【高町 なのは】
私立聖祥大学付属小学校3年生。真っ直ぐで、心優しい少女。但し、家族や親友以外には一定距離を置き、他人行儀を貫く一面もある。平凡を自称していたものの……。
Side:なのは
学校からの帰宅途中、幻聴がやけに騒がしかったので其の発生源へ向かうという盛大なフラグを立ててしまった結果、私――“高町なのは”は、少なからず後悔する事となりました。
発生源を求め、公園内の人気の無い場所で出遭ったのは黒い何か。「もしかしなくても、白日夢だったら嬉しいんだけど……」と現実逃避しつつも私は、身体を全力で真横に投げ出しました。直後に傍を通り過ぎる黒い何か。それは進行上の木々を圧し折りながら止まったものの、私への害意は未だに途切れず、再度攻撃してくる事は明らかでした。
一体、これは何なのだろう?
ぱっと見たところ、黒いヘドロの集合体の様でありながら、一抱え程ありそうな太い樹木を簡単に折る質量と加速力を持つ謎物体。こんな物とぶつかれば、トラックに撥ねられるのと同義ですし、ましてや子供の足では逃げ切れる気がしません。まさに絶体絶命の危機。――そんな風に考えていた時が、私にもありました。
その後、何処からともなくやって来た喋るフェレット
ええ、はい。もう訳が分かりません。それくらいあっと言う間でしたし、助かりたいが為に分からない物を分からないまま使用して決着がついたので、今後の説明回に期待したいところなのですが、どうもこのガラス玉改め【レイジングハート】曰く、持ち主である“ユーノ・スクライア”という名のフェレット
午後7時に。
結論から述べますと、セーフでした。これまで放課後は、自宅へ直帰する良い子ちゃんで通して来たので当然のように家族達から心配されましたが、「帰宅途中にフェレットを保護した」という美談と共に動物病院から一報を入れていたお陰で何とかなりました。その夜、学校の宿題をささっと仕上げた後は戦闘イベントによる疲労もあった為、迷わず就寝を選びました。夢なら覚めて欲しい。そういう気持ちも、あったのかもしれません。
そんなこんなで翌朝。昨日の折れてしまった樹木等の戦闘痕はニュースで取り上げられる程度には騒ぎとなっており、現実と記憶に
尚、通学バスの中で友人の“アリサ・バニングス”ちゃんと、“月村すずか”ちゃんと合流した際に再度世間話として話題に上がった為、私は少しばかり居心地の悪さを感じながらも、当たり障りの無い応答でその場を何とか凌ぎました。
此処までは、まだ良かったのです。
学校に着いて暫くして、テレパシーのような魔法的な何かを受信したのですが、送信者は例のフェレット
家事手伝いやゲームで鍛えた
昨日、謎物体を封印した時は小さな宝石のような何かに変化したのですが、それは『ジュエルシード』と呼ばれる物で、異世界で高度に発達した魔法技術の遺産――『ロストロギア』の一種であるらしく、事象を改変して願いを叶えるような代物との事。
但し、それは人間などが願えば複雑過ぎる思考すら読み取った挙句、
ちなみに、私の住む海鳴市の近辺にジュエルシードが纏まって落ちたらしく、その数にして21個。既に封印が解けた物が暴走をし始めており、昨日の謎物体はその一例でしかなく、更に襲撃者が存在する場合は何に悪用するのかも分からないので、居ても立ってもいられない。そういった内容でした。
その後、遥かな次元の先にある異世界の話や、魔法の話、発掘を生業とする彼のスクライア一族の話など、向こう側の情報を色々と知る事が出来たのですが、その弊害として心此処に有らずといった感じに見えるようで、担任や友人からも心配され、更に昼休みを一人で過ごすと言って空き教室へ向かった時は、心底不安そうに見送られました。
[> それで、スクライアさんは私に如何して欲しいんですか? <]
テレパシーもとい念話の疲れを癒すため、窓越しに遠くの景色を眺めてみましたが、見慣れた平和な町並みが広がっており、私は疲労度が5回復した気分になりました。並列思考の無駄? 多分、ランナーズハイみたいな感じのオーバークロックな限界突破で脳回路的な何かが焼き付いている影響なのかもしれません。ええ、はい。カット。
[> お願い出来るのなら、ジュエルシード集めに協力して欲しい。悔しいけれど僕では力不足だし、きっと高町さんの方が、事態を早く収束させる事が出来ると思うんだ <]
[> んー……。それなら、私のお兄ちゃんやお姉ちゃんの協力が必要になりますが、それでも構わないのでしたら手伝っても良いですよ? <]
[> 魔法文明の無い世界で、そういった情報を広める事はあまり好ましくはないんだけど……。如何してなんだい? <]
[> 如何してって、それは―――― <]
そも、スクライアさんが居たミッドチルダなる世界と違って法規制が異なるのは勿論なのですが、特に顕著なのが自立の早さです。スクライアさんの世界では、能力さえあれば年齢を問わずに就職が出来て、そうやって生活が成り立てば一人前として認められるとの事ですが、私が住む地球の日本国では、20歳に満たねば様々な制約が課せられてしまいます。
なので、そういった違いを説明しつつ、ジュエルシード探しは放課後や休日がメインとなる事。そして夜などの遅い時間帯は、大人かそれなりの年長者が同伴でないと咎められる旨を説明したところ、渋々といった感じで了承を得られました。
それから午後の授業を念話混じりに淡々とこなし、帰りの会が終わった頃。アリサちゃんが勢いよく立ち上がり、私の席までやって来ました。表情から察するに、「今日はずっと上の空だったみたいだけど、何か悩み事があるなら友達である私に話してみなさいな」と言わんばかりで、実際そうでした。
ちなみに、“すずか”ちゃんもアリサちゃんを抑える為にそっと付いて来てくれましたが、同様に事情を聞きたいようで、ブレーキ役というよりも加速制御装置として絶妙な加減速をしてくれました。友達思いな親友が二人も居て、私は幸せ者だと思います。
「実は、家族会議物の案件を持ち込もうと思っているんだけど、どう切り出そうかなって」
案件の内容までは話さなかったので、若干ずれたアドバイスを貰いつつも「取り敢えず、無事を祈っとくわ」、「早く解決すると良いね」等の応援で送り出され、帰宅。通学鞄を部屋に置き、自宅に併設されている道場へと向かうと、そこでは何時ものようにお兄ちゃんとお姉ちゃんが模擬戦をしていました。
『永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術』――通称、
そんな名前の古武術をお父さんが修めていた事もあり、今ではお兄ちゃんが師範代となってその後を継ぎ、お姉ちゃんに指導しているのです。一時期は狂ったように鍛錬していましたが、最近は大分落ち着いたようにも見えます。しかしそれでも、二対四本の木製小太刀が風を切り、ぶつかり合う様は凄まじく、超人的な体術も相俟って目まぐるしく繰り広げられる攻防は圧巻の一言です。
私もお父さんの血を引いている筈なのですが、走る事以外はどうもイマイチなので見学と柔軟運動くらいしかやってません。なのである意味、お父さんを近くに感じられる二人が羨ましかったりします。尚、勝負自体はお兄ちゃんの勝ちで終わり、お姉ちゃんはまたしても連敗記録を伸ばしたのでした。
「お帰り、“なのは”。ずっと待っていたみたいだが、何か話でもあるのか?」
「“なのは”、お帰り~」
「ただいま。お兄ちゃん、お姉ちゃん。実は、ちょっと折り入った話がありまして……」
言うや否や、魔法発動。多分出来るはずと思いつつ、天使のような羽を背中に展開してみました。結果は、ちょっとディティールが甘くて角ばってしまいましたが、ぶっつけ本番にしては我ながら良い出来だと思います。
「魔法少女、始めてみました」
尚、お兄ちゃんの珍しい驚き顔が見れた代償として待っていたのは、とても長い質問攻めと、それよりも更に長い家族会議でした。軽率さは時として仇になる。そう強く実感した瞬間でもありました。