完全に敵対ルートとなってしまいます。『時空管理局』――――それは、ジュエルシードに対する問題解決の光明でもあり、喜ばしい訪れの筈なのに如何してこうも……。

 

 


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