魔法少女リリカルなのは√クロスハート   作:アルケテロス

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人物紹介
【リンディ・ハラオウン】
時空管理局提督にして、次元巡航船アースラの艦長を務める妙齢の女性。直感的な発想が余人よりも優れており、即決即断と独断専行による行動力が最善をもたらし、今の地位へと押し上げた。夫が殉職しており、その分の愛が息子であるクロノへと注がれているものの、皮肉な事にそれが却って親離れを促進させている。尚、この件に関しては勘が冴えないのか、気付く素振りは皆無である。



第17話:決闘は夜明け前になの

Side:アルフ

 

 如何して、此処まで残酷になれるのだろうか。傷自体は浅くとも、全身に数十数百ともなれば血だらけになるし、衝撃も伝わるのだから全身打撲となってしまう。それが分かっていて、それでも尚フェイトを痛めつけながらも酷使するのなら、それはもう“人でなし”と言って良い筈だ。少なくとも、優しいフェイトと同じ種族とは思いたくもなかった。

 

 それなのに、フェイトは見限ろうとはしない。

 

 どんなに酷い仕打ちをされても、罵詈雑言を浴びせられても、フェイトはドクターの元から去ろうとはせずに命ぜられるがまま行動して、今もまた傷だらけであるにも(かかわ)らず出撃の準備をしている。

 

 強引にでも止めるべきだ、とは思う……。

 

 手当ては尽くしたものの、ちょっとでも激しく動けば傷口なんて簡単に開いてしまうし、何より体力や魔力を回復させる為の休息時間がほとんど取れていない。だけどフェイトは「これが最後だから」と言って、一向に考えを改めようとはしなかった。

 

 ねえ、フェイト……。私は馬鹿だからさ、フェイトの考えている事がよく分からないよ。こんなに痛い思いをして、傷付けたくないのに誰かに刃を向けて、辛くて楽しくなくて苦しい事ばっかりなのに、如何して逃げようとしないのかがさ……。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

「はぇ……」

 

 メールと電話で親友に嘘を吐き、家族の皆に説明とお願いをし、夕食やら御風呂やらの日常行為を一通り済ませて時刻は21時。明日の博打もとい作戦に向けて、今日は少々早めのベッドインと相成りました。とはいえ、体力は余っているのでなかなか寝付けずにおりますが。

 

 ……………………………振り返ってみれば……。 

 

 たった1週間あまりの間に色々あって頑張って、嫌な事もあったけれど、ようやく終わりを迎えられそうで。なのに少しも嬉しくなくて、悲しくもなく、重く、けれども手放したいとは思えないこの複雑な気持ちは、何と形容すれば良いのやら……?

 

 誤魔化してはいけない。先送りにしてはいけない。一体何なのでしょう。この……、遣る瀬無い思いは。それとも、やり残したような焦燥感? だとしたら私は何を惜しみ、何を悔いて、何を望んで…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――ミス高町……。

 

 

 

 

 

 

 

 

[- Emergency!! -]

「ふわっ?!」

 

 深い眠りから【レイジングハート】の警告音に叩き起こされた私は、矢継ぎ早に飛んで来るクロノさん他多数からの念話と、次々に受信・表示される空間モニターから情報を収集しつつバリアジャケットを身に纏い、まだ薄暗い空を星のように翔けて行きました。

 

 時刻は午前4時8分。

 

 高度を上げれば水平線から朝日を拝めるかもしれませんが、生憎(あいにく)と空は暗雲と魔力流で満ち溢れ、その中心に臨戦態勢で(たたず)むフェイトさんを見る限り、そんな余裕は無いように思えます。尚、フェイトさんからの要望により交渉役は私のみで、クロノさんやスクライアさん等はバックアップとして現場付近に身を潜めているとの事。

 

 えーと…………。如何に目が覚めていようとも、起き掛けで朝食前の低血圧&低血糖の脳の稼働率など高が知れていますが、それでも何とか“挨拶”という選択肢を導き出し、外部出力をしてみました。

 

「お早う御座います、フェイトさん」

「…………ミス高町。貴女に、決闘を申し込みます」

 

 あまりにも唐突な申し出に、並列思考で聞き間違いの可能性を精査してみましたが聴覚や記憶力は正常そのもの。そして、その後に続く言葉もまた(にわ)かには信じ難いものでした。「もし決闘に応じず、または決闘に妨害が入った場合、此方には市街地へ長距離砲撃をする用意があります」など、まさに脅迫そのもので、暫し呆気に取られてしまいました。

 

 らしくない。

 

 今まで隠れるように行動してきたフェイトさん達が、この様な一転攻勢へと出る。つまり、それにはちゃんと意味があって、向こうの状況が変わってしまった事が(うかが)えます。これがフェイトさんの独断行動か、または計画的な陽動なのかはさて置き。

 

 取り敢えず、フェイトさんの方はやる気充分の様子なので、そろそろ此方も構える事にします。本当は、理由も真意も分からず無闇に戦いたくはありませんし、話し合いで解決して仲良く終われるのなら、それに越した事は無いと思います。

 

 でも、ぶつかり合うのを避けていたら、きっと何時までも向き合えないとも思うから……。だからこれは、仲良くなる為の通過儀礼。私とフェイトさんが和解して、それから始める為に必要な1歩なんだ。――――と自己暗示しつつ、「応じます」と返答しました。すると刹那に閃光が煌めき、続いて景色がゆっくりと流れ出して……。

 

「…………えっ?」

 

 

 

~~

Side:■■■■

 

 あの子が、とても悲しそうに私を見つめている。

 もしかして、気付いてしまったのだろうか?

 ならば僥倖だ。そのまま(あわ)れんで、侮ってくれれば良い。

 痛みなんて無い。重みなんて無い。寒くも無い。

 ただ、魔力と意志だけが熱を持ち、私を突き動かしてくれる。

 もっと速く、強く、激しく。

 数多の斬撃を。幾重とも知れぬ魔法の雨を。

 でなければ、私はあの子に到底及ばないのだから。

 もっと、もっとだ……。

 魔力が足りない。演算リソースが足りない。

 酸素が足りない。腕が足りない。

 目が足りない。思考が足りない。

 私が足りない。

 オーバードーズ。オーバークロック。

 足りない。

 まだ足りない。

 ちっとも足りていない。

 これじゃあ、まるで何もかもが足りて――――――――

 

 

 

~~

Side:フェイト

 

 浮き立つような、何処までも五感が研ぎ澄まされるような、痛みが熱へと変わるような、魔力に底が無くなってしまったかのような、私が私でないような感覚。怖いと思うと共に、何処となくまだ大丈夫だと過信することが出来た。実際のところは、目を背けているだけなのかもしれないけれど。

 

 それにしても、汗が止まらない。

 

 熱が(うごめ)く。血潮と魔力が身体を突き破らんばかりに駆け巡り、害意を乗せた魔法は光となって荒れ狂う。――――だと言うのに、未だにミス高町を落とせない。手堅く、強く、先が読めず。一体、如何したらその守りを打ち破れるのだろうか?

 

 嗚呼、足りない。届かない。壊せない。やはり肉薄して、一点突破するしか術が無い。きっとそうだ。やらなければ、討ち倒さなければ、損耗させなくては……。

 

[- Gale-form set up. -]

 

 トライデント展開。…………心を澄ませ。疾く、速く、鋭く切り込んで行け。痛みなんて無い。吐き気なんて無い。雑音なんて無い。傷口からの出血なんて、焼き塞いでしまえば良い。前へ!! 前へ!! もっと前へ!!

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 速くて、重くて。その上、非殺傷設定も如何やら外れているようで。そんな風に狂っているフェイトさんの攻撃が嵐のように襲い来るも、不思議な事に私はそれが怖いとは思えませんでした。

 

 避けて、受け流して、弾いて、牽制して。

 

 普段よりも人間味が薄いせいか、心理的な作用が少なく淡々とスムーズに対処出来ています。プレッシャー。もしくは、気当たりと言う物は存外影響があるんだなと現実逃避を一段落させたところで、現状確認へと戻ります。

 

 現状はやや優勢。

 

 フェイトさんが夜明け前という時間帯を選び、用意周到に仕掛けてきたのは若干辛かったものの、事前に負っていた傷やら薬物の副作用と思われる症状によって精彩を欠きつつあり、このまま持久戦を強いれば勝利は目前です。

 

 しかしながら、時間が経つに連れて彼女の全身に走る傷が新旧を問わず内出血、または出血していくにも(かかわ)らず攻勢を維持しようとする様には鬼気迫るものがあり、このまま壊れてしまう前に止めなくては、と私の良心が理性に訴えかけているのもまた事実。

 

 持久戦で確実な勝利を得るか、フェイトさんを思いやって今直ぐにでも止めるのか。無論、後悔はしたくないので選ぶのは後者ですけれど、実のところ未だにノープランだったりします。そもそも普段以上の苛烈さで攻め立てられ、動き回られては捕まえる事は元より、確実な一撃を当てる事すら(まま)なりません。

 

 やはり、一撃くらいは敢えて受け止めて、無理矢理にでも拘束するしか手は無いのでしょうか? バリアジャケットがあるとはいえ、リンカーコアへの魔力ダメージを多少なりとも我慢しなくてはなりませんが、時間切れになるよりは余程マシな選択なのではと勘案していると、向こうも勝負を決めに来たのでしょう。

 

 バリアジャケットの形状が、全身に包帯が絡み付くようなデザインが付加された物へと変更され、【バルディッシュ】の形状が三叉槍を思わせる無骨なフォームへと変形しました。そしてフェイトさんはそれを両手で構え、黙すること数瞬……。

 

 

 

 真っ直ぐに飛び込んで来て――――――――

 

 

 


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