魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【高町 なのは】:ver.1.13
特徴的なツインテールを廃し、さっぱりとした“なのは”。髪型としてはミディアムボブの様な何かで、高町家の中ではレンの髪型が一番近い。髪を切った事により、御風呂時間の短縮と運動における機動性向上の効果が見込まれており、性格や気持ちへの影響はと言うと、周囲の期待や不安に反して然程変化は無いように見える。



第13話:淡紅色が照らすモノ【前編】

Side:なのは

 

「何と言うか、君達は随分と無茶苦茶だな……」

 

 互いの自己紹介と簡単な情報交換を幾つか経た後、クロノさんはその様に総括してくれました。確かに向こうからしてみれば、スクライアさんを除く初心者魔導師と非魔導師の3人が、超危険物であるジュエルシードを積極的に回収している光景は、さながら狂気の沙汰にしか見えないのでしょう。私も正直そう思います。

 

「本当は未登録で魔導師をやったり、魔法が絡む戦闘に非魔導師が介入するのは宜しくないんだが……、事情が事情だ。そもそも君達は被害者でもあるのに、よくぞ行動してくれたと賞賛されるべき立場であって――――」

「つまり?」

「お咎め無し、が妥当だと思われる」

 

 その名裁きにほっとしたのも束の間、そもそも日本国が認知していない筈の武装勢力が振りかざす法など、有って無いような物なのでは? という疑問が新たに浮かびましたが、私はそれを心の奥底へ沈める事にしました。続けるにせよ断つにせよ、関係は良好でありたいですし、話をややこしくしたところで益も無し。なればこそ、クロノさんが言う様に“お咎め無し”が妥当だと思うのです。

 

「有り難う御座います。ところで、私達はこれから如何すれば良いのでしょうか?」

 

 未登録魔導師も非魔導師の介入もアウトであるならば、回収済みのジュエルシードを管理局に引き渡したら、其処でお役御免となりそうな物ですが……。

 

「それについては、艦長自ら説明をなさるとの事だ」

[> 初めまして皆様。時空管理局提督、そして次元巡航船『アースラ』の艦長、“リンディ・ハラオウン”と申します。どうぞよしなに <]

 

 微細な魔力反応。それと共に空中表示された画面の中に映っていたのは、SFチックな制服を身に纏う妙齢の女性でした。クロノさんと同じ姓、という事は親族の方なのでしょうか? 何処となく、私のお母さんと共通点が多そうな人ですが、それだけに差異の部分が際立ってしまい、違和感が苦手意識へと変わるのに然程時間を要しませんでした。

 

[> さて、それでは手短に……。本来、この様なロストロギアの調査・回収については専門チームを立ち上げ、慎重に執り行うのが常ではありますが、本案件は緊急性が高いと判断し、即応対処をする事にしました。つきましては、本局から増援部隊が到着するまでの間、貴女方には調査及び回収への協力を要請します。勿論、タダでとは言いませんし、何でしたら断って頂いても構いません <]

 

 ビジネスライクな大人の対応。それはそれは、組織に勤める人として素晴らしいとは思いますが正直なところ、この世界における小学3年生に話す内容ではない気がします。能力主義で、就業可能年齢が低い向こう側ならではの視点のズレに対し、私はその差を埋めるべく年長者に助けを求める事にしました。

 

「お兄ちゃん、ヘルプ」

「ふむ……。しても良いが、“なのは”的には如何したいんだ?」

「お手伝いはしたいけど、指揮下に入るのはちょっと不安だなーと……」

 

 いざこざは避けたいので、可能であれば自由行動権が欲しいのです。

 

「承知した」

 

 そしてお兄ちゃんの交渉術と、リンディ提督の大幅な譲歩により、私達は協力の見返りに自由行動権と負傷した際の医療支援を受けられる事となりました。他にも、連絡手段等の細々とした決め事もしていましたが、私は只それを傍聴して頷くだけでした。

 

 大人の会話。――――それは許容範囲が開示されない中で、互いに落とし所を探るような奇妙な会話。探って欲しいのか、して欲しく無いのか。少なくとも、私にとっては面白みも興味も抱けない物だという事は大変勉強になりました。出来れば、末永く無縁でありたいものです。

 

「これで良いのか、“なのは”?」

「有り難う、お兄ちゃん。多分、それで十分かと」

「ふむ……。美由希やユーノは、如何思う?」

「私も、“なのは”と同じく」

「おそらく、大丈夫だと思います」

 

 全会一致となり、それでは解散という雰囲気の中。今まで譲歩の姿勢を見せていたリンディ提督が、初めて此方へと切り返して来ました。断り難い心境を知っていながら、無難な御願いを1つ通す。なるほど。これもまた大人の会話なんだ、と当事者である私はそうぼんやりと考えつつ、クロノさんとの模擬戦に承諾するのでした。

 

 

 

~~

Side:クロノ

 

 この世界に来てからは、本当に驚かされてばかりだ。血が滲むどころか、本当に血を流すほどの努力に努力を重ねて勝ち取った、『執務官』の肩書き。それは師匠である悪魔――――もとい、リーゼ姉妹に魂を売るが如く鍛えてもらったお陰でもあり、ようやく取得した際の魔導師ランクはAAA+へと到達していた。

 

 このランク帯は管理局に所属する魔導師全体の5%にも満たず、また本気で戦えば街が1つ消滅しかねないとも言われるランクであるのに、昨夜出遭った金髪の未登録魔導師は推定AAAランク。これは僕のランクの1つ下に当たるが、戦闘データを収集していけば上下する事も十分有り得る。その程度の誤差でしかない為、油断は元より楽観視など出来もしなかった。

 

 

 

 そして問題の少女、“高町なのは”の場合。

 

 

 

 ()むを得ない事情があったとはいえ、彼女もまた未登録魔導師。と言う訳で、模擬戦がてら魔導師ランクの算出を試みたところ、まさかのS判定を叩き出してしまった。これは僕のランクよりも2つ上のランクに当たり、S>S->AAA+の関係となる。

 

 (もっと)も、この魔導師ランクというものは保有資質や魔力量への評価であり、魔導師としての戦闘力そのものを評価している訳ではないし、彼女の場合は余剰魔力を蓄積している羽も考慮されてのSランク。実質的には同等…………なのかもしれないが、魔力量が多いことによる優位性は語るまでもなく、更にそれを実体験した身としては「認めざるを得ない」というのが正直な感想だった。

 

「しかし、艦長。本当に宜しかったのですか……? 戦力になるとはいえ、指揮系統へ組み込まずに運用するのは些か危険なのでは?」

 

 かつて起きた、“大規模次元震”という人災。幾つもの文明と隣接する次元世界を連鎖的に滅ぼしたそれは、初めは小さな次元震が原因だったとも言われている。そして今回の回収対象であるジュエルシードは、その次元震を容易に発生させる程のエネルギーを蓄えており、更には特異な事象を引き起こす不安定さを兼ね備えるなど、指定遺失物として第一級の警戒が為されるべき危険物である。

 

 故に迅速に、()つ慎重に対処しなくてはならないものの、其処でぶつかるのが人手不足という壁だ。そもそも本艦は巡察任務中であり、次元震を探知しなければこんな辺境の管理外世界まで訪れたりはしないし、それ以前に艦長が先遣隊を買って出てまで進路を変更する事も無かった。

 

 つまりこのアースラという艦は、人員・装備・支援態勢の観点からして不審船の拿捕(だほ)や遭難者の救助くらいまでは想定していても、長期間に及ぶであろうロストロギアの回収や調査、断続的な戦闘は想定していないのである。そういった事情もあり、此方としては彼女達の協力は有り難い限りだが、もし勝手に行動をされて危険を招いてしまったら……。そんな不安が、如何しても脳裏を過ぎってしまう。

 

「ええ、そうね。確かに危険なのかもしれないわ」

「では何故?」

「言い方は悪いけれど、この世界は第97管理外世界――通称、【地球】。つまり、管理局の法や権威が及んでいない世界なの。果たしてその世界の住人が、『はい。分かりました』と言って素直に従ってくれるかどうか。こればかりは分からないでしょう?」

「だからと言って、野放しにする訳には……」

 

 そう苦言を呈すると、艦長はより一層笑みを深めながら、諭すように真意を語り出してくれた。相変わらず笑顔の裏で何を考えているのか、よく分からない人である。

 

「いいえ、クロノ。私はちゃんと手綱を取っているわ。行かせたい方向へそれとなく誘引し、自主的に歩かせる。これが手綱であり、信頼でもあるの。事件解決への姿勢で誠意を見せ、協力要請で弱みを見せ、逃げ道を提示する事で抵抗感を削ぎ落とし、条件の譲歩で懐の深さを見せる。そんな風に開示して行く事で親しくなり、されど一線を引く事で適度な距離を保ち、持ちつ持たれつ。そうやって手を繋いでいる間は、人は他人を思いやれるモノなのよ。不思議とね……。だから、きっと大丈夫よ。彼女達は裏切らないし、期待に応えてくれるわ。もし裏切るとしたら、それは彼女達の倫理観や常識が優先される状況であるから想定も容易だし、対処も可能。尤も、その辺はアドリブだから不安要素も無くは無いけれど……。まぁ、その辺は何時も通りという事で宜しくね?」

 

 経験則でのみ導かれた滅茶苦茶な根拠と、それに(もとづ)いた説明と対処法。到底、論理的とは言えないものの、艦長が――――母さんが提督足り得るのは、そういった直感的な思考が(ことごと)く英断だったからであり、つまり今回もまた、そういう事なのだろう。

 

「了解しました」

 

 実際のところ、あまり納得はしていない。いや、するのが難しいと言うべきか。しかしそれでも、目を逸らしてはいけないのだ。そうでなくては上司と部下の関係として、家族として成り立ちはしないと、他ならぬ自身がそう思うが故に“尚の事”。

 

「頼りにしているわよ、クロノ」

 

 取り敢えず、今はただ素直に受け止めておこう。一概に誤りとも言えない現状では、これが正しいという判断など有りはしないのだから。

 

 

 


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